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- 禁忌領域
- 日時: 2010/02/23 06:30
- 名前: 栄月 (ID: mHEGDCBg)
近親愛は悪か否か?
Page:1
- 禁忌領域/1 ( No.1 )
- 日時: 2010/02/23 06:31
- 名前: 栄月 (ID: mHEGDCBg)
姉が僕ら家族に結婚相手を見せに来たのはつい先日。
僕はそれを聞いて、信じられなかった。
姉に彼氏が居るというのは聞いていた、ただ…そう、それは…。
平日のカフェテラス。
辺りには小さな子供連れの奥様方、ノートパソコンを真剣に見ているサラリーマン、そんな人々が思い思いの時間を過ごしている。
そんな中、僕らは野外のテーブルに二人向き合って話をしていた。
「姉さん…何で結婚するのさ」
「このままじゃいけないと思ったから…」
「どうしていけないと思ったの?」
「だって、未来が…無いもの」
姉は僕が用意したアイスコーヒーに手をつけることも無く、ただ俯いて話していた。
僕の顔を極力見たくないらしい。確かに、今の僕の顔は怒りで酷いことになっているだろうから、気持ちは分かる。僕も、今の僕を彼女に見てほしくない。
「僕に言ったよね?彼氏とはカモフラージュの為に付き合ってるって」
「そう、だけど…駄目よ、愛があっても超えられないものはあるの」
「僕らは結婚できないから?そんなの関係ないって姉さんは言ったじゃないか」
「今も…好きよ?でも、このままじゃ駄目なのよ。貴方のためにも」
「僕の為?だったら結婚しないでよ!僕は一生姉さんを愛し続けるって決めてるんだからさ」
「…」
「何か言ってよ姉さん…」
「ごめんなさい…」
俯いた彼女は、そう言うと泣き出した。
僕はどうしようもない怒りに苛まれて、どうにかなりそうだった。
だから僕は彼女にそのあと酷いことを沢山言ったと思う。
彼女はその度にごめんなさいと繰り返すだけだった。
…
………
……………
結婚式、当日。
ウェディングドレス姿の姉はとても綺麗で、僕はその姿を見て余計に彼女がいとおしくなっていた。
「あら、来たのかい」
「うん、母さん。そう言えば父さんが母さんの事呼んでたみたいだけど?僕は姉さんと二人で話したいから父さんのところに行ってあげたら?」
「おお、そうかい。ありがとう。じゃあ姉弟で仲良くお話してらっしゃいな」
「ありがとう、母さん」
母が居なくなるのを認めて、僕は彼女を抱きしめた。
「綺麗だね」
「有難う…」
「本当にあの人のになっちゃうんだ」
「…」
「ねえ、姉さん」
「…ん?」
「まだ僕の事好きだよね?」
間。
触れて欲しくない領域に触れられたとき、彼女はこういう反応をする。
此処まで極端だったのは初めてだけど。
「もう…好きじゃ…ないわよ」
「嘘吐き」
俯く彼女の顔を此方に向かせて無理やり口付ける。
力なく抵抗しようとする彼女のその腕を僕が抑える。
「唇はそう言ってない」
「もう、やめようよ。本当に、わたし駄目になっちゃうから。もう、結婚するのよ?」
「駄目で良いよ、僕はどんな姉さんでも好きでいるから」
もう一度の口付けに彼女は抵抗を示さなかった。
「好き…やっぱり好きよ…遥」
「僕も好きだよ、姉さん…」
懐から、僕は指輪を取り出した。
それを見て、彼女は驚く。
「それ…」
「エンゲージリング。僕らは結婚式挙げられないし、結婚も出来ない。でも心だけなら結婚も出来ると思うんだ。あの人とリングを交換する前に、僕とホントの結婚をしよう?姉さん」
「遥…もう、馬鹿…」
もう彼女の顔には暗雲は無かった。
其処には素直に僕の言葉に恥らいながらも笑う姉の姿があるだけだった。
「世間一般ではさ、僕らのこと多分笑われると思うし、理解してくれる人は少ないと思う。でも、好きだったら仕方ないと思うんだ。二人が互いを愛している限り、僕らは離れられないんだよ」
「私…やっぱり姉弟で愛し合うのはいけないと思ってた…いけないと思っているのは今でもそうだけど…。やっぱり…好きな気持ちに嘘はつけなかった…」
「姉さん?」
「うん?」
「結婚しよう?」
「はい」
二人だけの結婚式は、挙式場の準備室で密やかに行われた。
…
………
……………
「やあ、遥君、良く来てくれたね」
「お久しぶりですお義兄さん、やっとあっちでの仕事がひと段落着いたんで…しばらくはこの町に居られそうです。たまに寄らせてもらいますんで、宜しくお願いします」
「いつでも来てくれ!君なら歓迎さ。家内も喜ぶよ、な?」
「ええ」
密やかに彼に見つからないように手をつないで、久々の姉を確かめる。
彼女は会いたかったと手で示してくる。
僕もだよと握り返す。
「とっても、嬉しいわ」
- 禁忌領域/2 ( No.2 )
- 日時: 2010/02/23 06:33
- 名前: 栄月 (ID: mHEGDCBg)
「ねぇお兄ちゃん…」
「ん?」
「私のこと好きだよね?」
「ああ、勿論。愛してるよ…」
…
………
……………
他人を欺いて幸せを享受することにした二人は、誰にもばれずに其の侭幸せに生活をしていた。
彼女には夫が居て、彼女は僕の姉で、本当に姉が好きなのは僕だった。
勿論僕もそう。だけど世間体から、彼女は僕らの関係を守るためにカモフラージュをして見せた。彼女は今も夫と仲良く生活をしている。
そう、それは本当の愛だと彼は思っているのだ。偽りの愛を、本当の愛だと信じてやまない。
可哀想な男、でもそう、僕らに彼は欠かせないものだから、せいぜい上手くやっていた。
彼女が子を産むまでは。
姉が妊娠した。これに喜んだのは勿論夫の方だった。僕も姉と共に喜ぶ振りをした。
「妊娠…もう3ヶ月ですって」
「良かったね、姉さん、お義兄さん」
「ああ、待望の第一子だ。今の内から名前とか考えてしまっていてね、どんな名前にするかとこんな本まで買ってきてしまったんだよ」
「ハハ、気が早いですね」
「いやいや。俺が優柔不断な性格で、その時になってからだと迷いそうだからね。どうだい?君も名前を一緒に考えてくれないか?」
「ええ、それは良いですけど。姉さんは、何か名付けたい名前とか無いの?」
「そうね…いいわ、あなた達で決めて?きっと良い名前になると思うから」
姉は僕をじっと見つめたまま、そう話した。
分かってるよ、姉さん。
僕が名前をつける。
“僕たち”の子供の名前だからね。
「じゃ、僕これで帰りますね」
「おお、また来てくれ。家内も喜ぶよ」
「じゃ、私は彼を送ってきますね」
「わかった。ではまた来てくれな、弟君」
「はい、お義兄さんも良かったら今度僕の家に遊びに来てください」
社交辞令。
日本人って言うのは本心を隠して生きていくものらしいから、面倒だけどそう述べる。
僕と姉は車の中で手を繋ぎながら駅を目指す。
「相変わらず、素直なんだね、姉さんは。ばれるかと思ったよ」
「だって、嬉しくて…」
「僕もだよ、姉さん。やっと、子供が出来るんだね」
「ええ、やっと。だってあの人とは出来るはずが無いんだもの」
「だね、姉さんは…」
「あの人との性交では…避妊をしていたんだもの」
彼も、少し考えるべきだ。
性交の時に避妊をしていたのに子供が出来る事実について。
ああ、無理かもしれない。
彼女はピルを服用する時もあったそうだ。
つまり、そういうこと。
彼は恐らく自分の子供だと、思っているのだろう。
可哀想な男。
「お別れのキス…して?」
姉がキスを迫る。迫らなくても此方から嫌でもするのに。
でも、そんな姉が可愛くて、僕はキスをする。
「また来るよ、姉さん」
「うん、寂しいけど…我慢するわ」
- 禁忌領域/3 ( No.3 )
- 日時: 2010/02/23 06:33
- 名前: 栄月 (ID: mHEGDCBg)
─
可愛い女の子の赤ちゃんが生まれた。
名前を花梨という。僕が名付けた。
彼も名付けたそうにしていたが、言葉巧みにこの名前になるように誘導してみせたら、上手く引っかかってくれた。よく言えば純粋。悪く言えば、馬鹿なヤツ。
でも彼自身は嫌いじゃない。色々世話になっているし。
でも、姉を汚すのは嫌いだ。
「よく頑張ったね、姉さん」
「全くだ、よく頑張ったぞ。おー花梨ちゃん、かわいいでちゅねー」
「二人ともありがとう。もう、あなたったら。もう親馬鹿発揮?」
「そうだな、俺は親馬鹿かもしれない」
「お義兄さんらしくて良いと思います。大事に育ててくださいね」
彼は幸せの絶頂だった。
勿論僕らも幸せだった。
だって、花梨は僕と姉さんの愛の結晶なのだから。
その証拠に、ほら、僕らにこんなにも似ている。
ひそかに受けたDNA鑑定。
その結果はやはり、僕と姉の子供であるとそう物語っていた。
僕の子供、花梨…可愛い僕の、花梨。
花梨は健やかに成長していった。
可愛い花梨は姉さんにそっくりだった。
「大きくなったらおにーさんのお嫁さんになるの!」
「そっかぁ、花梨がお嫁さんになってくれたらお兄さん嬉しいなぁ」
「うん!」
僕は姉さんのところに行き、花梨と遊んだりしながら、密かに姉とも愛を育んでいた。
確かに姉の夫は邪魔ではあったけど、それでもこの生活は彼無しでは存在していなかったことだ。
そうか、姉さん。
姉さんは、僕との子供が欲しかったがために…彼と結婚したのか。
「そうなんでしょ?」
「違うよ、あの時は本当に…普通に戻ろうとしたの。心が痛くても…」
「でも、それは出来なかった?」
「うん、できなかったの。だから、結婚をやめようと思ったんだけど」
「でも、僕と同じことを考えた訳だ」
「幸せになりたかったの…貴方と」
「僕もだ、姉さん…愛してる」
「うん、愛してるわ」
しかしそんな生活も…終焉を迎える時が来る。
ある日、花梨が通う保育園から僕のもとへ電話が掛かってくる。
両親が花梨を迎えに来ない、と。
僕は6歳になった花梨を迎えに行き、僕の家で留守番をするように言いつけて姉の家へと向かった。
其処に広がる光景は、地獄だった。
二人は僕が向かった時には既に死に絶えていた。
姉は血を流し、ソファに倒れていた。
夫は腹部に包丁を自ら刺したらしく、まだ刃が残った状態でリビングに倒れていた。
テーブルの上にはDNA鑑定書。
それは大切に仕舞っていた僕と姉の愛の証だった。
どういった経緯か、それを見つけた彼は姉と喧嘩になって…。
あとは想像するとおりだろう。
僕はそのDNA鑑定書を自分の懐に仕舞うと、電話をした。
『昨日〜で起きました事件は…警察はふたりが何らかの理由で仲違いを起こし、夫の〜さんが妻を殺害し、自殺したものと見て、調べを進めています』
一段落着いた頃には花梨は小学生になろうとしていた。
話し合いの結果、僕が花梨を引き取る事になった。よく面倒も見ていたし、花梨と両親の次に近い存在だったからだ。
何度もそれでいいのかと問われたが、僕に迷いはなかった。僕は他の人と結婚するつもりはさらさらなかったし、彼らは知らないが、彼女は僕の子供だ。
ただ、苗字だけは変えないようにした。引き取りはしたが、僕と彼女の関係は叔父と姪。
「これからは、お兄さんがお父さんだ。お母さんは居ないけど…大丈夫かな?」
「うん…」
「花梨はお兄さんのこと好き?」
「大好きだよ?…お父さんとお母さんは何処に居ちゃったの?」
「んー…遠い、遠い…お空の上だよ」
僕は許さない。
姉を刺した夫を、そしてその家族を。
使えるだけ使い倒してやる。そう、文句は言えないはずだ。
此方は被害者なのだ。
どんな申し訳なさそうな顔をしても無駄だ。僕は、許す気は無い。
“彼ら”の支援もあってか、僕らは安定した生活を送っていた。
僕の仕事もある程度上手く行き、花梨も素直な子に成長してくれている。
僕は花梨に惜しみない愛情を注いでいた。彼女もそれに応えてくれる。
小学校高学年になっても、僕と結婚すると言って憚らない。
そんな花梨は日に日に姉に似てきていた。
声も、仕草も、口調も…全て姉に似てきているのだ。そう、あの日の姉に。
だから僕は…どうしても…耐え切れなくて、花梨に告白した。
中学二年生の夏、その日は夏なのにやけに涼しい日だったのを覚えている。
「好きだ、花梨」
「どうしたの?いきなり改まっちゃって、お父さん?」
「違うんだ、花梨…。僕は花梨を、家族としてじゃなくて…女の子として好きなんだ」
沈黙。
下手をすれば其の侭家を飛び出されてもおかしくは無い、この状況。
ごめんなさいと言われたら、これから先の生活が大変になるだろう。
でも、僕は伝えたかった。
余りにも姉さんに似てきている花梨がいとおしかったから。
「私も…好きなんだ」
「え?」
「お兄ちゃん…じゃなかった、お父さんのこと。ずっと好きだった。親と子の関係なんだから、こんな気持ちになっちゃ駄目だって思ってた。でも、好きなの」
「嬉しいよ…花梨」
「他の人を好きになろうとしたけど、全然しっくりこなくて。おに…お父さんとキスをしたらどれだけ胸を締め付けられるんだろうって、最近思ってたりして…」
「いいよ、花梨。好きなように呼べば良い。お父さんって呼ぶのやっぱり苦手?」
「うん、やっぱり、お兄ちゃんはおにいちゃんみたい。これからは気にせずにお兄ちゃんって呼んで良いんだよね?」
「ああ、勿論だよ。大好きだ、花梨」
「うん、私も大好きだよ、お兄ちゃん」
こうやって二人は恋人になった。
歳の離れたカップル。たまにデートをすれば、やはり親子に見られたりもする。
でも、たまにカップルに見られるときもあって、彼女はそんなときにすごく喜んでいたりする。
喜ぶ姿も姉にそっくりだ。
ああ、姉さん、そうか、姉さんは此処にいたんだね。
もう会えないかと思っていた。だけど、そう、姉さんは此処に居た。
「花梨、愛してる」
「私も、愛してるよ」
大人になった花梨と私は、密かに籍を入れた。
そしてまた、姉の時のように密かに結婚式を挙げた。
以前はただ、真似をするだけだったけど、籍を入れることによってそれは本当になった。これを知った家族は驚くだろうけど、そんなことは二人には関係ない。
愛があればそれで良い。
今度こそ本当に結ばれたね、姉さん?
- 後書き ( No.4 )
- 日時: 2010/02/23 06:35
- 名前: 栄月 (ID: mHEGDCBg)
二人の間に生まれたのは男と女の双子だった。
歴史は繰り返されるのか?それとも…?
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