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「初めまして。私はあなたのことが嫌いなの」
日時: 2011/06/05 20:03
名前: みんころりんこんこんばんわ (ID: Hsu/pkT7)

「初めまして。私はあなたのことが嫌いなの」


螺旋階段を上った先で彼女が言い放った言葉は、自己紹介とは到底言えないものだった。

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Re: 「初めまして。私はあなたのことが嫌いなの」 ( No.1 )
日時: 2011/06/05 20:17
名前: みんころりんこんこんばんわ (ID: Hsu/pkT7)

春。入学式。校内をうろつく男の影。


「あーーっ!」


誰もいない廊下で、一人の男子生徒が叫んだ。
反響する音がまた彼を追い詰め、そしてもう一度「ああ」と悲嘆を漏らした。


「どうして、どうして誰もいないんだよ……」


しんとした廊下にぽつねんと佇む彼の名は、糯木 要(もちのき かなめ)。
さっぱりと切り揃えられた髪型に、黒縁の眼鏡。どこからどう見ても真面目に見える。が、そんな真面目に見える彼は入学式早々不良じみた行為を行っている。


「体育館はどこなんだよ……。ここ、どこなんだよ……」


悲痛な声を情けないと思いつつも、出さなければやり過ごせられない状況まで追い詰められている彼は、ポケットの中にあるぐしゃぐしゃになった紙を取り出した。
その紙には「入学式案内」とでかでかと書かれており、その下に入学式が行われる場所は体育館と小さく書かれていた。
そこまでは普通のプリントだ。だが、肝心の体育館の場所が書かれた地図がないのだ。
その代わりに長々と言葉が羅列しているだけで。


「えーと。体育館は正門を抜けた右手にある階段を上り、二階の廊下を真っ直ぐ歩き、左手にある渡り廊下を渡り、それから右に曲がり今度は左手に曲がり、奥にある両手開きの扉を開け、渡り廊下を渡り、そのすぐ横にある階段を降り、…………」


要はふう、と息を吐いた。
その顔はどこからどう見てもさめざめとしていて、目は死んでいた。


「わかるわけないだろ……」

Re: 「初めまして。私はあなたのことが嫌いなの」 ( No.2 )
日時: 2011/06/08 19:04
名前: みんころりんこんこんばんわ (ID: Hsu/pkT7)

当てもなく廊下をふらふらと歩いていると、要は廊下の奥に青白い光が薄暗い廊下を奇妙に照らし出しているのが見えた。

「……」

歩き回って疲労がたまった体はもう動きたくないと駄々を捏ねているが、何故だか脳が行けと命令している。
不思議に思いつつも、要は足を動かした。

Re: 「初めまして。私はあなたのことが嫌いなの」 ( No.3 )
日時: 2011/06/09 20:01
名前: みんころりんこんこんばんわ (ID: Hsu/pkT7)

緩慢な動きで進むと、青白く光っていた場所は、使われていなさそうな教室の横にぽっかりと空いた空間だった。

「古い……」

要が思わず言葉を零したのは、その不思議な空間にぐるぐると上まで続く螺旋階段があったからだ。

どうしてこんな場所に。どうして螺旋階段?

疑問は途切れることなく溢れ出てくる。けれど、その疑問を解消してくれる人はいない。
湧き上がる好奇心。そして、その錆付いた階段は何に繋がっているのか。

要は自分が迷子になっていたことも忘れて青白く照らし出された奇妙な階段に一歩踏み込んでしまった。

Re: 「初めまして。私はあなたのことが嫌いなの」 ( No.4 )
日時: 2011/06/12 21:20
名前: みんころりんこんこんばんわ ◆XRouSN7y6I (ID: Hsu/pkT7)

音が頭に響く。
かん、かん、と鳴るたびに要は頭の中が真っ白に塗りつぶされていく気がした。だがそれよりも頭が無になるほどの高揚を覚えていた。
疑問を解消してくれる。ということだけが要を動かしているのだ。

かん、かん。かん、かん。

何かに突き動かされている。「操り人形のようだなあ」と漫画に出てくるような台詞を心内で吐くと、自分がまるで主人公のように思えた。
よく「自分は人生の主人公」と謳い文句を聞くが、要は自分のことをそう思ったことがない。地味で、取り得も特に無い自分が主人公なんて。と常々思うからだ。

要の、絶えず流れるようにするすると動いていた疲労を感じない足がふと止まった。
ふと下を向くと、白く綺麗な床に自分の影が映っていた。
今、自分はあの不思議な光に照らし出されているのかと思うと、途端に恐ろしくなって一歩だけ降りた。
昂っていた己が、冷静になって自分を見た瞬間だった。

Re: 「初めまして。私はあなたのことが嫌いなの」 ( No.5 )
日時: 2011/06/16 18:04
名前: みんころりんこんこんばんわ ◆XRouSN7y6I (ID: Hsu/pkT7)

「もしここに誰か来たら、なんて言い訳をしたらいいんだろう」と要は気が気でなかった。
立入禁止とは書いていなかったものの、この階段は確実に特別な場所へと導くために作られたはずだ。
そんなところを、ましてや低学年の自分が上っている。

どきどきと、自分でも分かるくらいの鼓動がとても忌まわしい。

要が考えあぐねいている時だった。


「入学式なんてやってらんねえよ」
「何で二年生の俺たちがわざわざ新入生なんて見に来ないとだめなんだよ」
「貴重な休みを奪われるわけにはいかねえよな」

馬鹿のような笑い声が要よりも遥かに高い天井にぶちあたった。
緊張が最高潮に達した。
手のひらはぐっちょりとしていて、ぐー、ぱーを繰り返すと空気のせいで手のひらが冷たくなった。
自分が硬直して立っているのにもかかわらず、今にも音を発しそうで怖い。

螺旋階段は手すりが付いていないので、要は頭だけを階段から出した。
下には体格のいいちゃらけた「不良」と世間では呼ばれるような男二人が、青白い空間の少し離れた場所で窓を背もたれに立っていた。
あちらからこちらが見えることはないが、今の状態では見つかってしまう。
ぐるぐるとした階段の中心にある軸の白い棒に、足音を立てないようにしながら近づき、しがみ付いた。

冷たい金属の温度が要の体温に同調しようと段々暖かくなっていくのが堪らなく気持ち悪い。
あと、手汗のせいでうまく掴めず滑る手もにゅるにゅるとして嫌だった。

要がしゃがんで更に体を棒に押し付けたとき、「そういえばこの階段ってどこに繋がってるんだ?」と不良が言った。


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