ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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黒月
日時: 2011/01/05 10:49
名前: 葵 (ID: uoVGc0lB)

初めまして、あおいと申します!
小説読むのが好きで自分でも書いてみようと思い、ここに来ました!

注意
この作品はアクション物です
若干グロは入ると思っています
荒らし、煽りは無し


どうか宜しくお願い致します!


登場人物

・黒月歩 くろつきあゆむ
【歳】 16歳
【性別】 男
【儀式具】 八咫 やた
【能力】 ???
 黒髪でやる気なさげな目の高校生。身長は165㎝程。
 自分人生に飽きを感じ、ついには学校も退学。八咫と出会わなければ危うく……。
 八咫は黒猫のキーホルダー。刀の鞘に一緒に巻きつけられていた。

・クロ
【歳】
【性別】
【儀式具】
【能力】

・鏡 きょう
【歳】
【性別】
【儀式具】
【能力】

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Re: 黒月 ( No.1 )
日時: 2011/01/07 17:33
名前: 葵 (ID: nQSCmx7R)

第1話 「人生に飽きを示す少年」

 ごく普通の高校生、黒月歩くろつきあゆむ。彼は普通過ぎて面白みのない自分の人生に飽き飽きしていた。
 次第に失われていく人生の充実感。下がり続ける成績。そして今、彼は学校長の前に立たされている。
 永遠のように続く説教。何度も何度も同じことの繰り返し。
 前期の期間テスト。後期の中間、期末テスト。テストを受けるたびに呼び出されては同じ話を聞かされる。
 だが今回は一つだけ違う台詞を聞くことができた。
 退学。
 そのニ文字。

***

 十六時頃、家へ帰ったが扉は堅く閉ざされていた。誰もいないのだろうか、そう思い、家の鍵を差し、ロックを解除する。
 しかしそれでも、扉は完全には開かなかった。チェーンロックがかかっており、扉がきちんと開かない。
 携帯を開け、親の携帯に電話をする。
 出ない。
 メールをしてみる。すると返事は一分もせず返ってきた。

 「外で反省しなさい」

 それだけ書いてあった。これもいつものお決まりのパターン。説教を受けると必ず外で反省させられる。
 仕方なく歩は自宅を後にし、コンビニで雑誌を手に取る。ペラペラと流し読み、すぐ棚に戻す。また他の雑誌を手に取る。
 それをただ繰り返し、飽きたらまた外へ出る。
 まだ十七時だ。とりあえず気の向くまま歩いてみることにした。

***

 十九時。結構歩いた。そろそろ良いだろうと、歩は自宅への道を歩き始める。
 もう冬にもなり、空は黒一色に塗り潰されていた。手に息を吹きかけ、早足で自宅に向かう。
 そんな時だった、たまたま通り過ぎたゴミ置き場に置いてあったある物に歩の心は引かれた。
 刀だ。
 当然鞘に収まってはいるが、歩はそれを手に取った。流石におもちゃなのだろう、鞘から刀を抜くことはできない。
 ただ、もう一つ気になる所があった。
 鞘に巻きつけられた猫のキーホルダー。猫と刀と言う意味不明な組み合わせがまた歩の心を引いている。
 とりあえず気に入ったため、そのキーホルダーごと刀を拾い、再び自宅へと歩は歩き出した。


Re: 黒月 ( No.2 )
日時: 2011/01/07 17:34
名前: 葵 (ID: nQSCmx7R)

第2話 「黒き道具と少年と」

 もう鍵はかけられていなかった。家の中は外と変わらない程の黒一色。
 歩は手さぐりに二階へ上がれる階段を探し、部屋へと入った。
 何となく歩はホッとした気分になった。もしこんな汚れたおもちゃの刀を持っている所を母親か父親にでも見られたらすぐ捨てて来いなどと言われたに違いない。
 それにしてもこの刀についていた猫のキーホルダー。黒々とした毛並み、パッチリと開いた眼。まるで本物の猫のようだ。
 刀はとりあえず見つからないようにベッドの下に。猫のキーホルダーは携帯につけてみることにした。
 今日は疲れているのだろう。瞼が重い気がする。歩はベッドの上に倒れ込むと数秒程で深い眠りについてしまった。

***

 翌日、眠い目をこすりながら枕元の目覚まし時計を見ると、長針が10、短針が25を指していた。
 十時二十五分。
 一瞬再び目を閉じた。だがすぐにサッと起き上る。

(遅刻だ!!)

 焦りに焦りながらカバンに教材を詰め込む。

「バカかお前は。 つい昨日退学させられたばかりだろうが」

 その声で歩はハッとして手を止めた。
 そうだ、自分は学校を退学させられたんだ。
 だが次の瞬間、次なる疑問が歩の頭の中をめぐる。

(今……誰が喋った!?)

 歩の両親は今仕事に出ているはずだった。なら今彼に話しかけたのは誰なのか?
 辺りを見回しても誰もいない。
 空耳?
 まだ起きたばかりだから幻聴を耳にしたのかもしれない。そうだ、それしか考えられない。そうであることを願いたい。
 だがそんな歩の願いは届かず、再び謎の声は何処からとなく聞こえてくる。

「こっちだよこっち。 お前の携帯の近く」

 携帯。
 布団に埋もれていた携帯を取り上げ、確認するが、特に異常は見当たらなかった。
 携帯の方は。
 異常があったのはそのストラップの方だった。黒猫のキーホルダーが動いている。

「え? ……え?」

「まあこんな代物を見るのも初めてだろう。 驚くのも無理はない」

 頭の中がどんどん混乱して行く。昨日拾った刀と一緒についてきた黒猫のキーホルダーが今ここで突然喋り始めた。
 自分の頬を思い切りつねってみる。痛みは確かに感じる。どうやら夢ではないようだ。

「ワシは八咫やた。 儀式具の一つだ」

「儀式具?」

「お教えしよう。 儀式具と言うのは人と魂の宿った儀式具とが契約をすることでその人間の潜在能力を極限まで引き出し、特別な能力を手に入れることのできる、いわば魔法の道具。
 どうだ? これもなんかの縁。 契約を交わしておかんか?」

 べらべらと喋るその儀式具とか呼ばれる黒猫を見ているとだんだんと気味の悪さが退いていった。
 特別な能力が貰えると言われると興味を示さない者は多分いないだろう。当然歩もその話に対してかなりの興味を持った。

「お前と契約するとどんな能力が手に入るんだ?」

「そいつはワシと契約してからのお楽しみだ。 さあ、どうする? 人生を変える転機にもなるかも知れんぞ?」

 人生を変える……。丁度つまらないと思っていたこの人生。これはまさに自分にピッタリな設定じゃないだろうか?
 歩の口は自然と動いていた。

「契約……しよう。 それでオレ、また新しい生き方を探してみるよ!」

「新しい生き方か。 いいだろう。 それでは契約のため、まずワシとお前の間に誓いを立てさせてもらう」

「誓い?」

「1つ。 ワシの名前……八咫と言う名前は絶対に人に教えるな」

 歩は思わず「え?」と聞き返してしまった。誓いなどと言うほどだからもっと恐ろしい内容を想像していた。

「儀式具と契約しているのはお前だけではない。 他の能力者にワシの名前を呼ばれた時、ワシは消滅してしまう」

「なるほど、それは重要だな」

「もう一つ。 ワシを常にお前の身近に置くこと。 これは能力者とか関係なくホントに頼む。 一人では寂しいんだ……」

 これもまたつい「え?」と聞き返してしまった。八咫は恥ずかしそうに歩から目をそらしている。
 道具でも寂しくなることがあるのか、と歩はそれでとりあえず納得した。

「ま、まあこの二つを守っている限りは能力は消えたりしないから安心しろ。 多分」

「多分!?」

「あ、いや、すまん……。 最近物忘れが多くてな……。 どうしたものか、何であんな所に捨てられていたのかも覚えていないんだ」

「まあ、また思い出したら言ってよ」

「うむ。 それでは、これからよろしく頼むぞ、歩よ」

「何で名前知ってんの?」

「ハハハ、契約をした相手のことは全て知ることができるのが儀式具だ。 お前の初恋の人も———」

「それ以上言うな!!」  

 この謎の猫との出会いが本当に黒月歩の人生を変わるきっかけになっていくのだった。



〜あとがき
既に2話分の話しが出来上がっていたので区切りもいいし、二つともあげちゃいました

Re: 黒月 ( No.3 )
日時: 2011/01/07 17:35
名前: 葵 (ID: nQSCmx7R)

第3話 「眼前に浮かぶは赤き炎」

「そんでさ! そんでさ! オレの能力って何!? テレポートとか!?」

 興奮気味に歩は八咫に問い詰める。八咫の方はため息を一つつき、ベッドの下を手で指す。

「刀、持って来てみ」

 文句一つ言わず歩はベッドのしたから鞘に納められた例の刀を取り出す。そうとうベッド下が汚いのだろうか。刀は埃をかぶっていた。それをパッパと手で払い、八咫の前に置く。

「抜いてみろ」

「抜けるの? これ?」

「まあ抜いてみろって」

 言われるがまま、その刀を手に取り、鞘から抜いてみる。昨日まではびくともしなかったのに、今はするりと抜けた。
 刀身は鉄色や銀ではなくまっ黒だった。歴史の勉強をしてはいたものの、こんな刀は初めて見る。

「もしかしてこの刀、伸びたりするの!?」

「いんや」

「じゃあ巨大化するとか?」

「いんや」

 歩が質問しては八咫は「いんや」と返事をする。

「刀抜けただろ。 それがお前の能力だ」

 ついつい「は?」と訊ね返してしまった。八咫はもう一度同じ言葉を口にする。
 一瞬部屋の中が沈黙に包み込まれる。
 何となく気まずそうに八咫は歩に声を訊ねる。

「もしかして……ショックだった……?」

「うん」

***

 その後約五分間二人は黙り続けていた。今は気を取り直して改めて得た能力を確認している。
 今のところ確認できたのは視力、聴力、筋力の3つの強化だった。

「なあなあ、オレの顔もイケメンになったりしてない?」

「視力、聴力、筋力……。 あとは嗅覚なんかも強化されてるはずだな」

 歩の「無視かよ」という言葉も無視し、八咫は続ける。

「とりあえず集中して臭いをかいでみろ」

 目をつむり、椅子に座って鼻から息を吸ってみる。
 ツンとする臭い。煙みたいなそんな臭いが微かにする。

「……火事だ!」

 パッと目を開き、椅子から勢いよく立ち上がった歩を見て八咫は驚いて体をびくりと揺らす。

「学校の方から爆発音が聞こえる! 早く行かないと!」

 歩の通っていた高校は自宅からそこまで遠くはなかった。

「行ってどうする?」

「決まってんだろ! 皆が無事かどうか確かめるんだよ!」

 そう言って歩は部屋の戸を開け、外に出ようとする。

「おい待て! ワシも連れて行け!」

 八咫が必死にそう叫ぶと歩は部屋に戻ってきて八咫をつけた携帯を持って出る。

***

 紅蓮の炎が歩の通っていた高校を包んでいる。窓ガラスは全て割れ、黒い煙は天に登る龍の様に登っていく。
 辺りには既に消防や警察が駆け付け、消火活動を行っていた。

「み……みんなは……?」

 全力で走ったのに息切れもしない。だがそんな体の変化にも気がつかないほど歩の心は焦りきっていた。
 辺りを見回しても生徒たちどころか教員の姿も見当たらない。

「ねえおじさん! この高校の人達は!?」

 近くにいた警官服の男に訊ねるが、男は無言のままだった。

「それが……突然の爆発だったらしく救助は……出来なかったんだ」

 その言葉を聞いた瞬間、歩の体は氷のように凍りついた。この高校を燃やす炎でも溶かしきれないような冷たい氷。

「……君はもしかしてここの生徒さんか? すまない……私達ではどうにもならない……」

 帽子を取り、歩にお辞儀をして警官はその場から去った。
 眼前に広がるは真っ赤な高校。昨日までは生徒達が騒いでいたはずのその校舎。
 歩がその場で呆然と立っていると、八咫が胸ポケットから頭を出し、歩に訴えかける。

「歩! 感傷に浸るのは後だ! こいつはなんかしらの能力を持った奴の仕業に違いない!」

「能力……者?」

「まだ気配が残ってる。 あっちの方だ!」

 グッと拳を固め、歩は出せる限りのスピードで走りだす。その速度はまさにチーターのようだった。

***

「あの速度……。 アイツも能力者かな?」

「へえ、この地域にはまだ能力者いたんだ」

 一人は白いスーツに金髪の男。もう一人は赤いジャンパーに赤みのかかったサングラスをかけた茶髪の男。建造中のビルの鉄筋の上の二人は向かって来る歩を見て笑みを浮かべている。

「アレ、オレにやらせてくれよ」

「君はいまやったばかりだろう? 今度はボクの番だ」

「あんなの狩りの内に入りゃしねェよ」

 それだけ言って赤いジャンパーの男は鉄筋を伝って下に降りて行った。

Re: 黒月 ( No.4 )
日時: 2011/01/07 17:33
名前: 葵 (ID: nQSCmx7R)

第4話 「夜に煌めくは月か刃か」

 結局、事件を引き起こしたとされる能力者を見つけ出すことは出来なかった。不満もあったが、とりあえず自宅へ戻った。

「なんか……夢みたいだな。昨日まで通ってた学校が燃えて……。それでみんな……」

 歩はベッドに仰向けで倒れる。横で八咫も体を丸めている。

「今は少し休め。疲れただろう?」

「うん。色々な事がいっぺんに起こり過ぎた……」

 そう呟いて歩は目を閉じた。

***

「発火した原因はまだ分からないのか?」

 眉間にしわを寄せた七三分けの黒髪で灰色のスーツの男が言う。目の前の警官服の男は「すみません」と一礼する。
 ここは東京都内の警視庁本部。今回の高校炎上事件について今調査を行っているところだった。

「被害者は全員死亡。これじゃあ分かんなくて当然じゃないッスかね?」

 と言いながら茶髪の男は横目でどやされている同僚の姿を見る。隣の机でパソコンを打っていた眼鏡の男は目を離さず、口を動かす。

「ここまで証拠が見つからないとすると、能力者の仕業かも知れんな」

「能力者……。最近多いですね」

 ふあ、と茶髪の男はあくびをすると、頭を叩かれる。

高崎たかさき! 何仕事中にあくびしてんだ!」

「いてて……。痛いじゃないッスか、川島かわしまさん!」

「何か分かりましたか?」

 川島と呼ばれた男は彼ら二人、高崎と深谷ふかやの上司にあたる。と言ってもそこまで偉いと言うわけでもないが。

「犯人を特定できた」

***

 目が覚めると、もう夜になっていた。八咫がポンポンと歩の頭を叩いているのに気がつく。

「起きろ歩! 能力者の気配を感知した!」

「あー……そうだね……プロテ……だね……」

 聞きとるのも難しいほど小声で歩は再び目を閉じる。が、すぐに跳ね起きる。

「能力者!?」

「ああ、間違いない。こいつは今朝あの場所の近くで感じた気配と同じものだ。こっちに近づいてきてる……。どうやらあっちもワシらのことを感付いてるみたいだ」

「どうすればいい?」

「安心しろ。今のお前には力があるだろう。その刀で、お前の友人たちの仇を取ってやれ!」

 歩は俯き、数秒間沈んだ表情でいたが、すぐ顔を上げ、刀を握る。

「そうだな! あっちから来てくれるなら好都合だ!」

「よし、行くぞ!」

***

 辺りには人影一つ見当たらない。深夜だから当たり前と言えば当たり前か。
 静かな町。その中でその男の足音だけが良く聞こえる。
 煙草を咥え、電柱にもたれかかって一服。
 夜は酷く冷え込んでいる。こうして止まっていると冬が来たということを実感できる。
 不意に、男は煙草を地面に投げ捨てる。何か来るのを感知したかのように男は暗い夜道をじっと見つめる。

「お前が能力者か」

 目の前に現れた少年。男はサングラスを外し、顔を全て見せる。

「初めまして、能力者君。オレはバロン。アメリカ人だ。宜しく」

「……黒月歩……」

「黒月か。いい名だ。そうだ、寒いだろう? 今暖かくしてあげるよ」

 するといきなり歩の体に赤い円が出現する。それを見て八咫が叫ぶ。

「アイツの視線から避けろ! 早く!」

「遅い……!」

 バロンは素早くポケットから赤いライターを取り出し、火をつける。だがライターには火は灯らない。代わりに歩が隠れた車が炎を上げて爆発した。
 その衝撃で歩も後方へ吹き飛ばされる。

「早いね。 いいスピードだ。」

 笑みを浮かべながらバロンは歩に近づく。

「奴の儀式具はあのライターだ。あれさえ壊せば奴の能力は消える。刀の扱いは大丈夫か?」

「へ、なめんなよ。こう見えてオレは剣道部員だ!」

 黒き刀は抜かれ、その刀身に月の光が反射する。美しくも禍々しいその刀は暗い闇の中でもうっすらと煌めく。


あとがき
それぞれの話に題名をつけました。

Re: 黒月 ( No.5 )
日時: 2011/01/09 21:00
名前: 葵 (ID: CW38StRe)

第5話「赤き炎は黒き空も塗り潰す」

 再び歩の体に赤い円が広がっていく。今度は電柱に隠れ、何とかやり過ごすが、流石にこれでは隠れる物が無くなってしまう。

「ククク……逃げても何も始まりはしねェよ?」

 逃げる歩を追いかけ、歩に視線を合わせる。また電柱に隠れ、それをやり過ごす。電柱は倒れ、近くにあった車と激突した。
 同時に車のガラスがはじけ飛び、道に散らばる。

「あれじゃ近づけない! 何か手はないのか!?」

「今までの攻撃を見て推理するに、奴の攻撃は範囲が決まっていると思う。もし攻撃範囲が決まっていないならこうして逃げている今も視界に入っていればすぐ燃やされるはずだ。だいたい一メートルと言ったところか。そして奴が視線を合わせ、お前の体に円が広がるまでの時間は約三秒。つまり、近づけたとしても三秒だけだ」

「三秒か……」

 そう話している間にもまた体に赤い円が広がっていく。チ、と舌打ちをし、また電柱を楯に使う。

「つべこべ言っても仕方ない! 気合いでどうにかしてやらァ!」

 そう言って歩は走るのを止め、バロンに向かって勢いよく走りだす。体に円が広がるが、そんなこと気にしている暇もなかった。無我夢中に走って刀に手をかけ、そして———
 ———攻撃は通らなかった。堅い何かに阻まれてしまった。
 透明なそれは星や月の光を反射していてまるでダイヤモンドのようだった。思いっきりぶつかってしまった歩だったが、特に痛みは感じなかった。これが契約の効果なのだろう。

「くそ……退け!」

 刀はまるで紙でも斬るかのようにスムーズにその壁を切り裂いた。まだその先にバロンの姿はあった。ただし、一人ではない。もう一人、白いスーツの男がバロンの横に立っている。

きょう! テメェ、こいつはオレが狩るって言っただろ!?」

「ああ、ごめんごめん。でも、あのままやってたら君、上半身と下半身が別々になってたよ?」

 その後も二人の口喧嘩は続いたが、鏡の方が切り上げて歩に笑みを浮かべて話しかけた。

「ボクは鏡。日本人だよ」

「さっき言ってた狩りって何だ?」

「ボク達は能力者狩りをしているんだよ。ごめんよ、あの学校に君が通っているなんて知らずに燃やしちゃって」

「お前……!!」

 歩は刀を握り直し、鏡とバロンに向かって走り出す。バロンがライターを取り出そうとするが、鏡がそれを止めた。
 鏡は一度ポケットに手を入れ、取り出したガラスの破片を辺りにばら撒く。

「歩! 気をつけろ!」

 鏡が指をパチンと鳴らすとその場に散りばめられた破片から巨大な円錐が生える。八咫に言われなければ串刺しになっていただろう。
 生えた円錐を刀で横薙ぎにすると、鏡は驚いたような表情になる。

「へえ、ダイヤモンドのツララや壁を易々と切っちゃうなんてすごいね」

 すると何故か鏡とバロンが壁に手をつける。

「まあ、楽しかったよ。またボクとも遊んでね」

「逃げるのか!?」

「フフ……どの道君じゃボクらには勝てないからさ。能力狩猟団、ノアを名乗る能力者にあったらよろしく言っておいてね」

 そう言い残して二人の姿は壁の中へと消え去った。
 まるでさっきまでの騒ぎが嘘だったかのように辺りは静まりかえった。辺りは電柱が倒れていたり車の残骸が転がっている。
 すると、静かな町にサイレンの音が響き始める。

「警察だ! ワシらも逃げるぞ!」

「え、ああ、そうだな」


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