ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 『四』って、なんで嫌われるか、知ってる? ( No.6 )
日時: 2012/03/13 17:57
名前: 香月 (ID: Fbe9j4rM)

<第四話>



 「もちろん、いいわよ」

 二つ返事で許可するお母さん。
 まあ、そうだろうなとは思ってたけど。

 「やった!お母さんサイコー!」

 凛が喜んでいる。
 お母さんも、もっと家計のことを考えてもいいんじゃないだろうか。

 「凛!新しい飼い主が見つかるまでだからね。忘れないでよ」

 満面の笑みの凛に、水をさす私。

 「分かってるよー・・・。でも、どうやって探せばいいの?新しい飼い主」
 「友達に片っ端から訊くとか、町中に貼り紙するとか」
 「あっ、なるほど!でも、貼り紙作るの面倒だな〜」
 「だったら、私が作る」
 「えっ、ホント?・・・なんか蘭、やる気だねー。そんなに犬嫌いだったっけ?」

 ・・・嫌いだよ。この犬は、ね。
 凛の質問に、心の中でつぶやく。
 さっきチワワが笑っているのを見てから、チワワの方を見るのがなんとなく怖い。もちろん錯覚かもしれないし、笑ったからなんだといわれたら何も言えないけれど、私は言いようのない不安に襲われていた。
 とにかくできるだけ早く、このチワワには我が家を出て行ってもらいたい。
 そんな思いからの、飼い主探し全面協力の申し出だった。
 私が本気を出せば、新しい飼い主なんて一週間足らずで見つかるでしょ。
 ・・・なんて余裕に思っていたが、なかなか難航しそうな兆しが見えてきた。
 うちの家族が、思いのほかチワワを気に入ってしまったのである。

 「本当、この子の鼻かわいいわねー」

 頬に手を当てて言うお母さん。
 着眼点、鼻なんだ。

 「母さん、今週の日曜にでも犬小屋買いに行こうか」

 ゆるんだ顔で言うお父さん。
 その顔にちょっと引く私。

 「犬小屋なら、うちにあるダンボールで作れるんじゃない?」

 楽観主義の凛。
 もはやここまでだと、楽観主義というよりただの非常識な人だ。

 「なー、こいつボール取ってきたりできるんだよな?」

 運動主義の玲。
 きっと今玲の頭の中では、フリスビーとかが飛びかっているんだろう。

 「・・・・・・」

 沈黙主義の塁。
 塁は今のところチワワに関してはノーコメントだけど、チワワを凝視している。興味はあるみたいだ。
 ・・・まずいな。
 そう思った現実主義の私は、五人に釘をさす。

 「うちじゃ飼えないんだからね」

 このムードだと、確実にこの得体の知れないチワワを飼うことになってしまう。
 ていうかよく考えれば、チワワが捨てられていたなんて、やっぱりおかしい。うちの家族にも、こんなにうけがいいんだ。わざわざ手放す人なんて、そうそういないはず。だからって凛が嘘をつくとは思えないし、何かいわく付きなんじゃ・・・?
 険しい表情で考えていたら、ふと視線を感じた。顔を上げると、視線がぶつかる。

 ・・・また、あのチワワだ・・・。

 そうとだけ思って、すぐさま目をそらす。
 急に、心臓の音が大きくなる。

 なんで、こっちを見ていたの?
 まさか、私の考えていたことが、分かったから・・・?

 「ねえ!蘭ってば、聞いてる〜?」

 凛の声に、はっとする。

 「あ・・・ごめん、何?」

 我に返った私は、もう一度チワワを見る。
 チワワは、凛の腕の中で目を閉じていた。
 少し心臓の音が和らぐ。
 ・・・うん、そうだよ。人の考えが分かるなんて、非科学的だ。ありえない。考えすぎなんだ、きっと。
 半ば自分に言い聞かせるようにして、私は頭を振る。
 悪い方にばかり考えるのはやめよう。

 「だからさ、父さんたちもいいって言ってんだし、このチワワうちで飼おうって話」

 玲がテレビを見ながら言う。
 テレビに映ってるのは、甲子園球場。今日はこの台風で野球どころじゃないだろうから、録画しておいたものだろう。

 「・・・いいんじゃない」

 私はため息まじりで言った。
 テレビの中の投手が、体を横に向ける。

 「えっ、いいの!?」

 凛が驚いたような声を出す。
 投手は足を上げ、体をひねって、ボールをかかげた。

 ・・・その手から繰り出されるボールは、ストライクか、デッドボールか。


 次の日。

 「・・・ウソ、でしょ・・・?」
 「・・・ジャクソン・・・・・・」



 ・・・ストライクか、デットボールか———。