ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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獣道
日時: 2010/03/28 12:00
名前: 陽華 ◆lHG3Yzo0a6 (ID: HiUuyCRY)

ようこそいらっしゃいませーw
陽華(ようか)と申します。
ジャンルは異世界ファンタジーですね(´・ω・`)

長ったらしいですけど、注意なんでしっかり読んでください ※必須

1。 まず、この小説にはグロイものが入る可能性があります。殺人や処刑などがありますが(描写は極力しません)、万一気分が悪くなるようなことになっても、私は責任を負いかねますので、そういう文句はお控えするとともに、苦手な方は、回覧をしないようお気をつけ下さい。予めご了承願います。
2。 次に、この小説は、一応本格小説に添って書いています。そこは、私の尊重したいところなので、見づらい、となどのレスは控えて下さい。
3。 掲示板でのマナーや、モラルは必ず守ってください。荒らしや中傷はもちろん、AAや、チェーンメールの類も禁止です。これは守っていただかないと、私だけでなく、その他このスレに来ていただく方に、多大な迷惑をお掛けします。
4。 友達目的のレスは、しないで下さい。あくまでも、ここは小説を書く場所であって、人と馴れ合う場所ではありません。その場合は、雑談掲示板などでお願いいたします。
5。 このルールを読むことが、一番です。この小説を読むにあたって、このルールを守っていただけない場合は、注意をさせていただきます。それでもお直りしない方はスルーいたしますので、ご了承願います

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Re: 獣道 ( No.1 )
日時: 2010/03/27 17:36
名前: 陽華 ◆lHG3Yzo0a6 (ID: Wo4C/THB)

*序章

 この世界には二種の人型の獣がいる。
 一つは知恵を持つ獣(もの)「知獣(ちじゅう)」
 一つは力を持つ獣。「戦獣(せんじゅう)」
 知獣は知恵と賢さをもって国を統べた。戦獣は強さと信頼をもって国を統べた。
 お互い相手を忌み嫌い、貶(けな)し、子供には忌まわしい存在だと埋めつけた。ところが誰が決めたのか、村で数人ずつ、交代しながら四歳から十二歳まで相手の国へ入り込み、そこで暮らすことが決まっている。
 誰も気づかない。気づいても気づかぬフリをする。学びの場で子供にできた友達が少し荒々しかろうと、周りの子に比べて知が長け、力が弱かろうと、珍しい子だで終わるのである。

 ──細い小道が、深苑の前に広がっていた。
 鬱蒼(うっそう)と茂るむっとするような深緑の山中で、頭を茂みに突っ込んだ格好で呆然とする。
 急に目の前を走った小さな兎に驚いて、すっころんだらこの茂みに頭を突っ込んだという訳だ。
 慌てて身体を起こし、全く見えなくなってしまった茂みに先を見つめて考えた。
(人工的ではないだろうな)
 あまり知識のない頭を一生懸命回転させ、これがなにかを考える。
 人工的ではない──そう考えたのは、その道があまりにも細く、大人が通れるか通れないかくらいの大きさだったこと、人が絶対通らないような、わずかな木と木の間を縫うようにしてできているせいもあった。それから、と考える。──こんなにでこぼこはしないと思う。知識のあるひとなら、もう少し平らに綺麗に均してある。
(行ってみようかな)
 小さな好奇心が、少しだけ胸に残っていた恐怖に勝(まさ)った。
 濃い緑の茂みに押し入る。痩せた細身の体は、あっという間に飲み込まれて、さっきまで深苑がいたところからは見えないようだった。振り返って、少しだけ前の道を見てから、口を結んだ。
 立ち上がって、先に目を凝らすようにして、ゆっくり進む。
(やっぱりないか)
 そう思い少し落胆しつつ、少しだけ安心したのもあった。安心して足が速まる。
(なにもいませんように)
 そう願って、ただ只管(ひたすら)に足を動かす。
 不意に道が開けて、少しだけの円い草原があった。奥にはまだ道が続いているのが見える。
 「ふう」
 ここまで歩いてくるのはさほど大変ではなかったのだが、それよりも神経を張り付めすぎて、緊張が解けた瞬間、足もとがふら付く。少し眩暈がして、青々と茂った草原(くさはら)の上に寝転んだ。気持ちの良い風が、周りの草と自分の頬を撫でていく。揺れた草が頬を擽って心地良かった。頭上では、気持ちのいい水色の空に、真っ白な雲が重なって、まぶしい太陽が隙間からのぞいていた。

Re: 獣道 ( No.2 )
日時: 2010/03/27 17:37
名前: 陽華 ◆lHG3Yzo0a6 (ID: Wo4C/THB)

「いたぞ!」
 突然怒号が耳に響いて、目を見開いた。慌てて起き上がり、汗ばんだ手で額から流れる汗を拭い、周りを見渡す。
 ──さっきと、なんら変わりのない風景だった。
「夢、か」
 小さく呟いたのは、それが夢かどうか確認しないと蘇る恐怖に耐えられなかったからである。
 もう一度、風景を見渡して、ふうと息を吐いた。
 眠ってしまったらしいが、空の色は何も変わっていなかったので転寝(うたたね)していた時間は数分だろう。起き上がって、淡い水色の衣服についた、細かな土と草を手で叩き落とした。
(もう少しだけ)
 そう思って、道へ向かって歩き始める。
(どうせ帰るところなんて、ないんだしなあ)
 朝方起こした大罪を思い出す。苦いものがこみ上げてきて、慌てて嫌なことを振り払うように、急いで進み始めた。
 道に入ると先ほどとなんら変わりはなかったが、地面が少しだけ均されているようだった。地面がでこぼこしていなくて、道も少し広くなっている。これなら大人も通れるくらいだ。
「……ん?」
 なにか聞こえたような気がして、立ち止まって耳を澄ませる。あちら側から、話し声のようなものが聞こえた気がした。
(まさか……わたしを追って?)
 嫌な想像が頭を一瞬で駆け巡る。握り締めた手に汗が滲んで顔は緊張で強張る。動くこともできずにずっと耳を澄ませ続けた。
(──やっぱり、聞こえる。それに、近づいてきてる──)
 深苑はあえて道の横の影に隠れて、木と木の間を伝って歩いた。やはり近づいてくるその音は、獣らしき声。
 向こうに薄ぼんやりと、人影が見えた。動かないで……動けないで身を硬くしてその方向を見つめた。
(やっぱり、獣……)
 口をきつく結んで、憎しみをこめてぎろっとその方向を睨む。来たのは、男二人。一人二十代前半らしく、若々しくて生き生きした感じである。もう一人は、五十代前半らしい、優しそうな垂れ目の、おっとりしたような感じである。喧嘩をしているのではなくて、ただふざけ合っているだけらしい。男達はひとらしいが、服が奇妙だった。
 外套(マント)のような白が汚れてしまったのような色のものを被るようにして羽織、甚平のように結んで着ていて、くっついているらしい頭巾(フード)のようなものを頭に深く被っている。裾は足首まで伸びていて、下駄のような煤けて今にも壊れそうな履物を履いていた。 
 もう一度耳を澄ます。
(本当にひと?)
 また新たな疑問が浮かんだ。近づいてくるにつれて、言葉がはっきり聞こえてきたのだが、どうも、〝知獣語〟ではないらしいのだ。
 (私が理解、できる──)
 思わず目を見開く。全部、全部理解できるのだ。多少訛っていることを無視すれば、全部理解できる言葉だった。それは、言葉として入ってくるというよりは、本能的にだった。知獣語は、使いづらく汚い嘘だらけの言葉で塗れていたけれど。
 気づいたら、立ち上がっていた。
「すみません! あなたたちはどこから来たんですか? もしかして戦獣なのですか?」
 突然出てきた深苑に、男たちは大げさに驚いた仕草をする。
「なにもんだあ? あんたあ、この辺じゃみねえなあ」
 若いほうの男が、大げさに驚いた風に、年取った男を見ている。年取った男は、目を見開いたまま、こちらをじっと見つめていた。深苑は少し恥ずかしくなって、視線を落としてうつむく。
「おまえさん、ずいぶんとユウイに似とるが、もしかしてユウイの娘さんかぁ?」
「夕依? それは母の名前ですが、知っておられるのですか?」
 確かに、ユウイは母の名前だった。夕暮れの夕に依と書く。
「知ってるもなにも、わしは夕依の祖父じゃからなあ。」
 懐かしそうに目を細めて、微笑むその面影は、どことなく安心させるものがあった。だけど、母の祖父、ということはかなり年をとっているはず。知獣だとすれば、もう生命維持は不可能に近い。戦種は知獣より寿命が長いのだろうか? ぐるぐると心の内で、疑問が渦巻く。
「ということは、私の曾祖父、ですね。はじめまして。深苑と申します。深いに苑(その)と」
 地面に指でなぞってみせると、曾祖父はは微笑んで、おおらかに笑った。
「孫なんだ、堅苦しくなろうことはなかろう」
 手を、茶色のブロンドのくしゃくしゃの髪にのせて、優しく微笑む。その、温かくごつごつとした手のなれない感触に、心の中に暖かいものが広がった。その隣で、男が所在無げに立っていた。
「おぃ、リソノ爺さんよ、俺を忘れないでくれるかい」
 苦笑したように若い男が呟くと、曾祖父はやっと気づいたようにそちらを見ると、深苑に向かって示して見せる。
「こいつがお前の叔父の、ヨウケイっちゅうやつさ」
「よろしくな」
 八重歯をみせて笑う男──叔父が言う。曾祖父は地面に小枝で遥桂、と書く。
「あぁ、忘れとった。ワシはリソノという。利口の利に、深苑の苑じゃ」
「利苑お祖父様?」
「ははははっ。あまり堅苦しくなるな。村のものだってもう少しは打解けておる」
 大らかに笑った笑顔に、温かいものを覚えて、ぎこちなく微笑み返した。
 二、三秒の沈黙の後、思い出したように利苑が口を開いた。
「忘れちょった。深苑、あんた、どこから来たんだ?」
 若い男が不思議そうに首を少し傾げた。
「たしかこっちは知獣の住むほうだろ? 夕依はとっくの昔に帰ってきて……──亡くなってるが」
 言い辛そうに顔をふせてボソッと呟く。
 深苑は〝死んでいた〟という事実は知らなかったので内心ショックを受けつつも、平然を装って微笑んでみせた。
「母がなくなってからは、亡くなった父の伯母が、育てて下さいました。ですが、あちらの暮らしはこのうえなく辛かったので、たまたま見つけた細い道を通っていたら、こちらにつきました」
「そうか……」
 深苑は少し逡巡して、それから目の前にいる親類にむかって頭を下げた。
「詳しい事情は後々話します故、今はなにもお聞き頂かないで欲しいのです」
 一瞬だけ利苑と遥桂は顔を見合わせて、それから口を開いた。
「祖父ちゃんに頭下げなくてもいいじゃろ。家へ来たらええ」
「ほっ、本当ですか!?」
 深苑は顔を勢いよくあげて、目を見開いたまま硬直する。
「ああ。ほら、決まったらさっさと家へ来るが良い」
 行きかけていた道を利苑は引き返して、深苑を促した。

〆陽華から、
 文字数オーバーだったため、わけさせていただきました。申し訳ありませんorz  3000字以内とか絶対無理だしー!(

Re: 獣道 ( No.3 )
日時: 2010/03/28 12:03
名前: 陽華 ◆lHG3Yzo0a6 (ID: HiUuyCRY)

一章 失われた光と得られた道




「あらぁ、これがユウイの娘かい? ほんに似とる顔しちょるなあ」
 そういって、目の前の老婆は、細い目を皺の中に埋めた。人懐っこそうな笑顔が、老いた顔に浮かぶ。
 深苑の曾祖母らしく、何度も嬉しそうにして、ときせつ皺に埋っている細い目に、透明な雫を浮かべていたりした。
「よろしくお願いします」
「そんに堅苦しゅうなるな。腹は減ったかい? 部屋は夕依のを貸してあげるからねえ」
 次から次へと、老婆とは思えないほどに動き回っている。それを唖然としたように見つめる深苑に向かって、利苑は苦笑した。
「孫が帰ってきてて嬉しいんじゃ。些かはめを外しすぎじゃが、許してやってくれの」
「深苑や、部屋はここじゃから一応見てきたらどうや? しばらく使ってなかったから、埃っぽいかもしれんが、自分で好きなようにしてええからのう」
 曾祖母が広い家の中で手招きしていた。深苑は言われるがままに部屋へ向かう。
 こちらの家は、知獣の家とさほど変わらなかったが、それよりも随分と古代的である。
 家は太い木を組み合わせて釘を使わず作ってあるようだし、家の中の家具も知獣とは違っていた。
 家の中は、家具が基本少ない。ゆったりとした居室は羊の毛をそのまま編んだようなふわふわとしたものがひいてあって、木の板で作られた簡素な長椅子が、窓際に置いてる。日の光がたくさん差し込むように設計されている大きな窓からは、柔らかい日差しが注ぎ込んで、居室を温かくしていた。長椅子の前には大きな暖炉が構えてあって、少し離れたところに知獣のところにあるような小さな箪笥が置いてある。居室はそれしか置いてないようだった。
 深苑が言われたとおりに進んだ部屋には、木の大きな箱のような長方形のものがあって、どうやら寝台らしいのだが、そこにも羊のような毛が広がっている。あとは小さな棚と、勉強机のようなのような文机(ふづくえ)が置いてある。あとは、大きな開けた窓がひとつ、置いてあった。全体的に埃っぽく、やはりこちらも簡素だった。
 珍しそうに見渡す深苑をみて、曾祖母は不思議そうにいう。
「珍しいかえ? 粗末で悪いけんど、こんな知獣よりの辺境の村じゃこれで精一杯なんじゃ」
 申し訳なさそうに語尾をのばした曾祖母に、深苑は慌てて首を振る。
「そんなことはありません。こちらが珍しかったもので……」
「ほんにかえ? なにか不自由なことがあったら言うんじゃぞ」
 まだ心配そうに言う曾祖母に、ぎこちなく会釈をして部屋から出て行くようにそれとなく促した。曾祖母は全く気にした様子もなく、部屋を出てく。
 もう一度見渡した部屋は、知獣とさほど変わらなかったのだが、それでも人の暖かさがあるこの部屋のほうがいいように思えた。
 知獣の深苑の扱いといったら、それは動物以下くらいにひどいものだったのである。
 深苑は思い出して胃からせりあがってきた憎悪と吐き気を飲み込む。
 ひとまず疲れたからだを癒そうと、深苑は使い方のよくわからない寝床に横たわる。白い羊毛が、からだを擽って心地よかった。
 深苑はそのまま意識を眠りの中へ落として、夢も見ずに深い眠りへと落ちていった──。

Re: 獣道 ( No.4 )
日時: 2010/03/28 12:04
名前: 陽華 ◆lHG3Yzo0a6 (ID: HiUuyCRY)



「そんなとこで寝ちょったら風邪ひくぞぉ。ほれ、起きぃ」
 骨ばった細い手が、自分の身体を揺さ振った。
 むう、と呻き一つあげて、起き上がった深苑は視界に見慣れない老婆の顔を捕らえた。ここが自分のいた場所とは違うことを思い出して、慌てて謝る。
「すみません。つい疲れが出て……」
「ええんじゃ。夕餉ができちょる。はよう来なされ、爺さんがまっとるぞ」
「あ、すみません。今行きます」
 慌てて返事をして、深苑は髪を手櫛で透いた。こちらには、櫛というものがありはしないのだろうか、と深苑は思う。
 居室へ向かうと、利苑と曾祖母が、朱卓のセットらしい円い椅子に腰かけていた。一つだけ、席が空いていて、そこが深苑のためにあることが一目でわかる。もしかしたら昔は母の場所であったのかもしれない。
「遅かったのう。ほれ、粗末じゃが食べい」
 利苑がおおらかに笑う。深苑はそそくさと席に着いた。
 目の前にある、お世辞でも豪華とは言えない夕食を眺める。主食は、硬い麺麭(パン)のようなものらしかった。白く表面に粉がまぶしてある。それから、汁物がある。黒い胡椒のような粒が入っていて、色は薄黄色。具は、麺丹のような白いでろんとしたものが入っている。あとは蔬菜(サラダ)と思しきものに、球菜(キャベツ)のような緑の野菜、そこにアーモンドくらいの朱い豆のようなものがのっていた。箸や匙(スプーン)などはないので手で食べるらしい。
「いただきます」
 深苑が呟いて顔をあげると、利苑や曾祖母はもう食べ始めている。
 深苑も恐る恐る硬い麺を手に取った。そのまま噛み切ろうとしたがなかなか噛み切れず、しかたなく汁物に麺を浸した。麺が汁物を吸って、ぶよぶよとしている。麺はなんだか粉っぽく、噛むと水分を吸っていたからなのか、あっという間に溶けてなくなった。味はこれといってそれ自体の味はしない。汁物のやけに薄い、くせのある味が口に残った。汁物のお椀を口にあてがって、口に流し込んだ。でろんとしたなにかが口の中に入ってくる。噛むと、なにかはわからないが甘い味が口のなかに広がった。
(あまり、おいしいとは言えないなあ)
 少しだけ、ばれない様に俯かせて顔を顰めた。
(ここでは、会話はしちゃだめなんだろうか)
 不思議に思っていた。あんなに優しい曾祖母たちなのに、今回ばかりは一言も話したりしていない。
 なにかはわからないが野菜の上の赤いものを親指と人差し指で摘む。利苑たちはそれを口の中に放り込みながら、何度もかみ締めていた。
 思い切って、口の中に放り込む。口の中に苦いものが広がった。
「うぇぇ」
 思わず舌の上にのせて口から突き出してしまう。
 それを見て、曾祖母は少し心配そうな顔をした。
「口に合わなかったかねえ? けんど栄養があるから食べ。それと、知獣は知らんがこっちでは食事中は声を出しちゃいけん。紫(ゆかり)様の罰を受けるからねぇ」
「紫様?」
「ああ、知獣は知らんのか。食後に話しちゃるけん。今は黙って食べ」
 少しだけ厳しく言われて、慌てて口の中で転がしていた赤い玉をもう一度噛む。絶対に食べなれることのできなさそうな味だな、と秘かに深苑は思った。
(肉?)
 感触は、肉だった。でも、味は、苦い薬でも飲んでるかのようだ。
 誰も喋らない、食器の触れ合う音が響くほど静かな夕食を終え、深苑は片づけをしている曾祖母にその紫様という人物について尋ねた。
「紫様はこの村のお偉いさんの娘様でねえ、こんなとこじゃあ口に出すことも恐れられるほどの人物なんじゃ」
「娘? 何歳なんですか」
「確か今年で十四になる。深苑と近いんじゃないか?」
「ええ……数え年で十五になります」
「紫様はね、お父様にあることないこと吹き込んで、人を処刑するのがご趣味なんじゃよ」
「処刑!?」
「そう……軽いもので打ち首。重いものだと車裂きじゃ。あとは……針で身体を裂くのもようやっておられる」
「打ち首……車裂き……車裂きってどんなことをなさるんですか」
「車裂きは両足首を二頭の牛に括り付けて引っ張って、足から裂くやつじゃよ」
 言うのも苦しそうに曾祖母は言った。
 深苑はその残虐な行為を思わず想像して顔を顰める。
「紫様はおひどい方ですね」
 深苑は当たり前のように口にする。
「なんてことを!」
 慌てたように曾祖母は深苑の口をしわがれた手で塞ぐ。
 深苑が驚いて目を見開くと、曾祖母は怖い顔をして手を話した。
「紫様を悪く言っちゃいけん。せっかくの孫を車裂きなんかにしたくはないんじゃ」
「す、すみません」
 あんまり悲しそうに言うものだから、深苑まで苦しくなってきて、思わす頭を下げた。
「ほんれ、もう遅い。はよう寝れ」
 ぽんぽんと骨ばった手で背中を叩いて、曾祖母は朱卓の椅子から立ち上がった。
 深苑もつられるようにしてたって、自分の部屋へ向かう。
「おやすみなさい」

〆陽華から、
 またまた文字数オーバー。この調子じゃ毎回なりそうだなあ……。


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