ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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背中に翼が在る者々
日時: 2010/06/16 21:25
名前: 泡沫 ゆあ (ID: h9T9UkU2)

"人"とは違う"ヒト"が居る。
"人"ではない"ヒト"が在る。
"ソレ"を知る人は多くはない。
幼子の、小さな手に収まるほどかも知れない。
けれど、"ソレ"を知る人は確かに"存在"する。
・・・これはそんな人達の物語。
"人"ではない"ヒト"が綴る世界の歴史。
さあ、その扉を開いてみて・・・・・・・・。

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Re: 背中に翼が在る者々 ( No.1 )
日時: 2010/06/16 21:51
名前: 泡沫 ゆあ (ID: h9T9UkU2)

第一話;世界の行く末を見守る者


「・・・・また、ひとつ」
暗闇と清らかな水が支配する空間。
少女は呟く。
発した声は波紋となり、水面を滑って消えてゆく。
ポツリ、ポツリと少女は呟く。
「今日もまた、ひとつの命が消えた・・・・」
可哀相に・・・・。と片膝を抱える。
「・・・・・・貴方もそう思うでしょう?」
少女は水面に向かって話しかける。
「さぁ、どうだろう。命など脆弱なものだからな・・・。
 だがそれ故に尊ぶべきモノなのだろう?・・・我らが父が愛でたモノなのだろう」
水面上に現れた女が少女の問いに答える。
「そういう考え方も有るわね。好きよ。その答え。
 ・・・・まぁ、"真実"なんて誰にも分からないのでしょうけど」
少女はクスクスと笑う。
「それもそうだな」
女はクツリ、と皮肉った笑みを浮かべた。
「さ、私たちはもう少し鑑賞していましょ。<翼を持つ者>の行く末を」
「私もそうするとしよう。何せ、私たちの出番はまだまだ先のようだからな」
そうして二つの影は水面のすぐそばに腰を下ろす。
・・・・・・・<翼を持つ者>を見守るために・・・。

Re: 背中に翼が在る者々 ( No.2 )
日時: 2010/06/26 18:33
名前: 泡沫 ゆあ (ID: h9T9UkU2)

第二話;世界を彩る翼を持つ者


「今日も空が綺麗に染まったわ」
太陽が昇って数分が経った空の下。
プラチナブロンドの髪をフワリと舞わせる少女が居た。
「海の色も上手く染まってくれてよかったわ。最近海のご機嫌が悪いから」
全く。と少し困ったような顔をしながら笑う。
「それくらいにしてあげなさいよ。海だってきっと何か事情があるのよ」
少女の横に少し大人びた金髪の女が現れる。
「・・・・ニイナ。分かってるわよ、そんなこと」
「ヴィアンカも大変ね、毎日毎日世界に色を着けていくなんて」
ニイナはふふ、と口元に手を当てて笑みを漏らす。
それを見たヴィアンカは頬を少し膨らませて言うのだ。
「そんなことないわ!とっても楽しいもの。
 お父様が私に下さった<翼>を、そんな風に言うのはやめて頂戴」
へそを曲げてしまったヴィアンカに、ニイナは慌てる。
「ごめんなさいヴィアンカ。そんなつもりはなかったのよ?
 ああ、お願いだから機嫌を直して?ヴィアンカ」
ニイナはヴィアンカの頭をそっと撫でる。
それに気を良くしたのか、ヴィアンカは微笑む。
「・・・いいわ。許してあげる。
 ニイナは私の<羽根>だもの。それくらいのことで怒ったりしないわ」
「あら、そうなの?知らなかったわ」
姉妹のようにじゃれあう二人。
「さ、世界を彩りましょう?ヴィアンカ」
「ええ、頑張るわ!ニイナ」
世界を彩る翼は、世界に飛び立っていった。



「・・・・ヴィアンカはニイナと上手くやっているようね」
少女は水面を覗きながら感嘆の声を上げる。
「<翼>と<羽根>。両者無くして"アレ"は成り立たないからな」
女は興味がない、とでも言いたげにそっぽを向く。
「でも仲良しなのは良いことだわ。
 ・・・・仲違いをして、破滅の道へと進む者も居るのだから」
少し憂いを帯びた声で少女は言う。
「・・・・・・そうだな。そうなるよりは、仲睦ましい方が良いのかも知れない」
ポン。と少女の頭を女が軽く叩く。
「見守ろう。来るべきその日まで」
女は優しく語り掛ける。
「・・・・・・・ええ。私たちにはそれくらいしか出来ないものね」
哀しい瞳は、何を見据えているのか。
それは、女を除いて今は誰にも分からない。

Re: 背中に翼が在る者々 ( No.3 )
日時: 2010/06/17 21:09
名前: 泡沫 ゆあ (ID: h9T9UkU2)

第三話;音を生み出す翼を持つ者


「っしゃー!!!今日もいい天気だーーーっ!!!」
快晴の空の下で叫ぶ一人の少年。
新緑のつんつんした髪が活発さを表している。
「こら、チェスティス!!叫ぶ暇があったら早く音を作りなさいよ。
 無音の世界ほど虚しいものはないでしょう?」
後ろから少し薄めの緑の髪をした少女が小突いてくる。
「はいはい、わかったよサヤノ。一生懸命<翼>のお勤め果たしてやるさ」
チェスティスは小さくため息を吐き、大きく手を振り上げ叫ぶ。
     我が翼、音を司りし翼よ
     世界に音を降らしめ給え
     音に乗せて幸福をもたらし給え
するとチェスティスの背中に半透明な翼が生え、そこから沢山の音が流れ出る。
「これでいいんだろ?サヤノ」
「ええ。よく分かってるじゃない、チェスティス」
さ、まだまだやることはあるわよ!そう言ってサヤノはチェスティスの手をひく。
「・・・・そうだな!」
音を生み出す翼は、地上に降り注いでいった。



「・・・・・・・」
「ん?今日の御言葉はないのか?」
黙りこくった少女に、女が茶化しの声を差す。
「・・・・・彼等を見ていると、思い出すのよ。・・・・"あの子達"のこと」
「・・・・・・・」
少女の言葉に、今度は女が口を噤む。
気まずい空気が二人の間を少しの時間、漂った。
「・・・・私たちの"シテイル"ことは、正しいのかしら・・・・・・・」
少女は目蓋を閉じ、女の肩に額を寄せる。
「・・・正誤もない。あるのは"翼"と"羽根"と"役目"だけだ。
 我々はただ、父から授かった責務を果たせばいい」
少女の髪をゆっくりと梳きながら諭す。
梳かれながら、少女は微笑を取り戻した。
「・・・・そう、そうね。そのとおりだわ。
 私達は私達の役割を果たせばいいのね・・・・」
仔猫のように頬を摺り寄せる少女に、女は安堵の笑みを浮かべる。
「もう二度と起こさせないさ。・・・・あの悲劇は」

Re: 背中に翼が在る者々 ( No.4 )
日時: 2010/06/20 22:30
名前: 泡沫 ゆあ (ID: h9T9UkU2)

第四話;芽吹きを育む翼を持つ者


「・・・・・眠い」
日の光を十二分に浴び、キラキラと輝く森の奥。
その中央に聳え立つ巨大な樹木の上に、まだ幼さの残る顔立ちの少女がいた。
空色の長い髪が、風にゆらゆらと揺れている。
「・・・眠い、眠い眠い・・・・・もう寝ちゃおうかな・・・」
少女が欠伸をした瞬間、下から大きな声が聞こえた。
「おい、アマリリシア!お前が寝てしまっては植物達が芽を出せないだろう?」
深い青の髪をした青年が立っていた。
「・・・・ユウキ、駄目?」
「駄目だ。・・・・早く降りて来い」
「・・・・・わかった。降りる」
ふわり。と宙に舞いながら地に下りてくるアマリリシア。
空に向かって手を組み、呟く。
     我が翼、芽吹きを育みし翼よ
     大地に芽吹きをもたらし給え
     芽吹きし生命を守護し給え
アマリリシアの背中から半透明な翼が生え、そこから暖かな空気が流れてくる。
それが大地に触れると、そこから幼い芽が土を押し上げ姿を現す。
「・・・・・これでいい?ユウキ」
アマリリシアは首をこてん。とかたむける。
「ああ、上出来だよ、アマリリシア」
ユウキがそういうと、アマリリシアは彼に飛びついた。
「!どうした?」
「・・・・・・眠たいから、少しだけ眠らせて」
そんなアマリリシアの言葉にユウキは微笑み、優しく抱きしめてやる。
芽吹きを育む翼は、優しい眠りに触れた。



「・・・・・・・アマリリシアはまだまだ幼いわね」
少女は女に向かって話す。
「そうだな。幼いが故に、無邪気なものだ。
 ・・・・・力の使い方がいまいち、掴めないのだろう。
 巨大な力の余波で、体が<休養>を欲しているのだろうな。
 ・・・力が暴走するよりはマシだと思うが?」
その言葉に少女は眉間に皺を寄せる。
「・・・・・・・・"あのときのこと"を言ってるの?」
「・・・・・・・・・・・・別に」
女は宙を舞い、水面の上に立つ。
手を翳したかと思うと、水面に緩やかな波が立ち、画像と音声が映し出された。
『やめろ!!ミシェリチア!!!このままじゃ・・・・・・・!!!!!』
『リュウ・・・・私、は、もう・・・・・・・』
そこまで流れて、フッと映像は消えた。
「・・・・・・・」
「・・・・我々は誓った。二度と、悲劇は起こさないと」
女は少女の方に近寄る。
「・・・わかってるわ・・・・。その為に私たちは"ここ"に居るんでしょう」
少女は水面に手を差し入れ、波紋を生む。
「・・・・・だから、見守ろう、<翼>と<羽根>を」
女は少女を抱き込む。
「もう、涙を流さないために」
女の声に、少女は抱き返すことで応えたのだった。

Re: 背中に翼が在る者々 ( No.5 )
日時: 2010/06/26 00:25
名前: 泡沫 ゆあ (ID: h9T9UkU2)

第五話;水を司る翼を持つ者


「・・・・・暇だな・・・」
水底で一人、少年は呟く。
日の光が差し込む水の中で、存在を主張するように輝く少年の銀髪。
「こうも水たちが大人しくちゃ、俺の仕事も減るってもんだぜ」
少年がそう言うと、後ろからもう少し幼い子供の声が聞こえた。
「あー、またサボってる!!いけないんだぞ!!!デリチアンジャ」
少し薄い銀髪の子供は、デリチアンジャの頬を人差し指でつつく。
「・・・・いつも言ってるだろ、タイチ。サボってるんじゃないって。
 水が暴れるのを止めるのが俺の<翼>だって。水を見守るのが役目なんだよ」
タイチの指を払い、逆にタイチの頬に人差し指を突きつける。
「でもいつもこうやって水底から水面を見上げてるだけじゃないか。
 お父様からもらった役目を果たしてないんじゃないの?」
「ばぁか。そんなしょっちゅう<翼>使ってたら水は大暴れしてるってことだろうが。
 ・・・・水のためにも、俺の<翼>はあんまり使わないほうがいいんだよ」
デリチアンジャはニヤッと笑った。
それを見たタイチは少し崩れたような笑みを浮かべ、デリチアンジャの腰に抱きつく。
「そうだね。じゃあ僕の<羽根>も使わないほうがいいのかな?」
「だな。その代わり、水が暴れたときには思いっきり使えばいいさ」
「うん!!」
水を司る翼は、仲睦ましく水底ではしゃいだ。



「デリチアンジャ・・・・最近見ないと思ったら水底に居たのね」
少女が感嘆の声をあげる。
「昔は一週間に一回のペースで暴れていたのにな」
「タイチに会ったからでしょう。守るべきものが出来たデリチアンジャ・・・・・。
 <翼>と<羽根>の役割を知ったんでしょう」
少女は水面に波紋をよぶ。
『ミシェチェリア』
『リュウ』
時々聞こえる若い男女の声。
悲しい、優しい声が響いては消える。
「・・・・"あいつら"の声だな」
女は静かに目蓋を閉じる。
「"あの子達"は私たちの宿命のための"目標"になったわ。
 ・・・・・・昔も、今も」
少女は見えない空に向かって手を伸ばす。
「果て無き果てを、私たちは見据えなければならない。
 存在意識の確立、交錯する現在と過去、シュレンディンガーの猫箱の狗・・・・。
全てはお父様のため、総ては<翼を持つ者>のため・・・・」
少女は空気をつかむ。
「・・・・・・翼、羽根・・・・。両者無くして"アレ"は存在しない。
 するべきではない。・・・・・・我らが父のお察しだ」
女はすっと上を見る。
「・・・・・・だから、きっと・・・」
そこまで言って、言葉を紡ぐのをやめた。
二つの眼が見定める先に、世界の<真実>があった。


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