ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 四人の聖夜
- 日時: 2011/02/13 18:59
- 名前: Aliens (ID: 2hEhxVIm)
- 参照: http://annasako.blog24.fc2.com/blog-category-0.html
サンタクロースが最後に家を訪れてから10年が経った。 毎年このクリスマスシーズンになると、町の外がサンタ一色になる。けれど、少年たちにはプレゼントをあげない。 シーズンを過ぎれば、何事もなかったように町は一掃されて、サンタは消えている。 そのたび少年たちは問う。 ぼくのサンタはいったいどこへ行ってしまったのだろうか。
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- Re: 四人の聖夜 ( No.1 )
- 日時: 2011/02/13 19:00
- 名前: Aliens (ID: 2hEhxVIm)
- 参照: http://annasako.blog24.fc2.com/blog-category-0.html
第82.444次元 最後の聖夜
——12月23日、夕方
ぼくは玄関をとびでた。
貯金全部と、乗車券、十年日記帳、おもいつくかぎりのもをつめたショルダーバッグをかかえ、玄関にたちふさぐアリゾナをつきとばして表通りにでた。夜道をちからのかぎり走る。目は涙目だ。
もう一秒たりとも家にはいられない。ぼくのまわりは完全にねじれてしまった。
「もうておくれだ」と嘆くおとなたち。自国家をつくり、じぶんの利益のために武装するこどもたち。共通するのは、どいつもこいつも涙目だ。テレビをつければ、だれもかれもが涙目で。ラジオをつければ涙声。そんなに、なにをかなしむのか。
ぼくは人気のない公園へ走りこんだ。心臓が内側からつき破るように脈打っている。この場所はいつもだれもいない。夏ごろまではごろごろいた浮浪者も、ちかごろ寒くなって全員凍死した。
ぼくはプラタナスの落ち葉が散りつもったすべり台にこしかけ、浮浪者のようにからだをまるめた。骨がガタガタふるえだす。凍死するつもりはない。ぼくはショルダーバッグをひらき、両手いっぱいにカイロをとりだして、からだのいたるところに貼りつけた。これで一夜をしのぎ、あすのあさ北行きの電車に乗ろう。
そしてこの町をでよう。
「モラスク・パルーン。よろこべ。おまえの脳を解剖しておれの研究に役立てることができる。うれしいだろうな。光栄だろう。人類にとってなにより光栄なからだの使い道だ。そうだろう?」
狂った精神科医はぼくの眉間に拳銃をつきつけ、そういった。けさのことさ。
アリゾナは4オクターブの悲鳴をあげたきり、なにもしなかった。なにもできやしなかったんだろう。アリゾナ・バーナーソンは父さんの助手で、愛人だ。
ぼくは狂った精神科医の拳銃につばを吐きかけた。弾は事前にぼくが抜いておいたからだ。だが、それはまちがいだった。つぎのしゅんかん、花火のような銃声が耳元で爆発し、ぼくは額の頭がい骨がくだけた感覚をおぼえた。たしかにくだけた感触だった。
しかし、弾ははずれ、白煙をたなびいて床にめり込んでいた。ぼくは床に倒れたままうっすらまぶたをあけた。おかしなことにわれたのはめがねだけだったのだ。人間の五感の不正確なことか。
ふりかえると、狂った精神科医は拳銃を投げ捨て、ぼくにだきついた。骨がきしむほど痛くだきしめられた。そのときは狂った精神科医もぼくもアリゾナも涙目だった。けさのことだ。
ぼくは夜空へむかってあくびをした。ねむくなったわけではなく、凍えるようなさむさをまぎらわすために。しろい息が宙にはなたれて消え、街頭のひかりが水面にうつったようににじんだ。たんに、そうみえただけだ。
つぎのあさ、ぼくはジャンパーの下からつめたくなったカイロをはがし、あるいて市駅にむかった。からだにめだった傷はなく、無事一夜をこせたみたいだ。時刻表はまったくあたまにはいっていなかったが、北行きなら一時間に一本はあるはずだ。
運のいいことに、駅につくと、北行きの10分後の電車が蛍光板に表示されていた。ぼくは窓口でとりあえずふた駅分の乗車券を買い、蛍光板にかいてあった一番ホームへおりていった。家からもってきた北行きの乗車券はみな有効期限が切れていたのだ。あたまがもうろうとしていたのか、階段をふみはずして、あしもとのハトをふみつけそうになった。鳩は奇声を発して逃げていき、おかげで目が覚めて、ようやくぽかぽかした家出日よりのいいあさだと感じはじめるようになった。
電車はもうホームにきていた。
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