ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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僕たちはずっと
日時: 2010/12/25 19:59
名前: MEtoRO (ID: OPgvGJrB)

凍てつくような寒さ。


こんなんじゃきっと、あの子は腐らないかもしれない。


でも大丈夫。

見つかりはしないさ。


あそこは僕の秘密基地。



あの子と作った秘密基地だから。

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僕たちはずっと ( No.1 )
日時: 2010/12/25 20:36
名前: MEtoRO (ID: OPgvGJrB)

使い慣れたマフラーに顔を埋めながら呼吸をすれば
目の前に白くなって現れる。

小さいときは、よくそれで遊んだ。

唯一使える、ちょっとした魔法の様な気がして
胸がどきどきしたんだ。

でも今じゃ、その原理を知ってしまって
魔法じゃないと思い知る。

遠くを見据えながら溜息をついたら、
また息が白くなって消えた。



早く帰らないと、見つかるかもしれない。



ポケットに突っ込んだ手を軽く握り締めて
小走りで家に帰った。





重たい扉を開けると
たまたま姉が玄関に立っていた。

出かけるのだろう。

ブーツをはいている途中だった。

寒さで鼻の赤くなった僕を、
姉がブーツをはく手を止めて見上げる。

「あ、蒼汰。
 お帰り。どこ行ってたの?」

言い終えるなり、ブーツのファスナーを上げて
もう片方のブーツを取り出す。

姉が動くたび、茶色く染まった巻き毛が揺れた。

「いや…。
 ちょっと散歩しようかなって。」

冷たい風が流れ込むのを防ぐため
扉を閉める。

マフラーを緩めながら
僕も靴を脱ぐことにした。

「散歩?こんな真冬に?
 寒かったでしょうに。」

「うん。途中で寒くなって
 図書館に入り込んだよ。」

軽く微笑みながら、
かかとをこすり合わせるように靴を脱ぐ。

姉に当たらないよう、
靴棚と姉との間に滑り込んで中に入った。

姉もようやくブーツが履けたらしく
脇に置いた鞄を持ち上げながら立ちあがる。

また、髪の毛が揺れて、
香水の匂いが広がった。

「そう。じゃ、あたし出かけてくるから。」

笑顔で手を振って、姉が扉を開けると
今まで忘れていた冷たさが入り込む。

「行ってらっしゃい」

それに答えるように、
笑顔を浮かべて手を振り返す。

ゆっくりと閉まる扉の隙間から
かかとを鳴らして歩く姉が見えた。

扉が完全に閉まると
僕の顔から笑顔が消える。



僕は嘘をついた。

図書館なんて行ってない。


僕が行ったのは


あの、秘密基地だ。

僕たちはずっと ( No.2 )
日時: 2010/12/25 21:06
名前: MEtoRO (ID: OPgvGJrB)

リビングへ向かい、
テレビの前に設けられたソファーに腰掛けて
雑誌を広げる僕の頭は、
開いたページを飾る様々なファッションの事なんて
考えていない。

遠い、あの日の事がよみがえっていた。






─────ねぇ、お名前なんていうの?


13年前のあの日、僕は公園にいた。

僕を連れて来た姉は、友達とおままごとをしている。

おそらく、おままごとに夢中になって
僕の事なんて忘れているだろう。

一人でブランコこぎながら
姉を見つめる僕に、
あの子が声を掛けて来たのがきっかけだった。

「僕…?」

もちろん、僕はその子をしらない。

友達に嫌なことしか言われなかった僕は
名前を聞かれて心底驚いていた。

「そうだよ。
 君、なんていうお名前なの?」

僕と同じくらいの背丈のその子は
僕とは正反対で、すごく積極的だった。

話しかけられたことが嬉しくって、
僕は笑顔で自分の名前を告げた。

「蒼汰だよ」

「そうた?」

聞き返されて、
なにか変なことを言われるんじゃないかと、笑顔が消える。

嬉しい反面、不安も大きかった。

「うん」

小さく頷くと、あの子は可愛く微笑んでくれた。

「あたしはね、麗っていうんだよ。
 書くのがすっごく難しいの。」

僕の不安が、その一言で解けた。

初めて、姉以外の人が優しく話しかけてくれたのだ。

僕はあの子を麗ちゃんと呼ぶことにして、
ブランコから降り、
一緒にあそぼうと声を掛けてみた。

それから僕は
麗とずっと一緒。

「親友」になったのだった。



「速報です。
 先ほど、女性の遺体が発見されました──」

女性アナウンサーの声が、
僕を一気に現実へ引き戻す。

「殺人」のニュースが、嫌に耳に付いた。

賑やかなバラエティ番組へチャンネルを変える。

何もかも面白く話すタレントに見入るうち、
殺人事件は頭から離れていった。


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