ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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反響音の響くHz 
日時: 2011/05/11 22:02
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: KnqGOOT/)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=9mKCEeXu4j0

ふう…何という暴挙に走ったことかw
どうも、遮犬です。お前またかとか言わないで(ぁ

色々なりゆきと衝動でいつもの如く書いちゃいます…うん。悪くない…よねぇ?(聞くな
まあ、なんといいますか…結構、イメージソングとかから作りました物語です。

〜忠告、的な?〜
・心優しい方は優しい表情でお見届けくださいw
・グロ描写はあるかと。
・ややこしく、なるかと。
・亀更新ならざるを得ないですが、それでもよろしければw
・やって、やりますw


イメージソング【Calc.】(参照より)



〜目次〜
プロローグ…>>2

第1話:震動し始めた反響音
♯1…>>4 ♯2…>>7 ♯3…>>8 ♯4…>>9 ♯5…>>10
第2話:始まりの音色
♯1…>>11 ♯2…>>12

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Re: 反響音の響くHz ( No.5 )
日時: 2011/01/11 23:37
名前: 夜兎_〆 ◆8x8z91r9YM (ID: 9Gb.eK5t)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode

お、マイライバルじゃねーかい

犬>>>>(越えられない壁)>>兎

少ない時間を使ってかどうかは定かではないがこのレベル。負けてられないなあ。
業を取り込もう

Re: 反響音の響くHz ( No.6 )
日時: 2011/01/12 16:46
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: YAjKlDB6)

>>夜兎さん

マイライバルってwwいつからそうなったw
そんなw貴方の方が上手いですよwよく拝見させてもらっておりますw

どういう構図ですかww超えられない壁なんかないですよwそれに立場が逆でございますw

少ない時間を確かに利用しておりますが…それでこの程度の文なので、自分の文才にも呆れるほどでありますw
父親にもお前は文才がないと言われるはずですよw
僕も負けてはならないのですがまだまだ修行の身でして…wとりあえずボチボチ頑張りますw
業などなく、自分はもう感覚で書いてしまってるのでw負けることまず間違いなしですw
でも、ライバルと言っていただいて嬉しい限りですwありがとうございましたw

Re: 反響音の響くHz ( No.7 )
日時: 2011/02/07 21:33
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: fFMoervE)

夏風が妙に吹き荒れ、セミの鳴き声は辺り一面木が立っているというのに全くの無音。それは時刻が夕暮れ時であるからだろう。
ただ吹き荒れている夏風のみがそこに一人立っている少女に取り巻いていた。
その少女は長い黒髪を風に任せ、揺らめきながら肩に担いでいる細身の体に似合わない棒状の物を持っていた。
棒状の物は竹刀を入れるためのような袋に入れてあり、明らかに刀の形をしたものが入っていることが伺えた。
それもその棒状の物は細身で少し小柄な体に似合わず、それを優に超えるほどの長さを誇っていた。

人気のない林の中、一人佇むようにしているその少女の姿はまさに異端と呼べた。
だが、目だけは決意が込められた目をしているのである。
その真っ直ぐな透き通るような黒い目が見据えるもの。
——それは、町だった。

日はもう落ちかけていて、辺りもまた薄暗くなっており、カラスの鳴き声がどこからともなく聞こえてもくる。
そんな残響音など、全く気にもせずに少女はただ暗くなったことで光に照らされていく町並みを眺めていた。

「いつかは、この町で」

少女が呟いたのはたった一言。透き通るような凛々しい声で言った。
誰も、何も聞いてはいない。ここは無音の場所。
街灯に照らされていく町並みが妙に綺麗に見えた。

「——ゲームの舞台となる」

少女は、静かに透き通る声でそう呟いた。






春はクファに追いついて共に教室に入る。
教室前に書かれているクラス番号は2−2。
クファのこのなりで2年生というのもここの学生たちは全く驚きもしない。
ここは普通の学校ではなく著名人や芸能人、さらには特殊な技能を持った奴やお嬢様に執事といったのが当たり前なわけだ。
つまりそのような学校でクファのような外国人風幼女が悠々と2年生の教室に入っても誰も不思議に思うことはない。

「おっはよーっ! 皆〜!」
「おはよーっ! クファちゃんっ!」
「おはよーっ! 園咲ーっ!」

クファは手をぶんぶんと左右に振りながら教室を歩いていく。見れば周りはスタイル抜群なモデルやイケメンなど。
多色なメンバーがクファと共にクファに続いて教室へと入った春を出迎えてくれた。
同じような環境下ということもあるのだろう。だからこんなにクファにもフレンドリーに接してくれるわけである。
といってもそんなすごい連中だらけというわけではないが。もちろん、このクラスにも一般人はいる。春のように。
接しなかった接しなかったらで園咲家から何か復讐的なのが来るのではないかと考えるものもいるが、大半は違う。
クファの人柄はそんなものではなかった。
いつの間にやらグッタリしていたクファはすっかり元気いっぱいとなって笑顔で自分の席へと行く。

「クッファちゃーんっ!」
「ニーッ!」

春の目の前で抱き合う外国風美幼女とスタイルの取れた美少女。
髪をポニーテールでくくり、青色の髪をした足の綺麗な少女だった。よく着ているブレザーが似合っている。

「クファちゃんっ! 今日戻ってきたの?」

テンションマックスな青色の髪をした少女意気揚々とした感じでクファに話しかける。

「うんっ! ニーも帰って来てたの?」
「そうだよーっ! やっと合宿から帰って来たのよー」

クファはこの青髪少女のことを『ニー』と呼ぶ。それは苗字から取っていることは取っていた。

「久しぶりだな、二ノ宮」

クファの隣の席にバックを置きながら春は『ニー』こと二ノ宮 楓(にのみや かえで)に話しかけた。

「おっ! 春〜っ! 久しぶりだねーっ! 新学期始まっても頼り無さそうなのは相変わらずだね?」
「余計なお世話だよ。んで? 全日本の合宿はどうだったんだ?」

春の言葉に親指を立てて片目を閉じて胸を張る二ノ宮。

「うんっ! バッチリバッチリーっ! 結構しんどかったけどね」

こうやって普通に春は話しているがこの目の前にいる二ノ宮は全日本に選ばれた名誉ある陸上選手である。
今、陸上の長距離で陸上界を轟かせる有名人だ。

「ねーねーっ! どんな練習したのっ!?」

隣でクファが長身というほど高くはないがクファの身長では高いといえるであろう二ノ宮の腕を掴んで振り回す。
見ていて何だか姉妹のように見えるのが現状である。

「えっとねー……」

そんなクファに呆れることも鬱陶しがることもせずに笑顔で答える二ノ宮。
元から小さい子供好きということもあって世話好きなんだとか。その代わり小さい子限定らしいが。
クファの認識はどうやらその小さい子の内に入るようでかなり仲良しな二人である。

(売店で何か飲み物でも……)

春がそう考えていた矢先、

「はっじめ〜ッ!」
「うぉっ!」

思いっきり春の背中にのしかかるようにして来た謎の男により、春は自分のカバンごと机に倒れる形になってしまう。

「このっ……! 五十嵐っ!(いがらし)」

春がもがきながらそう唸るようにして言うと上にのしかかってきた男はすんなりとその場を退いた。

「新学期早々、だなっ! 春」
「お前も相変わらずいい根性してやがるな、五十嵐」

高笑いをするこののしかかり男の名前は五十嵐 圭吾(いがらし けいご)。
こいつがこの学園では少し珍しい普通の学生なのだがスポーツ万能、顔は良しのこいつはなかなかして人気者といえる。
だが頭は悪く、スポーツ万能ではあるが部活動には入っていない宝の持ち腐れというものである。
しかし、五十嵐が何故偏差値は決して甘くは無いこの学園に入れたのか、これはもう謎に包まれている。

「あっはっはっ! いいじゃないかっ! 一緒にグミでも食おうっ! な?」
「男二人でグミかじってる姿が画になると思うか?」
「思うねっ! イッツキュートだねっ!」
「お前だけだかんな。その考え持ってるのは」

五十嵐とは一般人同士ということもあって春とはよく気が合う。
とはいっても五十嵐はこの性格のせいなのかなかなかして人望も厚い。その代わりアホなんだがな。

「男が小さいこと気にするなよ〜っ! ほら、売店行こうぜっ!」
「いかねぇっての」

ここで嘘を吐く春。それはこのままだと本当にグミを食うハメになり得るからである。
五十嵐がなかなか人望の厚いところの一つでもあるが、嘘は全く吐かないということである。

「何でだよーっ!」

ふてくされたようにする五十嵐。だが顔は笑顔のままだというから余計に気色悪い。

「いや、チャイム鳴るから」
「なん……だと……!?」
「膝ついて落ち込むのはいいから。早く席つけ」

そうして数分後に少し若い女の先生が教室に入ってきて「HR始めるわよー」と言ったところから春はため息を一つ吐いた。

この学園は楽しい。だが春には裏の顔があった。
もう一つの顔。それは夜になれば表す本当の"俺"。

色々なことが頭の中を駆け巡っている最中に春は窓外の空を眺めた。
それはそれは、綺麗な澄んだ蒼色が続いていた。

Re: 反響音の響くHz ( No.8 )
日時: 2011/02/07 21:36
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: fFMoervE)

静かな授業とは違い、昼にもなると学生たちは一気に騒ぎ出す。
授業とこういった休み時間との切り替えの良さからして携帯等の持込は構わないことになっている。
とはいっても携帯をカチカチといじるものはこの学園では少ない。
それは今の学生という身分を心から楽しんでいるのかどうかは全くの謎だが大抵の学生はそんなことより周りの者と話すことを優先する。
だがしかし、春だけはそれとは全く異なって休みの時間となるとすぐさま携帯を取り出してメールを確認する。
この携帯も本人が買ったものではなく、園咲家から買い与えられたものなのだがそれは"仕事上必要なもの"であるからだった。
ゆえに、このメールの確認も仕事上必要な、重要な事柄なのであった。

「またお前は携帯いじくってんのかよっ!」
「うぉっ!」

そんな春の事情も知らずに五十嵐が突撃ともいえるようなのしかかりを春に決め込む。
正直、鬱陶しいことこのうえない。春は素早く携帯を閉じて自分のズボンのポケットにへと突っ込んだ。
そしてもがくようにして五十嵐をどかそうとするが、スポーツもやっていないというのにこの無駄な筋肉が邪魔をする。
かなりの力でのしかかられているためにどかせるのには結構体力も、力も必要であった。
その間に五十嵐はだんだんと顔を綻ばせてニヤリと微笑んだ。

「お前にもついに彼女が出来たのかー?」
「バカなこというなよっ! それより邪魔だっ! 早くここから——!」

何とか五十嵐をどかせようと必死になっていた矢先、春の目の前に飛び込んできたのは、ソファの泣き顔だった。
この事件を起こした当の本人である五十嵐はというと、空気を読んだのか春の上からとっくに退いていた。
さらには春の方を向いて笑顔で右手の親指を立てて向けてきていた。腹が立つことこのうえなかったが今は言っている場合ではない。

「ハル……彼女作ったらダメってあれだけぇ……」
「いやいやいやっ! 勘違いしてますよっ! ソファお嬢様!」

春が必死に濡れ衣を打開しようと呼び止めたがソファがこのような状態になってしまったらもう遅い。

「ハルのバカァア〜〜ッ!!」
「お、お嬢様ーーッ!!」

ものすごい速度でソファは頬を赤くして涙を流しながら教室を出て行った。そして春はガックリと机にうな垂れる。
春の肩へと不意に手が置かれる。どうせこの手の持ち主は分かっているので春は顔を上げようともしない。どころか震えが止まらない。

「まあ、気にするなっ! 春にも彼女の一人や二人ぐらい……」
「うるせぇっ! お前のせいでソファお嬢様がまた泣かれてしまわれたじゃないかっ!」

と、春が怒って立ち上がり、詰め寄ったとしても五十嵐はまるで平気な顔をするどころか、笑顔である。
五十嵐はこういうことに関して全く怒り返さないし、ただ笑って平然としている。
それが何の意味になるかは追求するだけ無駄で、疲れるために誰も行っていない。
ただ、この笑顔を見ているとどこか怒る気が失せるので不思議なものである。

「はっはっはっ! 春はソファのことになると妙に敬語になるから面白いよなーっ!」
「高笑いしている場合かよ……ソファお嬢様を探さないと」

そう言って半分呆れて春は教室を出た。
広く長い廊下に階段がズラリと。外側には螺旋階段までもがある。非常口用と外側用とで分かれているようだ。
どこに逃げ去ってしまったのか。もう大体見当はついているために普通にその場所へと行けばいいわけだが。

「ん、春か」

そこで不意に隣の方から声をかけられた。
それは冷静な男の声であった。その声はイメージする声の持ち主とピッタリ印象が重なるほどの見た目であった。
誰でもつけたら賢く見えそうな眼鏡。そして凛々しい表情に冷静な声がとても似合っていた。

「おぉ、修史しゅうじか。どうしたんだ?」

修史と春に呼ばれた凛々しい顔をした男子学生は眼鏡を右手の人差し指でクイッと上にあげたかと思うと急に顔を強張らせた。

「春……どうしたんだ、じゃないだろう……!」

このパターンを春は何度経験しているだろうか。もう2年の付き合いにはなるのだからすぐに分かった。

「クファをまた泣かせただろうっ! お前がしっかりしていろと何度言ったら分かるんだっ!」

そのクールな見た目を崩してまで怒るこの男、神谷 修史(かみや しゅうじ)は弓道とクファに関わることならば興味津々だった。
普通にしていればクールで冷静、それにその見た目イメージ通りに勉強も出来るしスポーツ、弓道もかなりの腕前である。
しかし、ただ一つ残念なことはちょっとロリコン好きということであった。これは自分では自覚していないらしいが。
告白も、もちろん多くされるのだが断り方はいつも決まって「俺は小さい子にしか興味ない」というのでロリコンと思われても仕方ない。
フラれた方のショックはあまりなく、逆に引いたらしいが。

「今回も俺じゃなくて、五十嵐に責任があるんだけどな」

春は後ろの2−2の教室をチラッと見て五十嵐が中にいることを修史に示す。
修史はその春の様子に従って2−2を覗く。今もまだ高笑いしているのだろう。アイツの笑い声が教室内から聞こえる。
周りの者はうるさいというよりもう聞き慣れた感じで食事をしていた。

「またアイツは……」

と、言って修史は頭を抱えてはため息を吐いた。
こんな行動がなかなかに様になってかなり格好良く見えるのから不思議で仕方がない。

「今から屋上行くんだけど、修史も行くか?」

クファの毎回逃げる場所は屋上と決まっているために春が修史に提案を持ちかけた。
もちろん、修史もこのことは理解しているので容易に頷く。

「まてまてーっ! 俺を忘れるんじゃないやいっ!」

教室内から猛烈なスピードにて廊下へと駆けて来たのは案の定、五十嵐であった。
教室内からのため息が一斉に聞こえる。五十嵐のおかげで教室の雰囲気が一気に憂鬱色となったのだろう。

「分かったから、少し落ち着けよ」

春がそうなだめてから一同は屋上へと向かって行った。






春たちが屋上につくと、いつもどおりの面々が揃っていた。
その中には予想通りクファの姿もあり、今は涙どころか満開の笑顔を咲かしながら、菓子パンをひたすらかじっていた。

「遅いっ!」

ピピ〜〜〜〜ッ!!

と、どこからか声が聞こえたかと思いきやホイッスルの後が次に続いた。
こんな子供っぽい真似をするのは春には一人しか思い浮かばなかった。

つかさか……」

春のポツリと呟いた言葉には多少の面倒そうな感じが滲み出ていた。あの五十嵐でさえもそのような表情をしている。

「新学期早々遅れるなとあれほど言ったわよね?」

美しいプロモーションを描き、体の凹凸がしっかりとしているその美少女は綺麗な赤い長い髪をかきあげて風に揺らがせる。
その格好が可愛いというより、美人に近く、さらには格好がとても良かった。
この赤髪の少女こそ、斎条 司(さいじょう つかさ)。簡潔に言うと春たちのリーダー的存在であった。

「遅れるって言っても3分前じゃないか」

春が言ってみるがそれは無駄だとは分かる。だが返事をしないとさらにマズいのだ。

「5分前集合が普通でしょうが。私の主観的理論だけどね」

無理に難しい言葉を使うのは司の特性である。リーダーシップの感じを出したいとかで無理して使うのだ。
皆そのことが分かっているので何も言わないが。

「えーと、これでメンバー全員揃ったっけ?」

司がふっと傍にいた楓に話しかけると首を横に振って否定を表した。

「まだだよー。千鶴ちゃんとかきてないよー」
「燕ちゃんもだよー」
「あ、そういえばそうね」

いきなり、リーダーシップ性が疑われるような発言等だがメンバーはこれを黙認している。
何故かといわれるとそれはもちろん、この先命がどうなるか未知の領域であるからである。

「そういえば今日、千鶴と燕は休むとか言ってたな」

それを修史が言うと司は「あ、そうなの?」と、まるで他人事のようにして言う。
本当にリーダーシップはあるつもりなのだ。本人は。
だからしてそれを春たちは期待の眼差しで見守りたい……のである。

たかだか屋上にきて昼飯を食べるぐらいで昼休みが15〜20分は過ぎてしまった。
もうハッキリ言って時間がなさすぎるぐらいだ。

「はい、じゃあ後から来た男子は急いで食え。出来なかったら胃の中のもの全部リバースさせるから」

(横暴すぎる……)

後から来たものには鉄槌を。それが司流の極道らしい(使い方が間違っているが本人が言うので黙認だそうだ)。

Re: 反響音の響くHz ( No.9 )
日時: 2011/02/07 21:37
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: fFMoervE)

いつもどおりの騒々しい昼飯も終わり、午後からの授業も終えて帰宅となる。
といっても、その前に部活動というものがあるのだが春と五十嵐、ソファに司は何も部活動はしていない。
その代わりだが、司を筆頭とした集団が作られている。それがあの昼飯の面子である。まあ、二人ほど少なかったが。
活動名というか集団名は、十人十色じゅうにんといろと呼ぶ。
何ともそれぞれ別々の個人能力の高いこの学校にふさわしい名前だろうと司が言いだしたのである。
正直、春たちは活動名などどうでもよかったためにそれで確定してしまった。
もっとも、五十嵐がアホな案を出していたり、クファが可愛らしい案を出していたりもしたがそれらは横暴な司によって消滅させられた。
といっても、消滅させられるほど両方しょうもないものというか、なんというか微妙なものではあったが。

春は最後の授業が終わって放課後に突入すると携帯のメールをすぐさま確認した。
すると、そこに新着メールが届いていたことに気付き、すぐさま決定ボタンを押す。
内容を目だけで確認するとすぐに携帯を閉じてポケットにしまった。

「春ーっ! 一緒に帰ろうぜ〜っ!」

丁度いいタイミングに五十嵐が声を投げかけてきた。
今日は十人十色の活動はなく、フリーなために五十嵐が共に帰るように申し出てきたのだと分かる。
活動がある日は必ず司はここの教室に来る。違うクラスだが終わる時間がおかしくないかと思うほど早いのだ。
とはいっても、春だけ特別に途中抜けることを許されている。詳しく事情は皆には話していない。話してはいけないことなのだ。

「おーすまん。俺は先に帰るわ」
「Whyッ!?」

ものすごい速度で体をねじれさせて春を凝視する。視点がどこに定まっているのかも定かではない。

「お前、今ものすげぇ面白い格好になってんの気づけよ」
「春がわけわからんこと言うからだろっ!?」

大袈裟に両手を広げて言う五十嵐。
その五十嵐にため息を吐いて春は五十嵐に向けて指を差す。

「あのね。新学期になって忘れたかもしれんが、俺はバイトがあるんだよ。バ、イ、ト」
「いっ! だっ! ぐっ!」

最後のバイトと言う部分だけ指先で額をつついてやったら、ものの見事に声を発してくれた。
額を押さえながら五十嵐が唸って春を見る。

「くぅ〜〜……ッ! このリア充がっ!」

春が「いや、使い方間違ってるから」とかいう前に五十嵐は教室から凄まじい勢いで出て行った。
バイトしている=リア充という方式は五十嵐ぐらいなのだろうと春はため息をもう一回吐いた。
——俺は、普通じゃない。
それは一番よく分かっていることだった。

「行くか……」

堅く拳を握り締めて、俯く。
次に顔を上げた瞬間、春は微笑みを浮かべていた。それは単なる微笑みではない。
——狂気の感じられる微笑みであった。






園崎家。それはここらの企業の中で最も勢力があると見ても過言ではないほどの大企業であった。
その勢力の広さはここらだけでは収まりきれず、全国へと勢力を拡大していっている。
表社会だけでは今の企業はつぶれてしまうようなこの世の中。裏社会をも生き延びていく企業のみが生き残る。
そのためには様々な利益を取る必要と、名誉がいる。
そんな時代の中、園咲家はものすごい"拾い者"をしてしまったといわざるを得ない。

その者は当初見た時はゴミのようなものだった。クファがその姿を見つけたこともあり、あの性格上助けるハメになったが。
適当な理由をつけて外へと放り出そうとしたのだが、その拾い者には扱いやすい感情があったのだ。
それは——復讐心であった。
これほどまでに扱いやすいものはない。それは今までの経験上ではそう物語っている。
この感情はそれだけを目指している。ゆえに騙すということはしない。逆にそれが出来るいい環境を整えてやれば、金になる。
だが、それだけではなかった。
その拾い者には、ある"能力"があったのだった。
どうやら復讐心ゆえに開花した能力なのだろう。そのおかげで園咲家は多額の金と名誉を得ることが出来たのだった。
——全てはたった一人の"少年"から。

「奥様。春殿がお見えになられました」

女中らしき女が広い和室の奥に腰を下ろしながら正座している女に頭を下げながら言った。
園咲家には"男がいない"といわれる。つまり、全てを従えているのはこの奥に居座る女、園咲 紀(そのざき きの)。彼女こそがこの大企業を支える核たる人物と言って良いだろう。
見た目は穏やかそうな感じだが、園咲家のためならば何でもやってのける鬼とも呼ばれる園咲家の主君であった。

「中へ通せ」
「かしこまりました」

女中は頭を下げるとそのまま下がっていく。そして入れ替わりに姿を現したのは春の姿だった。
その表情は真剣そのものである。だが、それは全て復讐のため。それが滲み出ているからこそ、紀は笑みを浮かべてしまう。

「よく来たな」
「……ご無沙汰しております。奥様」

使用人、という立場からして奥様という呼び方である。春はこの待遇を維持するためにやっていることだと紀は思い込んでいた。
だからこそそんな呼び方にも気にせずに「座れ」とただ一言命令するような形で告げる。

「……失礼します」

ゆっくりと腰を下げて地面に尻をつけた。
その様子を数秒伺ってから唐突に紀から話を持ちかけてきた。

「最近、お前のことを嗅ぎ回っている奴がいるそうだ」
「俺のことを……? ですか?」

紀は話しながら酒の入った瓶を盃についでいく。その後に「お前もいるか?」と春に聞くが丁重に「これから仕事なので」と断った。

「そういえばお前はまだ未成年か」

言った後に結局ついだ酒を紀が飲み干す。その様子をじっと冷静な顔をして春は見ていた。
この紀という女は本当に女なのかと思うほど豪快で鬼のような性格である。
ゆえに飲みっぷりも豪快なものであった。

「……それで、俺を探ってるという奴等は一体?」

本題の方を聞いてみる。早くしないと仕事に間に合わないということもあるからだ。
紀はじっと春の顔を見つめながら口を開いた。

「正体は不明だ。しかし、お前の復讐相手が何か関わっているかもしれん」
「何っ!?」

目の色を変えて春が前のめりになる。これだけ復讐の心を帯びている。その姿を見るだけでも笑みが浮かんできてしまう。
——この男は本当に扱いやすい。一つ復讐関連のことをいえばすぐに食いついてくる。
その感情がどれだけ金になることか。利益として浮くことが出来るか。考えただけでも笑みが止まらない。

「まぁ、まだ確証は得ていない。それに命を狙われる可能性もある。明日ぐらいにボディーガードをつけてやる」
「……分かり、ました。話はそれだけですよね?」

春は早々にも立ち去ろうとする。紀にはそれを引きとめようという気すら起こらない。
あれは自分で尻尾を掴むだろう。それぐらいの"シナリオ"ぐらいは書けるはずだ。
春が立ち去った後、すぐさま"とある相手"へと電話をかけていた。

「私だ。……あぁ。今"カリキュレーター"をそっちに向かわせた。……あぁ、宜しく頼んだぞ」

電話を切ると腹から笑いが込み上げてきた。
それは猛烈に勢いを増し、広い和室全体を紀の笑い声で響かせていた。






春の"仕事"は何のためにあるのか。
園咲家からしたら利益でしかないが、春から見ると生活に"生甲斐"までもが手に入るといっていいだろう。
生甲斐、それはもちろん復讐のことであった。
あの事件はうろ覚えではあるが、復讐相手だけは何故かハッキリと覚えているのだ。
大切なものを、大好きなものを全て消え去っていった男。

春はとある地下の賭け場に到着していた。
ちゃんと正装にも着替えて、見た目では高校生とはとても思えないほどの風格がでていた。
そんな風格よりも、何かが纏っているようにも見えたが。
その纏っているものは言葉では表しきれない何か。それが春の身に纏っていた。

春はテーブルに突っ伏している人や、勝ち誇っている顔をして勇ましくチップを並べている人などを見定めて言う。


「僕も、参加してよろしいですか?」


冷たい、だが冷静、なおかつ笑みまでも浮かべながら春は本当の姿を見せる。
急に纏っていたものが唸りをあげて動き始める。

この賭け場においての絶対的の勝利を見せる"シナリオ"。
それを計算尽くす能力。つまりはシナリオを計算する能力。


その姿は既に、表の世界の春の姿ではなかった。
冷血な、復讐を誓う、計算者——カリキュレーターといわれるべき存在であった。


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