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その人は、言いました。
日時: 2010/10/15 19:58
名前: 山茶花 (ID: o4cexdZf)

『近藤 遥香』

 それがその人の名前でした。

 
 先月、転入してきた美少女です。

 

 「うぉーーーー!」

 男子は歓喜の声をあげました。

 その中には、私の好きな人、『一輝くん』も混ざっていて、苛立ちがおさまりませんでした。

 
 栗色の髪をなびかせた、大きな瞳をもつ小柄なその人は、誰とも群れることなくひとりきりで過ごしていました。

 いいえ、違います。

 彼女には、やはり友達がいたようです。

 
 彼女と同じく、今まで一匹オオカミを気取っていた『美樹』と、それから『本』という名の紙の集まりでした。


 あぁ、あんな奴に友達ができるなんてっ

 





 毎日、私は苛々し、ストレスから爪を噛み、殺気のこもる眼で彼女を見つめていました。

 
 それには、大きな理由がありました。


 一輝くんが、本気で彼女を想い始めたからです。


 あんなやつ、死ねばいい! 死ねばいい!! 死ねばいいっ!!!







 今日、私は見てしまいました。

 その人の白い太ももに、無数のあざがあることを。

 青や紫や赤っぽい色。
 
 奇妙な深い緑色。

 黒い色。


 思わず、笑いがこぼれてしまいます。

 その人の弱点を見つけたからです。

 
 


 
 
 
 「死んじゃえ」

 その人は、言いました。

 低い、無感情な声で、言いました。


 その声は、あのときこぼれた笑いを、絶望という名のうめき声に変えました。


 本当に死んでしまった方がいいんじゃないかと、幾度も考えました。


 
 ちょっとした、悪ふざけのつもりでした。

 一輝くんの視線を、彼女から外すためのお遊びのはずでした。

 

 平然とした態度で歩いていた彼女を、自分の足につまずかせました。

 ビタンッ という音がして、彼女は前から転びました。

 
 スカートがひらりとめくれ、白く細い太ももがのぞきました。

 そこに、まるで、模様のような様々な色を持つあざが、ちりばめられていました。


 「ねぇー!ちょっと、見て—。
  この子、足にあざの跡がたくさんあるんですけどぉっ。
  親に虐待でもされてんじゃないの??」


 皆、興味を持ってくれたようで、そこに人だかりができました。

 「わ、ほんとだ」「うげー!マジで虐待されてんの!?」
 「あざだらけで汚ぇ」「足、死んでるんじゃないの〜」

 皆からの心ない一言に、私の口元が緩み「くすっ」と笑ってしまいました。


 そのとたん、彼女の顔があがり、まっすぐに私を見つめました。

 最初、泣きそうに顔を歪めたかと思えば、次の瞬間、その顔が、感情が一ミリも感じられない顔に変わりました。

 駿足で変化した表情に、私が呆気にとられていると。



 「死んじゃえ」


 胸に、ナイフが数十本突き刺さったように思いました。

 






 
 最近、気がつくと、よく屋上に来ています。

 きっと、彼女が原因です。

 少しでも目が合うと、

 『こっちを見るな』
 『死ね』
 『散れ』

 という顔をしてきます。

 
 それが、冗談ではなく、本気そのものなのです。

 その顔を見ると、胸の中に重たくて、苦い、黒いものが溜まってゆくように感じられます。

 
 死にたくなるのです。

 
 屋上から飛び降りてしまいたい、と思うのです。







 
 
 今、屋上にいます。

 生きている間に、この最後の日記を書きつけたいと思います。


 今日が、私の命日です。


 彼女の、最後にかけた言葉は、心を深く、大きく抉りました。


 『いつまで生きているつもり?』


 あちこちを鋭い刃物で貫かれ、血が音も立てずに体から抜けていくような気分でした。


 あの低い声には、それほどの威力がありました。


 
 もう、あの声と、あの顔と永遠に別れることができると思うと、ほっとします。

 死ぬよりも、彼女の無感情な動作や声が恐ろしかったのです。


 さぁ、早く。

 天国への階段を、駆け上がりましょう。


 
 最後に・・・この足元も見えない暗闇の中で。


 私がこの世を去る時は、必ず、今までの恐ろしさを吹き飛ばすような笑顔で、家族と友達に別れを告げることを誓いましょう。


 それから、彼女にも。



        「さようなら」


                                                   10月●日 Fin.


 
 






 ※この物語はフィクションです。


 
 

 

 
 

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