ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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愛犬服従歌
日時: 2011/04/05 02:03
名前: 野卯ミカ (ID: fG4XXkjw)
参照: http://nomica.mamagoto.com/

初めまして。
野卯ミカと申します。

普段はブログでみじみじやってます^^
趣味で自由気ままに書いてるのでまずいとこだらけだと思うのですが;
文章おかしいところとか、わかりづらいところがあればお気軽にコメント頂ければと思います。
少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。

明るい学園モノを!と思って書き始めたものの、ダーク展開になってしまったのでこちらへ投稿しました;


・行き当たりばったり展開。
・更新亀どころかカタツムリ。
・わりと長くなります多分。

それでもOKという方のみご覧下さいませ^^

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1 彼女こそ絶対 ( No.1 )
日時: 2011/04/05 02:06
名前: 野卯ミカ (ID: fG4XXkjw)
参照: http://nomica.mamagoto.com/


 ◇


 飼い主の命令は、絶対である。





 愛 犬 服 従 歌






01 彼女こそ絶対


「ほら、優姫」
 机に置かれた紙パックのジュースを見て、優姫(ゆうき)はぐっと眉を寄せた。
 愛らしい小さな顔がみるみるうちに凶悪な表情を作っていき、一(はじめ)は思わず苦笑する。大きな瞳がぎゅっと眇められ、口が頑固な一文字をつくるそれは幼い頃からまるで変わらない。そう思えば微笑ましいのだが、彼女は一度機嫌を損ねてしまうと長いのだ。
 大きな瞳がそんな一をちらりと映して、またすぐに紙パックへと視線を戻す。
「フルーツ牛乳」
 棒読みで読み上げられたのは、紙パックに印字された商品名であった。
「わたしが頼んだのはこれじゃないわ」
 一は肩をすくめて弁明する。
「売り切れてたんだよ。優姫、こっちも好きだろう」
「いちごみるく」
「だから売り切れて、」
「今日はいちごみるくの気分なのよ」
 頑なな口調でそう言って、優姫はぐっと一を睨み上げる。
 そんな優姫の視線を苦笑して受け流すと、一は席について弁当を開いた。
「今日は入荷してないんだってさ。さすがのおれも学校にないものまでは買ってこられないよ」
 弁当箱を開くと、今日は好物のエビフライ弁当だった。一は嬉々として箸を持ったが、優姫はフルーツ牛乳を睨みつけたまま、一向に動こうとしない。あまりにも強情なその姿に、一は小さく溜息をついた。
「おい優姫、いい加減に」
「ね、イチ?」
 一が注意する言葉を遮って、優姫はフルーツ牛乳を手に取ると一に押しつけた。
「これはイチにあげる。だから、ね」
 にっこりと、微笑んだ。
 その笑顔に、一はひく、と頬を引きつらせる。
「いちごみるく、買ってきて」
「あのな、優姫。人の話、聞いてたか?いちごみるくは今日」
「それは売店の話でしょう」
 きっぱりとそう言い放つと、優姫は財布を取り出して一に差し出した。
「コンビニにならきっとあるわよね」
「そりゃあ……いや、いやいやいや」
 一の顔が、みるみる青ざめていく。
「ちょっと待て。まさか今から行けって言うんじゃないだろうな?」
「当たり前じゃないの。イチの足なら余裕でしょう」
 笑顔と共に放たれた言葉に、一はがっくりと肩を落とした。
「……お前な、ちょっとは妥協しろ」
「あら、誰に物を言っているの?」
 一の抗議をふん、と鼻で笑うと、優姫は腕時計に視線を落とした。
 一は小さく呻いて、弁当と時計を交互に見た。昼休みは残り20分を切っている上に、机の上の弁当にはまだ少しも手をつけていない。コンビニまでは片道5分、買い物の時間を含めると15分弱は時間を取られることになるだろう。
「イチ」
 優姫の声が、悶々と考えこんでいた一を現実へと引き戻す。
 はっと顔を上げると、優姫は細い手首を持ち上げて一に時計を示し、
「設定タイムは10分」
 ——できるわね?
 ふわりと優雅に微笑んだ。
 愛らしい笑顔と共に放たれた命令を、一はぐっと唇を噛んで飲み込む。そして未練たっぷりに箸を置くと、勢い良く立ち上がった。そして、
「くそ、待ってろよ!」
 財布を掴み、鉄砲玉のような勢いで教室を飛び出した。


 さて、場所は変わって一学年下の一年生の某教室である。
 軽やかに校庭を駆け抜けていく一を見ていた女子生徒がいた。
 彼女は高めに結い上げた髪を揺らし、窓の外へ視線を落とす。最近フレームが緩みがちな赤い眼鏡を押し上げて、窓ガラスに両手をついた。
「あ、戌亥さんだ」
 ぱっと目を輝かせた彼女を見て、友人たちがくすくす笑う。
「出たよ、智子の戌亥先輩病」
「ほんと好きだねぇ」
「いいじゃないの、別に」
 唇を尖らせて反論し、再び校庭へと視線を落とす。しかしほぼ全力疾走に近い速さで駆け抜けていく彼は、あっという間に校門を抜けて行ってしまった。
「どこに行くのかな、あんなに慌てて」
「おつかいじゃないの」
 ひとりの女子生徒の言葉に、智子はぱっと振り返る。
「おつかい?」
「兄貴が言ってたもん。戌亥は麻生姫のイヌなんだって。あんただって見たことあるでしょ。戌亥さんといつも一緒にいる、あのお人形みたいな人」
 智子は記憶を辿り、頷いた。
 戌亥の傍には、いつも小柄な少女が傍にいた。白くて細くて、小さくて、本当に人形みたいにきれいな人だった。ふたりは仲が良さそうで、何より、彼女を見下ろすときの戌亥の瞳があまりにもやさしくて——てっきり付き合っているものだと思っていたのだ。
「じゃあ、付き合ってないの?」
 目を瞬かせた智子に、友人はしっかりと頷いてみせた。
「恋愛じゃなくて、主従関係らしいわ。時代錯誤もいいところよねぇ。でも本人がそう言っていたらしいし、あの学年じゃ有名らしいよ」
「主従関係?本当に?」
 目を丸くした智子を見て、友人はにっこりと笑った。
「そう。だからあんたにも、可能性はあるってこと」


 
 ◇


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