ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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明日見た夢
日時: 2009/11/01 22:54
名前: 黒羽 (ID: KgobaFNd)

初めて投稿させてもらいます。
まだ未熟者ですが、読んでもらえたら嬉しいです。
また、更新速度が非常に遅いので、ご勘弁してください。


「ねぇ、止まりたいとき、本当に前に行くのをやめることができるの?」
 子どもの頃の夢のように、あやふやで不確か、泡のように消えていくものの中で、その言葉だけが形を持っていつも心の中に座っていた。
 悪夢のようで、しかし幼稚園生の遠足を待ち望むような期待感を持たせる言葉を、忘れるはずもなかった。
 そう、あの時もそうだった。


「お前、バスケの試合でくれね? 1人インフルエンザで休んでんだよ」
 答えるのに、何の悩むことはない。
「いいよ」
 機械的な答え。自分で『人間の様に』考えると破たんしてしまうから、いつもすべての答えに肯定で答えるようにしていた。
 いつもと同じ、ねじを巻いたらその通りに動くことしかできない自分。
 いつしか僕は、「何でもできるけど鼻にかけないいい奴」というキャラクターになっていたらしい。

 そう、僕はいつも「僕」を演じていただけなのかもしれない。

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Re: 明日見た夢 ( No.1 )
日時: 2009/11/01 23:19
名前: 黒羽 (ID: KgobaFNd)

「おい、パスパス」
「ご、ごめん、ぼっとしてた」
 時は進んでバスケ中。
 僕は休んだ人の場所、ディフェンスをやっていた。あんまりルールはわからなくても、その分は身体能力で補うことができた。
 それに、なんとなく人の動きを見てれば全部わかる。表情、筋肉の動きから、どのような行動を次しようとしているかぐらい、簡単に把握できた。
 でも、たまにやる競技は面白くて、僕も熱中していたのかもしれない。でも心はそこになくて、どこかをさまよっていた。そんなとき、「あれ」が出てくるのも忘れて。


「ねぇ、止まりたいとき、本当に前に行くのをやめることができるの?」

 ———ドキン

 自分の心臓の軋む音が聞こえた。それに合わせて頭が深い音を鳴らす。
 そう、あの感覚。血液がやっと流れ始めるようで、やっと「自分」を思い出す感覚。

「あっ—————」

 思い通りに動かすことが不可能になった身体。通い出す心、脳に血液が流れ出す。アップグレードするために、一瞬動かなくなる電子機器の様。

「おい、大丈夫か、起きろ! キリ!」
 試合中断のホイッスルが鼓膜を振動させ、人形たちが僕に近寄る。
 危ないなぁ……命心配じゃないのかなぁ……? 相手の心配をしている割に、自分の唇の両端がつりあがっていくのを客観的に感じていた。


It's a show time.
流れ出す血は場を盛り上げる舞台でしかなく、
転がるボールと響く悲鳴は効果にすぎない。
苦痛にゆがむ顔と、歓喜に叫ぶ顔がこの劇の登場人物。
舞い散る血液は紙吹雪。
飛び散る肉片は花束に過ぎないのだから……。


 目を覚ました僕は、惨劇の中に立っていた。
 真っ赤なコートに転がるボール。壁に飛び散る芸術の跡。
 それをやった記憶はあるけど、それは「ねじを巻いていない」僕であって、僕じゃない。
 そうだ、逃げなくちゃ。
 血すら浴びていない、いや「浴びることができなかった」僕は、またぐ必要もない肉片を通り抜けて悠々と鼻歌なんて歌いながら逃げることにした。

Re: 明日見た夢 ( No.2 )
日時: 2009/11/02 20:49
名前: 黒羽 (ID: BSNeBYwh)

 気づくと、僕は病室の中にいた。夢を見ていたようだ。夢にしては、あまりにもリアルな。
 身体が「自分」を思い出す。清潔なシーツに食い込む自分の爪が、口に付けられていた酸素ボンベが、ここが自分の居場所であると主張する。
 思い出した……。僕は病人だったんだっけ……。
 あまり思い出せないけど、きっと僕はまた病院内を散歩中に倒れたんだと思う。そして、僕はあの夢の中へ……。
 長い長い溜息をついた。こんな世界で目を覚ますんだったら、あの夢を見続けていたかった。
 自分が自分という確証を持てない夢の中で、たった一つ知っていたこと。


「ねぇ、止まりたいとき、本当に前に行くのをやめることができるの?」


 夢に出てきた言葉だけは、僕が小さいころから反芻し続けている言葉だった。
 今は止まりたくないのに、前に進めない状態だよ……。

 僕は、小さいころからいろんなことができた。
 ルックスはいいほうだったし、頭の良さ、運動能力も幼稚園のころからぬきんでていた。
 親は僕に、きっと「優秀」であることを望んだんだろう。僕はそれで、自分の本当の暗闇を出せることができなかった。
 何時か大人になったら、本当に「狂って」しまおう。みんなを驚かせて、壊してやろう。
 でも、その前に壊れてしまったのは。

 僕の身体だった。

 きっとこの身体は、大人になるまでに朽ちてしまう。医者も親も何も言わなかったけど、表情を見てわかった。病名までは詮索しなかった。する意味がなかったから。

 神様は、僕が壊れることを永遠に阻止した。
「将来の夢」なんてもうない。
 友人がいないわけでもないし、元クラスメイトもよくお見舞いに来てくれるけど、僕は孤独だった。

 あの夢みたいな、現実を僕もすごせたらな……。
 病院の空気は止まっていて、狂気のかけらもない。そうして僕には、もう暴れるための体力が身体になかった。

 そう、狂うには。
 もう身体を捨てるしかなかったんだ。

Re: 明日見た夢 ( No.3 )
日時: 2009/11/03 15:51
名前: 黒羽 (ID: rcIQsSyG)

 そうだ、ナースコールを呼ぼう。
 僕は生かされている、っていう感覚のする酸素ボンベなんて大っきらいだ。だから、外してもらいたい。病院の空気は浄化するだけ浄化して、動くことすらしない。それも嫌いだけど、「生かされる」より、ましだ。

 なんだか情けない音がして、すぐに看護婦がやってきた。
「どうかしたの?」
 身振り手振りで、酸素ボンベを外せと伝える。
「昨日倒れたばかりでしょ? 安静にしてなくちゃだめだよ」
 寿命が短くなろうと、別にいい。ここで生者の棺桶の中で終わりを迎えるよりましだ。
「わかったわ」
 そういって、看護婦は慣れた手つきで酸素ボンベを外した。


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