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A sword of mercenary
日時: 2010/07/31 21:32
名前: 近藤ユリカ (ID: vJW2yA.6)

幼い頃から傭兵として育てられた少年少女の物語。

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vol.1 ( No.1 )
日時: 2010/07/31 21:38
名前: 近藤ユリカ (ID: vJW2yA.6)

「どうしたんだよフィザ、顔色悪いぞ」
 トマスが隣の席のフィザの顔を横から覗き込むと、フィザは机に突っ伏した姿勢のまま、気だるげに彼に視線を寄越した。充血し、とろんとしたフィザの目を見れば、誰しもが極度の睡眠不足だとわかるだろう。トマスもまたそれを見てとって、小さく溜め息を漏らした。
「ちゃんと寝てないのか? いくらマーセナリーの選抜試験だからって、徹夜で勉強するなんて体に毒だぞ」
 呆れたように言うトマスをフィザは思い切り睨みつけたが、疲れきったその顔のせいでトマスにはほとんど効果がなかった。いつもはきちんと分けて整えられている金髪も、今日は乱れている。櫛ぐらい通せとよくフィザに怒られる自分の髪とあまり大差ない、とトマスは内心で苦笑した。
「実技組にはわかんねぇよ、学力組の苦労はよ……」
「なら、お前も実技の方を受ければ良かったじゃないか」
「うるせぇな……自分の実力ぐらい、自分が一番わかってんだよ」
 力なくそう言うなり、フィザは再び自身の両腕に顔を沈めた。
 ここ『ヴィンター・アカデミー』では、戦闘のプロフェッショナルである傭兵——マーセナリーと呼ばれる——の育成が行われている。ここで厳しい選抜試験に合格し、晴れてマーセナリーとなった者は、世界各地の戦争の兵士を始めとして、テロ、暗殺、スパイ活動等、様々な戦闘の要員として雇われることになる。
 選抜試験は一次試験と二次試験に分かれており、一次試験は個人の力量に応じて、学力試験と実技試験のうちから一方を選択することができる。
 実技試験の方は前日に終わっており、トマスは既に合格の通知を受けていた。学力試験の方は、実技試験から一夜明けた今日に行われ、たった今試験を終えた受験者が教室に戻ってきたところだった。
「フィザは頭いいからな。自分の得意分野を生かすのが一番だよ。な?」
「…………」
 実技が苦手なことを気にしている風だったのでフォローを入れたつもりだったが、フィザから返答はなかった。突っ伏したフィザの頭に顔を近づけて耳を澄ますと、安らかな寝息が聞こえる。
「まだ試験結果聞いてないのに……相当疲れてたんだな」
 マーセナリーの試験日は、受験者以外には教室での自習が言い渡されている。自習といっても監督官がいるわけでなし、生徒達は好き勝手にお喋りを楽しんでいて、教室の中は騒然としていた。
 そんな中、寝息を立てて熟睡するフィザの姿が、トマスの目にはかなり異質に映った。フィザは神経質なところがあるから、尚更だろう。
 と、不意に騒がしかった教室が静かになった。何事かと教室内を見回すと、周囲のクラスメイトが一様に同じ方向に顔を向けていた。
 つられるようにそちら——教室のドア付近——を見ると、妙齢の女性が一人立っていた。担任のレイシー先生だ。
「フィザ……フィザ・ダウナ。こっちへ来なさい」
(試験結果が出たんだ)
 そう感づいたトマスが慌ててフィザを揺り起こそうとするが、フィザはすっかり眠りこけていてなかなか目を覚ます様子がなかった。


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