ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- Black MILE
- 日時: 2010/12/28 10:29
- 名前: Wizard ◆nJBsHYFDUA (ID: SkADFG9E)
今回、執筆させて頂くことになりました。
更新速度は主の都合により非常に遅いです。
宜しくお願いします。
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- Re: Black MILE ( No.1 )
- 日時: 2010/12/28 10:30
- 名前: Wizard ◆nJBsHYFDUA (ID: SkADFG9E)
場には緊迫感が漂っていた。黒いボディアーマーと防弾ヘルメットを装備した特殊部隊員たちが、サブマシンガンを構えながら大扉の前で待機している。彼らの誰一人さえ油断も隙もなく、下手に近づけば斬れてしまいそうな、そんなナイフの様な雰囲気を漂わせていた。
その中で隊長格らしき人物が右手で三つ指を出す。扉の右隣にいる部隊員はそれに頷いた。
場の緊迫感は更に高まる。隊長格の人物は静かに、しかしはっきりとした声で言葉を紡ぐ。
「スリー……トゥー……ワン……ラッシュ(突撃)!ラッシュ!!」
その声に反応した部隊員達はチーターの如き身のこなしで扉を蹴り開けるとそのまま部屋になだれ込む。サブマシンガンのトリガーに添えられた手は今にも引き絞りそうだった。
突入した部屋の内部には長椅子とテーブル、それに旧式のテレビがあるだけで、全体的には特徴の無い殺風景な部屋と言える。
部隊員達が鮮やかな動きで周囲に散らばり始めた。二人一組となり、トイレや風呂場の扉を蹴り開ける。
やがて一人の部隊員が隊長格の人物の元へ報告に来た。
「クリア(制圧)。何処も彼処も捜索しましたが、犯人は見当たりません」
隊長格の人物はヘルメット越しに額を擦ると、溜息を吐く——こんなつもりでは無かった。
「本当にいなかったのか? その、隠し扉とかクローゼットの中とか……」
間髪入れず部隊員が答える。
「電子工作班が徹底的にスキャンしました。何処にも隠し扉などは存在しません。クローゼットは寝室に一つありましたが、中には誰もいませんでした」
「分かってる分かってる……まさかお前たちがそんな初歩的な事も調べないなんて思ってないよ。ただ、一応言ってみただけだ」
弁解の言葉を口にした隊長格の男——アンソニー=コックスはその場でヘルメットに手を掛けた。
彼はそうしてヘルメットを外すと、まだ辺りを見回っている部隊員達に指示を飛ばす。
「全部隊員撤収するぞ」
付けているヘッドセットから次々と「了解」という声が続いてくるのを聞きながら、コックスはまたもや溜息を吐いた。
「また課長にどやされる……」
* *
「なぁ、ジェフリー。またもや一課の連中が“狐に化かされた”らしいぞ?」
コーヒーを啜りながら自らのオフィスで寛いでいる眼前の男に言いたいことは色々とあるのだが、とりあえずジェフリー=ウェインライトは返答を試みた。
「その話は聞いています。これで彼らが外したのは四回目。今頃、二課に怒鳴り込んでいるでしょうね」
「ははは、そうに違いない。連中、今まで“俺達が内務省の看板だ”みたいな顔をしていた分、今回の失敗の連続で面子は丸潰れだろうからな」
愉快そうに笑う男にジェフリーは冷たい視線を送りながら、本題に入る。
「で、どうして私のオフィスに貴方がいらっしゃるのでしょうか?——ヒュー=ホーリガード三課長」
嫌味ったらしく名前を付け加えたジェフリーにヒュー=ホーリガードは肩を竦める。
「いやぁな。どうも自分のオフィスは居心地悪くてな……それに対してここは日当たりも良いし、コーヒーメーカーを壊れていないし、清潔だし」
理由を並べ始めたヒューにジェフリーは一言。
「つまりは……仕事をサボって私の部屋で寛いでいる……と」
ヒューが微笑む。
「違う。サボりじゃない。これは魂の洗濯だよ。日々の鬱憤をここで晴らすのさ……おっと」
手振り身振りを交えて喋っていたヒューの右手が窓際に飾られていた模型帆船に直撃する。
模型帆船はそのまま重力に従い、オフィスの地面へ——ガシャン——砕け散った。
それを見ていたジェフリーは、数秒間の不気味な静寂の後に無感動な声で発言した。
「ヴィクトリー号。104門搭載の戦列艦。アデルバート提督の指揮の元、激動の時代を生き抜いた……購入価格は26万ロダリン」
段々と説明を聞いている内に、ヒューの顔が青くなっていく……
「弁償して頂けますね?」
「失礼した!」
最後の言葉も聞き入れないまま、ヒューは凄まじい勢いでオフィスから逃走する。
ジェフリーはそれを黙って見送ると、ポツリと言った。
「ブレニム……46門搭載のフリゲート艦。アンリ・トラウブリッジ沖の海戦で敵艦からの左舷斉射により沈没……大量生産品の為、購入価格は3万5000ロダリン」
ジェフリーの口元がニヤリと歪むその光景を見た者は誰もいない。
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