ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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破壊者交響曲 〜第二曲〜
日時: 2009/12/03 21:38
名前: SHAKUSYA ◆K.xLaczcwk (ID: XiewDVUp)

どうも、ここに来て早四年が過ぎ去ったSHAKUSYA(さくしゃ)です。

今回はな〜んと、前前回に書いた小説「破壊者交響曲〜Destroyer Symphony〜」の続きです! 今回主人公になるのは、前回の主人公の直系の子孫にあたる人物。そして伏線の回収なども多々あるかと。
結構色々と考えた末の駄文ですが、どうぞ「下手だぁあああ!」と叫びたい気持ちを押しとどめて見ていただけると嬉しいです。

では、此処で毎回恒例の注意を。
一 荒らし、宣伝、喧嘩、誹謗中傷、チェーンメール、ブラクラ、一行コメント(あげなど)、ギャル文字乱用文、小文字乱用文他、スレヌシ及び読者の皆様方に迷惑のかかるような行為はご遠慮下さい。また、読者様は、出来る限りのスルーをお願い申し上げます。

二 毎回の如くグロやエグイ表現などが多々使用されています。苦手な人は予め心の準備をして閲覧するか、もしくは見ないことをおすすめします。

三 難しい漢字や表現などが使用されている箇所があります。難しいのが分からない方は、辞書を片手に閲覧するか、若しくは分からない箇所を纏めてください。

四 この小説では、登場人物の設定やコザコザした世界観の説明などは一切ありません。何か分からないことがありましたら、上記にあるとおり質問を纏めてください。

五 この小説は描写とキャラの人間性に力を入れている為、行がギチギチに詰まっている箇所が多々あります。ちょくちょく改善はしていますが、見づらい場面がございましたら意見をお願いします。

六 スレヌシは基本暇人ですが、ここは小説を書く場所です。雑談や馴れ合い、鑑定の申し込みなどは基本受け付けていません。雑談は雑談掲示板で、鑑定申し込みはリク依頼・相談掲示板でどうぞ。

七 基本、スレヌシに対してはタメ口でも結構です。が、私は常に敬語である事を承知して下さい。

以上です。この以上の注意を全て守れて、尚且つネットマナーやモラルを守れる方はどうぞ、自由に小説を閲覧してください。

〜お知らせ〜
12月2日 スレ立て

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Re: 破壊者交響曲 〜第二曲〜 ( No.5 )
日時: 2009/12/20 18:18
名前: SHAKUSYA ◆K.xLaczcwk (ID: TQ0p.V5X)

第三楽章 「一陣の銀疾風」
 ——矢は狙い過たず、姿の見えない銀狼に当たった。ジェライのすぐ近くで犬の悲鳴のような甲高い声が上がり、中位透過魔法“透身(デュー・スー・ノミア)”が解除された。そして見えていなかった全容が明らかになる。
 銀の毛皮に覆われた巨大な体。地面に突き立つ強靭な四肢。狼の顔と鋭い碧眼に宿るは強烈な殺意。長い尾は威嚇するかのように硬直し、口からは低く唸り声が響く。——この銀色の狼こそが、龍杜の叫んだ「銀狼」である。
 そんな銀狼の右前足には黒羽のついた矢が突き刺さっており、目の覚めるような碧い血が止め処なく流れ出ている。ジェライは銀狼を警戒しつつ、視線を後ろに向けた。刀を地面に突き刺し、龍杜も視線を後ろに向ける。

 茶髪のツインテールに海色の碧眼。黒のシャツの上から青緑のケープを着、緑と黒のタータンチェックスカートに黒のズボン。手には堂々と構えられた木の弓。腰には白革の箙と、黒羽の矢。
 それは紛れもなく、先ほどまで二人にすら気付かず泣いていたアティミアの姿だった。呆然とするジェライと龍杜に、アティミアは笑みを浮かべてちらちらと手を振った。何となく龍杜は手を振り返し、ジェライは呆れたように龍杜の向こう脛を全力で蹴った。龍杜は「痛ッ」と短く悲鳴を上げ、蹴られたところを少しだけ手で押さえる。ジェリアはそれを若干無視しながら、アティミアに声を投げた。
 「僕達からは離れた方が良いって、言ったじゃないのさ!」
 投げられた声にアティミアは笑みを浮かべると、大声を上げ返した。
 「助けられたのに、助けないのはおかしいでしょ? そうそう、お兄ちゃんも一緒だよ!」
 声と呼応するように、先程矢を打たれた銀狼がもう一度悲鳴を上げる。今度は視線を前にやると、銀狼の背後に立つ影が一つ。茶髪にヘテロクロミアの瞳、まさしくアティミアの兄であるペテロだ。ペテロは左手にクロスボウを構え、ジェライたちに向かって笑みを浮かべている。銀狼は左の後ろ足に凄まじい勢いの矢を受け、唸り声を上げながら地面に倒れていた。

 「俺はついてくるなと言われたらついて行きたくなる性質なんだよ。それに、さっきの傷はこの銀狼に付けられた傷だ。お返ししたくなって此処に来たら丁度襲われてたんでね、ついつい手を出しちまった」
 満面の笑みを浮かべ、ペテロが声を上がる。ジェライは何ともいいがたい表情でペテロから銀狼、アティミアから龍杜まで順番に一瞥し、そして頭を抱えて溜息をついた。
 「ついて行きたいならどーでもいいけどさ……知らないからね、どうなっても」
 ペテロは豪快に笑みを浮かべて笑声を上げると、地に伏した銀狼の足から強引に矢を引っこ抜きつつ答えた。
 「百でも千でも万でも億でも兆でも承知の上さ。竜族相手に悶着しようと、俺は大丈夫だぜ」
 「私もね!」
 アティミアの声も入り、ジェライはいよいよ大きく溜息をつく。そして、また龍杜を一瞥し銀狼を一瞥すると、突然雪の上に膝をついた。ペテロとアティミアと龍杜、三人の首が同時に傾き、「はあ?」と声が上がった。
 
 銀狼は相変わらず地にべたりと腹を擦り付けたまま、青い瞳でじっとジェライを見上げている。その瞳に獰猛さはなく、ただ体が大きくて毛色が銀なだけの犬の様に見えて仕方がない。ペテロは「狼のくせに犬みてぇ」と誰にも聞こえない声で呟いた。
 「銀狼ってさ、魔族なのに実は人懐っこいんだよね」
 笑みを浮かべたジェライの言葉と共に、マントの中から出した右手に淡い燐光が灯る。低位治癒魔法“治癒(プ・シケ)”の放つ光で、効果的には龍杜の放った高位の治癒魔法とあまり変わらない。
 が、術者の力を削って怪我を治す高位の治癒魔法と違い、これは相手の自己治癒力を著しく高めて怪我を治すもののため、相手の魔力も一緒に削り取ってしまうのが特徴だ。
 「せっかく倒したと思ったのに、何で回復しちゃうの?」
 「分かってないねえアティミア。確かに低級とか中級の魔族は人を襲うけど、基本どんなに獰猛な魔族でも自分より強いって分かったら襲わないよ。もうこの銀狼は一発目で既に懲りてるし、あんまり苛めるのも酷じゃない?」
 クスクスと小さく笑声を漏らし、満面の笑顔を浮かべたジェライは尚も治癒魔法を展開する。アティミアは不満そうに口を尖らせ、ペテロは若干苦い顔をした。龍杜は状況がわかっているのかいないのか、剣を仕舞って呆けていた。

 ——光が潰えた頃、銀狼は徐に身を起こした。瞳には警戒と微かな怯えの色が混じっており、獰猛さは微塵もない。
 銀狼は不満顔のアティミアから呆ける龍杜まで順番に奇妙な物を見る視線を向けて、最後にジェライへ目を向ける。ジェライは笑顔を浮かべ、銀狼は暫く目を瞬きながらジェライを見つめていたが、やがて静かに首を下げた。
 それは銀狼流の服従の証であり、銀狼にとって目の前の者が自分よりも強いと言う事を示す合図である。ジェライは頷きながら、下げられた頭にそっと手を置いた。銀色の毛はバサバサしており、触ったら痛そうだ。それでもジェライはその華奢すぎる手で銀狼の頭を撫でる。——ジェライ曰く、銀狼の頭を撫でる行為は、服従された側のする礼儀らしい。
 アティミアとペテロは、銀狼とジェライ越しに不思議そうな視線を交わしあった。双方共に引き攣った笑顔を浮かべている。
 「あ、あの銀狼を……手懐けた、よな?」「わ、私に聞かないで……私もびっくりしてるの」
 交わしあった小さな声は、風に吹かれて飛んでいった。


 白い道中で、三人と一匹が横に並んで堂々と歩く。
 ジェライの右隣で寄り添うように歩く銀狼の背には、龍杜がぐったりとうつ伏せにのびていた。どうやらペテロの件と銀狼の件で風邪を引いたらしく、龍杜は別に大丈夫だと豪語していたが、ジェライが強引に背へ載せたのだ。元から力の強い銀狼は、重たい龍杜などものともせずに悠然と歩みをすすめている。
 雪の道の上、いつの間にか灰色の雲は去り、また青空が見えていた。

 「大丈夫かよ……風邪」「うーん、大丈夫じゃァないね」「そんなに余裕綽々で大丈夫?」「さあ?」「おいおい」
 ペテロとジェライとアティミア、それぞれが龍杜を抜きにして会話と足をすすめていく。銀狼は相変わらずジェライの右隣で歩みをすすめており、龍杜は三人の交わす会話など全く聞かずに背の上でのびている。

 「つーかさ、この銀狼名前何?」「ああ……そう言えば知らない。名前あるの?」「無いならつけちゃう?」
 何故か、三人の話は龍杜の容態の話から、銀狼の名前の話に飛んでいた。

 ふと銀狼が足を止め、三人はつられて足を止める。不思議そうな顔をする三人。銀狼は何処か不安そうな顔で顔を背の上の龍杜に向けた。眉根を寄せ、怪訝な顔で「どうしたの?」と言うアティミアに、銀狼は——片言ながらも、中性的な声で喋った。
 「……この龍杜とカいウ人間、風邪ガ悪化してイるみタいだゾ。背ガ熱い」
 「うわっ、喋った! って、龍杜さんの容態が悪化してる!?」驚きの六重奏が完璧に奏でられた。銀狼は黙って足を折り曲げ、背を低くした。駆け寄って確かめると、確かに悪くなっている。このまま悠長に足を運んでいたら、最悪の場合も在り得る。
 ……だが、三人になす術は無い。三人が三人とも、病に対する魔法は殆ど扱えないのだ。

 「乗レ」静かな声。三人が顔を上げると、気高い狼の顔が目の前にある。三人を見つめる碧の瞳は何処までも冷静で、絶対の自信のような色を宿している。ジェライが「頼んだよ」と声をかけると、銀狼は黙って頷いた。
 何度かの失敗を重ね、ようやく銀狼の背に乗る。銀狼は最後に三人の方を振り向くと、「オレの名はグライマ。しッカり掴まッてオけ」とだけ静かに告げた。三人が驚愕の表情で顔を見合わせると同時、銀狼は渾身の力で四人を乗せた背を立ち上げ、耳を劈く咆哮と共に、一陣の疾風の如く走り出した。
 「わぁあああああ!? 速いぃぃぃぁぁぁあああああ!」三人の絶叫が、風に吹きちぎれていく。


 あの場所から南東へ向かって、全力疾走約一分。クロロフィリア連合国と同じく雪に埋もれた国、ファルトネシア公国の狭い路地に、銀色の疾風が一人舞いこんだ。
 雪を駆け抜け、人々のマントやスカートや髪の毛を捲り上げ、露店の品物が片っ端から吹き飛んでいく。人々の怒号も既に遠く、銀色の風——銀狼のグライマは雪を踏みつけ、地面を蹴りつけながら、矢よりも早く駆ける。

 そんなグライマの上に乗るジェライ他四人は、その早さで振り落とされないように必死で掴まるのが精一杯だった。
 「誰モ落ちテイないカ?」耳元で切るように吹き荒ぶ風の中で、グライマの声が微かに響く。その声に、ジェライはあらん限りの声で「落ちてない!」とだけ告げた。グライマはただ黙って頷くと、急に足を止めた。拍子抜けした顔で三人はグライマを見つめ、グライマはじっと、小さな建物を見ていた。
 レンガ造りの二階建てで、他の建物との間に押し込めるような格好で立っており、古い木の看板には「宿場 ロレンゾ」と言う文字が奇麗に彫りこまれている。重たそうな木のドアの取っ手には「営業中」と彫られたプレートが吊り下げられている。
 グライマはご丁寧にも、宿場の前で足を止めたのだ。ジェライとアティミアとペテロはそれぞれ不思議そうな視線を交わしながら、グライマの背を滑り降り、背の上でへたばっている龍杜を全力で引き摺り下ろした。

 「らっ、乱暴な……」無理矢理引き摺り落とされ、龍杜が微かに声を上げる。ジェライは小さく「ゴメン」と言いながら右腕を持ち、余った左腕をペテロが掴んだ。ここから宿までは数メートルも無いが、その数メートルをまたも引きずって行くつもりらしい。
 「嗚呼……もういい。自分で歩くから、引き摺るのは止さんか……」
 元気の無い声で龍杜が告げ、二人の手を払いながら、鞘ごと引っ張った一番長い刀を杖代わりに立ち上がる。刀は龍杜の身長より頭一個分ほど低かったが、それでもかなり長い。ペテロは静かに「長ェ」と呟いたが、声は風に吹かれて誰にも聞こえなかった。

 ジェライよりも先に、アティミアがドアの前に立つ。ジェライは「早くして」と声を上げ、アティミアは「分かってるよ」と再び不満そうに口を尖らせた。アティミアは革の手袋をした右手で縦長の取っ手を掴み、奥に押す。拍子抜けするほどに、ドアはあっさりと開いた。
 低く響く鈴の音。同時、年季の入った木のカウンターを飛び越え、若い女性が姿を表した。
 「へいらっしゃい!」店内に響く、涼やかで大きな声。アティミアは入り口から三歩ほど入ったところで足を止め、女性を見つめる。
 下の方で緩く纏められた長い黒髪に、二重でパッチリした茶の瞳。橙色の長着を鮮やかな緋色の帯で締め、紅い羽織を羽織っている。顔には豪快な笑顔が浮かんでおり、顔立ちはこの近辺ではあまり見かける事の無い東洋系。
 真っ先にそんな女性を見たアティミアは早速ジェライに視線を送り、視線に気付いて女性を見たジェライは龍杜に視線を送った。
 
 視線に気付いた龍杜は気だるそうに顔をあげ、女性を見た瞬間、口を手で押さえる。その顔はまさに驚愕といった表情で、失礼だが面白い。ペテロはやはり誰にも聞こえない声で「ぶっ」と一瞬噴き出した。
 「どしたの?」少しだけ振り向き、投げられたアティミアの声。龍杜は声にならない声で何事か繰り返していたが、やがて決心したように大声を上げた。「“紅蓮の槍使い”が、何故(なにゆえ)にこんな所!?」
 「えー、やっぱり金欠……ってあああああ! 七刀(なながたな)の化物じゃないの!」
 女性の方は笑顔で大声を上げた。が、ジェライからペテロまで、女性と龍杜の関係を全く知らない三人とプラスアルファで銀狼グライマは、ただただひたすらに唖然とするばかり。女性と龍杜もいまいち盛り上がらず、その場に暫しの静寂が流れた。
 静寂は、辺り一帯に響く程に大きな龍杜のくしゃみでぶち破られた。

 宿の中は驚くほどに適温で、ジェライから龍杜まで揃いも揃って和みきっていた。グライマは暑いのは無理だと言い張って、宿の外に鎮座ましましている。そんな窓の外のグライマを女性は横目で見ながら、和んでいる四人に向かって声を上げる。
 「でさ、さっきの沈黙の続きなんだけど。アタシは火神澪南(かがみれいな)、呼びは火神か澪南で宜しく。とりあえず御祓如、アンタは二〇八号の部屋で休んでなさいよ。風邪が悪いのには違いないし」
 女性——澪南は懐から二〇八と番号の刻まれた鍵を引っこ抜くと、頭を抱えて咳を繰り返している龍杜に投げる。鍵を投げられた龍杜は半ば本能的に手を伸ばして受け取り、そのまま溜息と共に座り込んでいた椅子の背もたれへよりかかった。先程見せた束の間の元気そうな顔とは裏腹に、顔からは完全に魂が抜けている。
 「龍杜さん、また引き摺ろうか?」ジェライの脅すような声。生気の抜けた顔を向け、龍杜が返す。「や、それは……勘弁」
 そのまま龍杜はフラフラと立ち上がると、半ば壁にすがりつく格好で階段を登り、そのまま覚束ない足取りで二階へと消えた。
 「あ、アンタ等って酷な事すんのねぇ……」澪南は呆れたように肩を竦めると、溜息混じりに声を上げた。
続く

だーっ、もう……スランプ……です。

Re: 破壊者交響曲 〜第二曲〜 ( No.6 )
日時: 2009/12/25 11:43
名前: SHAKUSYA ◆K.xLaczcwk (ID: TQ0p.V5X)

第四楽章 「刃と槍」
 「……で、まあ、御祓如の知るアタシが何でこんな所にいるかって話なんだけど」
 澪南が口を開きかけた瞬間、ペテロが「金欠だとか何とか言ってたよな?」と茶々を入れた。澪南は「そ」と軽く流し、続きの言葉を言い放つ。軽く流されてしまったペテロは、やはり小さい声で「流された」と寂しそうに呟いた。
 「で、アタシは金欠だからこうやって宿主人の代理の仕事——って事で金稼ぎをしているわけで。ぶっちゃけ、アタシの使う槍って手入れが大変でね、あっという間にお金はなくなっちゃう。あ、ちなみにアタシの槍はあれね」
 身振り手ぶりを付けながら、滑舌よく喋る澪南。指は一直線に、暖炉横の壁を指している。
 ジェライ他三人は横目で壁に立て掛けられている槍を見つめた。

 美しい紅蓮の色をした長い柄に、先へ行くほど幅が広くなり反りの大きくなっている片鎌の刃は、槍と言うよりも薙刀に似ている。刃と柄の接合部分には鮮やかな緋色の布が巻かれており、その上からは飾りのように赤い糸が三つ編みになって垂れている。“紅蓮の槍使い”と言う異名にふさわしい、まさに紅蓮の槍だ。

 ジェライは溜息を零しながら、声を上げた。
 「凄く真っ赤な槍だね。溜息が出ちゃうよ」
 「まあね。この紅色を保つのに苦労してんだから。この槍はホントに金食い虫だよ、全く」
 澪南は相変わらずの豪快な笑みを浮かべて返し、しみじみとした視線を遠くに向けた。それで何かから戻ってきたのか、ペテロが思い出したように声を上げる。声は疑問の中心点を突いていた。
 「そういえばさ、アンタなんであの龍杜を知ってたんだ? 明らかに知り合いっぽそうな雰囲気だったけど」
 「ああ、御祓如の事? 知り合いって言うか同業者だよね。いや、なら知り合いか。うん、“槍刀七武将(そうとうしちぶしょう)”って言う武士団があるんだけど、アタシその内の一人。御祓如も槍刀七武将の一人だよ」
 テーブルに両肘を突き、片方で頬杖を突きながら余った手で自分を指差し、澪南が答える。今度はアティミアが「何それ?」と声を上げ、澪南は「待った」と奇妙な前置きをして話し出した。
 「槍刀七武将ってのはねぇ、簡単に言うと、槍使いか刀使いか若しくは槍と刀を同時に使う槍刀使い、その中でも特に強い奴七人を集めて作られた集団の事。この槍刀七武将は槍と刀以外の武器を使う人はなれないのが特徴だね」
 「想像はつくけどよ、一体全体何の目的で、しかも槍かその——カタナって奴を使う奴しかなれないような集団作ったんだ?」
 間髪いれず上げられたペテロの声に、澪南は「まあ待ちんしゃい」と再び奇妙な前置きをしてから声を上げる。
 「目的は確か——異常事態の鎮圧と技の鍛錬。槍と刀なのは、色々と立ち回りやすいから……って事らしいよ」
 「らしい」とは若干どころかかなり不確かな物言いである。ペテロは眉を顰め、今度も小さな声で「らしいって」と静かに零した。耳聡いジェライはその声を密かに聞き取り、「あんまり言ってたら殴り飛ばすぞ」と言わんばかりの威圧を目に込めた視線を向ける。ペテロは感電したかのように一瞬肩を竦ませると、それきり黙りこんだ。
 そして、沈黙が続く。

 「……で、さ。なーんか変な沈黙の所喋りたくるわけになったんだけど。まあ槍刀七武将って言うのは席次が決まっててね、アタシはまあ第五位くらいの席次な訳なんだけど、御祓如は第二位。ぶっちゃけあの刀一番短いものでも五貫超えてるって言うのに、それを七本もブン回す強力は凄いと思うよ。やっぱり席次第二位なだけあるよね」
 早口で話しきった澪南に、アティミアから質問が飛んできた。
 「ねえ、あの……カンって何?」
 澪南は言葉に詰まる。澪南は純粋に日本で使われる単位しか使った事がなく、他の単位を知らないのだ。すると、ジェライの方から答えが返ってきた。「貫は重さの単位だよ。一貫が大体三キロと端七五」
 「ってぇ事はつまり、五貫で大体二十キロか。龍杜は水の入った酒樽を片手で持ち上げてるって事になるのか?」
 ペテロが分かりやすい例を差し出し、驚いたような呆れたような声を上げる。ジェライも溜息を零し、「そう言う事になるよ、大体」と静かに言葉を返した。澪南は酒樽の例に目を丸くし、アティミアは「凄い」と目を輝かせる。
 ジェライはもう一度溜息を吐いた。

 ——二階、二〇八号室。閉め切られたドアの向こうでは、綻んだマントの裾を修理するジェライと、備え付けのベッドで布団を抱え、丸くなっている龍杜が話していた。龍杜の顔に血の気は無く、熱があるにも拘らず青褪めている。
 「ふぁあっくしぃ! ああくそっ、なんだ、某に今すぐ聞きたい事でもあるのか?」
 大きなくしゃみと共に、喉の潰れたような声で訊ねる龍杜。ジェライはくしゃみの声に「口押さえて」と低く発言すると、少しだけ龍杜から距離を取り、マントから目を逸らさずに口を動かす。
 「龍杜さんの刀ってさ、一番短い奴でも大体五貫、まあ十八キロくらいなんでしょ? 僕達の国だったら、十八キロなんて大きな樽に水を一杯一杯入れたのと大体おんなじ重さだよ。どうしてそんなに刀を重くする必要があるわけ?」
 龍杜が少しだけ沈黙。そして、「そんなことか」と呆れたような溜息混じりの声を出し、言葉を続けた。
 「某は刀を魔法の媒体として扱っていることだけ前置きしておく。刀を魔法の媒体にするとき、生半可に軽かったり薄かったりしていては、刀が魔法の負荷に耐えられず折れてしまう上に、反動で刀身がぶれて思わぬ方向へ魔法がすっ飛んで行く時があるのでな。それを防ぐ為に、あの刀はわざと重く丈夫にしてあるのだ」
 
 若干の沈黙の後、ジェライは思い出したように再び声を上げた。
 「ふーん。……でも思った、それだったら、刀は一本か二本でいいじゃん。七本も持つ必要が一体全体どこにあるんだい?」
 再度の疑問に、龍杜は頭を抱えて溜息を吐く。ジェライは怪訝な顔で「変な事聞いた?」と若干刺々しい声を上げた。龍杜はただ黙って頭を横に振り、若干の咳払いをしてから、相変わらずの掠れた声を上げた。
 「魔法の種類と威力によって、使う刀が違うのだ。低位だけならあの短刀でも大丈夫だが、中位や高位……特に攻撃性の高い雷撃や火炎、力を大きく削る治癒の魔法は各々別の刀を使う。あれはそれぞれ扱える魔法の系統が違うでな。……要するに、刀の痛みを減らす為だ。思えば、最初からこう言えば早かったやも知れんな」
 龍杜の声に、ジェライは最後の言葉にだけ頷きながら声を返す。相変わらず、視線はマントの方に向いていた。
 「刀の壊れ防止って訳だね、納得はついたよ」
 「ならば某は寝る。お主も用が済んだのならば部屋から出てくれんか。頭痛と熱とで死にそうだ……」
 龍杜のますます元気の無い声に、ジェライは「ちゃんと休んでね」と言葉をかけ、繕いの終わったマントと借り物の裁縫道具を脇に抱えて部屋を出る。そして、部屋のドアが静かに閉じられると同時、龍杜は七本の刀の内、いつもは背にしまっている四本の刀を両手で持ちあげた。そのままベッドから抜け出し、龍杜は覚束ない足取りでドアの傍まで歩み寄る。
 そして、四本の刀が一気に床へ下ろされた。

 ——盛大に何かが落ちたような、鈍い音。一階の暖炉の傍で和みきっていた四人は、その鈍い音にハッと我にかえった。
 「えっ、なななななな何!? 何!?」慌てふためき、手をじたばたと上下に振りながらうろたえるアティミア。ペテロは一瞬驚いた顔で上を見上げたものの、直ぐに興味をなくし、暖炉の火に手をかざす。ジェライと澪南は粗方の予想を付け、暖炉の火に手をかざす。
アティミアだけがうろたえ慌てる中、ペテロは「気にする事じゃねぇよ」と声を上げてアティミアの頭を小突く。アティミアは「だってだってだって!」と「だって」を連呼しながら尚も慌てふためき、結局ジェライの「五月蝿い」に黙らされた。
 暖炉の火は赤々と燃え、四人はただひたすら暖炉に手をかざしていた。

 
 雪が振り止み、銀狼がほんの少し白み始めた空に向かって欠伸をする。
 遅くまで営業する酒場もそろそろ店じまいの支度をし始め、朝の早い店は起き出して開店の支度を始める頃になって、ジェライは早すぎる寝起きの中に居た。ジェライ自身が非常に早起きなのだ。
 「うー……まだ外が暗いや。でももう眠くないしなぁ……」
 若干年寄り臭い溜息と共に声を上げ、窓の鍵を外して引き上げる。外には微かな風すらなく、ただ静かな薄明るい空の色だけが部屋に流れ込んでくる。ジェライは静かに雲の流れる静かな空を眺め、少しだけ笑みを浮かべた。
 彼はこの静かな空間を好んでおり、基本的に露店が騒ぎだす一時間前からは必ず起きているのだ。起きた後は基本殆ど何もしていないが、苦労ばかり起こる彼にとって、この静けさは唯一の安息時間とも言える。

 「さぁーて、露店が開くまでボーっとしとくかな」
 威勢のいい独り言と共に、ジェライは窓敷居を跨ぐような格好で座り込み、部屋側の足を窓敷居に引っ掛ける。そして頬杖をつき、そのままの格好で遠くを見つめた。これが、騒がしくなるまでのジェライの格好である。
 空は、相変わらず静かだった。


 雪の溶けた石畳。堂々と歩く男の影が一つ。
 浅黒い肌に、低い位置で纏められた長く明るい茶の髪。右目だけをその茶の髪で隠し、露になっている左目は角度によって茶色や緑がかった茶にも見える。顔全体は東方系だが、細かい所は明らかに異人の血が入っているような風貌だ。
 紺色の長着を緩く着こなし、寒々しく開け広げられた胸にはなにやら包帯めいたものをまいている。紺色の袖に通っているべき腕は無く、その緩い長着の中に突っ込まれていた。長着の中で腕組みをしているらしい。
 灰色の袴の腰には黒い帯で短い棒のような物体が止められ、黒い鞘には刀が入って揺れている。歩みを進める足は冬にも拘らず素足に草鞋履きで、男は平然としているが見ているこちらが寒い。
 そんな異人の血混じりの男は、口に猫柳の小枝を携え、笑みを浮かべて歩みを進めていた。

 陽気な笑顔で歩いていた男は、ふと足を止めた。それはあの宿屋ロレンゾの目の前で、窓からその様子を眺めていたジェライは怪訝な顔でその様子を見つめている。男はまだ気付いていないらしく、はたと足を止めたまま動かない。
 男はまだ暗い空を眺め、それから両手を天に突き出し大きく伸びをする。どうやら欠伸をしたかっただけらしい。
 「ふぁー……って、おぉ?」
 上を見上げてやっとジェライに気付いたらしく、男の視線は一直線にジェライへ向いた。ジェライは一瞬肩を竦め、それから真っ直ぐ男を見返した。静かな朝の中、そこだけが張り詰めた空気。
 暫く無言の時が続く。
 
 奇妙な沈黙の中でかわされた視線は、結局男が折れる事で決着を見たらしい。男は抑えた声で二階のジェライに声を上げた。
 「変なとこ見せちまったな。俺は櫻庭源次(さくらばげんじ)、一応こっちらへんの血混じりの武士さ。お前は?」
 「僕はジェライ。ジェライ・リヴェナ・フィレイオン。十一歳で既に旅人さ」
 ジェライがそう名乗った途端、男——源次の顔が微かに険しい表情を見せた。ジェライはそれを見逃さず、「多分噂くらいは流れてるだろうね」と若干自嘲気味に笑って前置きし、言葉を滑らせようとした。
 が、その声は途中で止められた。
 「待った、お前のことくらい知ってらーよ。事故とはいえ魔法を暴発させ、竜族の子の首をすっ飛ばしたという珍妙ながら重大な咎負いの少年。が、素性は“あの”神滅ぼしの息子——ジェライ・リヴェナ・フィレイオン、だろ?」
 「正解。……っていうか、よくそこまで知ってるね。普段は名前と旅人って言う事以外は口に出さないし、事情を聞くのは仲間以外にいないから普通の人はそこまで知らないんだけど」
 ジェライが頷きながら言葉を上げると、源次は顔いっぱいに朗らかな笑みを浮かべ、声を上げ返した。
 「まぁな。これでも俺は一応槍刀七武将の席次第一位だからよ、情報には詳しくないとな」

 「……は?」素っ頓狂な声が、一際高く響く。
 ジェライは一瞬、目の前の人間を疑ってしまった。本当に第一位の実力を持っている人間なのかと。
 唖然とした表情のジェライに、源次は相変わらずの笑顔を浮かべ、そして申し分けなさそうに声を上げた。
 「あのさあ……俺、平気そうに見えるけどすげー寒いんだよな。もう開いてんのか、宿は?」
 「さあ……」ジェライは引きつった顔で、曖昧に言葉を告げた。
続く

誰も来てくれない……。

Re: 破壊者交響曲 〜第二曲〜 ( No.7 )
日時: 2009/12/25 14:17
名前: UUU (ID: yvG0.ccx)

おぉ・・少し長たらしいものですが、非情に面白い。
続きが気になるものでぜひ頑張ってください。

Re: 破壊者交響曲 〜第二曲〜 ( No.8 )
日時: 2009/12/25 14:46
名前: SHAKUSYA ◆K.xLaczcwk (ID: TQ0p.V5X)

>>7
ひー、コメントありがとうございます!!
また頑張る気力が沸いてきました! 今すぐ執筆します!

Re: 破壊者交響曲 〜第二曲〜 ( No.9 )
日時: 2009/12/25 15:43
名前: UUU (ID: yvG0.ccx)

はい!応援してますよ。


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