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- 秘密の金魚 その2
- 日時: 2009/10/26 16:40
- 名前: 綾咲麗奈 (ID: f7aWX8AY)
- 参照: http://sakuradukino.web.fc2.com/
02:触れて
彼に触れることはままならなかった。それは、いかなる場合においても、徹底されていた。彼の意思と彼の取り巻きによって。
彼が取り巻き以外といるところなんて見たことが無かった。何処に行くのでも一緒。毎日、毎日。24時間365日、永遠普遍の事実であった。
「ねえ、どうしていつもこの人たちと一緒にいるの? 他の人と、ふたりっきりで話がしたいとか、思ったことは無いの?」
彼らは側にいるだけ。此方には何の危害も与えない。ただ、その存在が威圧感を放っているだけ。私や、他の人が話をしても、何もしてこない。
「これは、僕の望んだことだ。僕が命令した。一生僕から離れるな、と。それから、僕が次に命令しても、僕の言うことは聞くな、とも言ったね」
おかしな人だ、といつも思う。
「どうして?今は一人は嫌かもしれないけど、いつか一人にして欲しいと思うときが絶対来るよ? そのときは、どうするの? 恋人が出来たって、ふたりっきりでデートも出来ないんだよ? そんなの、悲しいじゃない」
「悲しくなんか、無い」
「悲しくなんか、無いよ。実はね、僕は対人恐怖症なんだ。だから、彼らがここにいないと僕は誰とも話が出来ない。親とだってそうさ。まったく、口も利けずに、ひるんでしまうんだ。それにね、誰かがこの身体に触れようものなら、僕は癇癪を起こしてしまうだろう。そういう体質なのさ。だから、生まれてこの方、髪だって爪だって、切ったことは無いんだよ」
言われて気が付いた。私は、一体今まで彼の容姿が見えていなかった。【見えている】と錯覚していた。おかしすぎる、私に彼は、一体どんな風に映っていたのか。今はもう思い出せない。
「対人恐怖症なら、この人たちはどうなの? 親でさえ駄目なのに、何でこの人たちは大丈夫なの? ねえ、本当は———」
そこに人はいなかった。あったのは無だった。無いことがあった。これは一体何なのか・・・…? 私は、今まで彼が存在すると信じていた。だからこそ彼が見えた。今、彼の存在を疑った。だからこそ見えなかった。
「あ、またあの人だよ。いっつも取り巻きと一緒にいる人」
「誰? 何処にもいないじゃない、嘘付いちゃ駄目でしょ、坊や」
「いるんだってば、あそこ!!」
「ええ、…………」
彼は見えると信じた人にしか見えない。子供にしか見えない。私は一体、いつ、どの様にして大人になったか。私はもうすでに初潮は来ている。身体の成長が大人への節目ではない。大人というのは、一体誰のことを言うのか。
そっと手を伸ばしてみた。弾かれた。やはり、彼に触れることは叶わなかった。悲しい。私は見えない彼に恋をしていた。触れてみたかった、触れていたかった。
それは、叶わない、夢だった。
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