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- 玉座 〜アリスティス編〜
- 日時: 2010/07/28 21:05
- 名前: kisi (ID: AirZuNBn)
- 参照: http://ameblo.jp/zektbach0811matin/
そこに座るべきは誰なのだろうか
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- Re: 玉座 ( No.1 )
- 日時: 2010/07/27 10:02
- 名前: kisi (ID: AirZuNBn)
- 参照: http://ameblo.jp/zektbach0811matin/
アリスティス、とういう国がある。
この国はまだ新しく建国からまだ100年ほどしかたっていない。
緑美し、西の夢といえばこの国を連想する者も多いだろう。
今の国王はバデーロ・フォン・クリフト。
バデーロには二人の子供がいた。
国をきっての愛妻家で、育児にも熱心だったかれは国民にも愛されていた。
それでも、妬むものがいないわけではない。
第一王子、ノアは生まれた直後誘拐されそうにもなった。
第一王女、レイレットは生まれて一年たったころに毒薬を盛られそうになった事もあった。
バデーロは事件がおこるたび、胸を痛ませた。
「このままではやがて、大事が起きてしまう」
予想は的中した。
- Re: 玉座 ( No.2 )
- 日時: 2010/07/27 10:46
- 名前: kisi (ID: AirZuNBn)
ノアは6歳だった。
妹のレイレットは2歳。
王政ではあるが、特に隔離されたりこの頃から厳しい帝王学を学んだりする事は無かったので一般的には幸せな子供だと言われるだろう。
ノアも自分の事はそうだと思っていた。
父はいつも
「幸せは他人にもわけなさい」
という。
ノアは教えに従い、自分の持っている物を貧しい人たちに分け与えるようになった。
だからいつもノアの服装はボロボロだ。
それでもいいと思っていた。
気にしていなかった。
「僕には食べるものも着るものもすむところもある。僕には十分すぎる。だから分けたって問題なんか何も無い」
王妃はノアのその優しさに、期待をしていた。
周りの国は戦争ばかりしている。
特に北のエルーデル帝国はこの国をも領土にしようと考えているらしい。
いつ攻め込まれるか...
「...母上」
ノアとレイレットがやってきた。
レイレットは頭に花の冠をつけている。
「お母様と一緒!」
レイレットがもうひとつの花の冠を王妃の頭に乗せた。
ノアはそれをみて、微笑んでいる。
「...ノア、あなたが作ったのね」
「ち、違います!レイレットが...作ったんです!」
「あらあら、手が汚れていますよ?」
「あ...」
ノアは自分の手をみつめた。
緑になった自分の手がみえる。
慌てて水場へ駆け込んでいってしまった。
「あのねー、お兄様とってもお上手なんだよー」
「うふふ...嘘はとても下手だけれどね。...とてもきれいな冠だわ」
王妃はレイレットの頭に乗っている冠をまじまじと見つめた。
王位継承は王子のノアだ。
レイレットはノアに守られ暮らしてくのだろう。
なら何も心配はいらない。
何も...
「王子ー!」
「あ、ステイ」
ノアの親友ステイはノアより一つか二つ上だった。
「王子、今日はチェスやろうぜ!」
「何だそれ?」
この国にとって王子とは別に特別な存在ではない。
王でさえ、民にバデーロさんと呼ばれたり、小さな子供には王様のおじさんと呼ばれる事だってある。
全く、礼儀など気にしなくて良いのだ。
だからすぐに余所者はわかってしまう。
「こういう駒を使って...こういうルールで...」
「ふぅん...いいよ!やろう!」
ノアはステイを尊敬していた。
知らない事をたくさん教えてくれる。
ステイの教えてくれるゲームはどれも楽しかった。
今のチェスも例外ではない。
「えー...クイーンがここで...」
「ポーンをここに」
「ナイトがここで...」
「キングがここ」
「え!?」
「チェックメイト」
ただし、ノアは天性の戦術師であった。
ステイはノアの飲み込みの早さにはびっくりしていた。
「あはははは!負けちまった!」
ステイも心底ノアを尊敬していた。
「お前ってすごいよな!もっと色んなもん教えてやるよ!」
「ステイだって色んなもの知ってるじゃないか」
「そんなのは一部でしかないよ!ノアはもっと、すごくなる!」
「そんなことないよ...」
ノアは照れたようにうつむいた。
「よし、今日はここまでだな」
「えーもっとないの?」
「だから、俺は知ってる事が少ないの」
「そんなことない!」
「いやいや、そうなんだって」
ノアはぷーっとふくれた。
「大丈夫!また明日、遊ぼうな!」
「うん!」
ノアは素直に返事し、城へと戻った。
「王子、お帰りなさい」
「ただいまメーサさん」
「さんだなんて...あれほどいりませんと...」
「いいの。僕がそう呼びたいだけ」
ノアはたったったっと父のいる謁見室に向かった。
「そうか...あの国が...」
「父上!」
ノアが扉を開けたとき、そこにいたのは見覚えのある大臣達だった。
「おぉ、ノア。どうした、何かあったのか」
「いえ...何も...」
「そうか、ちょうど良い。こっちへ来なさい」
父に呼ばれるがまま、ノアは玉座に向かう。
「ノア様、今日は大事な事を伝えにきたのでございます」
「大事な事?」
一番年をとった大臣が口火をきった。
「この国は、まもなく戦争にはいります」
「戦..争...?」
「いや、お前が大きくなったときになるだろう。お前が...そうだな、16になった頃だ。そのくらいに、始まる」
王は天井を仰いだ。
「何故こうなったのか...もっと平和的にはならないのだろうか...」
「王、それはわかりきっていた事です」
「お前達はわかっておらんからそういえるのだ」
王は厳しく大臣を諭した。
「この戦争で彼の国になんの利益があると思う?人を殺め、殺められ、それで勝ち取った領土になにがある。ただの血の海と死体の山だ。そんなもの、うれしいのか?お前はどうだ」
「いえ...軽率な発言でした」
「そうだろう。喜ぶものなど、いまい」
王はうつむいた。
「ノア、お前はこのとき、どうする?」
「僕ですか...?」
「僕は...守るだけです。剣を持って、みんなを護るだけです」
王はその答えをきくとにっこりと笑った。
「お前のその気持ちがあれば、民は応えてくれる。絶対に今の言葉を忘れるな。戦うだけではない。護る、それが他の国には無い、この国の特徴だ」
「はい、父上」
ノアも笑顔をみせた。
この場には似合わない、天使のような笑顔だった。
- Re: 玉座 ( No.3 )
- 日時: 2010/07/27 11:12
- 名前: kisi (ID: AirZuNBn)
明くる朝、王妃の叫び声でノアは目をさました。
「母上!?」
「ノア...ノア!」
母は自分の名前を呼ぶだけで、何を言っているかわからない。
しかし、母の指が、水場を指していた。
かすかに「行ってはならない」とも聞こえる。
ノアは母の手を両手で包み、「大丈夫」と言って部屋に入った。
「...!」
叫び声は、声にならなかった。
「なんで...どうして...」
そこにいたのは、真っ赤になったあのメイドのメーサ。
腹部に三本の剣を刺して、壁によりかかって座っている。
「メーサさん!」
駆け寄って意識を確認するが...死んでいる。
「そんな!起きて!メーサさん!」
ふとメーサの腹部を見ると、赤く染まったメモが見つかった。
ノアはおそるおそる、手を伸ばし、メモを見る。
「我ら三銃士、この国を正すもの...
軟弱な王、我ら国民は必要とせず...
その裁きをここに下す...
次はお前だ...ノア...」
ノアは目を疑った。
自分の名前が書いてある。
とすると、これは自分が来ると知っていておいたのか。
それとも...
「メーサさん...」
沸々と、ノアの心に怒りが芽生え始めた。
「どうして...こんな...罪も無い人を...!」
だんだんと、だんだんと、怒りがわいてくる。
幼いノアの、初めての怒りだった。
「ノア!良かった...無事ね?」
「母上、父上はどこですか?」
「王は、謁見の間よ。玉座にいるはずだわ」
「ありがとうございます」
ノアは一礼して、走り出した。
手はメーサの血で赤く染まっている。
その手を見る度、ノアの目から涙が出てきた。
許せなかった。
ただ、許せなかったのだ。
「父上!」
また扉を強く開き、玉座の前まで走り込む。
「ノア、どうした。何があった」
「これ...」
ノアがメモを渡す。
王は読み終わると、うつむいた。
「そうか...これは誰の血だ?」
「メーサ...さんの...」
さっきのことを思い出したノアは目から大粒の涙が出るのを感じた。
言葉が詰まるが、それでも伝えなければならないという衝動にかられる。
「僕の...名前...あった...から...渡しにきました...」
「そうか...ありがとうノア、よくやった。怖かっただろう」
「怖くなんかありません!でも...許せません」
そうか、そうか、と王がノアをなだめる。
「立派な正義ができたな」
そう呟いた王の言葉が聞こえた者ははいたのだろうか。
ノアは涙を拭いた。
「僕は、この国を、民を護るものです。傷つけるんじゃありません。でも...死にたくない」
「そうだろうな。ノア、きっとそいつは今夜お前を狙ってやってくる」
「僕は剣をもって護るだけです。...自分の命を」
「...たとえ相手が国民でも、か?」
「殺めません」
「そうか...」
王はまた、立派だと呟いた。
- Re: 玉座 ( No.4 )
- 日時: 2010/07/27 14:22
- 名前: kisi (ID: AirZuNBn)
「王子、どうしたんだ?元気ないな」
「あ...うん。何でもないよ」
ステイは城からでてきた王子に話しかけた。
「何でもないのにお前がそんなに落ち込むか?」
「...今日は何して遊ぶんだ?」
「おいおい、質問に答えてからにしろ」
ノアはステイに肩をつかまれた。
とたんにノアの様子が豹変する。
「僕に...触れるな!」
「王子...?」
昨日までの王子とは打って変わって、全くの別人に見える。
ステイはそうなってしまった理由を知る由もなく、ただうつむいて
「わかった」
といってとぼとぼ家へ帰るのだった。
ノアはそんな親友をじっと見つめるだけで、追いかけようとはしなかった。
一方城では、大会議が行われていた。
「メーサは故郷に返そう...親族に火葬をしてもらわねば。彼女もまだ若かったのにな...」
「腹部を三本の剣で...か」
「三銃士とは誰だ」
「軍を動かすか?」
「こんなことにか」
王は大臣や貴族が思い思いに口を動かすのを見て苛々していた。
側近のロブも表情を険しくさせている。
「静まれ」
王がドスのきいた声で議会を黙らせた。
「メーサは故郷にかえす。それは賛成だ。私も彼女の葬列には参加させていただきたい...もとは私の軟弱さが原因なのだ」
「王、ですがメーサの故郷はロイル。王都からではだいぶ...」
「うるさい!お前たちに人の死を悼む心はないのか!」
王は叫んだ。
「さっきから聞いていれば...これはゲームではないのだ!人が死んでいるのだぞ!城で、人が死んだ!お前たち、これは城の者の中に殺人者がいるということだ!」
大臣たちは肩を狭くした。
「私はお前たちの中にいるのではないのかと思う。私を妬み、恨む者はこの中では多くいるだろう。私はそれでもいい。偽善ではあるが、ここで死んでも良い。それは光栄だ」
ロブの目がある一人の大臣をとらえた。
「...ムッシューバルトロン。何を持っているのですかな?」
ロブの低い声が議会に轟いた。
バルトロンと呼ばれた彼は、立ち上がり、手に持っていたナイフを王に向かって投げつけた。
「お前が...お前が私の!私のおおおおおお!」
「...権力に溺れたようだな。バルトロン」
王がつぶやいた。
「王、いかがなさいますかな。もう捕らえる事は決定しておりますが」
「牢にいれておけ。今は保留だ」
「かしこまりました」
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