ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 玲瓏たる碧空の彼方へ
- 日時: 2010/03/21 16:46
- 名前: 莉月 ◆HB20kNWBdI (ID: pFXOI/OC)
<プロローグ>
『紅』が、世界を支配していた。
嫌な汗が頬を伝って、ガタガタと体が震える。
ただ、どうしようもないほどに怖くて、どうしようもないほどに寂しかった。
聞こえた声は、『君』の声。
「————唯衣」
できるなら、嘘であって欲しかった。
できるなら、嘘をついてほしかった。
真実なんてモノは、ただ『私』を裏切るだけだとわかっていたから。
「……本当に良いんだな」
そう言って私と視線を交えた『彼』は、悲しそうに笑った。
手に握られているのは、黒く光を帯びて。
ああ、夢ならどれだけ良かったか。
「……できるならもう二度と、アナタに会いたくない」
最初にトリガーを引いたのはきっと『私』だった。
虚しく響いた無機質な音で、この『悪夢』が覚めたなら良かったのに。
>Greetings
初めまして!莉月と申します!
とりあえず、なんか変な題名ですみません。
これでも結構悩んだんですけど結局こんなヘンテコなモノに……っ。
えっと、シリアスは初めて書きます。もう今までバリバリのコメディ人間でした。
このお話もコメディで書こうかと思ってたんですけど、なんだか暗くなったのでこちらに。
シリアス5 ギャグ2 恋愛3ぐらいの割合で書いてますが、突然甘くなったりするかも知れません。
それでもいいよーって人はどうぞ。
こんなノリで大丈夫か心配なんですけど、頑張りますっ!
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- Re: 玲瓏たる碧空の彼方へ ( No.3 )
- 日時: 2010/03/22 16:03
- 名前: 莉月 ◆HB20kNWBdI (ID: pFXOI/OC)
そこは、やはり昔から何一つ変わっていなかった。
唯衣の目の前にあるのは、大きく立派な『洋館』。
黒く巨大な門の向こうには広大な庭が広がっており、一番奥の方には青い屋根が特徴的な洋館が建てられている。
唯衣は、緩みそうになる口元をなんとか押さえながら巨大な門に手をかけた。
開かないことはわかっているので、腕と足の力で門をよじ登って向こうの敷地に着地する。
ザクッという土音を立てて着地した唯衣は、ふうっと軽く息を吐いてから周りを見渡した。
本当に、何も変わっていなくて良かった。そう思いながら唯衣は洋館に向かって歩き出す。
……それにしても充分な警備体制だな、と広い庭を歩きながら唯衣はふと思った。
一面には気配を察知する装置が仕込まれているようだ。
数年前より増えているのは気のせいか……。どうせ美里辺りが面白半分で埋めたのだろう。そう思って唯衣は少し苦笑いをする。
ここでもし、自身が『気配』を出したら一気に警報が鳴り響いて厳ついお兄さん達がやってくるのだろう。
そう考えると、寒気がして仕方がない。
気配の消し方を磨いておいて良かった、と思いながら唯衣はついに洋館の前に辿り着いた。
重たく頑丈な扉を両手で押して、古めかしい音を立てながら開く。
開いて漂ってくるのは神秘的な蓮の香り。
唯衣は、あまり音を立てないように慎重に扉を閉めてその空間を見渡した。
目の前には大きな階段。
その左右には二つの廊下があって、ずっと奥まで続いていた。
階段の先には大きな扉が一つあって、そこから少し光が漏れている。
一度深呼吸をした唯衣は、意を決したように強くその扉を見つめて足を進めた。
- Re: 玲瓏たる碧空の彼方へ ( No.4 )
- 日時: 2010/03/22 17:23
- 名前: 莉月 ◆HB20kNWBdI (ID: pFXOI/OC)
扉の前まできた唯衣は、そっと扉に触れた。
模様も何もない、茶色のどこか不気味な扉。
唯衣は、そこに取り付けられたノブに触れてゆっくりと右に回した。
「誰だ」
その時、低く鋭いあの声が、扉の向こうで聞こえた。
唯衣は、ハッとしたように息をのんでもう一度ノブを握り直す。
中からは鋭い殺気が漏れていて、唯衣は慎重に扉を開けた。
……下手をしたら問答無用で殺されかねないのだ。
若干冷や汗をかきながら、ゆっくりと扉を開ける。
その部屋は今まで歩いていた廊下よりも格段に眩しい部屋だった。
唯衣は少し目を細めて部屋にいる『その人』に視線を向ける。
「…………唯衣?」
しばしの沈黙の後、驚いたような声が聞こえた。
唯衣は、その声に笑みをみせて声をかける。
「久しぶり、『琉架』」
唯衣の目の前にいる少年、『黒騎 琉架』は、その声を聞いた途端、泣きだしそうなほどに顔を歪めた。
唯衣と同じ真っ黒な髪で、綺麗な顔立ちをする琉架。
琉架は、その青い瞳に唯衣の姿を焼き付けて震えた声を絞り出した。
出てきたのは再会を喜ぶ言葉……ではなく、怒りに満ちあふれた言葉。
「てめぇ……。今までどこほつき歩いてやがった」
琉架は、これでもかというほどにグッと眉を寄せて目の前で必死に言い訳を考える愛おしい人……と思われる唯衣を睨みつけた。
- Re: 玲瓏たる碧空の彼方へ ( No.5 )
- 日時: 2010/03/25 16:29
- 名前: 莉月 ◆HB20kNWBdI (ID: pFXOI/OC)
「……ええっと琉架、怒ってる?」
「怒ってないと思うか?」
「願望を言えば怒ってないほうが嬉しい……」
あはは、と乾いた笑い声を発する唯衣。
琉架は、こめかみに青筋を浮かばせて唯衣を見据える。
「お前、一週間で帰ってくるーとかなんとか言いながらイタリアに行って何ヶ月経ったと思ってる?」
「……え? ええーっと。一週間だったら嬉しいなぁ」
「…………十一ヶ月と二十二日経った」
「わぁすごいねっ。覚えてるんだ」
「……死にたいか?」
必死に言い訳を考える唯衣を尻目に、低く怒りを押し堪えたような声を出す琉架。
唯衣は「不味いな」と思いながらも必死で笑顔を絶やさないよう努める。
「……ったく、お前はいつもそうだ」
静かに溜め息混じりにそう言った琉架。
その声色に、何か悲しみを感じた唯衣はなんだかいたたまれなくなって小さくふいた。
- Re: 玲瓏たる碧空の彼方へ ( No.6 )
- 日時: 2010/04/28 17:35
- 名前: 莉月 ◆HB20kNWBdI (ID: NTE1XV0U)
「……ったく、お前はいつもそうだ」
静かに溜め息混じりにそう言った琉架。
その声色に、何か悲しみを感じた唯衣はなんだかいたたまれなくなって小さくふいた。
今回は自分が悪かったと言うことは痛いほどわかっているつもりだ。
一週間で変えるつもりが、十一ヶ月と二十二日経ったのだから。
琉架が怒るのも無理はない。
唯衣は、少しふいていた顔を上げた。
垂れ下がる前髪から見えるのは、琉架の怒った顔。
とにかく謝らねばと思って、琉架を視界に入れたまま唯衣はおずおずと口を開いた。
しかし。
口を開き声を出す間もなく。
気づけば唯衣は、琉架に力強く抱きしめられていた。
「……バカが」
切なげに、かすれた声で呟かれたその声に唯衣は不謹慎にも一瞬ドキリとしてしまった。
- Re: 玲瓏たる碧空の彼方へ ( No.7 )
- 日時: 2010/05/01 15:22
- 名前: 莉月 ◆HB20kNWBdI (ID: NTE1XV0U)
「……あの、琉架……?」
抱きしめられたまま、私はそっと琉架を見上げた。
琉架は切なげに眉を潜めて唯衣を見つめていた。
「……唯衣」
そんな自身の顔を隠すように唯衣を腕の中に閉じこめた琉架は、唯衣の首筋に顔を埋めて目を閉じた。
唯衣から漂ってくる甘い香りと、温かな体温。
昔から何一つ変わらない唯衣の香りと体温は、いつだって琉架を安心させてくれる。
琉架は、自身の腕の力が強まるのを感じた。
「ちょ……琉架、苦しいかも」
そんな琉架の腕に埋もれた唯衣は、強まった腕の力に息苦しさを感じて琉架に呟いた。
しかし琉架には、唯衣を一行に離す気配がない。
諦めたようにため息をついた唯衣は、しばらくはこのままでいようと思いながらそっと琉架の香りにもたれかかった。
そんな時。
「ほーいほいほいほい琉架ちんやーい。
愛しのりょーちゃんが戻ってまいりましたよー」
「うぜぇ。なんだよその歌。
果てしなくうぜぇ」
「仕方ないよ。バカなんだから」
閉じられた扉の向こうから、三人の少年の声が聞こえてきた。
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