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壊滅の子守歌 〜デス・ララバイ〜
日時: 2011/03/28 09:12
名前: 無慈悲なアリス (ID: cQ6yvbR6)

こんにちは。
無慈悲なアリス、お初でございます!
さっそくですがクリックありがとうございます!

まず最初に注意事項をどうぞ…

◆ダーク・ファンタジーでグロありです。注×100!
 私の名前のとおり容赦ありませんっっ
◇複雑な世界だと思います。わからなくなったらお聞きください!
◆ヘタです、ご注意ください。
◇矛盾ありかも

以上をみて、ダメなようでしたらおすすめしません。

「全然大丈夫さ、なめんじゃねーヨ」という方^^
よろしくお願いします。

コメント頂けると幸いです★★

第一章  >>1 >>2 >>3 >>4


●登場人物●

スバル ♂ 16歳

銀髪に漆黒の瞳をもつ少年。想い人だったリーがデス・ラインにさらわれた。それ以来デス・ラインの本拠地の地上でリーを捜し続けている。
モンスターやデス・ラインメンバー殺戮を繰り返し、地下では「殺し屋」と呼ばれる。

ユーナ ♀ 16歳

長いプラチナ・ブロンドにパープルの瞳。
スバルと同じような境遇で地上にいる女戦士。その美貌と強さで知名度が高く、地下では一部崇拝されている。スバルを前から慕っていた。

アーシャ ♀ 14歳

双子の弟コリンとともに地下で暮らす少女。
ノーム・チルドレンの運命を嘆いている。

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Re: 壊滅の子守歌 〜デス・ララバイ〜 ( No.1 )
日時: 2011/03/18 15:40
名前: 無慈悲なアリス (ID: cQ6yvbR6)


————血のにおい。

それも複数の人間のものだ。
ありとあらゆる感情——怨念、憎悪、恐怖、絶望……などが混ざり合って、そこにいる人間の狂気を引き出してくるほどの狂おしいにおい。

ここに渦巻くほとんどの感情は、俺がヤツらに与えた死の恐怖から現れたもの。だが俺は後悔などしていない。……むしろ爽快感にひたっていた。俺と『彼女』を巻き込んだ当然のむくい。
コイツらは、人間よりずっと醜悪で、腐敗しているモンスターとなんら変わりはない。


俺は胸ぐらをつかんで壁に押し付けた男———その顔は苦痛と恐怖にゆがんでいた——を見つめたままその震えを感じ取った。
断末魔の叫びを上げる前の顔。必死に俺の良心を引き出そうとしている。だが俺の心は揺らぐはずもなく、自分ですらも驚く冷酷な声でささやいた。

「お前は……デス・ラインのメンバーだな」

男はあわててうなずいた。俺はつかんでいる腕に力をこめる。男が喘いだ。

「言葉で答えろ」

「ヒイイ!!そうですっ……!デス・ラインの…Bメンバーです…」

「お前みたいなクズがなぜここにいる」

「デス・ラインのボスは……総動員してある男を捜せと…」

「俺のことか……」俺は一人笑いをした。

「そ、そうだ…。その目の色!!」

「めずらしいか…」

「そ、そんな……目、見たこともねえ…!」

「そうか、では焼き付けてやろうか…?」

男は首をぶるぶると振った。「とんでもねえ!!」
俺はまたしても笑い、右手の剣を持ち上げた。男は血走った目を見開き、あわれっっぽい声で懇願した。

「おねがいだ!!俺さえ見逃してくれたら、なんでもやる!所持金を全部やって……それから」

「ボスをかわりに倒してくれるなら助けてやってもいい」

男の顔がさあっと青くなった。

「ムリだ!!あの方を倒すなんて、恐らく神でも不可能だ」

「神ってのは、ずいぶんかよわいんだな」

俺は冷たく言い放ち、剣を振り上げた。男は力いっぱい抵抗したが、戦いをつんできた俺の力にかなうはずもなく、断末魔は一瞬のうちに消え、あとには真っ赤に染まった死だけが俺の手にのこった。

ふう、と息をついた。
血の強烈なにおいが鼻の奥をつつきまわし、わずかながらの吐き気を覚える。これでも正気でいられるのが我ながら驚いた。たいていのヤツはモンスター5匹でも倒すと目がまわるといって叫びだし、狂気をおさえられなくなる。
そのまま正気を失い、狂気の世界でうごめくヤツらを、俺は幾度となく見てきた。みな体中を赤く染め、どす黒い口をあけたまま剣を振り回す。対象が、敵であっても、味方であっても……。

俺は剣を鞘におさめて振り返った。一刻も早く鍛冶屋のもとへいきたい。最後の男を殺してから、剣先にひびが入っているのに気付いた。
そのすきまから汚らわしいデス・ラインの血がはいるのは耐え難かった。


幾多にも重ねられた死体、あるいは死骸の上を歩き続ける。
黒い耐水性ブーツはすでに真っ赤にそまり、耐水もそろそろ限界かも知れないとぼんやりと感じていた。

————いや………。

すべてが、限界だ。俺を支えているすべてが。
あれからもう3年。
俺はなにかを手に入れただろうか?


汚名と、絶望以外に———。

Re: 壊滅の子守歌 〜デス・ララバイ〜 ( No.2 )
日時: 2011/03/26 21:30
名前: 無慈悲なアリス (ID: cQ6yvbR6)

  リー、お前、どこにいるんだよ……。

 
言い表せない口惜しさに顔をゆがませながら、俺は強く懇願していた。
どうして、どうして……世界は不平等に、不条理にできているのだろう。なぜ3年もこんな恐ろしい場所でたった一人戦っているのに、俺は報われないんだ。
いつも血と弱音を吐きそうになるのをこらえながら毎日を過ごしてきた。
ろくに光さえない無慈悲なこの闇のなかで、『彼女』を求めて、もう一度会いたいという強い思いだけをたよりに生きてきたのだ。


———なぜ、神は俺を見捨てたのだろう……。

なぜ、俺は………


「よう」

聞き覚えのある声が突如耳に響いて、俺は我にかえった。振り向くと、汚れて無精ひげをはやした、長年の友レインがそばの岩に腰かけて、俺を見つめている。その目にかすかに同情が光ったのを見て、俺は鼻を鳴らした。

「なに見てんだよ。それに、同情はまっぴらだって、一年と五か月前に言ったはずだぞ」

レインはにやりと笑った。「ほう。この世界で時がわかっているとはたいしたもんだ。みんな、地上にでると一分が一時間に思え、一時間が一分に思えてしまうこともある」

俺は睨み付けた。「うるせえ。当たり前だろ」

「…まあ、そうカッカするな。お前しばらくなんの手がかりもつかめなくてイライラしてるんだよ」

「そうだとしても、お前の世話にはならねえ」

俺はなぜか強がったが、内心はどうしようもない孤独感に心がうずいていた。レインはすべてわかっているという風にうなずき、それから赤黒い空を一瞥した。

「…変わってないな。ここは。いつだったか、青空がみえるのを信じていたのに、今じゃそれが先祖の記憶でしかわからない」

俺はレインを見つめた。「…先祖の記憶がわかるのか」

レインは苦笑してうなずく。「ああ。今までそれのおかげで正気を失わずに過ごしてきたからな。お前もそういう意味では俺といっしょだろう」

………。俺は答える代わりに目を細め、地面に視線を落とした。緑のクモ——クモとコケが合体した異形者——がせかせかと歩いている。猛毒で、ヘタになめては命に関わる。
レインもいつのまにかそいつを見ていた。

「…スバル。お前もそのクモのようだ。いつもはおとなしく、群れもつくらずに歩いているが、少しつつくとさっきとは別人のように狂暴になり、猛毒をまき散らす………。
そう。不安定なんだよ。地下では殺し屋と呼ばれているお前だが、心は絶えず揺れ動いている。微風のなかの蝋燭のともしびのようにな」

俺は反論もせずにレインを見据えていた。努めて彼の年齢を探ろうと眺める。だが、彼はいったい何歳なのか、見当もつかなかった。20代にも見えるが、50代のじいさんにも見える。
だが、彼の落ち着き払った不思議な口調とその言葉に、俺はわからなくて当然だという気持ちになっていた。

「スバル。お前は強い、だが弱い。この意味はわかるか?
五感だけですべてを読み取ろうとするな。それだけでは必ずなにかを見落とすものだ。
お前は超人並みの技と経験をもっているが、まだ心が人間のままなのだ。理性のことを言っているのではない。この世界で生きるには、つねに体だけでなく心にも鎧をまとっておくことだ。
お前が相手にしているヤツはお前の心などすぐに見透かしてしまうだろう。ヤツは心のスキを狙って痛めつける。かつてそうなってしまった輩を見たことがある………お前だけにはなってほしくない」

たとえようのない沈黙が俺たちを包む。
俺は押し黙ってまっすぐレインを見つめ、それからゆっくりとうなずいた。目が覚めたような気分で。

レインはしずかに微笑むと、立ち上がって両手をのばした。

「さて、いくとするか。スバル、お前はしばらくここにいるのか」

「いや。鍛冶屋にいく。もう何か月もいってないから」

「そうか。バックのところへか」

「ああ。久々にデス・ラインの雑魚たちを一掃した。ヤツらは俺を捜してるようだからな」

レインは笑い声を上げた。

「好都合じゃないか。お前はヤツらの本部を捜している。そしてヤツらもお前を捜している。やがて運命のいたずらとやらで会うだろう。お前もこれで報われるわけだ」

「リーを取り戻さなければ、報われない。だが、探さなければ意味はない」

「そうだ」

レインはうなずき、しずかな足取りで歩きだした。
俺はしばらくじっと立ち止まったままその後ろ姿を見つめ、それから瞳を閉じた。
ふいにリーの微笑みが頭の中で蘇る。


 リー、待ってろよ。
  俺が、絶対に助けてやるから。もっと強くなって、見つけてみせるから。

Re: 壊滅の子守歌 〜デス・ララバイ〜 ( No.3 )
日時: 2011/03/26 14:36
名前: 無慈悲なアリス (ID: cQ6yvbR6)

「もう!アーシャ、こんなところにいたの?」

空をベタ塗りしたような、単調な青空を見上げていたアーシャは、双子の弟の声に、ハッとして振り返った。そこには肩で息をしながらアーシャをにらんでいるコリンがいた。

「ひどいよ。僕ずっとさがしてたのに」

「ごめん…」アーシャは金色に輝く髪に手をやりながら謝った。
コリンは顔をさっきとは打って変わり、顔をほころばせてうなずく。

「だいじょーぶ」

アーシャは苦笑した。

地球——アース——が第三次世界大戦によって、腐敗し、生物の文明が地下にうつったのは、もう20年も前のこと。
地下に新たにできた大都市たち——インターナショナル・ネオ・タウン——では、まるで地上のように暮らすことができるが、自分たちの頭上にある青空も太陽も、そして雲も……みんなアールフィシャル・ビューと呼ばれて人工的に造られている。

だから、いくら太陽がまぶしくても機械的な光であり、日射が強くてもそれは機械的な熱として伝わる。青空だって、絵の具の水色で塗ったようなもの。透き通るような青、というのは、もう永遠に失われてしまっている。
風なんていうのも、全部造りもの。
本来のものだなんて、もうかつて地上に暮らしていた生命しかない。

幼いころからかつての地上に憧れつづけていたアーシャは、この見晴らしの良い「リュークの丘」をときたま訪れていた。そして、空を見上げながらはかない望みを胸いっぱいに膨らませるのだった。

だがその望みは、必ずと言っていいほど深い悲しみに変貌することがあった。

「……、今にも、あの空が本物になってくれたらなって、思うの」

アーシャはささやきにも近い声で言った。
コリンは黙って空を見つめた。彼女の声からは、悲嘆と願望の苦い響きが痛いほど伝わってくる。
誰よりも、兄弟としてアーシャを愛するコリンは、そんな彼女を見るのがたまらなくつらかった。

「…アーシャ…」

アーシャはすすり泣きをしていたがやがて頬に涙のすじを光らせながら涙声で嘆き始めた。

「…ねえ、どうすればいいのか、時々わからなくなるの。
あたし、悲しむよりは憎んだ方が、恨んだ方が楽だと思ってるから……、本で見るような美しい空や景色を、失わせてしまった人がいるはずなのに、誰を恨めばいいのか、誰にこの悲しみの責を負わせればいいのかわからないのよ……!
——大人たちは、みんな本物の空をしってる。でもあたしたちは見たこともないのよ!でもそれは誰の責任でもないの。分かってるわ、それくらい。でも、でももう、あたしたちが本物の空を見ることは永遠にない。そう思うと、たまらなく悔しいのよ」

華奢な肩が、悲しみのために震えている———深い悲しみ。
無責任な大人たちには決して分かるはずがない悲しみ。
そして、楽観主義のコリンでさえ頭がおかしくなるほどの悲しみだ。

コリンはふいに単調で無表情な空に目をやり、やがてなにかを振り切るかのように顔をそむけ、アーシャの肩に手をやった。

「…アーシャ。きっと、くるよ。本物の空を見上げる日がね。
そう思っていようよ。たとえ可能性がたったの1%だとしても、信じてみる価値はあると思うんだ。今、世界政府が地上を元通りにする計画をすすめてる。やっぱり、地下にも限界はあるからね。
……それに、僕たちノーム・チルドレン(地上を知らない子供たちの総称。第三次世界大戦後に生まれた子供すべて)の限界もね……」

アーシャはコリンを見上げた。頬が紅潮し、今にも泣き叫びそうな顔をしている。

「ほんとうに?」

コリンは微笑んだ。「ほんとうに」





Re: 壊滅の子守歌 〜デス・ララバイ〜 ( No.4 )
日時: 2011/03/27 09:59
名前: 無慈悲なアリス (ID: cQ6yvbR6)

すべてが、限界に近づいている。


        *


この生活を続けるのと、世界が終わるのは、どちらがいいだろうか。

俺はバックの手慣れた手つきをぼんやりと眺めながら物憂げに考えていた。毎日、毎日モンスターを殺し続け、情報を求める。毎日、毎日リーのことを想い続け、彼女の苦しみを思うたびに胸が痛み、デス・ラインへの憎悪がつのってゆく。
いつかそんな日々が終わるのを祈り続けながら、また俺は殺し続ける。

世界が終われば、俺はその苦しみから解放されるだろうか。
囚われているリーの苦しみも終わるだろうか。
世界の不条理は、消えるだろうか……?

——そして、神は消えるのだろうか?

やがて俺の思考は「神」という壁にぶち当たり、そこで激しくフラッシュした。白い光を放って、思考回路が閉ざされる。
気が付いたとき、目の前に俺の愛剣をもって心配そうに見つめているエメラルドグリーンの目があった。

「大丈夫か??」鍛冶屋バック・ヘンリーは低い声で訊いた。

俺はうなずきながら目をこすり、苦笑いをしてポーチをまさぐった。

「……ああ、疲れたみたいだ。ありがとう、何カル?」

バックは微笑みながら答えた。「常連中の常連だからな。安くしてやる。230カルでいい」

「ほいよ」俺はすばやく渡し、ニヤリと笑った。
「それいつもいってるぜ」

バックはカルを箱に入れながら言った。

「今回だけはいつもの20カル安くしてる」

「ホントだ。いつもはお決まりのセリフのあとは250カルだものな」

「俺の気前のよさがわかるだろ」

「そのいかつい顔からはうかがえないがな」俺はぼやいた。

バックは口を真一文に結び、浅黒い肌をした額にしわを寄せる。俺はふいにその日焼けした肌がたまらなく羨ましく思えた。

「バック、それはかつてのアースの名残か?」

「この肌か?」バックは訊き返す。俺がうなずくと、バックはそのとおり、とかわいた笑い声を上げた。

「20年前はなんと海のそばで暮らしてたのさ。ホワイト・ビーチが恋しいよ。あれをもう一度見る前に、俺は死ぬ気はない」

「俺もみたいさ」死ぬほどな。

「感動するぜ。青空は美しいものだ」バックはうなずく「それに…海もな」

「海っていうのは、赤くないのか」

「ああ。理想の地上はほとんどが美しい青だったんだよ。風も穏やかですずしくて………、あれは絶対に人間が再現することができない」

「だからあんたは地下へ降りないのか?」俺はバックを見た。

バックは苦笑しながらうなずく。「ああ。地下は夢を見ている人間たちの暮らす場所だ。ノーム・チルドレンが可哀想さ。だが、平和に生きるにはあそこしかないからな」

やがて沈黙が二人を包むと、戸口の鈴がなって一人の女性が入ってきた。
バックはそれを見るなり、顔をほころばせた。

「やあ、久しぶりだなあ。ユーナ」

俺はユーナと呼ばれた女性をしげしげと眺めた。端正で、綺麗な顔立ち。うすいプラチナ・ブロンドが背中で波打ち、パープルの瞳が輝いている。肌も透き通るように白く、バックが喜ぶのもうなずけた。
ユーナは優雅な足取りで近づいてくると、バックに一礼した。

「さあさあ、どうぞ。今日はどうしたんだ」

ユーナは魅力的な微笑を浮かべながら俺のとなりに腰かけた。淡いライトに照らされたブロンドが光る。どういう関係だろうと、俺がバックを盗み見ると、ユーナは綺麗な声で言った。

「誤解しないで下さいね。私はあなたと同じようにバックの常連です。あなたのことはバックから聞いていましたから、お会いするのをとても楽しみにしていました」

バックも加勢をする。「そうだぞ、スバル。ユーナさんはお前と同じくらい長年ここを訪れてくれる人なんだ。むしろ会うことがなかったのが不思議なくらいだよ」

「ええ。本当ですね」ユーナは言った。

「俺とユーナさん以外に常連はいんのか」

なんだか怪しくなって、俺は目を細めた。もしかしたら、バックの常連の中で男は、俺だけかもしれないという疑問が横切る。

「ああ。長剣使いのリリアンとか、小斧使いのレニーなんかもそうだ」

「女だな」と俺。「あらほんと」とユーナ。

バックは赤面しながら俺を睨み付けた。

「やましいことは考えてねえぞ、スバル」

「どうだか」俺は笑った。予感・的中だ。なんとも妙な気分。

「ところで、スバルさん。あなたはデス・ラインについて調査していますよね」

「ああ」俺は身がこわばるのを感じた。警戒心がまとわりつく。
ユーナはいつになく真剣な様子だ。バラ色の頬が緊張で固まっている。

「実は、わたしもそうなんです」

それには、俺もバックも目を見開いた。

Re: 壊滅の子守歌 〜デス・ララバイ〜 ( No.5 )
日時: 2011/03/30 16:24
名前: 無慈悲なアリス (ID: cQ6yvbR6)

「ど、どういうことなんだ?」バックが先をうながした。

ユーナはしばらく黙り込んで考えたようだが、共犯めいた目つきで俺に目をやると、ため息をつきながら話し始めた。

「私は……おそらくスバルさんもそうでしょう。ノーム・チルドレンの一人で、2年前までは地下で兄弟とともに暮らしていました。

ノーム・チルドレンの中には、両親が第三次世界大戦によって行方不明であるというのは珍しくありません。私たち兄弟もそうでした。
それまでは両親は死んでいると聞かされていて、親戚の好意などでなんとか生きてきたのです。
ですが、両親は死んでいるわけではありませんでした……」

俺とバックは息をひそめていた。
ユーナは一息つくと今度は悲しそうな口調に変わった。

「両親は……デス・ラインに捕えられて、強制的に働かされているという極秘情報が入ったんです。私は兄弟たちには隠して、一人で地上に出て、両親を捜そうと決意しました。

デス・ラインという組織についても調査したかったのです。
なぜなら、「殺し屋」と呼ばれるあなたがデス・ラインについて調べていると聞いていましたから……」

「……なぜ俺を?」俺はうつむきながら尋ねた。

ユーナはじっと俺を見つめていたが、やがて顔をそむけて自嘲をふくんだような苦笑を美しい顔に浮かべた。

「なんででしょうね……しばらく前から「殺し屋」の伝説が気になっていたからでしょうか。私は、たった一人で地上の現実に立ち向かうあなたを知りたがっていました。
私は地上と聞いただけですくみ上る臆病者なのに、あなたは毅然として生きているのですから……」

バックは笑みを浮かべた。「スバル、お前のファンは少なからずいたようだな」

「黙れ」俺は顔を赤くした。殺し屋にファンなどいるものか。

「あら、そうそう」ユーナはあわてて腰の鞘から細い長剣を抜き出し、バックに渡した。「強度10%、耐久性を20%あげてほしいの」

バックは目をまるくした。「合計30%!? そうとう高いぞ」

「大丈夫よ」ユーナは銀色のポーチからどっさりとカルを出した。
「この日のためにためておいたの」

「なにをする気だ」俺は尋ねた。

「………デス・ラインの情報が入ったんです」

「何 !?」

ユーナは控えめに俺を見た後、ゆっくりと頭を下げた。
ブロンドがさらさらと肩からすべり落ちる。

「……初めて会ったのに、すみません。

その……スバルさん……私とペアを組んでください」




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