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特攻隊
日時: 2010/11/14 09:39
名前: ピストン源次郎 (ID: tVjHCvxF)
参照: http://higawari.qee.jp/higawari.html


未だバブル華やかなりし頃のお話です。
そのおばあさんは、都心の古びた木造平屋に独りで住んでいました。
その土地は、先の戦争で戦死した夫が遺してくれたものでした。
二人の間には子どもはいなかったので、おばあさんを訪ねてくる者といえば区の保健婦ぐらいでした。
遺族年金で慎ましやかに暮らしてきたおばあさんも、最近めっきり身体が衰え、買い物に外を出歩く姿を見かけることも少なくなりました。
心配した保健婦のおばさんが訪ねていくと、じっと仏壇に向かって手を合わせていることが多かったといいます。
仏壇には、今は亡き夫の若かりし頃の写真が飾ってありました。
写真の中で、特攻服に身を包んだ精悍な若者がすがすがしい笑みを浮かべていました。
その大きな額縁の横には、出征直前に二人で撮った写真も飾られていました。
その中でも、若い二人は静かに微笑んでいました。保健婦を迎えるおばあさんの笑みに、その当時の面影が残っているようでした。
おばあさんは、今では半ばボケかかっていましたが、その当時の記憶だけは鮮明に残っているようでした。
そして、保健婦のおばさんを相手に何時間も話すのです。
夫がいかに素晴らしい男性であったか、二人がいかに心から愛し合っていたかを。
そんな時、保健婦は小さくしなびたおばあさんの中に、今でも恋する乙女の眼差しを見出して感じ入ったといいます。
孤独なおばあさんも、話し相手ができて幾分元気を取り戻しかけていたそんな頃、とんでもない事件が起こったのです。
おばあさんの家にダンプが突っ込んだのです。
保健婦が慌てて様子を見に行くと、幸いおばあさんは買い物に出かけて留守だったので怪我一つありませんでしたが、木造平屋の家は半分倒壊しかかっていました。
買い物から帰ってきたおばあさんは、めちゃめちゃになった仏壇の残骸の前で呆然と立ちつくしていたといいます。
それは、不運な事故などではありませんでした。
保健婦にはすぐに思い当たる節がありました。
おばあさんの土地は都心の一等地にあり、周囲の民家も地上げにあって次々と引っ越していたからです。
そして、おばあさんのところにも、柄の悪そうな連中がたびたび押しかけていました。
保健婦も、訪問中に一度ならずそういう連中がずかずかと家に入り込んでくるのを目にしていました。
連中は、いくら金を積まれようと、おばあさんがこの土地を手放す気がないことを知ると、露骨に嫌がらせをするようになりました。
そしておばあさんを暗に脅すようになっていたのです。
一度などは、どこかの組の幹部らしい男が直接乗り込んできて、たまたま居合わせた保健婦の面前で、公然とこう言ったといいます。

 「ばあさんよ、特攻隊はあんたの死んだ亭主だけやないんやで。うちにも後先考えんとダンプで突っ込んでいくようなアホがぎょうさんおる。アホは止めようがないからの」

その時、おばあさんは下を向いて小さな肩を震わせていたといいます。
脅しがこたえたというより、亡き夫を侮辱されたのが何より悔しかったのでしょう。
保健婦の証言で、ダンプを運転していた組員と、組の幹部は警察の取り調べを受けましたが、幹部は証拠不充分ですぐに出てきてしまいました。
事件後、半壊した家にそれでも住み続けようとするおばあさんを懸命に説得して、保健婦は近くにアパートを借りました。
でも、後になって考えると、その時既におばあさんは意を決していたようでした。

その驚くべき事件が起きたのは、ダンプ突入事件から二週間ほどたった頃です。
おばあさんを脅していた不動産関連の組の事務所が爆破されたのです。
生き延びた組員の証言によると、組長ともども十数人の構成員を道連れにして組を壊滅状態に追い込んだのは、何とあのおばあさんだったのです。
その日おばあさんは、直接組の事務所に出向いてきて、組長に会いたいと言ったそうです。
ついに折れて土地を譲り渡す気になったのだろうと、契約書の準備をして、組長自ら迎え入れたのが運の尽きでした。
おばあさんは、帯の下にダイナマイトを隠し持っていたのです。
おばあさんが、どこからそんな物騒な物を手に入れたのかは、未だに謎のままです。
しかし、事件後保健婦宛てに届いた手紙には、こうしたためられてあったそうです。

 「竹内さん、これまでいろいろとお世話になりました。夫の土地は区に寄付したいと思います。どうか恵まれない人々のために役立ててくださいませ。それから、念のために申し添えますが、私のお墓を立ててくださるには及びません。私の遺骨は、夫の遺骨同様、おそらくは何も残っていないでしょうから。それに、お墓はもともと後に遺された者のためのもの。私たちは、これまでも、そしてこれからもずうっと二人だけなのです」

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Re: 特攻隊 ( No.1 )
日時: 2010/11/14 09:42
名前: doctor・wave博士 ◆QvwPegAY7c (ID: S1CkG5af)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode

俺スレッド一覧見ながら
特殊部隊って考えてた

Re: 特攻隊 ( No.2 )
日時: 2011/10/21 21:41
名前: 茶色カバン (ID: blFCHlg4)

〉お墓はもともと後に遺された者のためのもの

この一行がぐっときた。



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