ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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 SIGN‐サ イ ン 
日時: 2009/12/03 22:22
名前: 朝喜 ◆Gc6dMQd7Rg (ID: cRxReSbI)

 てきと〜に頑張ります。
 ちなみに一話完結の短編集です。
 気に入ったタイトルでも読んでみてください。

  見知らぬ少年に ありがとう>>1
  一人称は「猫」である>>2
  愛ってトマトの味がする>>3

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Re: SIGN‐サ イ ン   示セ、自分ヲ ( No.1 )
日時: 2009/12/01 19:06
名前: 朝喜 ◆Gc6dMQd7Rg (ID: cRxReSbI)

 見知らぬ少年に ありがとう


 ——そこはどこなのだろう、人が沢山いた。
 ——そこはどこなのだろう、真っ暗だった。いや、“真っ黒”だった。
 人の輪郭や色ははっきりしているのに背景の色が真っ黒。見えるはずの道路もなく、聳え立つビルもなく、ただ、ただ真っ黒だった。

「カズヒコさん。遊びましょ」
 見知らぬ少女がそう言った。
(……何い言ってんだ? 馬鹿か?)
 私はそう思った。
 残業で疲れ、妻の愚痴を聞いては疲れ、息子の悩み事を聞かされ、上司には怒鳴られ、部下には馬鹿にされ、コンビニでは小銭を落とし、横断歩道では危うく車に轢かれかけた。
 そんな状況に置かれてる私は、恥ずかしながらその少女に向けて(口に出してはいないが)罵倒していた。
(小娘が、独り言はトイレの個室でほざけ! お前の家のトイレットペーパー、全部焼失しろ!)
 我ながらなんて馬鹿みたいな悪口だ(いや、喋ってないけど)。
「カズヒコさん。あなたは、おねしょをしましたね。知っていますよ」
 そう言いながらその少女は私のスーツの裾をグイッと引っ張った。
 不気味でたまらなくなった私は、少女に目を向ける。不敵にもその少女はケタケタ笑いながら大きな瞳で覗き込むように私を見ていた。
 少女相手に恐怖のパラメーターがマックスに達し、理解不能と認識した私は大きく取り乱してしまった。
「『カズヒコ』って誰ッ!? それより私にさわるな、そして話しかけるな!」
 子供相手なんだからもう少し優しく言ってもよかったのかもしれない……そう思ったのは一瞬にも満たないわずかな刹那だった。
「樋口さん。あなたのことも知っていますよ。あなた。友達がいないでしょう?」
 ッ!?
「なんで私の名前を……? 怖ッ、そしてキモッ!?」
 こんどこそ大人気なかった。三十代後半のオヤジが「キモッ!?」って……。言った自分が酷く醜く思えた。……が、それも一瞬にも満たないわずかな刹那。
「ウフフフフフフ。うるさいわね」
 何が言いたいんだ、この小娘は。笑ってんだか私を黙らせたいんだか解らないヤツだな、まったく。
「うるさい。呪いますよ。今すぐにでも」
 ……私は今なにも言っていないんだが……。
 そこに、思いっきり第三者が話に割り込んでくる。
「呪う? 馬鹿げたこと言いますね」
 そういったのは二十代前半くらいの女性だった。
 汚らしい洋服を纏っており、目元のクマが目立つ。お世辞でも美人とはいえないだろう。
「あなたは関係ない」
 全くをもって同感だ。少女の言葉に同意する。……いや、そもそも私も関係ないのだが。
「今夜あなたたちの家に行きますね」
 怖ッ。
「私のうちにですか?」
 女性が「馬鹿じゃないの?」と言いたげにその不潔そうな顔を歪ませる。

 ——そこで気がついた。
 なぜかカチャカチャカチャカチャ音が鳴っていることに。
 辺りも見渡してもその音の発信源らしいものは伺えない。
 そして私はもう一つあることに気がついた。
 その「人が沢山いる“真っ黒”な場所」には老若男女問わず暗い印象でひ弱そうな人間が多かった事に。無論、私もその分類に入る。

「あなたたちの家にいく」
 ……? ……!?
 そこでようやく正気にもどった。
 というか、『たち』ってことは私もか!?
「分かりもしないくせに」
 そ、そうだよな、と女性の言葉と落ち着く私。
「来れるなら来たら? 知らないよ。どうなっても」
 私は思った。
(嗚呼、この女性も大人気ない。娘っ子相手になんて馬鹿な茶番に付き合ってるんだ)
 そこに、第三者ならぬ第四者が割り込んでくる。
「あんた達さ、これくらい無視したら? 思いやりと甘やかすのは違うんだからさ」
 そう言ったのは首にヘッドフォンを欠けた少年だった。ボサボサな髪の毛に頬のニキビが特徴的な悪ガキとでもいうような印象の少年。着ている黒いパーカーのヒモの片方がだらしなくのびている。気のせいか妙に懐かしい感じがするな。なんでだろ?
 歳は中学生あたりだろうか? それにしても流暢な喋り方だ。私もこの子を見習わなくては。
「えらそうに。そこのくろいひと、あたしに謝れ」
 少女の話は続く。
「呪われてもいいのなら。謝らなくていいよ。……聞いてた? 耳悪いね。手術してもらったほうがいいんじゃない? 早く謝りなさい」
 ……どのタイミングで謝ればよかったのだろう少年は苦笑していた。それにしてもかなり上から目線だな。
 そう思っていると、少女を無視しヘッドフォンの少年が私に話しかけてきた。

 気のせいかその間、ほんの一瞬だけ背景音のようなカチャカチャした音が止んでいた。
「——あんたは起きろ」
 その時の少年は誰もがほっとするような柔和な笑みを浮かべていた。
「……ありがとう」
 何故かそのあって間もない少年に心の底から感謝の気持ちが芽生えていた。
 理屈ではなく、心がその少年に対しての喜びの気持ちであふれてるのだろう。
 段々私の意識が薄れていくのを感じる。人間が睡眠状態に入るときもかんな感じなんだろうか…………

  *  *

「ん……んぅ〜……?」
 気がつくと私は、仕事場のパソコンの前にうつ伏せになって寝ていた。
 パソコンは起動したまま、なぜか見知らぬ掲示板のスレッドページになっており、どこかで聞いたような与太話が展開されている。
 時計を見る。
 午前三時二十四分。
 ……寝よう。

 翌日、私の携帯電話に変なメールが届いた。
『元の世界に戻れましたか?
     P.S. 何でか知りませんけど、どういたしまして』











                               見知らぬ少年に ありがとう    終

Re:  SIGN‐サ イ ン  ( No.2 )
日時: 2009/12/05 16:32
名前: 朝喜 ◆rgd0U75T1. (ID: cRxReSbI)

 一人称は「猫」である


 ——人間はウソを吐く。
 好きなのに嫌いと言ったり、自分の想いを真っ直ぐ伝えられなかったりする。
 それが、猫にはとてももどかしく思い、面倒だと感じた。
 まあ、別にどうでもいいけどね。
 だってさ、そういうのって何かめんどくさいじゃん?
 暇な人間は考えるって言うよ? 「人生ってなんだろう?」って。ちなみに女の子にモテなかったり、男運がなかったりすると「恋ってなんだろう?」って考えるらしいよ。
「……それはなにか? 男にモテない私への当て付けか? それとも——」
 言い終わる前に別の少年が言葉を紡ぐ。
「それともアレですかぁ? おれがゲームばっかやってる暇人とでも言いたいってかぁ?」
 ……違うよ暇人。
 猫はそう思った。

 ちなみに、猫に名前はない。猫だ。猫は猫でしかない。

 猫はそう思った。
 “思っただけでそう伝わった”。
「っつまり名前をつけろってか? 猫のぶんざいで偉そうに。私に土下座でもしたら付けてやらなくもないがな」
 猫は猫だ。正座が出来ようものならそれは猫じゃない猫かなんかだ。
「それもそ〜だぁ♪」
 ……何ニヤけてんだよ。
「別にぃ♪」
 ……あっそ。

 ——その後、猫の前にいる二人は考えました。
 猫の名前は何にしようかとか、この猫を誰が飼うかとか、今夜カレーなんだけど刺激的なカレーを作るにはどうしたらいいとか、そんないろんな事を。

 猫は思いました。
 猫は“ヒト”だから、猫は“ヒト”だから別にどうでもいい、そう思った。

 猫の姿で、猫缶をなめながら——
 ——猫はそう思った。

 ふと顔を上げると、そこには幼げな顔の少年と少女が二人——猫を抱き上げ笑っていましたとさ。

 ……人間ってわかんない。




                                   一人称は「猫」である    終

Re:  SIGN‐サ イ ン  ( No.3 )
日時: 2009/12/04 19:05
名前: 朝喜 ◆rgd0U75T1. (ID: cRxReSbI)

 愛ってトマトの味がする


 私は……アレだった。
 いわゆる、アレだった。

 いわゆる、アイドルなのだ。

 別に自分を棚に乗せた比喩を言っているのではない。「学園のアイドル」だとか「仕事場のアイドル」だとか、そういうものじゃない。
 正真正銘、演技力や歌唱力を磨き、テレビに出て、ちゃんと「アイドル」になったのだ。
 あ、自己紹介が遅れた。私の名前は日佐知惠(かざしおん)。日佐が名字で、名が知惠。
 それで、えと、その業界に足を踏み入れたのは十五歳のとき。
 そんな若さでなれるものなのかと疑ったが、アイドルに年齢制限はない。漫画家だって小説家だって、環境が整ってさえいればゲームクリエイターや作曲家などにもなれなくもないのだ。
 ただ、そんなのにもなるとクラスでかなり浮いちゃう訳だ。
「見てー、テレビに出たからって調子に乗ってるぅ、キモ——い」「うわぁ〜、自慢しにきやがったよ、あっち行け!」「バーカバーカ」「死ね、偉そうに」
 別に気にしちゃいないが——なんか腹たつ!
「まぁまぁ、落ち着けってぇ、嫉妬なんて醜いもんだ、褒めたたえよう、ヤツらを」
「樋口(ひぐち)…………って誰が嫉妬するかッ!? なんで私があんなヤツらを褒めたたえなきゃならんのだ!」
 頭にきて樋口の頭を叩く。
「痛ッ……変な解釈すんなよぉ、お前に嫉妬してるヤツらがアホだから、せめて同情でもしてやろうって言ってるだけなのにぃ」
 ……いまいち解らない。そして回りくどい挑発の仕方だ。
 それを聞きつけてか、太った少年——松部が割り込んできた。
「誰がお前になんかシットするかよ!」
 図々しいにも程がある。あと嫉妬の発音も変だった。
「松部よぉ、嫉妬の意味ワ〜カリマスカ〜?」
「はっ? え? 知ってるし、何言っちゃってんの?」
 ……解らないヤツほど馬鹿な表情をするというがコレはまさにそれだった。
「……じゃあ言ってみろよ」
「……」
 そのデブは口ごもった。
 次の瞬間逆ギレ。
「なんでそんなこと言わなきゃいけねえんだよ!!」
「ハズレ、『自分よりすぐれている人をうらやみねたむこと』等が正解だぁ」
 確かにそんなんが正解だった気がするが……なんかちがくない?
「そうか?」
 うん。
「っそ、まあいいや。とりあえず猫見に行こうぜ? 猫。キャット」

  *  *

 って、結局デブやギャラリーを無視して体育館裏に来た。
 ここにはいつのまにか住み着いていた三毛猫がいる。
 ただの猫じゃない、エスパー猫だ。
 できることは意思の伝達くらいだけどね。
『だけ、で悪かったな』
 聞えなかった。けど感じた。そういう意思を感じる不思議な猫だ。
 名前はない。つけても『嫌だ』で押し返される。なぜだと訊くと『猫は猫だから』と“伝える”のだ。
「ってことは置いといて、日佐がクラスのヤツに嫉妬されてるのですが、猫クンはどう思いますか?」
 その三毛猫は私の方を向き、覗き込むようにして目を見る。
『どうもこうも、愛されてるんじゃない? 猫はそう思う』
 猫はそう思うって……ってゆうか、愛……ですか。
『人間はウソを吐く、好きなのに嫌いと言ったり、自分の想いを真っ直ぐ伝えられなかったりする。そういうものだろう』
 猫の癖に流暢な日本語を伝えてくれる猫だ。
「でもよぉ。日佐に向けられてるのは嫉妬以外の何物でもないぜ? 愛とは違う気がするな」
 同感。
「樋口の言うとぉ〜り!」
『? そうだな。“愛”ってゆうのは樋口が知恵ちゃんに向けてるもののことを言うんだよな』
「「な゛ッ!?」」
 ……ど〜でもいいことだが、この猫は女の子には「ちゃん」付けをする。
 のは置いといて、
「だ、誰が日佐なんかにッ——」
『? “友愛”だろ?』

 沈黙。

『とにかく、知惠ちゃんは愛されてる。だから意地悪したくなっちゃうんじゃないの? 人間ってさ』
 ——いつだかこの猫が言っていたことを思い出す。
 自らを“ヒト”と言っていた。珍しく「人間」ではなかったが、それはそれで少し不気味だった。
『むかし知り合いの人間が言ってたよ。愛ってトマトの味がするってさ』
 ……そんなことを言う人の顔を拝みたくなるよ。あとトマトの味なんてしないからね。解った?
 次ぎの瞬間「ベチョッ」という音が背後から聞えた。
 振り返るとそこには赤いつぶれた何かが一つ。
 校舎の方を向く。この学校の体育館は校舎と繋がっているので屋上からならこの場所が見える。
 もしも、もしも、だ。
 この落ちてきた赤いのが、その、……トマトで、この向けられてる思いが、その、……愛、だとしよう。
 トマトがなんで降ってきたのかも気になったが、それ以前にこの猫は怖い。怖いったら怖いよ。愛ってトマトの味がするんだ——馬鹿みたい……。
「愛がトマトの味する訳ねーだろ〜が! 落ち着け! 日佐!」
「いや、この猫が言ってるんだ!? きっと愛ってトマトの味がするんだッ!? 私トマト大ッ嫌いなのにッ!?」
『知惠ちゃんがトチ狂ったッ!? 落ち着け、きっとなにかの比喩だ——』
 次の瞬間、私の頭になにかが落ちてきた。赤くてみずみずしくて、トマトみたいな臭いのするなにかが。
 舐めて見る。
 ……トマトの味がした。


「……愛ってトマトの味がする。——大ッ嫌い……」


 空を見上げると、屋上で気持ち悪い顔が笑っていた。
 誰もが嫌悪しそうな気持ち悪いデブの顔。そのブサイクな顔が笑っていた。気持ち悪く陰鬱に。
 そして、楽しげな笑い声がした。
 楽しいって感じのする笑い声が真横から。
「クスクス……ご、ごめん、つい……クスクス」
『猫もちょっとだけね。あ、そういえばさ、今日変な夢みたんだ。樋口のお父さんが変な目に会う夢なんだけどね——』
 その後も私は樋口と猫とで話し合って。怒って笑って、ふざけ半分でからかい合って。
 もう一度、頭に着いてるトマトを舐めて見る。



 なんだかよく解らないけど——ほんのちょっぴり、うまく言えないんだけど、えと、その……

 トマトの味がした————
 ちなみに、不味かった——








                                    愛ってトマトの味がする   終


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