ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 『 Turns 』 〜小説掲示板物語〜 Ⅲ4話〔プロセス〕 ( No.300 )
日時: 2008/05/20 18:27
名前: НΙММЁL ◆MEER.m/asI (ID: Wl8kRSYB)

  +68日目+


「ふああ……っと」

大きな欠伸を一つして、目を擦る。
今は退屈な授業の真っ最中。俺は先程まで寝かけていた……いや、完全に寝ていた。
教室を見渡すと、大半の生徒が机につっぷしているか、またはボンヤリとしている。
そもそもこの授業がいけないのではないか。
本当に先生は冗談抜きでマジメ過ぎる。笑いの一つをとることもない。
まあ、そんなことは一番最初の授業のときからわかりきっていたことだが。
黒板に溜まった板書を、ペンをゆっくりと動かしながら書き写していく。
そんなこんなのうちに、授業は終了した。

俺は眠気を覚ますために、トイレへと向かう。
まだ目が完全に覚めきっていないらしく、何かぼんやりとした雰囲気の廊下をゆっくりと歩く。
やがてたどりついたトイレで、手洗いの蛇口をひねり、何度か顔に水を浴びせた。
次の授業は、学年でもっともかったるい英語の授業。
寝たら最後、その授業が終わるまでずっと立ったまま授業を受けさせられるハメになるのだ。

ふと視界の隅に入った光景が気になって、そちらに顔をそらす。

「ちょ、マジで返せって!」
「え、なんで?」
「それ俺のだからだよ!」

数人の男子がトイレの中央で小競り合いをしている。
上履きに入ったラインの色から言って、どうやら同じ2年生のようだ。
どうもあまりいい雰囲気とは言えない。
男子のひとりが必死で取り返そうとするが、まわりにいる他の男子たちに阻まれてなかなか取り戻すことができないらしい。
男子の険しい表情からして、どうもイジメらしい。
——ったく、何をごちゃごちゃと……
何にしろ騒がしいのは気にくわなかった。
格別、助けようという気は起こらなかったし、次の授業開始まで間もない。
俺はそのまま去ろうとして、水を流しっぱなしだった蛇口に手をかけた。

「あっ!」


誰かが声を上げたと同時に、またもや俺の視界に何かが入った。
入ったばかりでなく、急速に接近してきているのだ!
俺はとっさに後ろに避ける。
目の前を何かの物体が通り過ぎていき、未だ水の流しっぱなしの水道台に突っ込んだ。

「あ」

俺はなんとなく声を上げてその飛んできた物体を見た。どうやら教科書のようである。どうも、この男子たちの次の授業は移動教室らしい。

「やべ、遅れるぞ!」
「俺じゃないからな。お前頼んだ」
「はあ、俺かよ」

男子たちが次々に駆け去っていく。最後に駆け去る男子は「ごめんごめん」と何とも思っていなさそうな声で謝りながら、やはり同様に去っていった。

その場に残った男子と俺……いや、正確には俺は関わっていないため、ただ傍観しているだけなのだが。
ひとまず、目の前でずぶ濡れになっている教科書をそっと拾い上げる。今にも破けそうで怖かったが、どうやら表紙のカバーが比較的丈夫らしく、なんとか原型を保っていた。
——でも、これじゃあ使い物にならねぇな……。
俺はそのまま後ろを振り返った。
男子は気まずそうに視線を逸らす。俺はこの教科書を一体どうすればいいのだろうか。

俺はとりあえず、男子に教科書を突きだした。

「ほら」
「えっ?」
「えっ、ってお前……自分のもんだろうが」
「ああ、うん」

男子は俺と同じく、そっと教科書の淵を掴んだ。水が滴る教科書はなんとも言い難い雰囲気を示すかのように、今の状況をよく表していた。
男子はその場に突っ立ったまま、じっと教科書を見ている。
このままだと、一日中ここに立っていそうである。

「仕方ねぇな……ちょっと待ってろよ」

男子をその場に残し、俺は教室へと走った。

すでにチャイムは鳴ってしまい、授業は始まっていた。
気まずい雰囲気の中、俺は先程男子がびちょびちょにされた教科書と同様のものをもって、なんとか誤魔化しながら再びトイレに向かう。

「ほら」

再び俺は教科書を突き出す。ただし、今度は俺の、びしょびしょではない教科書だが。

「……」
「さっさと取れや!」
「あ、うん」

俺は半ば無理矢理押しつけるようにして、男子の手にそれを握らせた。

「俺は5組だから、終わったらちゃんと返しにこいよ」

それだけ言うと、男子の返答も聞かずに教室へ引き返した。

Re: 『 Turns 』 〜小説掲示板物語〜 Ⅲ4話〔プロセス〕 ( No.301 )
日時: 2008/05/20 18:27
名前: НΙММЁL ◆MEER.m/asI (ID: Wl8kRSYB)

結局、授業には遅刻ということになってしまい、その罰として教科書の本文を全部読まされる結果になった。
ようやく音読し終わった俺は、軽くため息をつきながら席へ座る。
正直、英語はとても苦手だった。
未だにテストで赤点を取ったことはないが、それでもギリギリのラインで踏みとどまっている。
——かったるい。
とにかくそのひと言しか頭の中になかった。

——そう言えば……。
授業も中盤に差し掛かったところで、ふと思いつく。
俺が使っている掲示板って、イジメ小説がやたらめったらに多いよな……。
こんなことをふと思いつく自分を、何となく情けなく思いながら、それでもより深く考える。
その中でも、最近はネットイジメ系が目立つようになってきた。
だが、俺はその系統がどうも好きになれない。
もとより、イジメ小説等々はあまり読まない派なのだが、いちおう参考として読ませてはもらっている。
しかし、その中でもネットイジメ系の小説はまた違う。
どれも同じ内容なのだ。単調に繰り返されるだけで、何の変化もない。
さらには、そのイジメの終わり方などがまた酷い。
実は現実の友達や知り合いだった! などだ。
そもそもありえない話なのだ。
ネットで待ち合わせなどもなしに、偶然に出会うこともありえないし、さらには匿名性の高いネットだ。まず出会っていたとしても気づかないはずである。

小説だからと言って、何を書いてもいいわけではないとは思うのだが。
例えば、他人を中傷する内容や、、勝手に人のものなどを引用してはいけないし、どこかの週刊誌などのように個人情報の流出もだめだ。
本来、イジメ小説とは他人にイジメの辛さ、酷さなどをわかってもらうために書いているのではないのか。
それがいつの間にか、単なる題材としてしか使われなくなっている。
よく、イジメ小説を読んでいる人に感想を聞くと、こんな答えが返ってくることがある。
『物語の中の主人公がイジメられているから、自分もがんばれる』
これは恐らく、主人公と自分を重ね合わせ、主人公と痛みを分け合っているという意味なのだろう。
やられているのは自分だけではない、という想像で、自分の傷を癒している。
まあ、それはそれでいい。一応イジメ小説は目的を成している。

だが、今あの掲示板に現存するネットイジメ小説はどうだろうか?
ネットイジメで、現実の知り合いが絡んでいないことはないとは言えないが、しかし大半はまったく知りもしない人からの行為である。
だからこそ、より傷つくのだろう。
俺は未だ人生の中で受けたことがないから、その行為を受けている人の気持ちを完全に理解することは出来ないが、少なくとも見ず知らずの人にイジメられる恐怖は大きいはずだ。
あそこのネットイジメ小説等々を読んで、その恐怖や痛みを果たして和らげることが出来るのだろうか。
いや、解決へのアドバイスとしての効果はあるのだろうか。
俺には少なくとも、ただの題材にしか使っていないように見える。

「おい」
「ん?」

後ろから突かれて我に返る。
まわりの状況を咄嗟に確認した俺は、どうやら教師に当てられていたようだ。
脳をフル稼働して、必死に答えを導き出す。また教科書を音読させられるのはこりごりだった。

「えと……『with』」
「そう、その通りだ」

何とか窮地をうまく切り抜けた。多少ながら冷や汗を掻いてしまった。
再び先程の考えに浸る。

Re: 『 Turns 』 〜小説掲示板物語〜 Ⅲ4話〔プロセス〕 ( No.302 )
日時: 2008/05/20 18:51
名前: НΙММЁL ◆MEER.m/asI (ID: Wl8kRSYB)
参照: http://himmel.rakurakuhp.net/

だが、題材として使っていたとしても、何も言えない。
なぜなら、管理人自体が何も言わないからだ。
あの掲示板の管理人は、あくまで小説を気軽に書くことの出来る場所を望んでいる。
エッチ系などはさすがにダメだが、規制するのはその程度である。
小説の書き方に関しての指導も一切なし、内容についての規制もない。
だから、いくら文句をぶー垂れたところで、結局は管理人に注意されて終わりなのだ。
さらに、当然文句を言われた作者はいい気持ちになるはずがない。
言うまでもなく、反論するだろう。
『小説を書くのは自由ではないのですか? 嫌なら読まなければいいじゃないですか!』等々……
確かにその通りではある。
文句言う暇があるならば、他の小説にコメントを上げればいいのだ。
しかし……だ。
読まなければいい、という問題ではないと思う。
実際、読んで気分が悪くなった人が文句を言っているのだから、読まなければいい、などということは無理強要なのだ。
さらに、文句を言った人に対してのスレ主とその周りの言動も考えさせるものがある。
以前、このようなことで文句を言った人を見かけたのだが、それに対する反論……というか逆文句が酷かった。

『言っとくけど、これ小説ですよ?現実の友達が犯人である確率がどうのこうのとか、誰が可哀相とか、そういう設定で作ってるとか、この掲示板に何人いると思ってるんですか?スレ主の気持ち分かりますか?あなた達には一生分かりませんね』
『スレ主さんは今まですごく頑張って書いておられたんです。それを文句みたいな言葉でスレ主さんを傷つけて…。なんだか嫌です。そういうの。スレ主の気持ちを踏みにじっているような感じがします。文句はやめてください…。』
『文句言う人はもうここに来ないでよ!!次に来たらみんなで管理人さんに言いましょう!』

あまりにも酷いと思った。
逆なのだ。これでは彼女らがイジメを行っているも同様だということがわからなかったのだろうか?
自分たちも相手を傷つけているということがわからないのだろうか。
確かに、文句はマズいとは思う。しかし、逆に叩きすぎている。

他人がやっているから自分もやっていい、という考えもおかしい。それなら世の中の情勢はどん底になっているだろう。
ひとりひとりの自制が、社会を形成するのだ。
また、管理人に言う、などの脅しも気にくわない。
そもそも、管理人に言ったところで何があるというのか。
管理人は、荒らし行為などをした人を主にアクセス禁止にしたりするだけで、個人同士のトラブルなどには一切干渉しない。
私事情の上では動かないということだ。
管理人に頼めば何とかしてくれる。その気持ちがすでにダメ。
その程度も自分たちで解決出来ないのなら、そもそも言葉でしか自分の気持ちが伝わらないネットを使用すべきではないのだ。
無駄なトラブルに巻き込まれる。
というか、そもそも忙しい管理人に私事情を持ち込んで欲しくはない。

だが、何にしたとしても、文句を言ってどうにかなる問題ではないのだ。
管理人がほぼすべての分野の小説を認めている以上、俺たちなどが何を言ったところで、自由に書いていい、というひとことですべてかわされてしまう。
以前、ΜЕЕЯに聞いたのだが、イジメ小説も同じようなことがあったらしい。
イジメ小説を書く意味がわからない。イジメ小説を書いているのは、ただ面白いだけだろ。
そんな言葉が交わされたらしい。
結局、管理人はイジメ小説について何も制限していないため、未だにその問題は未解決である。
だが、最近になって社会問題系掲示板が創設されて、イジメ小説はすべてそちらへと移動ということになっているので、今はこの問題は沈静化されている。

「はあ……」

もう一度、深くため息をつく。
悩ましげなことだった。
どうもすべて管理人の行動によって決まってしまうようで、何かむずかゆいところがある。
文句をいう人の気持ちもわかるし、それに対して不快感を表す人の気持ちもわかる。
だからどちらに対して、お前が悪い、という気はないが、少なくとも解決策ぐらいはあるだろう。
俺がひとつ思いついたのは、スレ主とその周りがマジメに話し合ってみることだ。
苦情を言ってきた人に対して、その苦情を片っ端から拒否するのではなく、相手が一体どんな気持ちで書いてきたのだろう、何を思って書いていたのだろう、と考えてみることである。
そうすれば、おのずと相手が何を嫌がっているのかわかるだろうし、こんな気持ちの人もいるんだ、ということも知ることが出来る。
なおかつ、それで真剣に話し合えば、お互いにわかりあえる可能性だってあるのだ。

皆、どちらに味方するとかではなく、もっと客観的に物事を見て欲しい。
そうすれば、いかに自分の言動が愚かであり、相手を逆に傷つけることをしているかわかるはずである。
感情だけが先走ってしまうから、未だにこういう争いが耐えない……。