ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 指鳴らし 石作り
- 日時: 2009/12/05 16:45
- 名前: 銀 (ID: lWK3zB9M)
「パチンッ」
心地よい音。全く意味のないように思いながらも、蒼坂興志はこの音に憧れ、夢を見、努力をしてきた。ある日、アニメで見た、指を鳴らす音。来る日も来る日も練習を重ね、ついに、完成した。この日は興志の記念日だった。
明くる日、意気揚々と家を出た興志は、学校に着いた瞬間、意気消沈した。そこは最早生の気配がしなかった。友達が、先生が、石になっている。訳がわからず、興志は指を鳴らしていた。“パチンッ”すると、新しく教室に入ってきたであろう人が、石になっていた。興志は凍りついた。自分が・・・自分が石にしてしまった。人間を、石にしてしまった。恐怖が全身を支配する。気づくと興志は、指を鳴らしていた。そして、巡らせた。ありったけの知略を振り絞り。ひらめいた。これで世界が取れる。悪の考えが。もう興志の中に理性はなかった。己の欲に貪欲な、獣のように。そして、気づいた時には、指を鳴らしていた。それはもう、心地よい音ではなかった。唯々、興志の欲を、掻きたてるだけのものだった。
興志の周りには、もう人がいない。この国の人間は、一人残らず石になった。興志は・・・
「ぐぅー」
腹がなった。もうご飯作ってくれる人がいない。お気に入りの屋根の上に座りながら、気付くと、涙を流していた。なぜか。そして、指を鳴らしていた。心地よい、音だ。
不意にあたりが明るくなり。人の声が聞こえてきた。何故だろう。興志はうつむいていた顔を上げた。目の前には黒いスーツを着た男が立っていた。歳は、興志と変わらないくらいだろう。
「堕ちましたね。分かりましたか。」興志は唯々、うなずくだけだった。涙を流しながら、人の声を聞きながら。心地よい音を奏でながら。指を鳴らしていた。
“パチンッ”
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