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風は君色
日時: 2010/06/20 21:14
名前: まっちゃん (ID: gM9EmB37)

はじめましてまっちゃんです。
なんかコメディ風ですがシリアスっぽいところもあるのでシリアスです。
コメントどんどんお願いします。

〜プロローグ〜
もう一度会いたい人がいる。
でも自分のせいで不幸にしてしまった紅也にもう一度会う術を、千紗は持たない。
忘れられずに月日は経ち、乞われるまま付き合い始めた蒼之に弟を紹介された時、
時が音を立てて逆戻った。……全てを忘れてしまった紅也がそこにはいた!

だけどもう、私は誰も傷付けたくなんかない……だからこの想いは胸に封じ込める!

切ない初恋物語。

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Re: 風は君色 ( No.1 )
日時: 2010/06/20 21:16
名前: まっちゃん (ID: gM9EmB37)


                             第一章


                              1



〈まだ子供なんだから、どうせよくは分からないだろ〉とその人は言った。
〈すぐに慣れるよ〉とも——。
 大きな声で母の事を〈奈美さん〉と呼ぶ男は、母のスカートの陰から出て来ようとしない私に、チラリと目を向ける。
 恐い思いを必死に我慢して私だって見返したのに、何も言葉をかけてはくれなかった。すぐにふいっと視線を逸らして、ただ母にだけ笑顔を向ける。
(お母さん……)
 スカートをつかむ手に自然と力がこもった。
 母は男の顔を見上げて楽しそうに笑いながら、何かを話している。私の方には目を向けてくれない。
(ねえ、お母さん……)
 呼べばいつだって目線を合わせて、〈なあに?〉と笑ってくれていた母を、なぜか今だけは声に出して呼ぶ事が出来なかった。
 幸せそうな横顔は、たった一人で朝から晩まで働いて、これまで私を育ててくれた疲れ切ったいつもの表情とは別人のようだ。
 仏壇に飾られた父の写真を、夜中に泣きながら抱き締めていた母の面影は、今はどこにもない。
 この世にたった二人きり、肩を寄せ合うようにして生きて来た母と自分が、今確かに分離されていく感覚を、私は苦しく感じていた。
(お父さんを忘れて、その人を好きになったの……?)
 何も分からないわけじゃない。何も知らないわけじゃない。まだ生まれて七年の月日の中でも、自分をこよなく愛してくれた父との別れがあり、それから一変した生活を経験した。
〈千紗はお父さんによく似ているね……〉
 嬉しそうに、そしてどこか寂しそうに笑う母と二人で、これからも父の思い出を大切にして生きていくんだと思っていた。
 ——でも母は恋をした。目の前に立つこの父とは似ても似つかない大きな男に恋をしたんだ。
 それぐらいは私にだって分かった。——〈子供〉にだってよく分かってた。

Re: 風は君色 ( No.2 )
日時: 2010/06/20 21:22
名前: まっちゃん (ID: gM9EmB37)



 小さな町工場でパートとして働く母が、工場に出入りするトラックの運転手である澤井と再婚を決意したのは、私が小学二年生の夏だった。
 初めて引き合わされた瞬間に、澤井が必要としているのは母だけであり、私は邪魔者でしかないという事を直感的に感じ取った。
〈無口だけど優しい人なのよ……〉
 以前は私だけに向けられていた愛情に溢れた眼差しが、その男に向けられるのを特別に嫌だと思ったわけではない。 ただ寂しかった。
〈千沙の新しいお父さんよ〉
 そう言って紹介されても、私を見ようともしないその男に笑いかける事は難しかったし、歩み寄る事もなかなか出来なかった。
 でも、父が亡くなってから苦労しっぱなしだった母がようやく幸せになれるんだからと、気を取り直す。自分を奮いたたせる。
〈お父さん……〉
 意を決して呼んでみても、澤井が〈なに?〉と返事をしてくれた事は一度もなかった。一緒に暮らした三年半の間、ただの一度としてなかった。


 母と澤井の新婚生活は、始めのうちは平穏無事だった。
 私という異分子がいるにしろ、恋から始まった結婚だったのだから、見ているこっちが恥ずかしいくらい、二人は仲睦まじかった。
 ただ、お酒を飲むといつもより大きくなる澤井の声と、何か気に入らない事があるとバンと机を叩く癖だけは、私はどうしても好きになれなかった。
 小五の冬。学校から帰った私を出迎えた母の頬は真っ赤に腫れていた。
〈どうしたの……?〉
 驚いて問いかけた私に、母は静かに微笑む。
〈大丈夫よ……大丈夫……〉
 澤井がやったんだろうという事は、すぐに分かった。その頃の澤井はトラブルが原因で仕事をクビになって、いつもイライラしていた。
 母に当り散らして、手を上げた事も一度や二度ではない。
〈お母さん……また前みたいに二人で暮らそうよ……それじゃ駄目なの?〉
 問いかけた私に母は困ったような笑顔を向ける。何か答えてくれようと、ゆっくりと口を開きかけ——けれど私はその言葉を聞く事が出来なかった。
〈お前が悪いんだろうが!〉
 凄まじい怒鳴り声と共に体が横に吹き飛んで、私は自分がその時ちょうど家に帰って来た澤井に殴られた事を知った。
 左の頬がジンジンと痛い。壁に叩きつけられた右肩も痛い。でもそれよりも、怒りに我を失った澤井に締め上げるようにして持ち上げられた喉が苦しくてたまらない。

Re: 風は君色 ( No.3 )
日時: 2010/06/21 10:26
名前: まっちゃん (ID: gM9EmB37)

〈いつまでたったって、まるで他人を見るように俺を見る!バカにしてんのか!仕事がなくなって……そんなにバカみたいかよ!〉
(そんな事思ってない!)
 心の叫びはもちろん口に出す事が出来ない。頭の中が真っ白になるくらい首を締め上げられているんだから、口を開く事なんて出来るはずがない。
 私は心の中だけで、決して澤井には届きそうにもない言葉を繰り返していた。
(仲良くなろうって思った!……でもぜんぜん私の話を聞いてくれなくって!……私の方を見てもくれなくって……!)
 私に興味がなかったのは澤井の方だ。いくら歩みろうとしても頑なに私に背を向け続けたのは、澤井だ。なのに——。
〈お前がいなきゃ!お前さえいなかったら!〉
 澤井は狂ったように叫びながら私を床に叩きつけ、馬乗りになって殴りつける。
 もうどこがどうとも言えない痛みで気が遠くなる中、母の叫びが聞こえた。
〈やめて!やめて!……千紗!〉
 必死に澤井を止めようとして、そうは出来なくて、逆に殴られているような音が聞こえる。
〈お母さんを叩くな!〉
 本当はいつだって心の中で我慢していた叫びを、苦しい息の中から叫んだ私に、また澤井の手が伸びてきた。
 腕をつかまれて壁に叩きつけられ、意識が遠くなる。
〈千紗!千紗!〉
 薄れていく意識の中、母の泣き声と澤井の怒鳴り声が小さくなっていく。
(お母さんを叩かないで!)
 何度も心の中で繰り返しながら、私は意識を手放した。


 目が覚めたら病院のベッドの上だった。
 右肩の脱臼と左足を骨折。あれだけ殴られたのに顔の骨は折れておらず、一時的に瞼が腫れて視界が狭くなったぐらいで済んだのは、奇跡だとお医者さんは言ってくれた。
 傍らに立つ母も、全身いたるところに包帯を巻いていた。
〈守ってあげられなくてごめんね……〉
 自分も傷だらけの母を泣かしてしまうのは忍びないので、私は必死に口を開く。
〈悪いのはお母さんじゃない!絶対にお母さんじゃない!〉
 それでもやっぱり母は両手で顔を覆った。
〈ゴメン千紗……ずっと迷ってたけど、私あの人と別れるから……!やっぱり別れるから!〉
 自分のためではなく母のために、私はホッと安堵した。
〈うん……〉
 呟いた私に、母は両手で顔を覆ったまま〈ごめんね〉と言い続けた。何度も何度も言い続けた。


 松葉杖をついて久し振りに登校した小学校では、みんながなんとなく私を遠巻きにした。以前は仲のよかった友達も、声をかけても困ったように離れて行ってしまう。
 前のように、放課後遊ぶ約束をしようとしても、
〈ごめん今日はちょっと用事があるんだ……〉
と断られっぱなしだった。

Re: 風は君色 ( No.4 )
日時: 2010/06/21 15:34
名前: 蘭華 (ID: sHDXkdcU)

初めまして
蘭華と言います。

最悪ですね、澤井・・・。
なんか、切なそうなお話ですね・・・。
がんばって下さい!!!


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