ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 食い込む冠の苦痛と愛を。
- 日時: 2010/11/27 08:50
- 名前: 羽衣 (ID: 4jdelmOD)
こんにちは!
羽衣といいます。
シリアス・ダークでは初めてです!
今回はかつて伝説とされたロシアの皇女(実在です)をテーマにした物語をかきたいと思います!
めっちゃ奥深い小説になると思いますが、よろしくお願いします!!!
とりあえず見てやってください(笑)
少しでも何か感じていただけたらコメをかいていただくと嬉しいです。(あっ、強制じゃありません)
[古き回想のプロローグ] >>1
[序章 少女時代] >>2
>>3
>>4
>>5
>>6
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- Re: 皇女の肖像 ( No.2 )
- 日時: 2010/11/25 20:35
- 名前: 羽衣 (ID: 4jdelmOD)
[序章 少女時代]
突然の揺れに、私は深い眠りから目覚めた。
私は乳母のアンナのそばのベッドにいた。
体中のあちこちに新調のシーツのにおいがしたので幼い私にも長時間眠っていたことが分かった。
「アンナ…、ここはどこ?」
アンナも眠っていたようだったが、私の声に気付いて目を開けた。エメラルドグリーンの目が、心なしか濡れて揺れ動いていた。「ああ…ナターシャさま…」
私はまわりを見渡した。
船室のようだ。
広い部屋になっていて、アンナは白いソファに腰掛けている。となりの小さなベッドには兄のロランがすうすうと眠っていた。さっきの揺れは大きな波がぶつかったからかもしれない。
アンナが目をこすりながら微笑んだ。
「お船の中でございますよ。お嬢様。長い間お眠りになられていたので覚えていませんか?」
ええ、と私はうなずき、それから体を起こしてアンナを振り向いた。
「私たちはどこへ向かっているの?」
「平和な国へですわ。暖かくて、ロシアのように寒くないところへ」
「ロシアはどこへいってしまったの?」
「どこって…」
アンナが困ったように首をかしげた。
「何時間も前にロシアを起ちましたから、もうずいぶん遠くにあると思いますよ」
私はとたんに不機嫌になった。
祖国を捨てるなんて、父さまが許さない。祖国を捨てるのは、命を捨てるようなものだと父さまが言っているのを、アンナは知らないのだろうか。
「ロシアを捨てるつもりなの?」
厳しい口調で問うと、アンナは表情をくもらせ、目を伏せた。
「そうではありませんわ…ただ…」
「父さまに会わせて。父さまは祖国を捨てるのは下劣だといつもいってらしたわ。そんな父さまが私とロランを連れて船で異国へいくなど信じられない」
「でも、お嬢様。伯爵は男爵や子爵と話しておいでです」
「それでもいくわ」
「お嬢様…」
私はベッドから降りると、ロランのベッドへ近づき寝顔を見つめた。「お兄さま、寝てるのね」
「私、これから父さまのところへ行くわ。行って確かめてくる」
「ナターシャさま…!」
アンナが私を引き留めようとしたけれど、私は扉へ向かって外へ出た。暗い廊下が私を怖がらせたけど、父さまを見つけるまでは後戻りはしないつもりだった。
- Re: 食い込む冠の苦痛と愛を。 ( No.3 )
- 日時: 2010/11/26 17:06
- 名前: 羽衣 (ID: 4jdelmOD)
たくさんある船室の中で唯一灯りがともっている部屋を見つけたので、私が耳をすましてみると中から人の声がした。
「アメリカでは、我々を歓迎するだろう」
タートフ子爵の声がする。それからクリフト男爵の声もだ。「だといいが」
「ロシアの亡命貴族を歓迎したところで、一体何の利益があるのだ?」
「だが長年の友もいる」
父さまの声だ!
私はすぐにさま音高く飛び込んだ。だが三人の雰囲気を考えると、それを控えるべきだったのかもしれない。「父さま!!」
フランス製の古いテーブルをかこんで、三人がこっちを向いて驚いたような表情を浮かべた。だけどすぐさま父さまは微笑を浮かべながら近づいてきた。
「ナターシャ、ロランとともに寝てたのではないのかね」
私は抗議するような口調で返した。
「父さま。なぜロシアを離れたの?」
父さまの目にありありと困惑の色が浮かぶ。
「それはね…ナターシャ」
私は大きな父さまの手をつかんだ。
「君たちを、守るためなんだよ」
「守る?どうして?君たちって私とロランなの?」
「お嬢様、伯爵は疲れています」
タートフ子爵が口をはさんだ。私は彼をキッとにらみつけると父さまに向かって口を開こうとした。そのとき背後の扉がひらき、ひどく慌てたようなアンナが入ってきた。
「申し訳ございません。伯爵さま!」
父さまのこわばった顔がやわらいだ。追いつめられた犯人が、危機一髪助かったような顔をしている。すると私のちいさな体がフワリと持ち上げられ、アンナに手渡された。父さまは私の金髪にキスをすると、笑顔になった。
「おやすみ。ナターシャ。明日の朝に会おう」
明日の朝?今は夜なの?
私は部屋中に視線を走らせたが、時計はなかった。アンナが耳元でささやいた。「お嬢様、勝手に部屋をでてはいけませんわ。さあ、ロランさまもいますから、戻りましょう」
父のおびえた視線を背中に感じていたが、私はアンナに扉を閉められ、振り向くことができなかった。
- Re: 食い込む冠の苦痛と愛を。 ( No.4 )
- 日時: 2010/11/26 17:38
- 名前: 羽衣 (ID: 4jdelmOD)
「ターシャ。おはよう。朝だよ」
現実の世界からロランの明るい声がし、私は目を開けた。
金色の光が、窓から差し込んでいる。
その光がロランにそそがれ、彼の金髪が光輝き、顔は活気にみちて私を見下ろしていた。父さま譲りの淡いガーネット色の目が、ルビーのように輝いている。頬は薔薇色だった。
彼はそこにいるだけでまるで天使だった。
私はたまらず微笑み、自分を起こしてくれたその天使のカールした髪にふれた。髪は私の指に優しく絡みついた。
「どうしたの?さ、早く起きて朝食に行こう。父さんも待ってる」
「うん」私がうなずき、ネグリジェに薄いセーターを羽織っていこうとしたのでロランが止めた。彼の手にはクリーム色のセーラー服がにぎられており、紺色のスカーフがのぞいていた。「ネグリジェじゃだめだよ。これを着ろだってアンナ乳母さんからいわれた」
「セーラー服ね」
「新しいっていってたよ」
「分かったわ。ロラン、外でちょっとまってて」
ロランが部屋を出ていくと、私はウキウキしながらそのセーラー服を着てみた。
ここしばらく安っぽいドレスばかり着ていたから、新しくてしかもドレスじゃないのがなにより嬉しかった。クリーム色の明るい下地を私は即座に気に入ってしまった。スカーフを胸のあたりで束ねると──私はとても可愛くなった!
扉をゆっくりと開いてみると、ロランが待っていた。
さっきは気づかなかったけれど彼は水色のセーラー服を着ていて、黄色いスカーフを巻いており、彼は髪の短い可愛い女の子のようだった。彼は頬が紅潮している私を見ると微笑んだ。「ターシャ!とても似合ってるよ!」
ロランは私のことをターシャと呼ぶ。私のお気に入りの愛称だった。
私をターシャと呼ぶのは彼しかいないし、彼以外にそう呼ばれたくもなかった。彼は進み出てきて私の腕をにぎった。
「君用につくられたみたい」
「ロランも似合ってる。女の子みたいよ」
「え?ぼく女の子はやだな。たくましい男の子がいい」
ロランがたくましい男の子になるとはとうてい考えられなかった!私とそっくりな華奢でひ弱そうな足が、筋肉質にがっしりとする日がくるなんて─!
私たち兄弟は仲良く手をつないでテラスに出た。
すると朝の日差しが私の目を射抜いた。「うわあ」あまりのまぶしさに私は目を細めた。
数日見てなかった青空が太陽とともに私たちを迎えてくれ、ロシアの意地悪な寒風とちがって温風が私の頬をなでてくれた。
- Re: 食い込む冠の苦痛と愛を。 ( No.5 )
- 日時: 2010/11/26 20:38
- 名前: 羽衣 (ID: 4jdelmOD)
それがママの手だったらいいのにと、私は思わず欲張ってしまった。
「父さんはあっちにいる」
ロランが指さした方向に目をやると、白いテーブルを父さまと男爵たち、夫人たちがかこって、楽しそうにおしゃべりしている姿があった。
貴婦人たちがもつ緑色のレースの縁取りのある日傘がクルクルと優雅にまわり、床に不思議な影をつくっている。
ロランと私がテーブル目指してかけてゆくと、すれ違った人たちが会釈をしていった。私たちはそれに走りながら大急ぎで会釈を返さなければならなかった。
「ロラン!ナターシャ!」
私は大きく広げられたたくましい腕の中に飛び込んでいき、父さまのざらざらしたあごに頬ずりした。ロランがうらやましそうに見上げている。父さまが幸せそうに言った。
「おはよう!子供たち。セーラー服似合ってるじゃないか」
アンナが父さまのティーカップに紅茶を注ぎながら私にウインクした。私は思いきり笑った。
──なんて幸せなんだろう!!
しかも朝食は私の大好きなキャセロール!
焼きたてのロールパンからは香ばしいにおいがし、私は公衆の面前でよだれをたらしてしまいそうになった。
家庭教師のマナー担当のマダム・セシーナがいたら、あとでこっぴどく叱られるだろうが、マダムは向こう側のテーブルにいて、私に気づいていなかった。
アンナが耳元で食後にはブリオッシュを用意していると言った。
同じことを聞かされたロランも喜びを隠しきれないようだった。「父さん、早く食べようよ!」
ロシアでは考えられない素晴らしい朝食だった。しかも、頭上では太陽が輝いている。
父さまはいつも忙しくて、私が席につくころにはアンナたちが彼の皿を片づけているような毎日だった。私とロランはいつも二人きりで食事をしていたのを覚えている。
「…しかし、久しぶりだね。三人がいる食事は」
父さまはお腹がひどくすいているのか、食事を次々と口に詰め込みながらも笑顔になった。父さまの白い歯が、心なしか輝いている気がする。
ロランはキャセロールをつつきながら、動揺が隠せない様子だった。「父さん、ぼくらはどこへ向かっているの?」
そうだ、と私は昨夜のことを思い出して父さまを見上げた。父はそれに気づかず、ただ微笑みを浮かべてロランを見つめた。
「そうだね…どこだと思う?」
昨日子爵たちが話しているのを聞いたけど、どこの国だか思い出せなかった。ロランがおずおずと答えた。
「イギリス?」「ちがうな」
「フランス…」「それもちがう」
「…デンマーク?」「ちがうよ」
「アジアかな?」「アジアではないな」
「じゃ、どこ?」
「フルボ伯爵夫人がヒントを教えてくれるよ」
私のとなりにすわっていたフルボ伯夫人はにこやかな笑みを浮かべた。
- Re: 食い込む冠の苦痛と愛を。 ( No.6 )
- 日時: 2010/11/27 08:49
- 名前: 羽衣 (ID: 4jdelmOD)
「大きな国ですわよ」
私の頭の中で世界地図が広げられた。
ロシアが一番大きいのは知っている。あとは…中国?じゃなかったっけ。でも、アジアじゃないから…
「アメリカだ」ロランが手を合わせた。
「そうさ」父さまが言った。「わたしたちはアメリカへ行くんだよ」
「どうして?」兄がすかさず尋ねた。
「ナターシャには昨日言ったよ」父さまがロールパンをかじる。それを見てロランが不満そうに声を上げた。
「ぼくきかされてないよ」
「じゃあ、ナターシャにあとで教えてもらいなさい」
「なんでターシャが知ってるの」
「父さまに昨日きいたの」
「へえ、じゃあ教えてよ」
私はゆっくりとうなずいた。だけど、“私たちを守るためにアメリカへ行く”だなんて彼に言えようか?だいたい私たちを守る理由がわからない。
13、12歳の子供を誰がつけまわし、狙うというのだろう。しかも名だたるフォンステルフ伯爵の子供たちを?
「父さま、アメリカにお家があるの?」
「いいや。わたしの友人に別荘をかりることになって
いるんだ。クリフト男爵たちはほかの別荘をね」
父さまのはずんだ声に対し、男爵はフォークをおいて不快感をあらわにした。私は瞬時に昨日のことを思い出した。幸い父さまは気づいていない。
「それから、三人とアンナで静かに暮らそう。もう、寒さを我慢する必要はないし、おびやかすものもいないんだよ」
おびやかすもの──ボルシェヴィキのことだ─父さまはとくにそいつらを嫌っていた。
いわゆる革命家たちである彼らはロシアを破壊させた、と私たちに繰り返し言いきかせていたからだ。私もそんなやつらとお別れできて嬉しかった。
「でも、これからロシアはどうなるの?」
私は低い声で言った。父さまの目も少しかげる。
「わからないな。わたしにも。ただ一つ言えることは、決していい方向にはいかないだろう。おびやかすものがいるかぎり」
「父さまは何とかできないの?」
してはいけない質問をしてしまったらしい。
素晴らしかったはずの朝食の席が一気に静かになり、不穏な空気につつまれた。
ほのかに赤かった貴婦人たちの顔も、みるみる白くなってゆく。
父さまは厳しい表情をしたが、すぐに苦笑いをした。
「わたしがなんとかできることだったら、君たちは今船上ではなく、ロシアにいただろうね」
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