ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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わすれんぼうくんのお話①
日時: 2009/11/27 18:59
名前: アンドハッピーエンド (ID: y/BzIObq)
参照: http://www.nihonbungakukan.co.jp/modules/myalbum/photo.php?lid=4288&wmode=1

僕の名前は| 忘蓮 棒(わすれんぼう)。今日から「さくらほいくえん」というありきたりな名前の保育園に通うことになっている、少し物忘れの激しい四歳だ。こういう風に書くと、今にも園児達による楽しいほのぼのストーリーが展開しそうに思えるが、それは大きな間違いだ。そういう話が読みたいのなら、ここから先は読まないでほしい。なぜなら「さくらほいくえん」の中には、人を殺しても何とも思わないような凶悪な園児が潜んでいるからだ。これから僕が通おうとしているのは、そんなサスペンス溢れる空間なのだ。
そうは言っても、園児全員が恐ろしいというわけではない。一見普通の、どこにでもあるような保育園なのだ。ただ、その中には凶悪なヤツが潜んでいる。もちろん僕も、保育園へと向かっている現段階では、まだそのことを知らない。保育園での生活を送る中で、だんだんとそのことに気付いていくのだ。ここまで説明すれば、もうどういう物語が始まろうとしているのか、だいたい見当がつくだろう。それでは、前置きはこれぐらいにして、さっそく本編へと移ろうと思う。壮大な物語の始まりだ。


第一部 『さくらほいくえん編』


 「あなたが忘蓮棒君ね! はじめまして。私があなた達年中組の担任の、| 寛厚 真沙子(かんこうまさこ)です。よろしくね」
これが、僕と寛厚先生との出会いだった。寛厚先生は少しぽっちゃりとしたおばさんで、頭はパーマをかけているのか、少しクルクルと巻いていた。
 「忘蓮棒君の名簿番号は… 一番!よかったね、一番だよ!」
先生は僕にそう説明した。妙だった。別に今は四月ではない。中途半端な時期だ。そんな時期に途中から保育園に通い始める僕が、名簿番号一番。しかも僕の苗字は「忘蓮」。思いっきり「わ」から始まる。そんな人間が名簿番号一番だと?何かある。これは絶対に何かあるぞ!… そう思うべきだった。しかし残念ながら僕はまだ四歳だ。そこまで洞察力が優れているはずがなかった。
 「一番!?やったー!」
僕はすごく嬉しくなって建物の中にダッシュした。こうして僕の保育園生活は幕を開けた。

 「はーい! それでは今日から新しくみんなのお友達になることになった、忘蓮棒君を紹介しまーす!」
寛厚先生は年中組のみんなを集めた。僕はみんなに向けて挨拶の言葉を言うことになり、緊張しながらみんなの前で話し始めた。僕が余裕なく話している間に、それを聞いている集団の一部で、早くも僕を暗殺する計画が立てられようとしていた。
 「オイ、新しいヤツが入ってきやがったぜ。おまえはどう思う?」
 「あのまゆげと髪型が気に入らねえ。俺達の仲間には必要ねえ」
 「同感だ。今日中にやっちまうか?」
 「いや待て。俺のクツが完成するまであと数日かかる。それからにしようぜ。」
 「そうか、まあいい。せっかくだ。アイツも束の間のひとときを楽しんでいくがいい。」
このヒソヒソ話に、この時僕は全く気付いていなかった。そして楽しいはずの保育園にそんな話をするようなヤツがいるとも思っていなかった。
 僕の自己紹介が終わると、次は年中組全員の自己紹介が始まった。
「僕はわかたべしらふ。持ち物が多くて困ったら、いつでも言ってね」
名簿番号二番の| 若田部 素布(わかたべしらふ)君は、腕が六本あるという、変わった体のつくりをしている。一度にたくさんの物を持つことができて、便利そうだと僕は思った。

 「俺の名前は、ない。ウソだよ」
| 人比斗 嘘(ひとひとうそ)君は名簿番号三番。寝ぐせがあって、ひどい髪型だ。何を考えているのかよくわからない独特な顔をしている。嘘なんて名前を子どもに付けるなんて、親はいったい何を考えているのだろう、というところまで、もちろん四歳の僕は頭がまわらなかった。

 「あははは。あはは。あははは」
名簿番号四番の| 馬鹿墓 場蒲嘉(ばかばかばかばか)君は、読んで字のごとくバカのようだった。服を穿き、ズボンを着ていた。しかも何を考えているのか、まぶたに黒目とまつげをマジックで描いてあって、目をつぶっても目を開けているような感じだった。そして、常に鼻水を垂らしていた。

「やあ、ふっそきっくばかまんさ!」
名簿番号五番のばかまん君は、白髪で、表情がよく読み取れない、変な顔だ。口癖は僕にも言った、「やあ、ふっそきっくばかまんさ!」という自己紹介。僕は「ふっそきっく」の意味がよくわからなかった。この人も、もしかしたらバカなのかもしれない。

「わすれんぼうくん、よろしくね」
名簿六番の| 神郷煮 遍慎州瑠(しんごうにへんしんする)君は、顔に三つの目が横に並んでいる、変わった顔の持ち主だ。しかも手にも目が付いている。きっと全身に目がたくさんあるのだろう。僕は、今まで家の外に出たことがあまりなかったけど、外の世界にはいろんな人が存在するんだなーと感心した。

 「ヒャーぼく、かしわざきばく」
七番の| 柏崎 獏(かしわざきばく)君は、頭が動物の「バク」そのもので、体は普通の人間だった。それもそのはず、彼は人間とバクのハーフなのだ。獏君の口癖は「ヒャー」で、何を言う時にもまず「ヒャー」と言ってから話しだすらしかった。

 「へっへっへ、俺はさめさめだ!」
八番の| 冷鮫 鮫(さめさめさめ)君は、頭のてっぺんで髪をまとめていて、頑丈そうな鉄のマスクで鼻と口を覆っている、少し不気味な感じのする子だ。手も爪がトゲトゲしていて、まるで猛獣の手のようだった。彼は話をする時、自分の意思で動かすことができるのか、マスクが中央で割れて、左右に開き、大きな口が顔を出す。その中の歯はどれも糸切り歯のようで、もし噛みつかれたらと考えると鳥肌が立ちそうだった。

 「僕、ひとからわこき。よろしくね。」
九番の| 一殻 和己貴(ひとからわこき)君は、気が弱そうな男の子だ。特にそれ以外に特徴的な部分は見当たらなかった。普通の子だ。

 「よろしくおねがいしまぁ〜あああす!」
十番の| 場嘉谷 牢(ばかやろう)君は、胴体が鉄格子でできているという変わった体質で、そのため上半身は服を着ていない。専用のカギを使って鉄格子の扉を開けることで、ウサギぐらいの大きさの生き物なら中に入れて飼うことができる。しかし、本人はあまりそういうことはしたくないのか、今は特に何も中には入れていなかった。

 長くなったが、これがこれから生活を共にしていく、年中組の園児達だ。どういうわけか、先生を除けば女の子はひとりもいなかった。どう考えても不自然なのだが、しつこいようだが僕はまだ四歳。全く深くは考えず「やったー! 男だけなんて夢のようだ!」と気楽に考えていた。まだ女の子との関わりが楽しく感じる年でもなかった。
 こうして自己紹介は終わった。しかしまだ、このお話がどういう物語なのかを説明してそれほど時間は経っていない。みなさんお忘れではないだろう。僕の命を狙っている凶悪な園児が、このたった九人の中に潜んでいるのだ。いったい誰だ? 誰が僕の命を狙っているというのだ? そして僕は、不幸にもこの時、まだ全くそのことに気が付いていなかった。(つづく)

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わすれんぼうくんのお話② ( No.1 )
日時: 2009/11/28 11:59
名前: アンドハッピーエンド (ID: y/BzIObq)
参照: http://www.nihonbungakukan.co.jp/modules/myalbum/photo.php?lid=4288&wmode=1

 保育園生活二日目。僕は母に車で保育園まで送ってもらう途中、保育園の隣の建物を目にした。そういえば昨日もこの建物が気になったのだった。古ぼけた不気味な四角い建物で、背はそう高くない。古ぼけた木の板には「ディブロス研究所」と書かれていた。周りは塀で囲まれ、庭には雑草がぼうぼうと生い茂り、中の様子を全く窺うことができなかった。
 気になった僕は、遊ぶ時間に、名簿番号二番の若田部 素布(わかたべ しらふ)君に訊いてみた。
 「ねえ、隣にあるディブロス研究所って、何なの? 僕、なんだか気味が悪いや」
 「あそこに住んでる人、狂ってるんだって。わすれんぼう君は昨日来たばかりだから知らないだろうけど、決してあの建物には入らないことって、みんな先生に言われてるんだよ」
 「ふーん… 住んでる人、狂ってるのかー… 」
僕は、保育園の隣にそんなものがあるなんて、なんだか厭だなあと思った。あの建物のせいで、楽しいはずの保育園での生活に、一抹の不安がよぎる。園庭に出て遊ぶ時も、ディブロス研究所は何とも言いがたい存在感を醸し出し、僕の注意を引きつけた。常に意識していないと、研究所から黒い手が出てきて、たちまちあの中に引きずりこまれてしまうのではないか? そんなただならぬ空気が、あの建物からはにじみ出ていた。しかし、本当に恐ろしいのは、ディブロス研究所なんかではなかった。

 「はーい、給食の時間でーす!」
ある日、いつものように寛厚先生はみんなを集め、給食の準備を始めた。みんなが席に着いた後、全員で「いただきます」の挨拶をしてから給食を食べ始めるのだが、この日はそれをすっかり忘れて、僕はすでに給食を食べ始めていた。僕の名前は忘蓮棒。少し物忘れの激しい四歳だ。
 「ああっ!」
僕はようやく自分が「いただきます」を言わずに食べ始めたことに気付き、大声をあげていすから立ち上がった。
 ガタン!
名簿九番の一殻和己貴(ひとから わこき)君が驚いて、いすに座ったまま転倒し、頭から血を流した。相当ひどい出血だったため、先生は大慌てで救急車を呼んだ。
 「あいつ、体弱いからあんなに強く頭打ったら死んじゃうんだよ」
人比斗嘘(ひとひと うそ)君は、僕に寄ってきてそう言った。
 「そうなの? どうしよう?」
 「ウソだよ」
嘘だった。嘘君の嘘は紛れもなく嘘のつもりだったのだが、和己貴君は容態が悪いらしく、この後、数日間欠席が続いた。
 まわりのみんなは、まだ四歳ということもあり、よく「バカ」という言葉を歌に乗せ、存在もしないような歌を口ずさんでいた。それは僕もまたしかり。昼ご飯の後、僕はひとりでこの歌を歌っていた。
 「♪ばーかばーかばかばーかー」
 「ハイ何ですか?」
名簿四番の馬鹿墓場蒲嘉(ばかばか ばかばか)君が、呼ばれたと思ったらしく返事をした。
 「呼んだわけじゃ、ねーーっ!」
 バキッ!
僕は腹が立ったので、いきなり場蒲嘉君の顔を殴りつけた。かわいそうに、場蒲嘉君は泣きながら走って行った。その時だった。まだ一度も僕と話をしたことのない、名簿八番の冷鮫鮫(さめさめ さめ)君が僕に話しかけてきた。
 「オイ、わすれんぼう!」
 「何?」
僕は冷鮫君が僕にいったい何を言ってくるのかが気になった。
 「俺様の大切なカマキリが、用具室の中に逃げ込んでしまったんだ。一緒に探すの手伝ってくれや」
 用具室とは、保育園の中を通って行くことのできる、別の建物のことだ。もちろん外からも出入りすることができる。保育園の部屋はどこも天井が低い。だが、用具室に関してだけは園児達が入ることよりも、用具の収納を第一に考えてあるのか、天井が割と高い。そして扉も大きく、重たいので、園児ひとりの力では開けることができない。そこで冷鮫君は僕に声をかけてきたのだ。
 「いいよ」
僕は冷鮫君と一緒に用具室の扉を開けると、中に入っていった。僕はしばらくカマキリを探しながら用具室の中をうろうろした。
 「よし! わすれんぼう。その位置でいい。そこで止まれ」
冷鮫君は何を思ったか、突然僕にそう言ってきた。意味がわからない僕は、不思議そうな顔をしながら少しの間、そこに立ちつくした。
 ドスドスッ!
その時だった。僕の頭上から名簿五番のばかまん君が、僕の肩の上に跳び降りてきた。クツの底には大きなトゲが左右一本ずつ付いているらしい。そのトゲが僕の両肩に、根元近くまで深く突き刺さった。僕はあまりの痛みに、声を出すことができなかった。そしてばかまんを肩に乗せ、歯を食いしばったまま、その場に立ちつくした。ばかまんも僕の肩の上でうまく体のバランスをとっていた。
 「ふっふっふ、これでお前も終わりだな、わすれんぼう」
冷鮫は、どこからかナイフを取り出すと、僕に近づいてきた。
 「数日間、実に楽しい保育園生活だっただろう。しかしそれも、今日限りでおしまいだ、わすれんぼう! お前は今日、ここで死ぬのだ。あの世へ行けい!」
冷鮫はそう言うと、持っていたナイフを躊躇なく僕のお腹に突き刺した。
 ザクシュッ!!
 「… う… う…う …うっはぁーーー!」
僕の顔から、涙やら汗やら血やら声やらが一気に噴き出した。ものすごい痛みと苦しみが僕を襲った。完全に致命傷だった。子どもながらに僕は、自分がもう助からないのだということを一瞬のうちに悟っていた。(つづく)


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