ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- ・・・彼・・・
- 日時: 2009/10/07 17:54
- 名前: 魅闇 (ID: WKDPqBFA)
「・・・彼・・・」
雨の夜
彼は
いつも其処にいた
公園の屋根のあるベンチ
雨を凌ぎながら
タバコの煙が揺らいでいる
服装は至ってシンプル
それでいて妙に人を引き付ける
雨の塾帰り
いつしか僕は
彼に魅了されていた・・・
後姿と細くて綺麗な手が
僕を虜にする・・・
声をかけてみようか・・・
雨宿りの振りをして隣に行こうか・・・
僕は傘を閉じてゆっくり歩いた
タバコを吸う音が近づく
ため息混じりに吐きだされる煙
ふと彼が僕を見る
真っ直ぐに向けられた視線
思わず目を逸らす僕・・・
「濡れてるよ・・・?」
傘を見ながら彼が呟いた
僕は慌てて傘を隠す
「ふっ・・・」っと彼が笑い
タバコを消した
僕は黙って彼の隣に座る
微かにメンソールの匂いがした
僕も彼も黙ったまま・・・
彼はとても綺麗で儚く思えた
そして それとは不釣合いな
傷跡や火傷の跡が
手の甲から手首へと
ビッシリと残っていた
どれくらい時間が経ったのだろう
ほんの数分なのかもしれない
雨音だけしか聞こえない
優しい時間が流れていた
「タバコ吸わして・・・?」
彼はライターの火をタバコに近づける
僕は彼の手に釘付けになった
スっと伸びた綺麗な指
ライターの灯りで映った顔は
僕の憧れそのものだった・・・
「雨の日はいつも此処にいますね・・・?」
僕の声で雨音が消される
「雨の夜は部屋にいるのが苦痛でね・・・」
タバコの煙を大きく吐き出し彼が言った
雨音が小さくなる
雨が止んできたらしい
「今のうちに帰った方がいい・・・」
彼が立ち上がる
背が高く 透けた白いシャツが良く似合っていた
「そんなに ジっと見るなよ・・・」
彼が笑った
「スイマセン・・・」
僕は恥ずかしくなる
それでもなんとなく嬉しい・・・
なんとも言えない
締め付けられるような
切ない気持ちになった
「風邪ひくなよ 受験生・・・?」
彼は手をあげて 歩いて行った
タバコの煙とメンソールが
微かに残っている
それっきり 彼とは会えなかった
雨の日も 雪の日も
公園のベンチには居なかった
雨の夜が苦痛では無くなったのだろうか・・・
桜が散った頃
僕は高校に通っていた
もう塾には行ってない
あの公園を通る事も無かった
誰かが忍び泣いてる様に
しんみりとした雨の日
この高校の卒業アルバムを持って
女子達が騒ぐ
聞きたくなくても 聞こえてくる声
「この人・・・したんだって・・・」
その言葉がふっと聞こえた 瞬間
僕はアルバムを奪うように取り上げた
彼だった
どの写真も笑っているが
確かに彼だった・・・
僕に見せた彼とはちがう彼が
そこに写っていた
僕はなぜ
「自殺」と聞いた瞬間
彼だと思ったのか・・・
涙が出そうになるのを堪える
唇が振るえ アルバムを抱きしめた
「・・・知り合い・・・?」
僕は黙ったままだった
・・・卒業式を前に自殺したらしいよ・・・
アルバムを持ってきた女子が教えてくれた
遺書もなく
原因もわからず
雨の中
呆気なく逝ってしまった 彼・・・
僕はベンチに座っていた
彼はこの場所で
タバコを銜え
何を見ていたのだろうか・・・
哀しく 切ない時間が
雨音と共に
僕の心に刻まれる
「そんなに ジっと見るなよ・・・」
タバコの煙とメンソールが
微かに残っていた・・・
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- Re: ・・・彼・・・ ( No.1 )
- 日時: 2009/10/19 22:03
- 名前: †*+黒百合媛+*† ◆mmKzXxdYeQ (ID: AzXYRK4N)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v=k3cwMnCP25s←『幸せになろう』曲
あげぇ
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