ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 草原の先に、神隠し
- 日時: 2011/04/02 21:25
- 名前: 凛 (ID: fS3ho1RJ)
いつも通りの日常を送れるはずだったのに。
その当たり前な日常が崩れていく。そう、あっという間に。
本来なら関らないはずの〝存在〟が関る時、全てが狂い始める。
嗚呼こんな事になったのは何でだっけ?
思い出せば涙と後悔だけ。
永遠に自由になれないのでは、と思うくらい永い時間を過ごしてる。
全ては〝罪〟を〝償う〟ため。
呪う先は自分かそれとも、神か。
どちらを呪い怨めば良いんだろうか————
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- Re: 草原の先に、神隠し ( No.1 )
- 日時: 2011/04/02 21:25
- 名前: 凛 (ID: fS3ho1RJ)
ある町に引っ越した俺は母さんたちと共に云わば近所に挨拶しにきた。
昨日、引っ越してきたばかりだから良く分からないのに町へ出かけた。
早く家に帰りたいのに、と思いながら車に乗る。
市役所で何か手続きでもするんだろう。
俺には関係ない話だが、とにかく市役所の暑すぎる暖房が耐え切れず、
母さんたちを市役所に残し、車に戻った。
車に戻ったのは良いがそれにしても暇だ。退屈すぎる。
別にまだ市役所の手続きに時間が掛かりそうだから外にでも出るか。
と思った矢先に母さんたちが市役所から出てきた。
車が動き、俺は横に荷物が未だ詰め込まれた座席に寄りかかった。
「ねぇ、あなた。暇だから何処かに行かない?」
「何処にだい?」
「そう、ねぇ……」
この町の事を全然知らない俺たちが知っている場所なんか無いのだ。
軽くドライブという結論に至り、適当に車を走らせていた。
そして適当に窓から眺めた風景にある光景が見えた。
「あら、あなた。あそこの小道の先に丘があるわよ」
「ああ、本当だ」
窓から眺めれば、あの小道に通じているのか、その先に丘があった。
父さんが車を小道へと走らせた。多分好奇心だからだろう。
母さんも流石に言った。
「まさか、あそこに行くつもりなの?」
「ああ、良い暇潰しになるだろう」
「美味しいお店とかあれば良いわね」
とだけ言い、それっきり何も言わなくなった。
父さんはどんどんと小道に車を走らせる。
木々が生い茂げているが僅かなので風景がまるみえだ。
そうしている内に丘に着いた。
丘の入り口付近には大きな杉があった。
丘に着き、車に降りた母さんたちはその木を見上げる。
「大きな杉ねぇ」
「この丘はどうやら草原みたいだな、ピクニックに最適だ」
「誰もいないようね、車にあるサンドイッチと紅茶を持っていきましょ」
母さんは車に戻り俺の後ろ座席にあるサンドイッチと紅茶を取り出す。
「純、あなたも降りなさい」
「俺はしばらく此処を探検する」
「そう、お母さんたちは入り口付近の傍に居るからね、気をつけるのよ」
「分かった」
母さんたちは俺を残して草原へと入っていった。
別にピクニックする気も無い俺は車から降りて神木に近づく。
—— ガシャンッ!
急に足元に何かが突っかかり転んだ、と同時に何か割れる音がした。
立ち上がって見れば、杉の根元に小さな祠が壊れている。
そして祠の中にあったのだろう、これまた小さな鏡が割れていた。
壊した。
俺は驚いてその場を少し後ずさりした。
完全に鏡は壊れていて、もう直しようも無かった。
「………どうしよう」
この祠は誰が何の為に作り誰の物なのか分かるはずもなく弁償するにも、
引っ越してきてまだ1日しか経ってないのだから全く分からないのだ。
というか、この地域の人々が作ったのか個人が作ったのか分からない。
—— 誰も見てない
という事は俺が壊したことは誰も知る由もないのだ。
だが母さん達が戻ってきた時に割れた鏡があると見られればアウトだ。
すぐさま鏡を拾い集め、俺は近くにあった小川に鏡を投げ捨てた。
壊れた祠は生い茂る雑草の茂みに隠した。
これで完璧。
大体こんな人気のない所に祠なんかあったら迷惑に決まっている。
問題の物が解決した事で特に罪悪感などは感じず、車に戻った。
もう、あんな面倒な事には巻き込まれたくないからだ。
だけど暇なので買ってもらったばかりの携帯でゲームした。
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- Re: 草原の先に、神隠し ( No.2 )
- 日時: 2011/04/02 21:50
- 名前: 凛 (ID: fS3ho1RJ)
「………遅いな」
あの草原に行ったきり母さんたちは戻ってこない。
もう20分くらい経っている。
好い加減に戻ってきても良い頃なのに。
はあ、と溜息して俺は車から降り草原の入り口へ入った。
—— たしか母さんは入り口付近の傍にいると言ってたな。
付近を探すが誰もいない。というか人気すらなかった。
一体何処まで行っているんだ、母さんたち。
あの好い加減な父さんのことだから遠くに行ってるのだろう。
更に奥へと進む。
だが、いくら探しても見つからず仕方なく車に戻った。
車が見えた頃に見覚えある人も見えた。
母さんたちだ。
俺は走って母さんたちと車の元へ急いだ。
「母さん!」
凄く責めたい気持ちになった。アンタ等を探してこっちはクタクタだ。
だけど母さんはこっちを見るなり。
「早く車に乗りなさい」
とだけ言った。あんなに遅かったのに、そんな言い草なのかよ。
俺は仕方なく車に乗り込んだ。
草原を離れる光景を窓で眺めながら、俺は考えた。
あの時の母さんの態度が納得が行かない、それと違和感を感じる。
何処か変だ。何処が変なのか、それすらうやむやで良く分からない。
だけど絶対に何処か変だ。
ふと、前を見ると、バックミラーに母さんが映っていた。
同時に違和感の理由が分かった。
「…………お前、誰だよ」
母さんの目の色が違っていた。
母さんは真っ黒な目の色なのに、コイツは……!
「やっと気付いたか、人間」
絶叫が車内に響き渡った。
目の前に居るのはもはや母さんではなく全く別人の女性になっていた。
隣に運転している父さんも父さんではなく、別人の男性になっていた。
母さんではない女性が赤い目で俺を見つめる。
逃げようとする、が車は運転中で身体が動かない。
「逃げれるとでも思った?残念ね、あなたは逃げられないわ」
「貴様の母親と父親はすでに我々の人質だ」
突然の事に訳が分からないまま、若い男女がそれぞれ言う。
良く見れば服装も現代とは明らかに違い、古代だ。
なんというか、歴史の教科書に出てきた大和時代の服装みたいな。
とにかく俺は逃げようとやっと動いた体で車のドアを握るが開かない。
窓の風景も霧に包まれていた。
さっきまであんなに良い晴天だったのに。
唖然とする俺を冷ややかな視線で女性が言った。
「今から日本古来の八百万の神々があなたを裁くわよ」
八百万の神々、何を言ってるんだ、新たなカルト宗教の信者か?
「あんたね!八百万の神々も知らないの!?……まあ、仕方ないか」
「最近の日本人は仏教と神道の区別も分からないんだから、仕方ないな」
——— 仏教と神道?
どんどんと霧の奥に進む車に俺は唖然としながら女性の言った言葉が、
頭に引っ掛かった。
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