ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

未題
日時: 2011/02/12 17:41
名前: 如月 郁斗 (ID: e22GBZXR)




貴方は覚えているだろうか-

子どもの頃に見た“夢”を。子どもの夢といっても、小学生などが見る拙い将来の夢などではなく、中高生の頃に見る眠るときにほんの少しだけ見た“夢”のことである。
俺が中学生のときに見た“夢”は、今まで味わってきた眠るときの身体中を包み込むような柔らかな温もりなど、造作もなく打ち消してしまうようなものだった。

常に消えないイメージがあった。それは、大切な人を目の前にし、微笑を浮かべ静かに佇む自分の姿。
その左手は、真っすぐ前に伸ばし、右手はコートのポケットの中。
不思議と心は穏やかで、相手と目を合わせる。

しかし、コートの中の右手には鉄のような冷たい感触。形は分からない。その“自分”はゆっくりと右手を前に差し出し、“それ”を自らの大切な誰かに向け微笑みを送る-

主にイメージとしてあったこの場面は夢で見るようになってから益々現実味を増してきていた。
そしていつしか今まで苦手としてきた“血”や“死体”、残虐なシーンなどを好むようになっていた。
いや、好むまでに留まらず、いつしかこう願うようにもなっていた。

自らの手で、誰かに“血”を流させたい、と-

たぶんその頃からだろう。俺の性格も、好みも精神状態も、今までがまるで幻かのように変わってしまっていた。


                     -暗転

Page:1



第一章 一話 ( No.1 )
日時: 2011/02/15 18:10
名前: 如月 郁斗 (ID: e22GBZXR)



「火事だ!みんな逃げろ—」
草木も眠る深夜2時半。建築年数が40年程度といったアパートの一室で寝ていた俺は、近所の口煩い親父の叫び声で目が覚めた。

…今度は火事か、大胆だな。

まだよく働かない頭で少し慌てて周りを見渡すと、何の変哲もない部屋が瞳に映し出された。
しかし妙に鼻に付く臭いが少し焦げ臭い気がしてゆったりとした動作で窓を半分ほど開けた。
部屋が二階のため、少し下を見下ろせば穏やかに毎日を過ごす人々の姿がよく見えるはずだった。

しかし、今は違う。いつかの“夢”で見た人々が他人を押し退け逃げ惑う醜い姿−
見渡す先にあるのは、夕日で染まったかのように真っ赤な見慣れたはずの町並みだけだ。

対称的に上を見上げれば、星の輝きが一つもない、それこそ純粋な黒を流し込んだかのような空があった。
ただ一つ“夢”と違うところがあるとすれば、自分もその醜い醜態を曝している人々と同じ状況であるということ−

「…俺もそろそろ行くか。」そう小さく呟き、通帳や印鑑、財布や携帯電話など生活に必要最小限のものを肩にさげるタイプの鞄に入れた。
そうしている間にも、さらに煙臭くなる部屋。徐々に狭まる視界。
とりあえず出よう。と、玄関のドアノブに手を置き回した。すると、そこから先は既に別世界と化していた。

これが、地上界で繰り広げられる人工の地獄、というものなのかと漠然とした意識の中で思っていた。
俺−有紀ユウキはその現場を一瞥した。階段、玄関は使い物にならない。となると、窓しかないか−

仕方なく部屋へ戻り、先程開けた窓を一瞥した。ここは二階。何の準備が無くても問題ない−
そのまま窓に近付き右足を窓の淵に乗せて力を込める。その勢いで身体を思い切り外に投げ出した。

その少し先に、細いシルエットが見えた。まさか、と思い見つめてみる。すると−
…嗚呼、やっぱり彼女だ。彼は知らず口元を柔らかく歪ませた。勿論、彼女に向けてのモノだった。


   二話 ( No.2 )
日時: 2011/02/16 19:23
名前: 如月 郁斗 (ID: e22GBZXR)




少しして、ダンッと足から徐々に痺れが四肢に回ってきた。しかし彼はそのまま先程の彼女が行きつくであろう場所へと足を進めた。
彼女が怪我でもしたら大変だ、という思いより彼女の四肢に支障を残せば今後の“計画”の変更を強いられる。それは避けなければ。
その思いが一番彼の本心だった。

彼が真下で両手を広げると、それに気付いた彼女−魅希ミキは安心したように柔らかに微笑んだ。母性を感じさせるものとはまた違う、それは相手に魅せるような微笑みだった。
少しして彼の腕に彼女は落ちてきた。嬉しそうに抱きつく彼女と優しく髪を撫でる彼。その姿は希望に満ちた恋人同士そのものだった。

魅希ミキ、上手くいったか?」
少し心配そうに言う有紀を他所に元気よく頷く魅希。
「勿論っ、あんな男一匹くらいなんでもないよ!」
可愛らしさの中にどこか妖艶な雰囲気を醸し出す彼女に彼は、
「今回の始末は火事か。大胆だな?」
そう彼が口元を歪ませると、彼女はとても純粋な眼差しで告げた。

「でしょ?あたし—
もう邪魔者は完全に消し去ることにしたの。」
明るくそう言い切り、彼の唇に自分のそれを重ねた。
しかし彼はすぐに唇を離し彼女を地面に下ろした。
そして、僅かに微笑み告げた。

「良くやった。ただし、ご褒美は後でな。」
彼女の唇に人差し指を置き妖艶な笑みを浮かべた。するとその行為が何を示すものかが理解できた彼女は、僅かに頬を赤らめ頷いた。
「うん…いつもの、あたしの部屋で待ってる。」
彼女の台詞に小さく頷き、くるりと踵を返して歩き始めた。

思ったより使える。拾って正解だったな、あの女は—
そう思った彼は、少しだけ口元を歪ませた。

その時、「ゆうーっ」と自らを呼ぶ叫び声が聞こえ振り返った。


Page:1



この掲示板は過去ログ化されています。