ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- -さよならの唄-
- 日時: 2010/11/17 17:48
- 名前: 黄昏 (ID: 81HzK4GC)
「ららー、らららー、ら……」
少女は歌っていた。陽が沈みかけ、空が血色に染まっていた。腰まで伸びた黒髪が風に揺れる。
「ねえ、何。その歌」
少年は問いかけた。
「知らないの? “さよならの唄”……だよ」
「へぇ……」
少年はふぅんと言った風に何度も頷きながら顔を上げた。
夕陽に手をかざすと、それすらも赤く見えた___________
〜孤独を、寂しさを、悲しみを。言葉に乗せて〜
どうも、黄昏/Tasogareです。
「黄昏」とか「たそがれ」とか「馬鹿」とか適当に呼んでやってください。
久しぶりのシリアスーなお話で若干緊張気味ですが、
コメントとか頂けるとテンション上がったりします。
ではしばし、黄昏の駄作にお付き合いを__________
第1章 「世の中とはそんなもの」
>>1 >>3 >>4
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- 第1章 世の中とはそんなもの ( No.1 )
- 日時: 2010/11/15 22:27
- 名前: 第1章 日常とはこんなもの (ID: 81HzK4GC)
「現実って、何か寂しいよね……」
小花はふと、呟いた。学校の帰り道、隣にいるのはいつもの通り、幼なじみの卯太であった。
学ランに見を包んだ少年と、セーラー服の少女と、風に舞う木の葉。
それは、まるで、一枚の写真のようであった。
「何、またそれ? まぁ、そうかもね。仕方ないと思うけど」
「仕方ないこと……か」
遠くを見つめるような目で道を見据える小花を横目に見ながら、卯太は溜め息をついた。
「小花はさ、もっと楽しいこと考えたら良いと思うな」
「何それ。卯太はいつも楽しいこと考えてるの」
「いや、そりゃ無理かもしれないけど……」
卯太は困ったように苦笑して頭をかいた。
街路樹は紅葉して衣替えを向かえるため、その葉を散らしていた。
木の葉がはらりと小花の頭の上に着地すると、彼女はそれを一度つまみ、
じっと見てからゆっくりと放した。
葉は風に乗ってひらひらと飛んでいったが、すぐに落ちてしまった。その上を、人が通り過ぎる。
「可哀想だね」
小花はそれを見つめながら言った。
「もう一度飛ばせてあげたのに、やっぱり落ちちゃうんだね。
そして誰にも気づかれず、みんなに踏まれて死んでいくの……」
一際強い風がびゅうとふき、茶色い葉の海が波を立てる。
それを見つめる小花の顔に、表情はなかった。
「世の中ってさ……冷たいよね、うた」
「まぁ、そんなものだよ、小花」
卯太は静かに小花の手をひいて、再び歩き始めた。
- 主な登場人物 ( No.2 )
- 日時: 2010/11/15 22:34
- 名前: 黄昏 (ID: 81HzK4GC)
園辺 小花 Kohana-Sonobe(♀)
井上 卯太 Uta-Inoue(♂)
海道 啓 Kei-Kaido(♂)
丘野 桜 Sakura-Okano(♀)
- 第1章 世の中とはそんなもの ( No.3 )
- 日時: 2010/11/16 23:27
- 名前: 黄昏 (ID: 81HzK4GC)
11月24日(水) <晴れのち曇り>
小花から「表情」というものが無くなったのは、いつからだっただろうか。
そう。あれは、小学五年生の時だった。彼女は四歳離れた姉を亡くした。
何故死んだのか、どのように死んだのか、おれは知らない。
でも、五年前のその出来事が、彼女の心に深い傷を残したことは明らかだった。
あれから俺は、小花の笑っている所や泣いている所を見ていない。
いつも無表情で、ぼーっとしていることが多い。
口数も前より減ったけれど、たまに変なことを言う。
今日だって……
「うた。兎はね、独りぼっちで寂しいと死んじゃうんだって。
でも、それって全部の動物に言えることだよね。人だって、一人じゃ生きていけないもの。
兎だけじゃないよね」
小花は学校の兎小屋を見ながらそう言った。
「孤独で死ぬなんて、何だか寂しいな」
と俺が言うと、小花は首を傾げた。
「どうして? 独りぼっちで生き長らえるよりも、死んじゃった方が楽じゃない?
……独りぼっちは寂しいもの。死んじやった方が幸せじゃない?」
小花がまるで「そうだ」と言ってほしいようにするものだから、
おれは「そうかもしれない」と呟いておいた。
小花は安心したのか、ふっと息をついて兎を見ていた。二匹の兎は仲良く跳ねていた。
記憶の中の小花の笑った顔も、嬉しそうな顔も、喜んでいる顔も今は薄れてきている。
でも、いつかもう一度、小花の笑顔を見れることを、おれは願う。
明日も学校だ。今日は早く眠ろう。
卯月はペンを置き、日記をぱたりと閉じた。
日記といっても、毎日つけているわけではなく、
気が向いたときに、思ったことや気になったことをを書いているだけなのだが。
部屋の明かりを消すと、卯月は引きずられるようにして眠りについた。
- Re: -さよならの唄- ( No.4 )
- 日時: 2010/11/17 17:47
- 名前: 黄昏 (ID: 81HzK4GC)
朝。冷たい空気から逃げるように、卯太は毛布にくるまりもぞもぞとしていた。
下から母親が呼ぶ声がして、嫌々ながらに起き上がると、寝ぼけ眼をこすりながら階段を降りる。
「卯太、急がないと遅刻するよー」
母は、肩まである茶色の髪を一つにまとめ、朝ご飯を食べていた。
卯太はぼーっとした頭で母の言葉を繰り返した。
(…………遅刻するよー?)
ふと時計を見て。着替えてもいない自分を見て。
朝ご飯を食べる母を見て。働かない頭をフル回転させて。
そして気付いた。
「あぁぁぁぁぁぁ! 何で起こしてくれなかったの!」
「起こしたでしょ。ついさっき」
「いや遅いからっ!」
卯太はそう叫びながら、着替えるために再び階段を駆け上がっていった。
「こういうことは、落ち着いて考えてみると自業自得だったことに気付く。
そして後から、母をせめたことを恥ずかしく思うものである。」
その日、卯太は日記にそう書き足したという……。
*
「ごめん、小花!!」
いつもの待ち合わせ場所にやっとの思いで到着すると、小花は今日も、無表情で突っ立っていた。
卯太が手を合わせながら必死に謝っていると、小花は小さく首をふった。
「別にいい。怒ってない」
(いや、それ無表情で言われると逆に怖いんだけど……)
卯太はそう思ったが口には出さず、胸にしまった。
「ごめんな、小花。じゃ、行こっか」
卯太は冷たい小さな手を引きながら歩いた。今日はいつもより、少し早歩きだ。
学校までそんなに距離はなく、15分ほどでつく。
「卯ー太ー」
突然後ろから声をかけられた。振り向くと、比較的大柄な少年が立っていた。
「なんだ、啓か」
「ひどっ。なんだ。は無いだろー。あ、おはよう園辺」
「…………」
啓に声をかけられたが、小花は反応しなかった。卯太以外とは殆ど喋らないのだ。
啓は特に気にする様子もなく、卯太の隣に並んだ。
「卯太ー、今日数学の小テストじゃん? オレ昨日寝ちゃってさ。教えてくれー」
「そんなの勉強してないのが悪いんだよ。知るかー」
「卯太が冷たいぃー」
啓が口を尖らせる。毎日のように行われているやりとりだ。
こうして、啓と登校することになった卯太であった……。
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