ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 殺す事がお仕事なんです
- 日時: 2011/07/25 15:59
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
- 参照: http://blog.goo.ne.jp/roki000
どうも、コメディ・ライトで「萩原さんは今日も不機嫌」を書いてる感じなトレモロです。
この物語は【エグイ・シリアス・痛い設定・更新不定期】を含みます。
「それ…無理…」という方は今すぐ引き返す事をお勧めします。
【目次】
序章 【>>1】
第一話前半 Ⅰ【>>4】 Ⅱ【>>14 >>15】
余章 【>>21】
第一話後半 Ⅰ【>>32】 Ⅱ【>>48】
接章 【>>60】
第二話前半 Ⅰ【>>74 >>75】 Ⅱ【>>84 >>85】
余章 【>>98】
第二話後半 Ⅰ【>>137 >>138 >>139 >>140 >>141】 Ⅱ【>>151】
接章 【>>154】
第三話前半 Ⅰ【>>155】 Ⅱ【>>156】
余章 【>>157】
第三話後半 Ⅰ【>>158 >>159】 Ⅱ【】
【番外編—ブログにて更新中】
Ⅰ【>>161】
【基本登場人物】
祠堂 鍵谷(シドウ カギヤ)・呑気な便利屋
木地見 輪禍(キジミ リンカ)・快楽を求める殺し屋
霧島 終夜(キリシマ シュウヤ)・大人びた少年
【補足】
物語は多少「萩原さんは今日も不機嫌」のスピンオフとなっております。
知らなくても問題は無いですが、見ておくとさらに楽しめますよ?(宣伝です)
【他の作品】
『萩原さんは今日も不機嫌』>>20
『結末を破壊する救済者達』>>153
『』>>
【挿絵】
『私はあなた方の絵を求めている!!Ⅱ』>>40
【アトガキ】
『とあるトレモロの雑記帳』
——《カテゴリー》にて >>41
それでは、この物語があなたに影響を与えない事を祈って、作品紹介を終わらせて頂きます(ペコリ
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- Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.154 )
- 日時: 2011/02/17 14:14
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
『接章』
【慟哭】。
後に【光加】と呼ばれる女性は、まだ【少女】だった頃から【ソレ】を目の当たりにしてきた。
何か大切なものを失い、泣き叫び、壊れていく者達。
その【大切なもの】には、人それぞれ多種多様な【思い】があった。
悪人でも、善人でも、その【思い】はとても大きく、激しく。
何より尊ぶべきものだっただろう。
たとえそれが、金などという俗物的な物に宿る思いであっても。
たとえそれが、恋人などという美しい物に宿る思いであっても。
善悪関係なく、【大切に思う心】は尊重するべきなのだろう。
だから、まだ【少女】だった女性は【ソレ】が無くなったり、壊れたりするのが嫌いだった。
何時までもそこに有ってほしいと願った。
例え【ソレ】を奪う側に、自分が立っていたとしても。
自分も【ソレ】を守る側に立ちたいと、常に願っていた。
だが、まだ【少女】だった【光加】は見てしまう。
恐らく世界で一番の【叫び】を。
世界で一番の【悲しみ】を。
世界で一番の【苦しみ】を。
世界で一番の【悲壮】を。
そして、世界で一番の、
【慟哭】を……。
「———ッ!———ッ!!———ッ!!!!!!」
声が聞こえる。
本当に大きな声。
悲しく、激しく、叫ぶ声。
声の方を【少女】は見る。
一人の男が、一人の女を抱き抱え泣き叫んでいる。
女はぐったりと横たわっていて、腹部には大きな風穴があいていた。
その所為で、地面も女の服も、そして抱き抱える男の服も、真っ赤に染まっていた。
きっと銃に撃たれたんだろう。
【予定の場所】に来ないと思っていたら、撃たれていたのだから。
倒れているのは当然。
地面に血が広がるのは必然。
もうすぐ彼女が死ぬのは、【当然】だろうか?【必然】だろうか?もしくは【自然】なのかもしれない……。
「シルフィ!早く救急車を!!」
男が【少女】の方を向いて何か言っている。
そうだ、救急車だ、救急車を呼ばねばならない。
だが、だがだがだが、一体全体【少女】は……。
「どこに……、どこに助けを求めればいいの?」
そうだ、【少女】も【男】も【女】も。
人に助けを乞える立場ではない。
そういう資格は彼女達には無いのだ。
と、そこで【女】は弱々しく、そして小さく言葉を発した。
「もう……大丈夫だ……よ?兄……ちゃんは……心配……性……なん……だから……」
「おい!無理するな!今助けてやる、すぐに、すぐに助けてやるからな!」
【男】は叫ぶ、【女】を救いたいがために。
いや、【兄】は叫ぶ、【妹】を救いたいがために。
「私……幸せだった……よ?兄ちゃんと……一緒にいれ……て。シル姉と……出会え……て」
「やめろ、やめろやめろやめろっ!!待ってくれ!そんな最後みたいなこと言わないでくれ!!」
「だから……私は……私はね……?」
少女は最後の力を振り絞るように、【兄】の背中に腕を回し、優しく抱きしめながら。
【少女】に向かって微笑みかける。
そして、小さく口を開いて呟いた。
「 」
静かに。
本当に静かに【妹】の命は消えた。
この世で最も優しき【悪人】の命が消えた。
【少女】にとっての【義妹】が。
【兄】にとっての【妹】の命が。
この世から消えた。
【兄】は泣きながら、【妹】を強く。強く強く抱きしめながら。
【慟哭】する。
「みかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
後にも先にも、【少女】が【兄】の【慟哭】を聞いたのはこの一回きりだった。
恐らくこれからも一生ないだろう。
いや、あってはならないだろう。
その為に【少女】は。いや、【光加】は今を生きているのだから……。
私は借り物。
私は創りもの
人の不幸を嘆く事は有っても、幸福にはしてあげられない。
唯の【機械人形】。
死を傍観して、生を搾取する。
唯の【殺人人形】。
止まらない。
悲鳴が止まらない。
悲しみが止まらない。
悲壮が止まらない。
何時止まるのか?
どこで止まるのか?
終わりは来るのか来ないのか?
始まりは来るのか来ないのか?
私は何時だって【悪人】だ。
私は何時だって【人形】だ。
だから、私は【仮面】を被る。
人を殺して【仮面】を被る。
機械的に生きるために、
人形のように生きるために。
私は【仮面】を被っていていく……。
それが、それこそが。
私にとっての、【兄妹】に対する。
贖罪だ……。
- Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.155 )
- 日時: 2011/03/13 23:36
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
第三章『霞み堕ちていく優しき想い』———《狂人たちの戦闘と優しい決意》
刀が振るわれる。
横凪の一閃。
その攻撃を向けられた人間は、その神速の速さの攻撃を、一歩後ろに下がる事でギリギリ避ける。
しかし、刀による攻撃は止まらない。
さらに、もう一手、二手と激しく攻撃対象を追いつめていく。
だが、それらの攻撃も最小限の動きで、受ける側は避けていく。
「どうした木地見輪禍ぁ! その程度かぁ?」
避けながら更に挑発の言葉まで発する男。
それに対し、猛攻を仕掛けている人間。木地見輪禍は、うっとりとした笑みを浮かべて答える。
「いいですねあなた。強いです。先程の方たちと比べて私の動きについてきている。とても殺し甲斐があります」
明らかに銃刀法違反な長い刃を持った刀を振りながら、喜色の笑みを浮かべて男を追いつめんとする木地見。
「けっ! その余裕が何時まで持つだろうなぁっ!!」
叫び、大きく後退する男。
木地見と大きく距離を離す事で、彼女の間合いから外れることに成功する。
「余裕じゃありませんよ? でも、楽しいです!」
頬を紅く染めながら、妖艶な笑みを顔いっぱいに広げる木地見。
そして、刀を右手で握り、刃先の部分を男に向けながら、自らの願望を言葉にして、男に突き付けた。
「ですから、あなたに死が訪れるまで、精一杯私を楽しませてください!!」
「これからどうするんだ?」
『BARロゼリオ』を後にし、外の狭い路地の上に出た途端。
萩原栄志が、疑問の言葉を霧島終夜に向けた。
「とりあえず、【依頼】の仕事を続行する事にします」
「大丈夫か? 結構危険な件に首を突っ込んでるかもしれねえぞ?」
厳めしい顔を、更に厳めしくしながら。栄志は霧島に問う。
しかし、栄志の心配の言葉を、霧島は笑いながら。
「大丈夫ですよ。危険は慣れっこです」
と言って流す。
そんな霧島の様子を見て、栄志はため息をつきながら、呆れた表情を少年に向け、どこか寂しい雰囲気と共に言葉を発する。
「危険に慣れるなんて、良い事無いんだがな……」
そう告げながら、【警察】は少年に背を向けて、その場を去って行った。
片手を後ろにヒラヒラと振りながら、自分たちから遠ざかっていく栄志を見送った後。
霧島は自分の後ろにいる【依頼人】に向けて、今後の方針を話す。
「とりあえず情報収集したいと思います。本当は社長に合流してから話を進めたかったんですが、仕方ありません」
「……はい。よろしくお願いします」
覇気のない声。
その声の発信源。進藤麻衣の顔からは、深い悲しみの跡が見て取れる。
目は泣き腫らした所為か、真っ赤に充血していて痛々しい。
「……麻衣さん。今なら引き返せます。依頼を取り消しますか? もしかしたらこの先とてもつらい結末が待っているかもしれませんよ?」
マスタ—が【刹羅】に刺された場面を間近で見て、本気で悲しんだ少女。
そして、今尚彼女の悲しみは持続している。
そんな少女を見て、霧島はとある【不安】を抱え始めていた。
どうやら【探し人】は【こちら側の人間】の可能性があるらしい。
そういう人間が【消失】したという事は、霧島の様な人間なら【死】をまず予想するだろう。
そして、実際にその可能性は否定できない。
他人の【不幸】に涙出来る少女が、自分の父親の【不幸】に直面した時、どうなってしまうのか。
霧島には想像できない。想像をすることさえしたくない。
だからこそ【諦める】という行動を、少女に提示した霧島だったが。
すぐにその必要はなかったと、知ることになる。
「いえ、依頼は取り消しません」
「……大丈夫ですか? 最悪の可能性もあり得ますよ?」
「それでも、取り消しません」
覇気のない声で、それでも精一杯、強く自分の意思を伝えてくる麻衣。
その態度を受けても尚、言葉を並べようとした終夜は、その次の瞬間、麻衣の表情と言葉に固まる事になる。
「私は絶対諦めません」
笑顔。
どうしようもなく儚くて、折れそうなのに。
優しくて強い笑顔。
いや、微笑みというべきだろうか。
今まで霧島が見た事のないくらい、優しい微笑みが麻衣の顔には浮かんでいた。
言葉にも言いようのない、強い【意思】を感じ取る事ができる。
怖いはずなのに、恐怖を感じない訳はないのに。
彼女はとてつもなく【強かった】。
「……解りました。改めて、よろしくお願いします」
「はい!」
そこで初めて麻衣の声に生気が戻る。
マスタ—の事は心に残っているだろうが、それでも前に向かう決心を麻衣はしたのだ。
ならば、霧島がとやかく言う必要も意味も無い。
【便利屋】として、彼女の力になるのが、少年の今出来る一番の【行動】だ。
「それで、情報を集めるにはどうすればいいんですか?」
「そうですね……」
改めて、事態の進展の為の話を進める二人。
【情報】を収集できる場所。
本来それは、【情報屋】などに金を払って聞くのが一番だ。
【便利屋】として、そういうあても在るにはあるのだが。
(あの変態は情報量が糞高いからな……)
とある女装癖のある【情報屋】を思い出し、彼(もしくは彼女)の法外な情報量を考え、即座にその場所へ行く考えを打ち消す。
今回の【依頼人】には余り報酬は期待できない。ならなるべく金のかからない方向で話を進めたほうがいいだろう。
そう少年は考え、行く場所を余り悩まずに決めた。
「【志島・井出見組】って知っていますか?」
「しじま? いえ、聞いたことも無いです」
キョトンとした顔で返す少女。
だが、彼女がそんな顔になるのも無理はないだろう。
なにせその場所は、【一般人】にはあまり縁のない所なのだから……。
麻衣の表情を見て、霧島は困ったように笑いながら、これから向かう場所について説明する。
まるで、その場所に彼女を連れていくのに抵抗があるかのように……。
「まあ、端的に言うと、ヤクザ屋さん……ですかね?」
- Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.156 )
- 日時: 2011/05/04 01:08
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
第三章『霞み堕ちていく優しき想い』———《選択肢は無限大・辿り着く先は一つのみ》
「こいつは困ったなァ〜」
祠堂鍵谷は途方に暮れていた。
周りに黒服の惨殺死体が転がっている、人が歩くには狭い路地に突っ立っている。そんな状況で祠堂は珍しく本気で困っていた。
彼の雰囲気や態度からはそんな様子は一切感じられないが、事実彼は非常に切迫した状況に置かれている事は間違いない事だ。
切迫した状況。というのは、護衛任務の【対象】。
【殺し屋】である木地見輪禍が、独断で独走という状況の事だ。
これは木地見が突如現れた【イルミナティ】の男に、彼女が嬉々として戦闘行為に走った所為なのだが。
そんな事は【仕事】には関係ない。寧ろその男を排除するのが、【便利屋】としての祠堂の任務なのだ。
どんな突拍子の無い事象が起きても、それを上手く切り抜け【依頼】を達成する。それが【便利屋】の使命。それは報酬をもらうからには至極当然の事である。
だが、今回は彼ばかりを責めるのも酷だろう。
木地見という【依頼人】は、大人しく【護衛対象】としていてくれる程、正常な神経と常識は持ち合わせていない女性であり、非は彼女にもある。
「う〜ん。今から走っても追いつけないだろうし……。どうすっかなぁ〜」
自分が制止の言葉を掛ける前に、路地から走りだしてしまった木地見と【襲撃者】の二人を思い出して、のんびりと呟く祠堂。
突然の【襲撃者】。その人物は【便利屋】の祠堂にとっては常連客だ。
【襲撃者】の所属する組織、【イルミナティ】からの依頼はかなり多い。その中で、依頼人として直接祠堂に交渉をしてくる男が、何を隠そう先ほどの【襲撃者】なのである。
その依頼人兼襲撃者。桜島 雁麻(さくらじま かりま)と祠堂との付き合いはそれなりに長い。
桜島はこの地区の【イルミナティ】の重要幹部の一人であり、現場で行動する実力派の一人だ。
特に戦闘面ではかなりの【イルミナティ】の中でも随一である。
最近外国の本部から何人か新人が来たらしく、その中には桜島を超える逸材も要るらしいが、それについては祠堂は詳しくは知らない。
知る手段は持ち合わせて要るのだが、【依頼】でも無いのにそんな事を調べたとしても特に利益は無いので、ほったらかしている状況だ。
祠堂は【情報屋】では無く、【便利屋】だ。
情報を集める依頼などは受けるが、情報を常に欲して売っている【情報屋】等とは少し違うのである。
「まあ、あの人なら大丈夫そうだからとりあえずほっといていいか……」
彼女の強さは下っ端とはいえ、【イルミナティ】を一方的な虐殺に持ち込むほどの実力だ。
おそらく桜島よりは実力は上であると、祠堂は予測する。
「それにちょっと彼女と離れた方が都合がいいこともあるしな……」
祠堂は服の内ポケットから携帯を取り出す。
桜島の所為で確認できなかった着信履歴と、メールを確認する。
「ん〜? 終夜からかとお蔵ちゃんからか」
大量の着信履歴の発信元は、彼の部下である霧島終夜のものだった。
何か急ぎの用事だろうか?
メールの方は情報屋の男——というか限りなく女に近い男のモノだった。
(ちょうどいい、お蔵ちゃんには聞きたいことかなりあるし。終夜の用事はしばらく待ってもらうか)
祠堂はそう結論付け、今この【市】で起こっている様々な事柄の情報を得ることにした。
今この【市】は明らかにおかしい所が多すぎる。
何か嫌な予感が祠堂の中にわだかまって溜まっていた。
そして、彼がこういう感情を抱くときは、大抵嫌なことが発生する。
ならば、情報は絶対的に必要だ。
祠堂は携帯の登録番号から、【情報屋】という登録名を選び、電話をかける。
部下の事を気にかけつつ、とりあえず【依頼】の不確定要素の排除を優先する為に……。
もし。
もしこの時彼が仕事より、仲間を大事にする男だったら。
依頼をこなすことより、部下の心配をする男だったら。
未来は変っていたかもしれない。
それが良い方向か悪い方向かは、人それぞれの立場で変わるだろうが。
少なくとも【彼】は。
彼の命は。
失われなくても済んだかもしれない。
自分の信念を通し生きていた【彼】は、死ななくても済んだかもしれない。
そして同時に【彼女】の未来はもっと単純なものになったかもしれない。
彼がその力を発揮すれば、【彼】の命が狙われる前にすべての事を終えることが出来たかもしれない。
彼がその力を行使すれば、【彼女】は真実を見失う代わりに、諦めが付いたかもしれない。
祠堂鍵也という男にはそれだけの力があった。
だがそれは仮定の話だ。
未来は様々な選択により決定する。
決定には間違いも正解もない。
運命というのは、人の決定により様々な分岐点が存在するものなのだ。
そして【彼】のこのほんの些細な行動は、余りに大きすぎる【選択】だった。
物語は続く。
役者達が選択を放棄しない限り、続いていく。
物語が堕ちる速度は加速していく。
誰も止められない速度に。
役者の意思など関係なく。
加速していく。
- Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.157 )
- 日時: 2011/06/26 12:50
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
『余章』
選択。
一つの道筋。
つまり未来への繋がり。
【便利屋】が繋ぐ細い糸。
その繋がる先は……。
つまりどういう事なんですか?
『あらぁ〜、今の説明で分からなかったかしら? 抽象的すぎた?』
ええ、まあ。
『もぅ〜、仕様がないわねぇ〜。じゃあ、もっと分かりやすく教えて、ア・ゲ・ル・♪』
……ありがとうございます。
『要するにね、今この【井出見市】では【町】も【街】もいい男たちが、いい感じに、いい汗を流してるのよ。あ、良い女も居るわよ。癪だけど……』
あの、ですからもっとわかりやすく……。
『はいはい、わかってるわよん。あ、勿論いい男にはしーちゃんも含まれてるわぁ〜』
……ありがとうございます。
『あら、さっきと反応が一緒よ? 同じ動きをする男はあまり女性に好かれないわぁ〜。変化がマンネリ化を防ぐ、第一歩よ?』
何の話をしてるんですか……。
『あら、分からなかった? ふふっ、じゃあ、今度私がお相手してあげ——』
もういいですから、さっさと情報をお教え願いたいんですが? 今日はちょっと時間が無いようなので。
メールで大事な話があると連絡してきたのは、そちらの筈ですよ。
『あらぁ〜、つれないわね〜。まあ、いいわぁ。いい加減しーちゃんで遊ぶのはやめましょう』
……遊んでたんですか。
『ふふっ、まあいいじゃない。きっとあなたは今、私に聞きたい事があると思って、わざわざメールしてあげたのよ〜?』
確かに、聞きたい事は有りますが。
思考を読まれるというのは、少々恐怖を感じますね。
『伊達にあなたと一緒に仕事をして来て無いわよん。欲しいのは、今の【市】の状態についての情報よね?』
ええ。金は情報の精度に応じて、何時もの様に払わせていただきます。
『はいな。え〜と、今入ってきてるネタで分かる事はね……。ちょっと、あなたにとって都合が悪い事が多いかしらね』
どういう意味です?
『どうやら、あなたの部下。終夜ちゃんが、厄介な案件に首を突っ込んでるようね』
え?
『そして、あなたも相当面倒な護衛の依頼を請け負っているじゃない』
依頼の事は、私と依頼主位しか知らない筈なんですがね。流石です。それで、終夜がどうかしたんですか?
『あの子ね、どうやら一人で依頼を受けているらしいのよ。余りに個人的な依頼で、詳細は解らないんだけどね』
は? それだけでどうして厄介だと?
『その依頼人の名前は、進藤麻衣。それだけは解ったわ。どう? 聞き覚えある名前じゃないかしら?』
進藤……。
【イルミナティ】の幹部の一人ですよね?
『やっぱり知ってたか。進藤麻衣はね、彼の娘なのよ』
娘……。
『そして、進藤卓也。彼はつい最近【暗殺】されたわ』
暗殺?
誰にですか?
『木地見輪禍』
なっ、それって……。
『あなたの護衛対象が、あなたの部下の依頼主の、憎い憎い仇って事になるわね』
……成程。
あの着信履歴はそういう事か……。
俺に依頼を受けた事を、話したかったのか。
『さて、これからどうするの? 終夜君が受けた依頼は、恐らく進藤麻衣からの父親捜索の依頼だと思うわよ?』
何の連絡も無く家に帰ってこなかったら、心配するでしょうしね。
恐らく死体は回収されただろうし。
『恐らく木地見輪禍に【暗殺】を依頼した個人だが、組織だかが処理したんでしょう』
その組織への目星は?
って、まあ、あそこでしょうね……。
『【志島・井出見組】。【組織】の連中よ』
志島の旦那が言っていた、【仕事】ってのはこういう事か。
これは急いで木地見さんを探さないと。
『そう上手くいくかしらね?』
え? どういう事です?
『私は基本恋する乙女の味方って事よ』
いえ、意味不明ですが?
『あなたを探してる乙女がいたから、情報売っちゃった。テヘ♪ だからちょっとそっちのお相手してあげて頂戴』
えぇ!?
誰ですか! その乙女とやらはっ!!
『あなたの良く知っている【幼馴染】よ。じゃ、また何か用が合ったらよんでねぇ〜。バイバァ〜イ♪』
あ、ちょ、まだ話は終わってな……。
切られたか……。
しかし、俺の良く知っている幼馴染?
探している?
……オイオイ。嘘だろ。もしかして。
だけど、あいつが俺を探す意味なんて。もう無いはずなのに。
俺達は、もう会わない方がいいと……。
「鍵谷」
……嘘だろ。
何で。
何でお前がこんなところに。
こんなところに居るんだよ……。
「……。再会。歓喜感涙。私は心の底から嬉しいわ」
……。
「久しぶり。鍵谷。会いたかった……」
……。
本当に。
本当に久しぶりだな。
会えて悲しくなるくらい嬉しいよ。
【光加】……。
選択。
一つの道筋。
つまり未来への繋がり。
【便利屋】が繋ぐ細い糸。
その繋がる先は。
途轍もなく強靭で儚い。
【光】だった……。
- Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.158 )
- 日時: 2011/07/10 00:58
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
第三章『霞み堕ちていく優しき想い』———《辿りつく少年少女》1/2
豪華な椅子。
豪華な机。
豪華な壁紙。
豪華な置物。
総合すると豪華な部屋と言う事になる。
その空間は、【便利屋】の少年にとっては余りに煌びやか過ぎる空間の為、居心地の悪い場所であった。
それもそうだろう。
普段彼が過ごしている【事務所】は、お世辞にも豪華絢爛とは言い難い場所なのだから。
「まあ、そんなに堅くならないでください終夜さん」
「え、あ、はい。すみません」
そんなゴージャスなオーラを放つ、終夜にとっての異空間で、目の前に座る男が優しげな声を少年にかけてくる。
【志島・井出見組】の組長。つまり【組織】のナンバーワン。荒くれ者の頂上。外道共の纏め役。
志島健吾(しじま けんご)。
この男に睨まれたら、終夜などいくら【便利屋】とはいえ、一瞬で首と胴体がオサラバする事だろう。
それほどまでの力と、権力を持った男。それが健吾だ。
最も、彼が自分をその様な攻撃対象に定められる事は、ほぼ無いと終夜は思っている。
【便利屋】とは、依頼主の絶対的な味方だ。
しかし依頼主の味方でも、依頼主の敵は【便利屋】にとっての敵……という訳ではない。
その【敵】である相手も、彼らの【依頼主】になる可能性は十分存在するし、実際そうなる事は今まで何度もあった。
誰にとっても味方であり、誰にとっても邪魔者となる可能性がある、そういう矛盾した【仕事】なのだ。
つまり始めから【仲間】とは思われていない。
適当なときに頼り、適当なときに排除する。
そういう一つの【形】。
それを保っているのが【便利屋】。つまり、祠堂鍵谷と霧島終夜の【生き方】だ。
「ははは。謝られても困るのですが。あなたには祠堂さんと同様、何時もお世話になっていますし。私ども一同、感謝しているのです。ですので、そう畏まらないで頂きたい」
「善処します」
二コリと笑いながら終夜は健吾の気遣いに応える。
最も心の中では。
(緊張しない様に出来る訳ないだろう!? 怖すぎるわこの人! なんで顔にでっかい傷あるんだよ! 直視できねえよ!)
と失礼な事を考えていたのだが、心の内の声など一切表情に出すことなく、少年はにこやかな笑顔を浮かべる。
内面と外面の使い分けが同時にできなければ、【便利屋】という仕事をこなす事は出来ない。
正確には、彼の様なグレーゾーンか、完璧にブラックな領分にも手を突っ込んでいる人間にとっては。なのだが……。
「えーと、それで。今回こちらに尋ねてきたのは、何か聞きたい事があるからでしたかな?」
対する健吾も、柔和な笑みを浮かべつつ、話を進める。
最も笑みを浮かべているといっても。目は鋭く、何もかもを視線だけで威圧するような錯覚さえも思わせるので、全く柔和な雰囲気にはならないのだが……。
そんな生粋のヤクザに、終夜はなるだけ平静を保ちつつ、質問したい事を並べ立てる事にした。
一つ、最近この【市】で警察の目に触れない殺人は起こらなかったか?
二つ、進藤卓也という人間を知らないか?
三つ、祠堂鍵谷がどこにいるか知らないか?
そうした内容の質問を、彼は一気に並びたてた。
「そう、ですねぇ。成程。あなたが来た理由はそうでしたか……」
と、終夜の話を黙って聞いていた健吾は、話を聞き終わった後。
小さなため息の後、ポツリと少年に聞こえるか聞こえないかの音量で呟いた。
その表情から笑みは消え、何か考え事をしている——というよりは困った状況になった。と言った様な表情を作った。
「何か知っているんですか? 差し支えなければお教えいただきたいのですが」
「ふむ……。ああ、そうそう。祠堂さんには今こちらから依頼をしているので、連絡が取り辛いだけだと思います」
「そうなんですか……」
聞きたい情報の内、最も優先度の低い情報だけ手に入る。
だが、今本当に欲しいのはその情報じゃない。
終夜の勘だが、恐らく健吾は彼が最も必要とする情報を【知っている】。
質問した事の全てではないだろうが、何かをつかんでいる可能性が高い。
【市】の状況が全く分からない現在の状況で、無償で頼れる存在は、祠堂の協力が得られないとはっきり分かった今、この恐怖の権化のような男しかいない。
ならばどんな些細な事でも、聞いておきたいのが彼の心情だった。
だが同時に、思う。
彼の口から発せられる【情報】。
それについて、どこか胸の奥に暗い感情が渦巻く。
(嫌な予感がする……。何か、聞いちゃいけないような、聞いたら何かが壊れてしまうような、そんな気が……)
目の前の、自分たちには色々良くしてくれる人間が、自分の質問に応えるのを渋っている。
そこに何か言いようのない【不安】が、少年の心を侵し始めていた。
そして、その感情は全くもって——
——正しいものである事を、終夜は理解してしまう事になる。
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