ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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この物語はフィクションです。
日時: 2010/09/02 21:14
名前: たくさん (ID: mysRRkjQ)

追加しました。




この物語はフィクションです。

 なんて、これ程無粋な前置きも他に例がないだろう。
 本や映画やCDドラマ、僕を含めたその他大勢の一般大衆は娯楽を求めてこれらの物に貨幣や時間など日々の実生活から捻出した対価を払い作品を楽しもうと娯楽を購入するのに、端から"この物語は作り物ですよ?それをわかった上で誤解しないようお楽しみくださいね。”なんて言われて尚、物語に没頭出来るか!…と僕は17
年間一人心の中で叫び続けてきたわけだけれど、その上でフィクションという言葉は大変便利な注釈である事も認めなければ色々辛いのも確かだ。

 ミステリーや推理小説を例に挙げてみよう。
 これらの作品では高確率で人が死ぬ。それもこれでもか!といささか大掛かりな死に様を僕らに見せつけ、魅せつけるのだが、現実において人はそれほどサービス精神旺盛な生き物ではなく、大よそは地味に、人目につかづ地味に汚く死んでゆく。
 
 まぁ、目線を広げて見れば現実世界ではこの瞬間にも3秒に1人が死に続けているというので、もしかしたらひょっとすると山深い何処かの山村にてシンクロナイスドスイミングを展開し見物者を魅せてくれる殺人事件があってもいいかもしれないし、思わず目をそむけてしまう様な凄惨な事件も実際にままある事も否定しないが、本来ならば死体なんて出てこない方が犯人にとっては都合が良い。事件が露見しなければ犯人ですらないのだから、憎いアンチキショウをこっそりと人目を憚り隠してしまえばこれまで通りの生活がおくれるのだし、殺人事件に件の名探偵など、口を挟む余地もないだろう。現代において「桜田門」の科学力は世界でもトップクラスなのである。如何に犯人が細心して注意深く事を運んだところでほんの僅かな”状況証拠(僅かな汗染みや一本の体毛等)”でめでたくお縄につく事になるだろう。

 労した策が唯の徒労に終わるのだから、犯人役の方は本当に救われないし、名探偵も−keep out−のラインの外側で決して誰からも賞賛されることのないトリックの謎解きに頭を捻る様は健気で、儚げでなんとも滑稽ではないか。現実に於いては彼等ほどのエンターティナーはいないのかも知れない。数々の難事件を解き続けて来た”有名なじっちゃんのお孫さん”と”メガネの小学生”には本当に申し訳ない気持ちでおしつぶされそうだけれども…。




 この物語はフィクションです。

 フィクションで在るがゆえにエンターテイメントで、数多の作家先生方から様々な愛すべきキャラクターが生まれた。探偵は多様なロジックを組み上げ犯人の確信に迫っていく様子は全て作品として話を盛り上げるためであって、その為の大掛かりな仕掛けですらさも、そこにあることが当然と錯覚させるのも一重に現実との隔たり、フィクションだから、作り話だからありえるのだ。

 この物語はフィクションです。
 
 作品と読者、現実と非現実を抵抗なく結びつける反則のような、さりとて特に悪びれることなく見るもの全てを納得させる不文律である。


 「この物語はフィクションです。」
 語り部である僕がフィクションである、作り話だというのだから、これ以上疑う余地も無く、紛れも無い作り話だ。間違いないのだろう。
 センスのないメタ的発言に僕自身閉口している所だが仕方がない。だって、他にどうしたら良いのだろうか?
 或いは作り話であってくれたらどれ程救われるか、むしろ、フィクションだからこそのエンターテイメントであり、事件を推理したり犯人探しや犯人の心の動きを楽しめるのだ。非現実という囲いがあるから笑っていられる。
 この際、作り話でもいいし嘘でもなければやりきれない。
 
 いけ好かない番組デレクターが『大成功☆』なんて看板を引っさげて呆然とする僕に「ドッキリで〜す(笑)今の心境をカメラに向かってどうぞ!」
 なんて言ってくれても笑ってゆるせる。ぶっ飛ばせる。
 次の数瞬間、彼は僕の右拳によって引力から解放され、重力に従い無様に地球へ生還する事だろう。

 だが、そんな妄想は起こりはしない。なぜなら僕は人間一人を中に浮かす事が出来るほど腕白ではないし、そもそもゲージも溜まってはいない。それに、目の前の”これ”はドッキリではない。紛れも無く痛いほどに現実だった。現実はこれ異常ないほどに壊れていた。

 9月1日 僕の18才の誕生日におばあちゃんが自宅で死んでいた。 




 高校最後の夏休みが終わり、受験に就職に忙しい高校3年生の2学期が始まって一月あまり、
 

 僕、菅野正直すがのまさなおは県立の工業高校に通う"少々"出来の悪い高校3年生だ。名は体を現すと言うが、それは正しくは無い。正しくは体が名前に引っ張られている。ともするとこの名前だけでいじめにあったりしそうな物だが幸か不幸かそういった経験は今の所無かった…と言えばまぁまぁまぁ嘘になる。色々あったさ、色々と。
 
 大体、この手の物語のキャラクターは一風変わった名前をしているものだけれどこればかりは自分で選べる物ではないし、父親が名づけてくれた名前にケチはつけないで頂きたいな。親父が僕の名前を"トンヌラ"と名づけるような何処かの国の王族でなくて良かったと安堵しているくらいなのだからね。
 ちなみに下に妹が二人いる長男だ。


夏休み終盤に色々あって就活や進学先に沸くクラスメイトの雰囲気に乗り遅れてしまった…というのは言い訳で元々僕の残念な学力で進路を選ぶ余地などあって無い様なもので未来に希望や夢を抱く同年代のクラスメートをやや遠くに感じて、なんとなく教室に居づらくなり、いつも通り昼食を南校舎の屋上へ上る階段に腰掛け一人で過ごす。相変わらずの僕だった。
  
勉強は"学年"で下のT、(下の下。下の点すら落っこちるほど)で特に数学と英語は壊滅的に悪い。小学生のころの算数は割りと出来る方だったと記憶しているけれど、中学に上がり算数が数学と呼ばれる頃から授業に付いていけなくなり、証明の辺りから完全について行く事を諦めてしまった。要は拗ねてしまったわけだ。(余談ではあるけれど拗ねると言う字は幼さに手がかかると書く)
 授業が呪文の詠唱にしか聞こえない、そんなのMPが上がらない戦士タイプの僕にはいくら勉強して呪文を覚えたところで全く意味がないと端から諦めてしまっていた。普通に"こうげき一択"で済むので周囲からは「君の選択はA連打で済んでいいね!」シンプルなどと皮肉られる事がままある。
 
 もしも、あの場で少しでも前に進んでいたらもしかしたら上級職の"魔法戦士"になれたかもしれないのに、全く愚かなことをしたものだ。この先、ただの"戦士"をパーティに入れ続けるのか重大な決断を勇者は迫られていることに僕は気づけない。あぁ、魔法使いが馬車の中からせせら笑っている様な気がするが、僕の聞き間違えだろう。
 
 「少年、人はどんなときに絶望するのか知っているかい?」

 と不意に下の方から声を掛けられ、手摺の間から階下を覗くと魔法使いこと、僕の友人である国定逝くにさだゆきが僕に向けた手の平をグーパーしながら階段を上ってくる。【演劇部所属、天然の僕っ子で、ポニーテール。人当たりが良く、感が良い。工業高校という性格上、極めて珍しい女子校生である(全校生徒848名の内、女子はたったの6名だ)。僕とは共通項が全く無いような感じがするが実はドラゴンボールの"大ファン"らしく亀仙流の修行方法について語り合ったのがなれ初めである辺りまだまだ隠された力が眠っていそうだ。是非とも最長老様に頭をなでてやって頂きたい。(ただし、マニアではなく、あくまで"ファン"だと主張するあたりまだまだである。)。彼女とは高校1年生から一緒のクラスになり高3の現在に至るまでずっと僕の左後ろの席である。

 「ん?・・・さぁ、しいて言うなら毎週水曜日に絶望する。」
 
 「絶望した!!・・・って違うよ、これでも結構まじめに問いかけているんだよ?いいかい、絶望っていうのは志した道がある日突然途絶えている事に気づいた時に感じるものだ。」

  言いながら「よっ」なんて僕の隣に腰掛けてきた。

 「成る程、つまりはドラクエ6の主人公を魔法剣士を極めた後で勇者に転職出来ないと知った時の感覚に似ているか・・・。」

 「例えショボッ!でもわかりやすい!?」

 まさか高3女子がSFCのドラクエ6ネタについてこられるとは思っていなかった。何者だ?こいつ・・・。

 「いや、割と有名な失敗談じゃない?僕は大工の家業を蹴って最強の武道家を目指す旅に出たハッサンを敢えて魔法使いに転職させるという蛮行に志向の悦びを感じたものだけどね。」

 「ひど・・・君は魔女か!?」

 ごめんよハッサン、僕の友人をゆるしてやってくれ。君の願いは僕が継いで最強の武道家になるよ・・・手始めに東京ドームの地下をめざそうか。

 「いや、東京ドームの地下に闘技場なんて存在しないから。」

 ツツツツツツ!グラップラーバキまで知っていた、なんだこの女子校生は。しかも何気に(心網)マントラまで習得しているのか。やばい!僕が昨日書店で衝動買いしたしたナナとカオルでハッスルしたことも感づいているんじゃ!?そそそ素数を考えるんだ!!
 
 「いやいや、そろそろ付き合いも長いからね、それに正直くんの考えていることは特に顔に出やすいしね…でも、最近はちょっとわからない時があるかな?…何か悩んでいるのかなーなんて思っちゃったり…一人でいる事も多くなってるみたいだし…その、お婆ちゃんの事は本当に残念だったね。」

 「2・3・5・ナナ・7はまずい!・・ん?あぁ…」

 取り乱してしまった、幾分慣れてきたとはいえ国定とまともに会話をするようになったのは夏休みの半ばだったのだから無理も無い話で、そもそも僕には女の子に免疫がないのだ。
 
 「そんなに顔に出てたかい?悪いね、気を使わせたようだね。もう大丈夫…気持ちの整理はついて来たよ。ま、あんな事の後でも意外と人は日常の生活が送れるものなんだ、と、僕自身驚いているよ。一人で居るのはみんなと温度差をかんじちゃってね、いささか居心地が悪いって言うか、僕はまだ将来の目標なんて見つけられていないしね。」

 昼になればお腹も空くし、夜になれば眠れるし何だかんだで深夜のアニメだってしっかり見れるんだから大したもんだと笑ってしまう。大よそ受験生の生活とはおもえないけれど・・・。

 「そ、か。それだけ元気ならとりあえずは心配いらないかな。でも、社会に出てからの目標が無いのは仕方が無いとして、だからって何もしなくていいって事にはならないよ?うん、さっきのドラクエの話じゃないけど勇者になれない魔法剣士を極めるのもありじゃないかな?バイキルトとか覚えると結構便利だしね。うん、何事も無駄な経験なんてないんだと思うからいじけてないで行動して見た方がいいと思うな。」

 「う…むぅ。」

 正論だよな。

 「まぁ、息抜きは必要だけどね。あ、でもお尻を叩くプレイに興奮しちゃうのはあまり肯定できないかなー。あ、そろそろいい時間だね教室に戻ろうっと、あ、正直君せっかく買ったばかりの単行本を座布団代わりにしてたらもったいないよ?ではでは、ごゆっくり〜」
 
 「な!?!?」

 ばれていた上にどうやら彼女も既読済みらしい。含みのある笑みを残して器用にスカートの裾を押さえながら立ち上がり背中を向けながらぴらぴらと手なんか振っている。立ち上がり際に「よっこい」と聞こえたのはきっと幻聴だろう。

  とっさに機転を利かせて隠したのに…くそう、仕方ないだろ甘詰先生の作品が嫌いな男子高校生はいないんだから!

 再び一人階段に残され殆ど手をつけていない弁当の包みを直す。
 女子の前で強がって見たものの、ここ最近は殆ど眠れていないし食欲もない。人間そんなに簡単に吹っ切れたりしないものだ。 


「はぁ〜、目標か。まいったね。」

 
人間どうしたって生きていかなきゃいけない。
生きていくとは選択し行動することだ
例え選んだ先が見えなくても時間はまってはくれない。
生きることは戦いだ。
例え負けてしまっても生きている内は戦い続けなければ行けない。

戦いを辞めてしまえば病めるだけだ。
病めば戦えない。
僕のおばあちゃんは戦いを病めたのだ。
戦いを辞めて命を絶った。

8月29日、僕のおばあちゃんは自殺をしたのだ。

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