ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- (仮題)煉獄絵巻
- 日時: 2011/05/02 18:36
- 名前: とりつくうさぎ (ID: eZhua0R/)
初めて書く小説なので、稚拙な文で読みにくいかと思いますが、読んでいただける方がいらっしゃれば歓喜の極みです
〜あらすじ〜
宇宙人に拉致された人々が、念力の力をさずけられ、お互いの命をかけたゲームをすることになる。様々な思いを胸に、人の力を超えし力を得た人々は血で血を洗う殺し合いを繰り広げていく。
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- Re: (仮題)煉獄絵巻 ( No.1 )
- 日時: 2011/05/02 18:37
- 名前: とりつくうさぎ (ID: eZhua0R/)
序章
1995年8月16日。透は蒸し暑い夕暮れ時の坂道を一気に自転車で駆け下りていく。母に用事を押し付けられているうちに、少し出発が遅くなってしまった。坂の下には夕焼けに染められ、燃えるように赤く輝いている背の高いススキの群れが波打っていた。
坂を下りきって、しばらく走ると、今まで通ってきた大きな道から左右にススキの壁を抱く細い脇道に入る。先ほどまでの綺麗に舗装された道にくらべて、こちらは少々デコボコ道で、透の乗る自転車は地面の凹凸に合わせてバウンドしながら進んでいった。
この滅多に人の通らない寂しいススキの道は理緒の昔からのお気に入りで、いつも二人の待ち合わせ場所はススキの道の中ほどにある東屋と決まっていた。この東屋で休憩している人を、透は理緒以外に見たことがない。だから、ここはちょっとした透と理緒の秘密基地。例えそれが朽ちかけた東屋でも、理緒と共有している二人だけの場所は透にとってかけがえのないモノだった。
やがて、道は緩やかなカーブにさしかかり、それを曲がってしまうとススキの向こうに小さな東屋が見えてくる。透は、その東屋の前に立って、退屈そうに足元の石ころを蹴飛ばしている少女に向かって、大きな声で呼びかけた。
「理緒—!!」
透の声に反応して顔を上げた理緒は満面の笑顔でこちらに駆け寄ってくる。透も自転車から降りて、理緒に駆け寄った。
「ごめん。待たせちゃったね。ママに捕まっちゃって・・・。」
透が息を整えながら謝罪すると、理緒は大げさに首を振って、
「いいんです、いいんです!私、全然待ってませんから!」
白地にピンクの牡丹の花の模様が入った浴衣を着た理緒は、精一杯のフォローをいれてくれる。「全然待ってない。」と言われるのも、透からすれば些か複雑なのだが、当の理緒はそんなことにはまるで気づいていない様だった。
透は苦笑して、もう一度「ごめん。」と謝ると「いこっか。」と夏祭り会場の方向を指さす。理緒は「はい!」と笑顔でうなずいて、二人で一緒にススキの道を歩き出した。
背の高いススキの壁に遮られたこの道を二人で歩いていると、まるでこの世界に理緒と二人きりになったような錯覚に陥ることがある。この錯覚が本当の現実であればいいのにな。透はよくそう思った。しばらく二人とも黙って歩いていたが、不意に理緒が口を開いた。
「透君のお母様、もしかして私と透君が今日一緒に夏祭りに行く事に気づいていたのでしょうか?」
どうやら、理緒がずっと黙っていたのは、それを心配していたらしい。母の卑屈で嫌らしい顔が頭に浮かぶ。
「たぶんね。だから、嫌がらせで用事をやらされたんだろうし。まあ、途中で抜け出してきたんだけど。でも、もう大丈夫だよ。流石のあの人も、わざわざ祭りの会場まで探しにきて俺を連れて帰ったりはしないだろうしな。」
透が勝ち誇ったように笑うと、理緒は不安そうな顔をして、
「勝手に抜け出してきたりして、後で怖い事をされませんか?」
「大丈夫だってば。適当な言い訳は考えてあるからさ。」
透は、理緒を安心させるために、ことさら明るい声でそう言った。理緒は、それでもまだ心配そうに透を見ていたが、透がクラスの担任の物真似などをして空気を和ませてやると、無邪気に笑っていた。
透の母は理緒を毛嫌いしていた。というよりも、透が好きなものはすべて毛嫌いしている。つまるところ、母は透のことが大嫌いだった。別に透が母に何かをしたわけではないが、恐らく透が母のこの世で最も嫌いな男の息子であることが原因だろう。その男、透の父はもうこの世にいない。2年前、透が6歳の時に暴力団の抗争の最中に相手のヤクザにピストルで撃たれて死んだ。父が死んだ報せを聞いた時、全く涙が出てこなかった。父は、透や母に事あるごとに暴力をふるってくる最悪の男だった。父が生きている間は、毎日のように体に新しい痣や傷ができたが、死んでくれたおかげでその心配がなくなり、ほっとしたことを覚えている。しかし、父が死んだ後には母の暴力が待っていた。父とは違い、直接殴る蹴る等の肉体的な暴力をふるわれることは少なかったが、無視されたりご飯を作ってもらえなかったり、透自身や理緒のことを口汚く罵しられたりと、精神的な暴力をふるってきた。こんな家に生まれた事を、透は恨めしく思う一方で感謝していることがある。それは、理緒が近くに住んでいたことだ。理緒と初めて出会ったのは、父に思いっきり腹を蹴られて嘔吐した後に、嘔吐した罰として一キロ先の酒屋まで重さ数キロの氷を買いにいかされていた帰りの道だった。もたもたしていて氷が解ければ、また父に殴られることは明らかであったため、透は歯を食いしばって必死に氷を運んでいた。その時、突然目の前にやってきて、反対側から氷を抱えてくれた少女が理緒だった。突然のことに驚いて、きょとんとしていた透に向かって、理緒はにっこりと微笑んで、
「私も一緒に持ちます!一人でこんなに重たいもの持っていて、もしも腕が千切れたら大変ですから。」
その出会いから、透は理緒と仲良くなり、一緒にいる時間が増えていった。暴力団組員の息子というレッテルのせいで友達もできず、家にも学校にも居場所の無かった透にとって、理緒は初めて心を通わす事の出来た人間だった。
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