ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 心のメスをふるって
- 日時: 2010/01/05 11:55
- 名前: 静香 (ID: RJkIHa4L)
クリックありがとうございます!初投稿です。
医大中退のホステスの話です。
よろしければご感想等、お願いしますm(__)m
主な登場人物-------------
小川京子(29)…女子医大中退のホステス
中村小雪(28)…京子の医大時代の同級生の女医
金井誠一(38)…浪速大学医学部講師(内科)
Page:1 2
- Re: 心のメスをふるって ( No.1 )
- 日時: 2010/01/05 11:58
- 名前: 静香 (ID: RJkIHa4L)
心のメスをふるって 第一話
国立浪速大学付属病院の、眩しい程、ぴかぴかに磨かれた廊下を、小川京子は診察室に向かって歩いていた。
多分はただの風邪と思われる症状で、近所の町医者で事足りると思ったが、京子はいつも職場-彼女は一流バーのホステスである-に一度来た金井という内科医が気になり、その診察日に合わせてわざわざ長く待たねばならぬ大学病院を訪れたのだった。
京子の職場である、バー・シルヴィアは、文学ファンのママの趣味で、センスの良いあっさりとしつつも高級感溢れる内装となっている。値段こそ、わりに良心的な料金であるが、そこに来る客は、船場の商店の旦那や開業医、そこそこに金を持っている男が多い。
金井がシルヴィアに訪れた時、彼は油気のない頭に垢染みたワイシャツを着、京子は何だかそこだけ違う空気が漂っていると感じた。その通り、金井は、常連である医者仲間に連れられていたが、借りてきた猫の様に無口であった。
中年のくせに、と京子は少しおかしく感じ、隣に座った際、豊満な体押し付けからかってみると、金井は顔を紅らめ、妻に遅くなると電話してきます、と云って席を立ってしまったのだった。
あの真面目な男はどんな顔をして仕事をしているのかしら、と、京子は失礼しますと云って診察室へ入った。
- Re: 心のメスをふるって ( No.2 )
- 日時: 2010/01/05 12:36
- 名前: 静香 (ID: RJkIHa4L)
心のメスをふるって 第二話
浪速大学医学部講師、金井誠一は、診察室の時計を見た。午後一時二十分、すでに午前の診察は終わっている筈の時間であったが、待合にはあと四、五人も患者がいた。もっとも今日が特別な日ではない。教授、助教授診察の日はさらに患者の列ができる。
看護婦が次の患者の名前を呼び、金井はカルテに目を通した。どこかで聞いたことのある名前だと思ったが、カルテには初診と示してあり、気のせいか、と受け流した。
診察室のドアが開くと、白いワンピースを着た若い女が立っていた。目鼻立ちの大きな美人で、金井はやっぱり人違いだ、俺にこんな知り合いはいないからな、と心の中で苦笑した。
「どうされましたか」
そう訊くと、女は、
「ここ数日間熱が続きますの、ただの風邪かと思いましたが、咳がひどく、大学の時、胸を悪くしたものですから心配で…」
眉間に寄せたしわが色っぽく、金井はふと淫らな思いが頭を掠めたが、その思いを振り払い、女に上半身の着衣を脱がせ、診察した。
触診での異常が認められなかったが、念のためレントゲン写真をと助手に命じ、ではお大事にと見送った。
午前診察が終わり、やっと昼飯にありつけると思い、診察室を出ると、先程診察した小川京子が立っていた。
- Re: 心のメスをふるって ( No.3 )
- 日時: 2010/01/05 13:46
- 名前: 静香 (ID: RJkIHa4L)
心のメスをふるって 第三話
京子は、金井と少し話がしたいと思い、診察室の前で待っていた。
しかし、ふとこの様な図々しさは、水商売の女特有のものだと思うと、恥ずかしさがこみ上げてきた。
そうね、一度店に来ただけの客-顔も覚えていないかもしれない- 、しかも権威ある大学病院の講師に馴れ慣れしくしようとするなんて、どうかしていたわ。そんな事を考え、引き返そうと思った矢先、診察室のドアが開いて金井の姿が見えた。
「どうか、なさいましたか」
金井は医師らしく固い口調で訊いた。京子は不自然に顔を合わしてしまった気まずさを感じながら、
「いえ、すみません、何でもないのです」
そう云って足早に大学病院を後にした。
金井は自分の事を覚えていないようだ———。その事がごく自然な事にも関わらず、京子は少し俯き、店までの道のりを歩いている。しかし、自分の容姿が通行人の目を充分に引く事を、いつもの様に確認した京子は、何事も無かった様に(事実その通りでもあるのだが)———、店のドアを開けた。
- Re: 心のメスをふるって ( No.4 )
- 日時: 2010/01/05 14:15
- 名前: 静香 (ID: RJkIHa4L)
心のメスをふるって 第四話
「浪速大学、移入教授反対!」
バー・シルヴィアの開店直ぐのがらりとした店内で、ボックス席から、そんな声が上がった。京子よりも若いホステスがその席に着いていたが、好奇心を突かれた京子はそこへ顔を出してみた。
「そういう事を大きい声で言っては駄目よ、壁に耳があるかもしれないのだから」
常連の一人に声を掛けると、
「そうか、君は医大中退だったね、みんな!この美人はS女子医大に通っていたんだぜ!このインテリ・ホステス君にもご意見を伺いたいね!」
少し酒が入っているような声だった。他の3人の医師と見られる男達は、いつまで通っていたんだい、ホステスをするには勿体ないよ、等と次々声をかけ、京子に興味を示した。
先の男が云った通り、確かに小川京子は医大中退だ。辞めた事に後悔は無いとはいえ、その事に触れる時、京子の胸は少しちくりと痛む。だが、そんな事は顔には出さず、京子は移入教授反対と言っていた話が気になり、
「ねえ、角川先生(常連の男はそう云った)のとこの教授先生、退官なさるの」
「聞こえていたのかい、やはり壁に耳あり、障子に何とかだな、そうだよ、第二外科の中川教授は来年退官なんだ。それで、第二外科の真鍋助教授は君も知っているだろう、テレビや週刊誌にもよく載っているからな、しかし、中川教授は他の大学から時期教授を連れてくるつもりなんだよ」
それを聞いていた他の医師の一人が、
「時期教授は真鍋助教授を置いて他にはいない!そうだろう!」
と叫ぶように言うと、
「そうだ、そうだ!」
若い医師達は、興奮するように口々に云った。
教授選挙か———、興奮している医師達を眺め、京子は昔自分がいた、大学病院医学部という場所を思い出していた。
- Re: 心のメスをふるって ( No.5 )
- 日時: 2010/01/05 14:50
- 名前: 静香 (ID: RJkIHa4L)
心のメスをふるって 第五話
十年前、S女子医大教授婦人会の集まりで、小川京子はバイオリンを弾いていた。
京子は生来の美貌に加え、末っ子気質で、昔から教師連中に可愛がられる。その春入学したばかりのS女子医大でもそうであった。また、京子は何故国立大学医学部に入らなかったのか、本当に不思議に思われる程聡明であったから、入学後すぐに教授たちから目を掛けられるようになった。教授婦人会のその集まりのその日も、京子がバイオリンを弾けると知るとすぐに、医学部長から、ぜひ、弾いてくれないか、と誘われたのであった。教授婦人会は、医学部長婦人が幹事をしており、その家で開かれる。30人の教授夫人達が華やかに着飾り、また、医学部長の永井の家も、正に豪華絢爛、という言葉をそのまま表したような風であった。
京子がチャイコフスキーを弾き終わると、女ばかりの部屋へずかずか永井医学部長が入って来、
「いやあ、良かったよ、京子君、ふぁっふぁっふぁっ、皆さん、拍手を!」
まるで父親が娘を自慢するような風で可笑しいと京子は思ったが、然程気にせず、自分のバイオリンの演奏が教授婦人の方々の耳に心地よかったのだと、夫人達の表情から感じ取ると、気持ちが良かった。
演奏が終わり、元居た場所へ戻ると、この場所には不自然な地味な婦人が数人いる事に気が付いた。基礎医学の講座の教授達の夫人であった。
その中の一人が、こそっと、目立たないように気を払い、京子に近づいて、
「永井教授にはお気をつけ遊ばせ、あの方は狙った獲物は離しません事よ」
獲物とは京子の事らしかった。
まさかそんな筈はないだろう、京子は、この地味な教授夫人は、医学部長と云う立場を妬んでそんな事を言っているのだと考えた。
Page:1 2
この掲示板は過去ログ化されています。