ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

坂道実包
日時: 2010/11/14 19:41
名前: シューマイ (ID: uv8uJrDZ)


鉄砲坂

我が家から2km程離れた場所にその坂道はあった。

塗立ての墨色をしたコンクリートの色が
特徴的だが、それだけではない。

驚きの急斜面なのだ、

立っている事すら難しい
その急斜面は、度胸試しの名所として

近所の子供達が良く遊んでいる。

私も自宅から職場まで行くのにこの坂道を
下るが、なんとも危なかしい。

この坂を考えた人は、一体何を考えていたの
だろうかと私はしみじみ思いながらこの坂を
上っていた。

今日はいつもより早く仕事が終わったが

それでもこの坂の周辺は薄暗かった。

鉄砲坂が昼夜関係なく薄暗いのはいつもそうだ。

この墨色をした坂が太陽の陽射しを吸収する。

何の種類かは分からないが、回りに生い茂る
アイビーグリーンの色をした雑草が
陽射しの一部を遮断し、湿らせる。

じめじめとした坂だ。

だが、そんな坂でも下る時は言葉では言えない
爽快感を生み出す。

得意の急斜面が湿り気を弾き飛ばして
涼しい風を作り出すのだ。

自転車に乗っているわけでもない、走っているわけ
でもない。

ただ、歩いているだけでこの爽快感は生まれる。

髪の毛を靡かせ、服がバタバタと音を立てれば
間から風が流れ込む。

その感覚をしばらく楽しんだ後、坂を抜ければ
朝日が私に降り注ぐ。

私はこの感覚が好きなのだ。

最近運動不足な気がして、今日は久々にこの
坂を上ってみた。

鉄砲坂を息を切らしながら上っていた時

あれが下ってきた。

Page:1



Re: 坂道実包 ( No.1 )
日時: 2010/11/16 17:55
名前: シューマイ (ID: qsVr6ycu)

プロローグ
「シグナルレッド」

コーデュロイでできた服がコンクリートと

擦れる音が自分の前方から聞こえてくる。

普段この辺りの子供が度胸試しに

この坂を一気に下ったり上ったりしているのを

たまに見かけるが、その速度とは
比べ物にはならない速度だ。

大人が走っているのだろうか。

いや違う。この速度で坂を下れば、間違いなく
途中で転倒するはずだろう。

ましてや鉄砲坂だ。

立っている事すらも難しい坂で全速力で
走る人など居るのだろうか。

服が擦れる音が段々と此方に近づいて来る。

私は咄嗟に身構えた。

身構えたといっても、此方に確実に近づいて来ている
何かの進行方向から左側の位置に逸れただけだが

それでも、今の私にとっては十分すぎる構えだった。

私の横を一瞬、それが通り過ぎた。

服以外にも色んな箇所が擦れ
体中が掠り傷だらけになっている。

目は白目に反転し、額には何かが

当たった様な空洞が開いており、そこからは

血が大量に噴出していた。


それは私の横を通り過ぎた後、一気に
坂の下まで下っていき、目の前の塀に
勢い良く激突した。

ぐしゃっ、と鈍い音がする。

これが頭蓋の割れる音なのだろうか。
それとも、他の箇所が折れた音なのだろうか。

そんな事定かではない。

音がしたと思った同時に、コンクリートで
できた灰色の堀に血が厚塗りされる。

それは血を厚塗りさせたかと思うと
ゆっくりと、地面に横たわった。


これでは死んでしまったのではないのか。


いや、死んでいる。

これは死体だ。




私の心拍数が高まる。筋肉が活動し始め、私に
走れと警告する。

坂を一気に上れと警告する。

あれを見るなと警告する。




私は一気に走りだした。今までの疲労感が
嘘の様に、足は動き出す。

気がつけば、私は坂をもう上りきっていた。

私の横を通り過ぎたあれは何を堀に厚塗りしたか。

何の色を厚塗りしたのか。



あの色は。


シグナルレッド。


プロローグ終り。


Page:1



この掲示板は過去ログ化されています。