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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 序章
- 日時: 2011/04/22 01:03
- 名前: 川上流 (ID: HHprIQBP)
俺には、子供の頃から———見える。
何が見えるのか———はっきりと言いたくない。それははっきりとしたものじゃないからだ———。正確にそれを、言えないなら嘘になる。
だから、俺は見えるとしか言わない———。
それが、何て言うものなのか———分からないのだから。
暗闇の中、見ようと目を凝らすと、やはり見える———。
人のような———————、
否——————、
『怪物』———か。
——あちらは、俺が気付いていることに気付いている。
しかし、相手にしたくないので、俺は無視する。
関わり合うのは、ごめんだ。
それでも、近づいてきたら、こう言う————
『お前を———殺せるぞ』
とこう言うと、
大体、どの怪物もにやりと笑って、消える。
臆病———なのか、
———それとも、見える俺が余りに奇妙だから、恐らく、値踏みしているのか———。
こいつは何なのか———、
もう少し、様子を見よう———と。
———消える怪物はそう思っているのかもしれない。
その日————俺が眠ろうと、布団に入ってから行く場も無く、気配がした。
————それが俺の部屋に入ってきた。こうゆう事は初めてだ。
家で出た事なんて一度もない——。
月明かりが妖しげに部屋を照らし、
少し開いた窓から流れ込む、夏風が厭に冷たく感じた。
ぼおおおおおお、
ぼおおおおおお、
何かが窓から、這い上がってきた———。不気味な声と共に———。
こいつ、いつもの奴と声色が違う———。
何だ?
こいつは——。
叫んでいるのか———。
布団から、起き上る。
相変わらず、眼で見ると、何も見えない——。
そこで、俺は目を切り替えた———。
月明かりに照らされた、ぼんやりと見える怪物がいた。
棟目に見れば、白髪にまみれた老人のように見えるが、眼球は血のように紅く、手の全ての爪は肘ぐらいに伸びている———。爪は屈折して折れ曲がり、緋色に染まっている。何とも不気味だ。服装は、黒のボロを纏い、ほぼ半裸に近い———。
顎は外れているのか人の顔がすっぽり入ってしまいそうな程、大きく口を開け、黒ずんだ歯、全てがまるで犬歯の如く鋭い。
名は何と呼ぼうか
———後で困るな。
白髪爺とでも呼ぼうか———。
ぼおおおおおおお、
ぼおおおおおおお、
叫んでいる———。どこを向いているのか分からぬ目だ———。
まず———言葉が理解できるのか、
こいつは。
また、白髪爺が叫んだり、何を言おうとも何も他の人には聞こえない———。
恐らく、唯一、俺が見えるだけだろう———。
「俺はお前を殺せるぞ———さっさと消えろ」
俺はぶっきら棒にそう言い放った。
白髪爺は血のような瞳で俺に向かって叫ぶだけだ。
ぼおおおおおおお、
ぼおおおおおおお、
という叫びを繰り返した———。
そして、俺に向かって———喰い殺そうと顔を向け、爪を向けた————。
ひゅん、と風を斬る音。
俺の眼に映る————人外の生き物—————。
俺はこうゆう手の話や、
こういう訳のわからない生き物が大嫌いだ———。
見えないから、人は恐怖し、見えないから、生き物を———知らない。
ああ、なぜだろうか、
斬りたくなってくる———。
俺は頬に向かってくる爪を、斬った。コロン、コロンと、まるで鉄の棒のような音を立てて、床に爪が落ちる。何が起こったのか——怪物の方は何も分かっていない。行き成り、無くなった自分の爪先を見つめている———。
俺の手には日本刀が握られている———。日本刀も、俺の眼に朧げに映っている。
実際にはないが、俺には見える刀———。
白髪爺と一緒だ———。
そして、俺は白髪爺の首を切り落とした———。
すると、血が噴き出したのではなく、黒い液状の何かが首から吹き出し、吹き出し、転がった爺の首の方と同時に、液状の何かと同時に——蒸発するように消えた———。
———俺には不思議な力がある。
時計を普通の人には見えない日本刀に変える力———。
こういう普通、見えない化け物を見ると—————斬りたいという
感情が湧き出してくる———。
普通は怖いと思うのかもしれない———。だが、俺は違った———。
それよりまず、それほど怪物が嫌いなのだ———。
それに、この怪物は大抵……一人で来ない———。
窓から奴らが這い上がってくる———。
ぼおおおおおお、
ぼおおおおおお、
と言う音が幾重にも重なり、この辺りに響く。
今日は眠れなそうだ。
奴らは人を喰らう物もいる。こいつらはその類だ。
でも、先ず、勘違いしている。
この怪物は俺を人だと思うのなら、間違えているのだ————————。
人じゃないんだ…俺は。
—————序
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