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- 憧憬
- 日時: 2010/11/14 22:11
- 名前: むひゃ (ID: 84ALaHox)
ファンタジーです。
復讐のはなしです。
ちょっと、いやな表現があると思うので、
ゼロレスをつかわせていただきました。
よろしく、おねがいします。
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- Re: 憧憬 ( No.1 )
- 日時: 2010/11/17 18:55
- 名前: むひゃ (ID: 84ALaHox)
キースは憤りを隠せなかった。
前王が死去して数日、十四歳でありながら王となったユイ王子を育て上げたのは、ほかのだれでもない、キースであった。お守り役として、そして、唯一の友人としてそばに寄り添っていた。ときおり、意見があわないときもあったが、それも信頼ゆえの行為だとキースは信じていた。
しかし、当のユイ王子、もとい王はさきほど、キースになんの相談もなく「国政以下国にかかわるすべてのこと、信頼する者に任せる」と王の役目を放り投げてしまったのである。
王の間へとつくと、キースはノックも忘れ乱暴に荘厳な扉をあけた。部屋の中央にあるやけに豪華な椅子には、幼い顔には似合わない絢爛な衣装を着込んだユイ王が座っていた。
ユイは窓の外へ向けていた視線をキースにうつすと、大仰なためいきをついた。うっとうしい。そう目が語っている。キースはさらに腹立って、なにも気にせずに大声で怒鳴った。
「なぜ、私に何も相談しなかったんです!」
するとユイは何も言わずに腹を見せた。その白磁のような肌には、痛々しいあざがいくつもできている。キースははっとして息を呑むと、今度はその華奢な肩をつかみゆさぶった。
「だれが! いったいだれがこんなことを!」
「言ったところで、どうにもならないだろう……」
部屋が静寂に支配される。
キースは最年少の星詠みとして名を知られてこそいたが、それはすべて天体学者である父のコネを駆使したものである。優秀でこそあるが、王宮内での権力は無いに等しい。また、彼はひ弱でもある。
なにもいえなくなってしまったキースではあるが、やはり納得がいかないように、美しい金色の髪をかき乱した。
みかねたようにユイが言う。
「そんなに知りたいならば、ミダルバに聞いてみると良い。僕は、明日の準備があって、お前とは一緒にいられない。かといって、自分から話すのもはばかられる。ミダルバならば、きっと話してくれるだろう」
キースの頭に、褐色の肌を持つ青年が浮かんだ。ミダルバというのは、明日帰ってくるユイの姉、シン王女のお付きの一人であり、頑固ではあるが真面目な好青年だ。
「しかし、シン王女のお帰りは明日のはずでは?」
「ミダルバだけは、明日の準備を手伝うと帰ってきている。運悪くあの光景も目撃していたのでな、こころよく話してくれるだろうさ。今なら広間にいるだろう」
皮肉をこめたようにユイが言った。いてもいられなくなったキースは、さっと身をひるがえすと、ミダルバがいる広間へ向かった。
- Re: 憧憬 ( No.2 )
- 日時: 2010/11/17 19:14
- 名前: むひゃ (ID: 84ALaHox)
広間にはたしかにミダルバがいた。
眉間にしわを寄せた頑固そうな顔つきはかわっていない。名前を呼ぶとすぐに反応して、キースへ駆け寄ってきた。その動きぶりは、さすが軍人といえる。
「久しぶり、ミダルバ!」
「ああ、お久しぶりです、キースさん」
キースが十八に対し、七つも年上のミダルバがうやうやしく頭をたれた。その様子にキースは満足したような顔で、やさしくミダルバの頭を何度かたたいた。お坊ちゃんであったがゆえに常識知らずなところがあるキースだが、ミダルバも下民出身なのをいまだに引け目に感じているため、この関係がしっくりくるようだった。
「忙しいだろうけれど、少し話があるんだ」
ミダルバは少し悩んだ様子だったが、深刻そうなキースの顔を見て了承した。
こっち、とキースが彼を誘い込んだのは医務室であった。
「カギは、僕が持っているんだ。だから、気兼ねなく話してくれ。その、ユイ王子の身に、なにがあったのかを……。ああ、王子からは、了承をえているから」
しかしミダルバは、それから一言も発さなかった。
青ざめたり、真っ赤になったり、めまぐるしくかわるミダルバの顔をみていたキースだったが、とうとう退屈になって、ミダルバの屈強な体を弱弱しいこぶしで殴りつけた。
「ユイ王子は、僕の主君だぞ! 話してくれないと、シン王女もこうしてやる! えいっ、えいっ」
おそらく思い切り殴りつけているであろうこぶしだったが、ミダルバには痛くもかゆくもなかった。しかし、主君のためにと必死になるキースの姿に感じるものがあったのか、ミダルバはその手をやさしくとめると、声をひそめて話し出した。
「ルーベン宰相はご存知でしょう」
意外な名に驚きながらも、キースはこくりと頷いた。
世襲宰相でありながらひじょうに有能なルーベンの名を、王宮内で知らぬ者はいなかった。
「それと、大商人のガボ様……。彼らが、ユイ王の寝室におしいり、暴行なさったのです。それは、恐ろしい光景でした。ユイ王は泣いたり叫んだり、まさに地獄とよんでもさしつかえないほどの」
そこでキースはミダルバの口をおさえた。
驚いているミダルバを意にも介さず、キースはまたもや大声で怒鳴った。
「見ていたならば、なぜユイ王子を助けなかったんだ!」
もっとものことだった。
ミダルバも悲しそうに目を伏せて、キースの手をどける。そしてなにか苦悶しながら、そこらじゅうを歩き回り始めた。これは、ミダルバが秘密を話そうか話すまいか本気で悩むときの癖であった。
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