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Re: 『四』って、なんで嫌われるか、知ってる? ( No.44 )
日時: 2012/08/23 17:08
名前: 香月 (ID: G7eOzdZ7)

第十八話





 「凛、起きて。今日は玲の退院の日だから、迎えに……」

 行かなくちゃ、という言葉を飲み込んだ。
 凛は、すでに起きていた。
 目を、真っ赤に腫れさせて。

 「うん……」

 弱々しい凛の声。
 もしかして昨日、ずっと泣いていたのだろうか。お父さんとお母さん、おばあちゃんのことを想って。

 「……りん…」

 凛の姿がやたらと小さく見えて、胸がきしんだ。




 「蘭!」

 病院の前で、私を呼ぶ声がする。
 玲、もう病院を出たのだろうか。気が早いな……と呆れていたら。

 「…え…向井くん?」

 立っていたのは、玲ではなかった。
 クラスメイトのサッカー部所属、そして私の彼氏。

 「あれー、ムッキーだ〜!」
 「向井、何でここに?」

 向井くんは、おそらく凛に付けられた妙なあだ名に苦笑しながら、片手を上げた。

 「玲が今日退院するって聞いてさ。友人代表として来たんだけど、邪魔だったかな」

 色素の薄い髪を夏の生温かい風に揺らし、日本人離れした顔立ちをさらに引き立てる笑みを浮かべる。
 これでハーフですらないって言うんだから、生命の神秘っていうのはやっぱり謎だ。

 「嘘つけー。そんなこと言って、蘭に会いに来たんでしょ」

 凛の余計な一言に、向井くんはイタズラっぽく微笑んだ。

 「そうかもね」
 「……」
 
 私は咳払いをして、三人に言う。

 「……さっさと玲の所行こう」




 「おお、向井!」
 「玲、久しぶりだね。元気?」
 「見ての通りだよ!明日からでも遊べんぞ!」
 「それは駄目。明日は絶対安静」

 ぴしゃりと言い放った私に、玲が不満そうにボソッと呟く。

 「……オカンかよ」
 「ん?何か言った?」
 「何もー」
 「……そう。別に、今日夕飯抜きでもいいんだけどね?」
 「え?おいおい、それはひどいだろ!!ってか、何で蘭がそんなこと言うんだよ。メシ作るのは母さんだろ」

 玲のその言葉に、私は凍りついた。
 そうだった……玲にはまだ知らせてないんだ…。

 ——お父さんたちは、もういないってこと……。





 
 「……何…言ってんだよ……」