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Requiem
日時: 2009/11/09 17:25
名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)

エクソシストの話です。死神や悪魔が出てきます。
どーぞ。

■登場人物■

ラウル・シェンヌ
15歳 攻撃系のエクソシスト。田舎町で育ち、生まれながらに鎌を身に持つ。孤児。

クラウス・ジーメン
18歳 とても温和な性格で教会内から頼りにされている。癒し系のエクソシストで特殊能力は音。

ユナ・アルセイユ
17歳 騎士団団長シグラの義理の妹。時々強い意志を見せるが、過去を消去したいほどのトラウマがある。

ファーザー
?歳 悪魔召喚儀式を行える唯一の人物で、その命は永遠だと言われている。

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Re: Requiem ( No.1 )
日時: 2009/11/09 18:07
名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)

 ■


仮想世界歴3007年  シュードルダ某所  春


田舎町テプソンで一人の少年が馬車を待っていた。
色素の抜けた淡い白銀の髪。それとは対照的な、落ち着いた黒い瞳。容姿は精悍で、細い体から少し実年齢より幼く見える。
「まだかな……クラウスさん」
ラウル・シェンヌという少年はまだ会った事のない、神父のクラウス・ジーメン氏を待つ。
聞くところによると、かなり心の穏やかな人で、エクソシストとして高い実歴を誇る人らしい。
(きっと、落ち着いた大人の人なんだろうなあ……。緊張してきた)
そわそわとベンチを立ったり座ったり。



ここ、シュードルダ国は貧富の差が激しく、上級・中級・下級と分かれている。
このテプソンは下級の田舎町で貧しい人が後を立たない。
独裁者が政治を動かし、それにクーデターが起こったのが3年前だ。
しかし、その三つのエリア全てにおいて、平等に神の加護を受けられる聖域がある。
<聖バルセイド>
ここは、神を求める人全てに対して門を開く。
エリアに関係なく、巡礼をする事が許され、紛争がおきてもこの聖域だけは、神が宿るとして穢してはいけないものだとされてきた。

そして、その神に仕える人間が司教・神父・シスター達。聖書を糧に、全ての人々の悩みを対等に解決する。
しかし、誰もがそんな人間になれるわけではない。
表の顔は神に仕える使徒。しかし、裏では獰猛な悪魔の呪いを解くエクソシストとしての一面を見せる。
その力は基本的には一般人には知られてはいけない。
エクソシストの資格を持っているかどうかは、生まれたときにすぐにわかる。
特殊能力が赤ん坊のときに歯止めが利かず、教会に「呪われた」として差し出す親が多いから。

「……僕もか」
持たされた聖バルセイドの紹介本を読み終え、ため息をつく。
エクソシストは、悪魔を払う攻撃系と、人々を癒す癒し系がある。
そして、
「僕は攻撃系か……。鎌、持ってるし」
攻撃系は魔術で異界から鎌を扱う事ができる特殊能力。癒し系は自らが特殊能力を発動させる事ができる。
「へぇ……」
「あの」
「はい」

顔を上げずに返事をする。
「ラウル・シェンヌくんでしょうか?」
名前を呼ばれて、ラウルが顔を上げる。
栗色の髪に優しげな顔立ちの青年が立っていた。ラウルよりは年齢は上のようだ。
「はい。そうですけど」
「あ、はじめまして。私、クラウス・ジーメンです。聖バルセイドで神父の見習いをしております」
「……………………………」
ラウルの思考が停止した。
しばらくして、目をびょーんと飛び出して、
「若ッッ!!本当にクラウスさんですか!?」
「あ、タメでいいですよ。年は私のほうが上みたいですけど、近いんで」
目を白黒させて、ラウルがじぃっとクラウスを見る。
「…………あの((汗」
「あ、すみませんっ。イメージはもっと大人みたいなんで……っ」
「ああ、そうなんですか?18です。荷物、ここに乗せてください。今から聖バルセイドに向かいますから」
指定された場所に荷物を置き、クラウスに誘導されて馬車に乗り込む。クラウスも乗り、馬車が動く。

「聖バルセイドに着いたら、もうこの町には帰って来れませんが…」
「いいんです。家族もいないですし」
サラリと言って、ラウルが少し気まずそうに俯いた。
クラウスが、
「私も同じような者でした。孤児院で育って、丁度巡礼を受けたときに力が発動してしまって」
「癒し系ですか?」
「はい。音の」
心地いい震動が伝わってくる。外は漆黒の闇の中。
黒い生地に白い絵の具を散りばめたように、星が輝いている。

「今宵は、いい夜になりそうです」
「はい。そうですね」

Re: Requiem ( No.2 )
日時: 2009/11/09 19:59
名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)

目を開け、辺りを伺うともう朝だった。
馬車はまだ揺れていて、向かい側には窓の外を見ているクラウスがいる。
「おはよう、ラウル」
「おはようございます。もしかして、ずっと起きてたんですか?」
「まさか。先ほど目が覚めました」
窓の外には、白い砂漠が見える。
町から一歩も出ていないラウルには、それが神秘的に見えた。
「凄い……」
「もうすぐで、聖バルセイドに着きます。この白銀の砂が目印ですから」
「……僕、あの。エクソシストになれますかね?」
紹介本を見ただけで、まだ中身は何も知らない。
クラウスは微笑んで、
「はい。素質がありますから」
簡単に答えた。



馬車は白い城壁の前で止まる。
「ここが聖バルセイド。神がおられると言われている聖域です」
「…………」
あまりの大きさに驚きを隠せず、ラウルが唖然とする。
城壁の中は見えない。
城門があり、その前に少女が立っていた。
「クラウス。そちらが、新しい団員の子かしら」
キレイな黒い長髪を垂らし、深い泡緑の瞳を持つ少女が親しげにクラウスに話しかける。
「ラウル・シェンヌです。よろしくお願いします」
「私はユナ・アルセイユ。このバルセイドで働いているの。あ、クラウス。シグラ兄さんが呼んでいたわ。案内は私に任せて、行って来て」
「ありがとう、ユナ。では、ラウル。教会の中、早く覚えてくださいね」
「はい」




クラウスが去っていくのを見届けて、
「じゃあ、行きましょうか。最初は、ラウルの部屋に」
ユナに教室内を案内してもらう事になった。
「でも、クラウスって若いですよね。実歴から、かなり大人だと思ってたけど」
「そうだね。私もよくお世話になってるけど……。教会内でも信用されてるの」
「だろうなあ。いい人だから」
「そうだね。───あ、ここがラウルの部屋だよ」
扉を開けると、一人にしては広めの部屋があった。
ベッドやタンスの必要最低限のものしか置かれていない。
「荷物、適当に片付けておいて」
「わかりました」
小さなトランクをベッドの上に置いて、ラウルはもう一度部屋全体を見る。
小さく笑みを作って、目を閉じた。
「……なんだか嬉しそう」
目を開けて今度は悲しげに笑う。
「僕、孤児だからあまり家族とかわからないんですよ。だから、今日からここが僕の住む場所だって実感して……」
「みんな、同じよ。私達は他の人と少し違うから」
特殊な能力を持っているから。
それでも、
「それでも、ファーザーと戦わなきゃいけないの」

ラウルが振り向く。ユナと目が合った。
「ファーザー?」
「……悪魔召喚儀式を行う、闇の帝王と呼ばれる人物の事。その命は永遠で、今もどこかで悪魔を召喚し、人間の幸福を奪い、滅亡させようとしている人物」
鎮痛な表情で、ユナが歯軋りをした。
しかしすぐに笑い、
「私達は表は神の使いとして人々の心を癒すけど、裏では血生臭い呪縛の戦いをしているの。それがエクソシスト。悪魔を払い、人々に安らかな眠りを与えるの。いい夢を、見て欲しいから」

「僕の鎌は、どうやって使うんですか?」
「悪魔を斬るの。あなたの鎌を見た事がないからよくわからないけど、それぞれ悪魔を払う能力があるんだよ」
悪魔を、払う。
人々に安息と眠りを与えるために。
「僕は、エクソシストになれるでしょうか」
「なれるわ。あなただったら」




ノックがする。
「入れ」
入ってきたのは、
「及びでしょうか。シグラ団長」
クラウスだった。
先ほどの温和な表情ではなく、厳しい真剣な表情でシグラを見ている。
シグラはキレイな整った顔の青年だった。
赤茶の長髪を腰まで伸ばし、一つにゆっている。
細長の切れ目でクラウスを睨み、
「あやつは、抵抗はないか」
「ありません」
「ならよい。構わん」
淡々と冷徹な声で喋る。

「まだ、本人には言わないんですね」
「言ってどうなるという?あやつには、今は何も成す事はできんのだ」
「……………」
「それとも、何か?」
シグラが髪をかきあげ、クラウスに近づく。
「お主があやつの心臓を抜き取るとでも?」
「……いいえ」「だろうな」


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