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ロマンチスト
日時: 2010/07/27 21:45
名前: 店子 (ID: 84ALaHox)

 愛とは何ぞや。
 俺にはわからない。

 皆本純子はいたって普通の女子生徒だ。彼女はどこにいても浮かない、馴染んでいる。けれどいないとなぜだか寂しくて、酸素のような子だなぁ、それが俺の第一印象だった。幸も不幸もつつみこんでしまう、その特有な雰囲気に、俺はすっかりのまれてしまっていた。
 高校一年生にして、はじめての恋だった。
 正直、今ではそれを恋と呼んでいいのかすら躊躇している。ただの羨望、……いや、欲望だったのかもしれない。汚れをしらない彼女を、自分の手で染めてみたい、そんな欲望。

 それもつい先日終わりを告げた。
 彼女にも恋人ができたのだ。当然と言えば当然だ。彼女の素朴な美しさは、だれにもわかるものなのだから。
 でも、この二人は長く続かないと思う。皆本が酸素だとすれば、恋人の将太は、魚なのだ。どちらかがどちらかを殺す、それだけの関係。それから、もうひとつ。皆本は誰よりもロマンチックな恋愛を夢見る少女、いや、ロマンを求める少年で、その瞳にはひとつもほこりなんてない、きれいな輝きがともっている。


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Re: ロマンチスト ( No.1 )
日時: 2010/08/12 23:38
名前: 店子 (ID: 84ALaHox)

 将太と会った日の皆本はとても幸せそうな顔をする。それと同時に、皆本の傷も増えていく。だけど誰も何も言わない。皆本と将太は、俺たちと同じ世界には住んでいないからだ。
 それはまるで、テレビの中の世界。俺もみんなも、興味はある、同情もする、でも他人事。
 ──それって、今の俺たちの関係、他人ってことじゃん。
 バカらしい。学校もトモダチも、ぜんぶ。

「あの、さぁ……その、将太」
 カズが顔を赤らめている。みんな、カズが将太に何を聞こうとしているのかわかったようで、唾を飲み込んだ。放課後、教室には男子だけ、となれば──。将太がニヤリと顔をゆがませる。ぞっとするほど様になっていた。
「ヤってねぇけど?」
 とたんに教室が喧騒につつまれる。
 なんで? 誰かがきいた。将太はうーんと首をかしげて、考え込んでいる。俺は時計を見た。五時四十二分。皆本と将太が帰る時間は、いつも、五時半だ。皆本の困ったような笑みが目に浮かぶ。ほんとうにかわいそうな奴だよ──将太。心の中で同情してやったけれど、将太は気にせずに話を続けた。
「アイツさ、なんか、オーラがきれいじゃん。そういう雰囲気になっても、あの笑顔見ると心が痛むっつーか」
 下品な笑い声が教室に響き渡った。その中にまじって、最近はやりのJ-ポップの音楽が流れている。将太の着信メロディだった。ディスプレイを見て将太がニヤける。拍手喝采。オアツイネ、なんて決まり文句がはやしたてた。もちろん相手は、皆本だ。将太が、静かに、のジェスチャーをして、ゆっくり通話ボタンを押した。
「あっ、皆本? うん、野球部の集まりでさぁ、そうそう。すぐ行くって、ごめん」
 そこで将太が携帯電話から顔を離した。机に広げられていた誰かのノートに、なにやら殴り書きをしている。描き終えると、すぐに通話を再開した。
「そうだ、今日俺ん家こねぇ? この前借りたノート、かえすからさ……」
 ノートには大きな字で「今日ヤる」と書かれていた。全員がごくりと唾をのむ。今日、皆本は何人もの男のオカズになっちまうんだろうなぁ、なんて考えたら俺まで興奮してきた。
「うん、じゃあな」
 通話が終了すると、将太がブイサインをつくってみせた。


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