ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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隠しダンジョンは学校に
日時: 2011/02/08 18:00
名前: メルー (ID: hLYVqFUV)

    第一章




 深夜零時も近い頃、闇夜に浮かぶ白い校舎は月明かりを浴びて、淡く発光しているかのように妖しく佇んでいる。
 こんな時間では、教師も生徒も、誰一人とも校舎にはいない。しかし、月明かり差し込む廊下を行く足音が、ひとつだけあった。
 家庭科室や理科室といった、特別教室が設置されている別館三階。そこの廊下に、一人の少年が佇んでいた。
 この奏月高校の制服に身を包む、亜麻色の髪の少年だ。その胸の校章には、一年生である白い三日月が描かれている。
 少年は無言で廊下の奥を見詰めている。行き止まりの壁を。月明かりが届かず、ぽっかりと口を開けた闇を。険しい瞳で。
 空を流れる雲が風に押されて、夜空を儚く飾っていた月が隠されていく。徐々に廊下に揺らぐ月明かりが消えていき、闇が廊下を覆っていく。少年は虚空から片手持ちのブレードを取り出し、暗闇の密度が濃くなる廊下の先を息を呑んで凝視した。
 月が完全に雲に消えたその時、廊下の闇が歪み、
「ヒャーハッハッ!」
 汚い高笑いと共に、歪から光が迸った。少年はその眩しさに目を瞑り、再び目を開けるとそこには別の世界が広がっていた。
 無数の色とりどりな風船が空中を漂い、空中ブランコや炎のわっかが設置されている。少年の前方にある舞台の上では、大きなボールが転がり、脱出マジックに使われる串刺しのボックスや、ナイフの刺さった回転式の大きな的が置かれている。
「サーカス場……」
 少年が周囲を警戒しつつ、呟く。すると、ステージの奈落から、歪みから響いた汚い高笑いが発せられた。
「ケヒャヒャヒャッ、ようこそ我がサーカスへ!」
 少年が剣を構える。幼げな大きく丸っこい瞳で鋭く射抜く先、奈落から競り上がってきたのは、一人のピエロだった。
 派手な赤と緑のチェック模様の服に、大きなフリルが至るところで揺れている。白塗りの顔には星や雫がペイントされ、如何にもピエロといった姿である。ゴムボールで見事なジャグリングしつつ、剣を構える少年を見据えた。
「そんな、怖い顔をするなよ少年。もっと楽しそうにしろよ! サーカス場に似つかわしくない表情だぜえ、ヒャヒャヒャッ!」
「だったら、学校の生徒や教師を闇に引き込もうとせずに、大人しく芸でも研いていろよ。毎度毎度、夜の学校に来るのは面倒なんだよ。ただでさえ、学校へ来るのがめんどくせえのに」
 吐き捨てるように言う少年に、ピエロは耳に障る濁った笑いを漏らした。
「そうか。なら二度と学校にいかなくて済むようにしてやるよっ——」
 ピエロはボールを投げた。放たれた三つの赤色のボールは炎弾に変化し、真っ直ぐ少年へと飛んでいく。
 

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Re: 隠しダンジョンは学校に ( No.2 )
日時: 2011/02/09 14:29
名前: パピー・キュエット(ご指摘があり、変更) (ID: hLYVqFUV)

 少年は駆け出した。自分めがけてくる炎弾を捉え、走るのを止めずに握り締める剣に力を注ぐ。すると、剣が淡い黄色の光を帯び、一振りすると斬撃が放たれ、三つの炎弾は切り裂かれて弾けた。爆煙の中から少年が跳躍して飛び出し、ステージに立つピエロの切りかかる。
 ピエロは後方へ跳躍して紙一重のところでかわし、ナイフを出現させ投擲した。少年はそれを的確に剣で弾くと、再び斬撃をピエロに向かって放った。
 光の刃をピエロは中空で身を捻ってかわし、張り巡らされたロープを使って縦横無尽に飛びまわり、続けて放たれる斬撃を余裕の笑みで回避していく。
「ヒャハハッ、そんなノロマな攻撃は当たらないよっ」
 ロープに足を引っ掛けて宙吊りになっているピエロが哂う。
「少しは楽しめるかと思ったが、期待はずれだよっと——」
 ピエロが指を鳴らす。すると、少年の足元から箱が現れ、少年を閉じ込めた。
「本日のメインイベント! 少年の串刺し脱出マジックだあっ」
 箱の周囲に何本も剣が出現し、箱に空いた穴に狙いを定めた。
「とは言っても、脱出不可能な箱だけどな。キャハハー」
 ピエロはロープから落下して、くるりと宙返りして着地し、箱の前に赤いイスを置いて、腰を下ろした。
「まずは、一本目」
 中空を漂う剣が震え、箱に向かって矢の様に飛び、少年のいる箱を貫いた。箱から少年の悲鳴があがり、ピエロはうっとりと顔を歪めた。
「いい声だよ。まだ、死んじゃだめだよ」
 続いて二本目が放たれ、箱を貫いた瞬間、再び悲鳴を上げた。
「おっと、調子悪いなあ。心臓になかなか刺さらないや」
 白い顔を高潮させ、ピエロは三本目を放った。悲鳴は上がらずくぐもった声が漏れた。興奮に息を弾ませ、四本目、五本目と、次々と剣を放っていき、遂には声は聞こえなくり、ピエロが熱い吐息を漏らした。
「よく、耐えたよ、君! これだけ刺してもまだ魔力の気配を感じるよ! ああ、でも……消えかけの蝋燭の如く、小さく揺れている。勿体ない。もっと感じたい。けれど……」
 ピエロが腕を掲げると、箱の真上に巨大な剣が現れた。
「今、吹き消してあげるよっ!」
 剣が重力の影響を今受けたかのように落下し、真っ直ぐ少年が閉じ込められている箱へと向かう。重たい風切り音をともなって落下し、少年を箱ごと貫いた。
 大剣が床に突き刺さり、粉塵が舞い上がる。ひしゃげた剣がピエロの足元に転がった。
「フフ……」
 濛々と立ち昇る粉塵を見つめ、ピエロが震えだす。
「ハハハハハハッ、ハハハハハハッ、死んだ! 死んだぞ! ギャーハハハッ!」
 粉塵がゆっくりと収まっていくと、ピエロの笑いが突如止んだ。
 粉々になった箱と折れて曲がった剣があるなか、ぐしゃぐしゃになった少年の死体がそこにはなかった。一滴の血さえも。
「何処に消え——」
 椅子から立ち上がろうとしたピエロは、状態を起こし中途半な態勢で動きを止めた。丁度、空気椅子をしているような態勢で。
 派手な赤と緑のチェック柄の衣装。そのど真ん中を貫く、一本の剣があった。ピエロはぎこちなく首を動かして、自身を貫いた剣を見た。
「アアアアアアアア————ッ!」
 痛みに咆哮するピエロの背後、少年は平然と佇んでいた。
「これで、サーカスは閉演だ」
 貫いたまま剣を上へ一気に払い、ピエロの腹から頭にかけて二つに切り裂いた。
 ピエロは急速に色を失いはじめて真っ黒になり、細かい粒子となって弾けとんだ。
 少年が剣を主のいなくなった椅子から引き抜くと、空間に亀裂が走り、ガラスのように音を立てて砕け散った。
 淡い月明かりに照らされた廊下に、少年はいた。
 握る剣を消し去り、少年は月明かりの廊下を歩いた。

Re: 隠しダンジョンは学校に ( No.3 )
日時: 2011/02/09 22:57
名前: パピー・キュエット(ご指摘があり、変更) (ID: hLYVqFUV)

訂正、これは序章です

Re: 隠しダンジョンは学校に ( No.4 )
日時: 2011/02/10 17:04
名前: パピー・キュエット (ID: hLYVqFUV)

    第一章




 チャイムが授業の終了を告げ、お昼休みとなった。
 国語教師の催眠術に似た授業に静まり返っていた教室も、今や賑やかな昼食会の様相を呈している。
 気の合う仲間達と机を繋げ、親の愛情がこもったお弁当や、コンビニのおにぎりやサンドウィッチを取り出し、お喋りをしながら楽しくお腹を満たしていく。
 三崎蓮もまた、腐れ縁ともいえる仲の友人と共に昼食をとっていた。
「蓮、相変わらずツナマヨ好きだよなー」
 向かいに座る天野翔が、呆れたように言った。
 茶髪で無造作に立たせた髪型で、どこかちゃらちゃらした感じの少年である。
 蓮は翔の言葉に、むっと口を尖らせる。
「うまいんだから、仕方がないだろう」
「それは分かるが、毎日ツナマヨおにぎりばっかりで、飽きるだろ?」
 その言葉に、逆に蓮が呆れて首を振った。
「好物に飽きたら好物とは言わないだろ」
 その持論に、翔は否定することが出来ずに、溜め息を吐いた。
「よくさ、芸人が好物は毎日食べても飽きないと言って、一週間食べ続けたら賞金みたいなのあるじゃん? これを見るたびに非常に腹が立つね」
 手に持つツナマヨにかぶりつき、腹立たしげに咀嚼する。
「好物とかいいつつ、みんな三日目あたりで飽きてるじゃねえか! 自分で笑顔湛えて、好物ですと抜かしておいて、三日で飽きるとは言語道断!」
 残ったツナマヨおにぎりを口に放り込み、新たなツナマヨおにぎりをコンビニ袋から取り出す。
「好物なら、最後まで笑顔で食いやがれってんだ! 俺なら、この愛しいツナマヨと共に、最後まで笑顔で完食するぜ!」
 ツナマヨを高々と掲げ叫ぶ蓮。クラスメイトの何人かは、その叫び共感し拍手で讃え、大半の者は口をぽかんと開けていた。
 誇らしげな表情で自由の女神の如く、愛するツナマヨを掲げる友人に、翔は無言でカツサンドにかぶりついた。




 午後の授業とは、やる気のないものにとっては、最も眠気を誘う甘く危険な時間帯と言える。
 現に何名かは既に夢の中に落ち、教科書は盾になり、ノートは枕のように夢見る主に敷かれている。
 蓮も同様で、愛すら抱くツナマヨを四つも平らげ、幸せいっぱいの表情で突っ伏している。見た目に似合わず、翔は真面目な性格である為、友人が夢の世界にいっている間、きちんとホワイトボードを写し、数学教師のしわがれた声に耳を傾けている。
 そして、毎度同じように午後の授業の殆どを寝て過ごした蓮は、親友にノートを借りて、ぎりぎり底辺に落ちぬように最低限の保険をかけていく。
 帰りのホームルームを終え、大して使いもしない勉強道具を鞄にしまっていると、翔がふらりとやってきた。
「久しぶりに、ゲーセンいかね?」
「ゲーセンか……」
 先週、ゲーセンで猫のぬいぐるみに一目惚れし、必死の形相でアームを操り、結果五千円もの大金を費やして、ゲットできず涙を流していた。
 その日、帰宅してから母親の前で土下座をし、翔と勉強会をやるのに参考書が欲しいからと小遣いをせびり、不審げに眉を顰める母親を何とか言いくるめ、再び財布を暖めた。
 だから、今度こそ猫のぬいぐるみが欲しいところである。しかし、蓮は首を振った。
「悪い、この前見たいに金を浪費しそうだから止めとく。それに……」
「それに?」
「生徒会に用事があるから」
 すると翔は一瞬表情を引き締めたが、直ぐにいつものようにチャライ笑みを浮かべた。
「分かった。じゃあな」
 去り行く友人の背中を見送り、蓮は席を立った。

Re: 隠しダンジョンは学校に ( No.5 )
日時: 2011/02/10 18:08
名前: パピー・キュエット (ID: hLYVqFUV)

 教室を出て、家庭科室や音楽室などがある別館へと向かう。
 本館と別館を繋ぐ渡り廊下を通り、階段を降りて、二階の一番隅の教室。生徒会室の前で足を止めた。飛び出したシャツをしまい、緩めたネクタイを締めなおし、扉を開けた。
「こんにちは、三崎君」
「こっ、こんにちは白山さん」
 上擦った声で挨拶を返し、庶務のプレートが付いた席に腰をおろした。自分の声音にびくびくするのを抑えつつ、気持ちを悟られまいと、押し殺した声で尋ねる。
「今日、早いね」
「うん、先生が用事あるみたいで、ホームルームがなかったの」
「そうなんだ」
 そうして、会話が終了した。
 蓮はこの少女に惚れていた。
 名前は白山美雪。名前の通り、雪のように白い肌で、すっととけてしまうような儚さを持った少女である。彼女も生徒会の役員で、書記を務めている。
 とある事件に巻き込まれて生徒会役員になり、この少女と出会い、一目惚れしたのだ。
 微妙な沈黙が降りる中、蓮は意を決して声をかけようとしたその時、勢いよく扉が開かれた。
「やほーい! 諸君、元気しているかーい?」
 ロングの黒髪を元気に揺らし、沈黙を高らかに破って、一人の少女が入ってきた。
「おやや、ゆきちーとレンレンだけか」
「会長、レンレンはやめて下さい」
 苦い顔で抗議する蓮に、会長と呼ばれた少女は彼の背中をばしばしと叩いた。
「にゃはは、レンレンはレンレンさあっ」
 抗議の声にも動じず、妙な笑いを響かせながら会長椅子に座る。他の役員の椅子がパイプ椅子の中、会長の椅子は黒い革のリクライニング付き回転椅子と、明らかに格差があった。
「ゆきちー、お茶淹れてえ」
「はい」
 会長に命じられ、白山美雪が隣の給湯室へと消えた。生徒会室から隣の給湯室は、わざわざ廊下に出なくとも、部屋で繋がっている。会議の時には皆、お茶を啜りながら、のんびりと、時には激しく議論をかわしている。
「ところでさあ、レンレン——」
「何です?」
 ぶすっとする蓮に気が付いていながら、会長は気にすることなく言葉を続ける。
「昨日のゴブリン(影鬼)はどうだった?」
「弱かったですよ。ピエロみたいな奴で、憑依するより、人を闇に引き込んで遊ぶことを優先していたみたいですね」
 

Re: 隠しダンジョンは学校に ( No.6 )
日時: 2011/02/11 13:17
名前: パピー・キュエット (ID: hLYVqFUV)

 美雪が給湯室から戻り、湯飲みを会長の前に、蓮の前に、そして自分の席に置き、自身もお盆を戻して、席に着いた。
「人をいたぶるのが好きみたいで、昨日僕を箱に閉じ込めて串刺しにしましたからね。一本一本、ゆっくりとね」
「まあ、直ぐに憑依して、現実で何かやらかしてくれるよりは、マシだね」
 苦笑を浮かべる会長に、美雪も曖昧な笑みを浮かべる。
「いずれにしても、厄介であることにはかわりませんよ」
 その言葉に会長は、間違いないと呟いて、美雪が淹れてくれたお茶を啜る。蓮も同じく啜り、白山美雪が淹れたお茶であることに喜びを感じ、その余韻をじっくり楽しむ。
 暫らく三人でのんびりお茶を啜っていると、机に置かれた会長の携帯が震えた。意外にも会長の携帯は、ビーズやらシールやらで可愛らしくデコレーションされている。
 会長は画面見つめ、あややと目を丸くした。
「四人とも、用事があるみたいで来れないみたいだねえ。今、みーくんからのメールだけど、その前に三人から欠席のメールきていたよ」
「会長は会長なんだから、メールはこまめに確認してくださいよ」
 生徒会役員のメンバーは、それぞれの連絡先を知っている。会長全員と連絡を取り合い、活動予定や会議の出欠の有無をやりとりしている。
「いやー、だって面倒じゃん。走ってメンバーの子に伝えた方が楽だよ」
「それこそ面倒だと思いますよ。全く、何の為の携帯ですか……」
「えっ、可愛くデコる為でしょ?」
 当然でしょと言いたげに首を傾げると、蓮はがくんと項垂れた。
 全くこの人はと心中で呆れ、そんな二人に白山美雪は穏やかに微笑む。
「さて、会議を始めるか。何疲れた顔をしているんだい、レンレン?」
「いいえ、大丈夫です」
 内心では、あんたのせいだろと突っ込みつつ、気持ちを切り替えて、笑みが消え真面目な表情に切り替わった会長を見据える。
「最近、生徒達を闇へ引き込もうとしていたゴブリンは、レンレンが昨晩退治しました。が……」
 会長は席をゆっくりと立ち上がり、窓際に立って、外を眺めた。
「再び、ゴブリンの幼生、つまり、シャドウが現れました」
「何処ですか?」
「まだ、わからない。幼生は力が弱いから気配が希薄で、ゴブリンに成長するまで発見は難しい。レンレン、シャドウとゴブリンの違いは何だった?」
 振り返り、会長の試すような口調に、蓮は淀みなく答えた。
「シャドウはゴブリンの幼生で、多少の自我はあるものの、その名の通り影である為、ゴブリンのように能力で倒す事は出来ない。但し、シャドウは正のオーラに免疫がなく、闇に負けず力強い心を持てば撃退する事が可能です」
 答えを聞いて、会長は満足げに頷いた。


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