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ハザーダスゾーン 灼熱の突破口
日時: 2010/01/07 22:13
名前: JYU ◆j7ls9NGWQI (ID: JhSKFTjv)

タイトルは何となくブラックホークダウンを意識してる気が……しないでもない。
専門用語多々ありの戦記物となっておりますが、解説については読み飛ばしてもよいかと思われます。
ただ、書かないとどうしても知らない人が納得できないシーンもあるだろうと……

いや、まあいいや……
こんなもん書いてるから敬遠されがちなんだろうけど、俺のノリはずいぶんと軽いもんですから!
気楽に何かしら書き残して行ってくださってかまいませんよ! ね!
「ここ意味不明」とか気軽にどうぞ!

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0.プロローグ ( No.1 )
日時: 2010/01/07 22:11
名前: JYU ◆j7ls9NGWQI (ID: JhSKFTjv)

 2018年12月4日のことだ。
 私は海軍特殊部隊、Navy SEALs(ネイビー・シールズ)に所属していた、ある退役中尉とのコンタクトを取ることに成功した。
 彼は何かしらを達観している節があり、初対面の私に向けた視線は実に柔らかい物であった。勧められて椅子に座った私と対面するように、彼もまた椅子に座った。その動作も悠然としており、彼を慕う人物がいることも頷ける。
 まず、彼から口を開いた。「何を聞きたいのだったかな」私ははっと気を取り直し、質問の答えをメモするノート、あらかじめ許可を貰って持ってきた録音用のレコーダーを準備した。「じゃあ、始めましょうか」そう、ぎこちなく返すのが、私の精一杯だったように思う。

 私が彼の口から聞きたかったのは、とある戦闘についてだ。
 中東のとある地域で起きた、正に絶望的ともいえる戦闘から生還したのが彼である。彼はいわば、その戦闘の貴重な経験者。彼と出会えるだけでも、私は幸福だった。彼は一応、まだ33歳である。しかし、その威厳は何故か、様々な経験を積んだ初老の紳士……とも言えるような気にさえさせる。
 それも恐らく、私が目的としているその戦闘の所為なのかもしれないと、この時、私はすでに思い始めていた。

「失礼ですが、率直に。私は、あなたが経験した最大の戦闘について聞きに来たのです」

 それだけで、彼は理解したようだった。ふむ、と呟いて、私の目を見る。私は29歳。そう歳は離れていないはずなのだが、頭でも下げたい気分になってくる。その瞳は吸い込まれそうなほどの、不思議な光を見せていた。彼は「私自身」を見ている。そう感じざるを得ない。

「分かった。実は私の友人にも『話してやってくれ』と頼まれているんだよ」

 彼は私の取材に快く応じてくれた。その瞬間、どれほどほっとしたことか。
 目の前に座ったまま、彼はゆっくりと口を開いた。10秒ほど経った頃だったように思う。
 じっくりと、何かを噛み締め、思い返すように、彼は悲哀を帯びた表情のまま、真実を語り始めた。
 それこそが、私にとって人生最大の幸運だったに違いない。きっと、そうなのだ。
 だからこそ私は、彼の声を一言一句逃さず、耳に刻んだ。手元の録音機が人格を持っていて喋ることが出来たら、「何のために俺を持ってきたんだ」と喚き散らしていただろう。それほどに、私は全てをはっきりと、記憶した。
 
 私は彼が経験した「最大の戦闘」の全てを、ここに記そうと思う。
 その戦闘が起きたのは、2011年8月23日。彼がまだ26歳の頃だった。






 ————————





 輸送ヘリの中で、ジェレミー・デイビス一等准尉は「In the navy」を口ずさんでいた。一昔前にヒットした曲だ。彼は無類のレトロミュージック好きだった。
 Navy SEALsのチーム3所属の彼ら8名に課せられた任務はごく単純かつ重要な物だ。彼らはこれから主な活動地域である中東に向かう。それはアメリカ一般家庭のとある家族が親戚を招いて開くパーティーのようなものである。それなりの頻度、それなりの刺激。しかし、慣れ切ってしまった彼らは、最早緊張すらしない。
 今回は若干事情が違った。中東、アフガニスタン。その国内に潜伏しているテロリストグループに動きがあったことを、現地に居たアメリカ軍第75レンジャー連隊が掴んだ。何かしらの搬入作業を行っているらしい痕跡が発見された。もしそれが危険な爆発物であったり、細菌兵器や毒ガスの類ならば、すぐにそれらを押収しなければならない。もちろん血生臭いことになるのは確かだろうが、それが彼らの任務だ。
 とはいえ、彼らSEAL隊員8名の仕事はあくまで偵察であり、事実確認と周辺地域の細かな記録が目的である。派手なドンパチを起こす気は毛頭なかった。だがいざというときに弾丸の撃ち合いよりも神経を使うのが偵察である。当然好きになれるはずもない。
 現に、ジェレミーの隣の席に座っているジョシュア・ウェンライト二等軍曹は1人で毒づいている。その呟きに反応する物は、誰もいなかった。8人を2チームに分けて、4人で行動する。ジェレミーとジョシュアは一緒の班だ。班長はダニエル・オズバーン大尉。ジェレミーと親しいアイヴァン・アトウォーター曹長も彼と一緒の班、A(アルファ)1だ。
 「おい」ジョシュアが言った。「もう着いちまうのか?」ダニエルが口を閉ざしたまま外を見てみろと手で示した。風景を見て、ジョシュアはため息をついた。
 
「ジェレミー、ほら、見ろよ。カイバル峠が見えるぞ」

 アイヴァンとジェレミーは本当に仲が良い。階級を飛び越え、彼らはお互いを「ジェレミー」「アイヴァン」と名前で呼び合う。他にもそう言う者はいたし、元々SEALsと同じ特殊部隊である、アメリカ陸軍のデルタフォースなどでは階級を軽視することも多いのだそうだ。
 だから、ダニエルは一々そういったことに目くじらを立てるようなことはしなかった。ダニエル・オズバーンは部下からの評価が高い人物だ。大尉として相応の経験と度量があり、これまでに困難な救出作戦などにも従事している。
 そして当然だが、彼らはSEALsとして誇りを持って仕事に臨んでいる。地獄とも言える訓練——BUD/SというSEALs入隊訓練の一環などだ——を潜り抜けている。そういったことは人に自信をつける。自信があると、他のことに対して寛容になる。
 ダニエルもそうだった。実力からくる自信は他人への気遣いが出来る余裕を生んでくれる。
 もう1つの班、A2所属隊員であり、班長のアンドレアス・ウォーベック大尉に、アンソニー・ウェッジウッド二等准尉が何やら質問をしていた。彼なりに戦闘について考えているらしい。アンソニーはまだ実戦経験がないはずだった。
 
「もうすぐ着陸だ」

 ヘリコプターの機長が言った。
 着いていきなり偵察開始というわけではなく、市街地の外れに降下した後、近くの簡易基地に駐留しているアメリカ軍、つまり第75レンジャー連隊と一旦合流し、情報と装備の整理の後、任務を開始する。
 煙草の箱1つの高度をスレスレで飛ばすほどの技術を持った機長が、驚くほど静かに、そっと舗装もされてない地面へヘリを降下させた。後部ハッチが開き、SEAL隊員達はアフガニスタンの大地を踏みしめた。もう何度目かになる者もいる。彼らは選りすぐられたプロフェッショナルであり、任務成功に絶大な自信を持っていた。
 着陸してすぐに、現地に駐留している第75レンジャー連隊の隊員が歩み寄ってきた。その中には中佐級の人物もいる。ジェイムズ・シュライフ中佐はダニエルと握手をし、一言「ようこそ」と言った。

「会えて光栄です、中佐」

「ここでは海軍も陸軍もない。特に今の状況では」

 近代になって、所謂「裏の世界」に出回る銃火器などが増加し、それに比例するかのようにテロリストや過激な民兵が増えている。それは確固たるデータにも表れていることだ。ここ、アフガニスタンだけでなく、イラクなどに駐留するアメリカ兵の戦死者も増えており、最早内部でいがみ合いをしているような余裕もない。
 ジェイムズは他の隊員と共に、テントへとSEAL隊員達を案内した。これは陸軍・海軍の共同戦線である。

「そう広くはないが」

「十分です」

 ダニエルは装備類の整理を始めた。まず銃だ。他の隊員達も揃ってテントの中で装備を広げた。
 メイン・アームに、まずSIG SG552-1アサルトライフル。銃床が折りたたみ式になっており、銃のサイズをある程度変えることが出来るため、遠距離の目標にはそのまま、室内における接近戦闘、つまりCQBの距離においては折りたたんでコンパクトにし、取り回しを良くすることが出来る。
 これは殆どの隊員が持ってきている。

 次にSOPMOD-1 M4A1カービン。様々なアクセサリー(分かりやすく言えば、レーザーサイトやグレネードランチャーなどだ)を装着することのできるM1913ピカティニー・レイルを4面に装着したRASを搭載した特殊部隊仕様のカービン銃である。

 MASADA(ACR)もある。2007年に完成したばかりの新品で、彼らもまだそう長く扱ってはいないアサルトライフルだが、性能は十分だ。過酷な環境下においても十分に駆動することが証明されている。アフガニスタンの砂埃にも耐えてくれることだろう。

 偵察任務ということで、狙撃銃も各チームに1丁ずつ。シャイタックM200。この狙撃銃がどれほど凄まじい物であるか、熟練の特殊部隊員達は、それを一言で言い表すことはできない。
 ただ、分かりやすくこの銃の力を示すとしたら、2000m以上もの距離を狙撃可能かつ、弾丸はその距離ですら超音速を保ったまま、目標を撃ち貫く、ということが第一に挙げられるだろう。第二に、軽装甲のトラック程度なら、装甲・エンジンをまとめて一撃で撃ち抜くことすら可能という威力が挙げられる。
 付属品として、気象データトラッカー、目標の距離や方位を測定できるレーザーレンジファインダー、驚くことに、最も効果的であると推測される弾道のデータを計算し、射手へ提供出来る弾道計算ソフトウェアがある。これらを使えば、3500m級の狙撃すら可能だろう。
 しかも暗闇でも暗視スコープにより狙撃可能、赤外線式ではないので敵にもバレない。サプレッサー(発砲音と発射光を抑えるための筒状の物。銃口に取りつける)を付ければマズルフラッシュすらほとんどない。敵は全く気付かないうちに全滅する。
 この銃がどれほど驚異的であるか、例え軍事知識の無い一般人であっても想像に難くないだろう。他愛のない会話を交わしている平凡な時間、周囲に誰もいないのに、突然自分と喋っていた人間の頭が砕け散り、その時既に照準は自分へと移っている——
 そして射手は、慌てふためく敵の命を容易く刈り取る。

 屋内戦闘用にと持ってきたMP5SD6サブマシンガンもある。長く使われてきた傑作サブマシンガン、MP5にサイレンサーを付け、さらに改良を重ねたモデルだ。
 ただしこれはジェレミー、ダニエル、アンソニーしか持ってきていない。最近のアサルトライフルやカービンはサブマシンガンのように屋内戦闘にも活かせる仕様となっているため、必要ないと考えたのだろう。
 一応、規定の装備は満たしているので、それ以上の装備については度を過ぎない限り個人個人の自由だ。
 そして現地にも良い物が置いてあった。SG552と同じように状況に応じて対応が出来る傑作銃、SCARアサルトライフル。テントの中に入ってきたレンジャー隊員が得意げに「必要ですか?」と聞いてきた。ジェレミーは「考えておく」と答えた。
 サイド・アーム(予備武器)としてベレッタM92拳銃のElite IAモデル。ボディアーマーはIOTVを改良したもの。他にもフラッシュバン(閃光手榴弾)、M67破片手榴弾、暗視・サーマルスコープ……フル装備だ。もし戦闘になった場合に備えての用心だった。彼らがアーマーの上から着るミリタリー・ベストはライフルの弾倉を12個以上仕舞うことすらできる。
 1つの弾倉に30発と考えて、30×12=360発分の弾丸を1人が保持できるということだ。
 SCARアサルトライフルを持ったまま、レンジャー隊員であるスコット・バーグマン一等軍曹は愛想のいい笑顔を浮かべていた。

「名前は?」ジェレミーがスコットに尋ねた。「スコット・バーグマン一等軍曹であります、准尉」

 少し間を置いてから、スコットが切り出した。

「目標の1つはこの廃工場。テロ屋のアジトには打ってつけですから、今までも注意されてまして。だから、早期に敵の動向をキャッチ出来たわけです」

 この国の西側にぽつんとある、それなりに大きい工場だ。周りには工場で働いていた人が寝泊まりしていたであろう宿舎があり、市街地も近い。車で20分ぐらいで着くだろう。
 寝床も隠れ場所も完備と来たものだ。まさにテロリストのための場所と言える。ジェレミーはジョシュアがまたため息をつくのを見た。入り組んだ工場ほど制圧しにくい場所はない。
 目標はこの1つだけではないということも、また彼らの頭を悩ませた。

「もう1つ……この地域ですね。テロリストはキャンプを転々と移動しながら活動しています。精確な位置は掴めませんでしたが」

 マジックで塗りつぶされている地図上の範囲は、少なく見積もって数百km。キャンプを張れそうもない山岳地帯などを無視すればかなり絞れるだろうが、それでも広い。数日ごとに補給を受けながら探していくしかないだろう。
 
「そこからは俺たちの仕事か」

「ええ」

 ダニエルはスコットに礼を言って、地図に自分なりの偵察ルートのプランを書いてから、「ジェイムズ中佐に渡してくれ」と言った。アンドレアスがそれを引きとめ、「俺たちのルートをまだ書きこんでいないぞ」と言い、スコットの手から地図を奪ってルートを書き、再度彼に渡した。
 去り際に、スコットはSEAL隊員達に射撃訓練を勧めた。簡単なターゲットぐらいなら置いてあるらしい。有難い申し出だと思い、ダニエルはそれを承諾した。目標の1つ、廃工場へはアンドレアスのチームと第75レンジャー連隊の一部チームが明日突入する。一方でダニエル達A1チームは、先んじてテロリストの移動キャンプを探す旅に出る。アンドレアス達のチームが合流するのは廃工場制圧が済んでからだ。
 
 実のところ、今作戦に際してタスクフォース(特定の任務のために特別編成された部隊)が動くこととなっている。その中にはイギリス最強の特殊部隊、「S.A.S」も組み込まれている。3日後、16人ほどがこの地域に到着予定だ。
 SEAL隊員は強靭な肉体と恐るべき忍耐力、洞察力を兼ね備えている兵士ばかりだが、広大なアフガニスタンの中から、8人だけで隠れつつ移動する敵を探し当てることは困難である。今回の任務は迅速さが要求されるのだ。
 レンジャー連隊も一部を捜索部隊に割いているが、彼らはアメリカ海兵隊と共に市街地の保安、敵対勢力の鎮圧を行うのが主目的であり、それほどは人数を割けない。そこで少数精鋭の特殊部隊を使おうと言うわけだ。
 これからの大仕事に向けて、まずは射撃技能の保持に努めることにした。1日何もしないだけで、技能と体力はずいぶん衰えてしまう。


 彼らは射撃場に向かった。といっても、粗末な物だ。基地の幅を取ってしまうので、的は300m先に置くのが限界だった。
 ジェレミーは味の無くなったガムを噛みながら、M4カービン銃を撃った。もちろん実弾だ。
 甲高い音を立てて金属製の的に穴を開ける5.56mmの弾丸。これが彼らの世界で最も基本的な光景である。
 引き金を淡々と引いているように見えるが、その裏で弾丸を狙い通りに飛ばすための適切な撃ち方を実行しているのだ。
 A1チームの狙撃手を担当するのはアイヴァンだ。貴重な2丁のシャイタックM200のうち1つを使い、的を穴ぼこだらけにしていく。ボルトアクション式ライフルであるこの銃は、素早い次弾装填には熟練が必要なのだが、彼は2秒とかからず弾丸の装填を完了させる。
 A2チーム狙撃手はエリック・ダウディ一等准尉。彼も凄腕であることはジェレミーの目からは明らかだった。M200の性能こそあれど、全て的のど真ん中を捉えている。
 全てが安定していた。コンディションには問題ない。
 ジェレミーは明日の任務のことを一旦忘れて、M4からSG552にライフルを持ち替えた。

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 A2チームのクリス・ストルージク曹長は任務に向けて早めに睡眠をとることを決めたアンドレアス達の指示に従い、寝床についた。
 専用の寝床を提供してもらえるような余裕もないので、周りにはレンジャー隊員や海兵隊の連中もいる。海兵隊員は御得意の「深夜の猥談」を繰り広げているところだった。おおよそ、未成年に聞かせるような内容ではないように思える。レンジャー隊員達はそれを聞いて忍び笑いを漏らす。彼らもまだ若者だ。
 SEAL隊員達は一方で落ち着いていた。寝付くまでの間、ちょくちょく「この作戦はどうだ」とか「どの辺に敵がいると思う?」だとか、そういった実直かつ対して実りのない会話を繰り返す。クリスは両方にうんざりしていた。静かに寝かせてくれと叫びたかったが、やめた。
 その内、海兵隊員の2人がレーザーサイトを持ちだした。可視光を使用したもので、暗視ゴーグルを使わなくても見える。寝転んだ姿勢のまま、レーザーを刃に見立てて、まるで「スター・ウォーズ」のライトセーバーを振り回すような動作で鍔迫り合いを演じて見せた。また笑い声が大きくなる。
 クリスはいつも自分が虚しい方向に物事を考えることを直そうとしていたが、そう簡単に性根は変わらない。今笑っている彼らも戦争となれば人を殺し、殺される存在であると、そう考えたくもないのに、考えてしまう。
 やがて自分にさえもうんざりしながら、彼は深い眠りに落ちた。任務は明日だ。


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