ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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嘘吐きデスパレート
日時: 2011/02/21 22:10
名前: らう ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

 絶望だなんて、ここにはない。

 在るのは、嘘だけだ。




00.川澄都子×長沼真人= >>
01.白岩沙世×川澄都子÷雨森梨絵= >>
02.近状報告-浅沼都子×黒住真人- >>



どうも初めまして、らうと申します。
文才のへったくれもないヤツですが、のんびりやっていけたらなあ、と。
更新速度はきっと遅いと想います、ごめんなさい。一話一話の長さもまちまちです。
生温い目で見守ってくれれば嬉しいです。

ぼやき。(2/21)
残念ながらしぶとく生きてました、お久しぶりですらうです。
ストーリーは見えてるのに執筆が進みません´・ω・`
月1でも更新できたらいいなあ。完結させたいっす。

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00 そのいち ( No.1 )
日時: 2011/01/16 21:51
名前: らう ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

00.川澄都子×長沼真人=


「ボクはね、嫌いなんだよ」

 うっかりしているとぼうっと見惚れてしまいそうなほど綺麗な顔立ちをした川澄都子かわすみみやこは、透き通った夜空みたいな藍色をした瞳を不安定に揺らめかして、目に掛かった前髪をはらった。悲しそうな、苦しそうな、辛そうな——決して明るいとはいえない表情をいつものように顔に貼り付けて、小さく笑い声を上げながら、言った。

「人様の自論を聞くということがね」
「……それが、抗わない理由だっていうのか?」

 口癖のように何度も繰り返されたその言葉に、俺はまるで決められているみたいに何度も使い古された言葉を使い、問いかける。返って来る言葉は、もうわかっているのに。彼女の考えていることは、本人の口から全て聞いたのだから。彼女独特の、よくいえばプラス思考なしぶとい考え方。どちらかといえばいつも浮かべている表情的にはマイナス思考のように思えるのだが、実際は全くもってプラス思考だった。——とはいえ、普通じゃない状況に置かれての、だが。
 いや、でも案外普通なのかもしれない。全国の小中学校には必ずしも起こりうるだろうという、彼女が被害者の事態は。最近ますます増加しているらしいし、それで自殺する輩もいると聞く。まあそこまで酷いことをされているわけでもないし、彼女の思考回路ならば大丈夫な気がする。でも気になるのは、いつも彼女が不安定に揺らめかせている悲しい感情を宿した目だった。実はもう自殺を決意していて、何かきっかけがあればすぐにでも……なんて他人を気に掛けすぎるのは性に合わないので、この際もう放って置くことにする。

「それ以外に何があるんと言うんだ?」

 純粋に疑問の形を顕著に乗せて発せられるその声音は、川澄という名字にふさわしく透き通っているように思えた。なんというか、瞳の色といい真っ黒な流れるような綺麗な髪といい、いちいち透き通っていて純粋な気がする。その全てを感じ取るたび、まるでさらさらと流れる森深くの小川に触れてるような透明感が脳内をぼかす。
 普通ならば学園のマドンナだとかそんな名称をつけられていても全くもって不思議でもなんでもない容姿だが、残念ながらそう崇められる前に被害者となってしまったため、好んで彼女に近づく者はいない。いや、一人だけいるはずだ。確か小学生時代からの友人だと、本人からこの前聞いたような気がする。というより俺は、好んで近づくヤツの中に入っているのだろうか。

「相手の言い分を聞きたくないから、反抗しない」
「もういいか? 放課後呼び止められるのは、もう四度目だぞ」

 そういえば、四度目か。毎日ずっと続けて。下手すると、告白したいのに恥ずかしくて関係ない話ばっかりして告白しそびれる青春野朗になってしまう気がする。とりあえず、毎日ずっと行っている彼女の反抗しない理由を粘っこい警官如く尋問するのは終わりだ。正直、なんで毎日こんなことを行っているのかわからない。川澄と一緒にいると川澄の思考が俺に乗り移ってきてくれたりしないかなぁなんて期待を抱いているかもしれない。……案外事実だったりするかもしれないな。

「ん。どーぞ。明日からは多分呼ばないよ。明日のことなんて知らないけどな」

 そもそも俺に明日があるのかもな。もしかすると下校途中で俺は車に撥ねられるかもしれないし、それは川澄かもしれない。突然心臓発作でも起こして今すぐにどちらかが倒れるかもしれないし、情緒不安定になって川澄が今から飛び降りるかもしれない。わからない、わからないんだ。一秒先でも、何が待っているかなんて。なーんて思うのは、ただの現実逃避野朗か。

「……長沼真人ながぬままひと、お前は何がしたいんだ?」
「何が、だって?」

 そりゃあ、聞かれるに決まってるか。繰り返し呼び出しては、同じことだけを確認して終わる。一体何がしたいんだお前は、といってその後に小学生が使いそうな幼稚な罵倒の言葉が川澄のお父様から連ねられそうだった。いや、そういうつもりじゃないんだけどさあ。
 そして、俺は困る。……馬鹿らしく言ってみたけれど、実際に困っているわけで。ストーカーみたいに呼び止めては同じ詰問だけ繰り返す、なんて無意味かつ無駄な行為のために消え去った時間達が一体何の役に立っているかなんて、全くもって俺にはわからないわけで。つまり、俺も知らないわけで。じゃあ、なんと答えるべきか。
 とりあえず不良は不良らしく、いい加減で浅ましい言葉を返しておこう。

「あんたと喋りたい。それじゃ、駄目か?」

 可笑しいに決まってるだろ、と馬鹿は馬鹿らしく自分で突っ込んだ。

00 そのに ( No.2 )
日時: 2011/01/17 21:27
名前: らう ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

 ずっと前から自分の名前が嫌いだった。沼、という存在を知ったときから大嫌いだった。俺の名字は長沼。そして俺はマイナス思考。つまり幼く拙い思考ながらも、当時小学三年生の俺は考えたわけで。長沼、つまり長い沼。こんな名前だから、一度マイナスなことを考えてしまうとどうにもできずただひたすらに悪い方向へと思考は突っ走っていく、妄想過多なマイナス思考野朗に育ってしまったのではないかと。
 沼は一度はまると中々抜け出せない。抜け出せないというか、抜け出すのは難しい。いや、はまったことは無いから実際にはわからないのだが、あくまでもイメージである。恐らく誰しもが俺と同じようなイメージを持っていると願いたい。まあそれで、ただでさえ沼から抜け出しにくいのにさらにその沼が長いときた。底なし沼から間違いなく沈んでしまうだろう。万事休すってやつだな、多分。
 というわけで、名字に長沼とついているせいで俺はマイナス思考なのだ。……と小学三年生の頃にふと感付いたその自論を、俺は今でも教訓として胸に刻んでいた。確かに痛々しいが、それでも自分でも呆れるしかない酷いマイナス思考っぷりにはこれぐらいの適当な理由でもつけておかないと生涯からかわれそうな気しかしない。

「長沼真人。何の用だ」

 滅多に、というか今しがた始めて声を聞いたと同時に俺の名前を呼ばれたものだから、思わず今までに片方の指の数で足りるぐらいには思い返した思考をフル活動させてしまった。きんとした、例えるなら細い針金のように冷たくすらりとしていて鋭い声に、無理矢理意識を引き戻された。触れると痛いような声だけど、不思議と聞き心地は良い、ような気がする。
 周囲から浮き立つことが好きなわけではないので、簡潔に用を伝えることにした。ぐしゃぐしゃにポケットに突っ込んだ紙切れを取り出して、差し出した。別にらぶれたーとかそういうものじゃなく、これはコイツの妹からの伝言らしい。聞いたところによると双子らしく、学年が同じなそうだ。いや、クラスも一緒だけどな。自分で伝えれば、と言うと“今から部活だから”と一蹴されてしまった。悪かったな帰宅部で。

「んだよ、それ」
「あんたの妹さんからの伝言」

 生憎人間不信さんはすぐさま受け取ってはくれなかった。もしかすると、悪口でも書いてあるとか思ってるのかな。まあ、それも仕方ないけどさ。いつ川澄と同じ状況に陥るかわからない状態に立たされてるんだし。もしそうなったら、コイツはどうなるだろうな。謎だ。
 妹からと伝えると、汚いものに触るかのような手つきでひらひらと眼前で揺らされる紙片の端をつまんだ。ぴた、と紙片の落ち着かない動きが止まる。すっと、指の間から紙片が引き抜かれた。ちなみに俺は内容を知っていたりするのだが、別に折りたたんだりして渡されなかったのだから別にいいはず。とはいえ、内容は大分見てはいけないもののようだと後悔したが。

『ごめんね、また喧嘩しちゃった』

 そんな、手紙の内容。人間不信さんと血が繋がっているとはどうやっても思えない純真無垢な子が書いた、可愛らしい文字の羅列。信じたことは無かったが、どうやらコイツの妹があちらこちらで喧嘩しまわっているという噂は本当らしい。しかし無論俺には兄妹の約束やらなんやらがあるのかまでは知っているはずもなく、その言葉がどれだけの重大さを持っているかどうかなんて計り知れなかった。
 それでもコイツはあまり憤った様子でも哀しげな様子でもないところから見ると、妹がその約束と推定してみるものを破ったことは何度もあるようだ。待っててといわれたら五時間でも十時間でも待ってそうな子犬的小動物っぽいのに、約束を破ることなんてあるのか。少々驚いたことに、自分でも驚いた。妹、もとい雨森梨絵とは兄と同じく全くの初対面なのに、自分はそこまで強い印象を植え付けていたのか。いつの間に。一言二言でも言葉を交わしたことすら無いというのに。
 なんて微かな衝撃を受けているうちに、兄の雨森綾斗あまもりあやとはぐしゃりと手の中でその紙片を握りつぶしていた。あれ、潰してしまうのか。いや、まあどうせ紙片なんだし後で捨てるものなんだろうけれど。そして開け放たれた窓から、くしゃくしゃに丸まった紙片を投げ捨てた。羨ましいことにコイツは窓際の一番後ろの席だ。なんてことはどうでもよく。

「……なんか、ワケアリ?」

 まあ、そんな雨森兄の態度を見てしまったら内部が気になるわけで。プライバシーの侵害だな。とはいっても相手に拒否られればそれまでだから、別にどうってことないだろう。ちゃんと見ていたわけではないが、雨森兄と雨森妹が今まで話しているところを目撃したことが無いような気がする。先程の紙片の受け取り方といい、仲が悪いのだろうか。とはいえ、妹は兄のことは大好きなようだが。
 それは一週間に一度程の割合で、確実に証明されることである。兄はどうも、それを快く思ってないようだが。まあ、コイツのクラス内での呼名は害虫だしな。ははは。笑えねぇ。俺はそんな呼名で呼んだことは一度も無いけれど。というよりまず接触が無いため、名前なんて今しがた始めて呼んだような気がする。

「ん……やっぱりてめぇは気に食わない」
「はい?」

 全く持って予想のしていなかった切り返しに、思わず顔を顰めてしまう。『黙れよ』とか『さっさと失せろ』という類の言葉を想像していたのだが、どう反応すればいいかわからない言葉を返されてしまった。先程までは俺の額やら制服のポケットやらとにかく目を合わさずにこちらを眺めていた雨森兄だったが、俺の素っ頓狂な疑問の言葉についての返答はなく、ついでに窓の外の景色へと目を向けられてしまった。まだ帰らないのか。そう尋ねようとしたけれど、ふと思い出した。
 俺が川澄都子を屋上へ呼び出し、わけのわからない詰問を繰り返し、教室へと鞄を取りに帰ってきたとき。そのときも雨森兄は帰る用意だけをしてぼうっと窓の外を眺めていた。四日連続でその様子が見られたため、どうやら帰宅部なようだ。俺が教室から出たと同時に、反対側の扉から一人の女子が入っていったのを見たような記憶がある。雨森妹ではないようで、名札の色からして同じ学年なようだ。俺は全く知らない人物だったが。
 『あっくん』と恐らく雨森兄のことであろう言葉を発しながら教室へ入っていった辺り、知り合いで結構仲は良いようだ。今日も、待っているのか。どちらにしても、今から俺がいそいそと帰宅するという事実に変わりはないけども。

「……また明日」

 これ以上何も言ってくれないようだったので、それだけ呟くように言っておいた。予想通り、雨森兄からは何も返って来なかった。


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