ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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今日という名の花を摘め
日時: 2011/09/08 20:35
名前: 熊 (ID: lj7RA5AI)

何だかんだと多忙だった所為か全く更新が叶わない状態の小説にようこそっす。
この小説は色々と犯罪用語が色々と飛び出て来るんで御注意を。
因みに、描写能力の低さと更新速度の遅さには絶対に自信がありますぜいッ!!
ま、兎にも角にも自己満足の小説っすけど、皆さんに楽しんで戴ける様に頑張りますぜ。

〜本編〜
第零話 此れは所詮、狂人たちの物語 >>01
第一話 謳われた者は背徳の闇を往く >>02
第二話 "神の眼" >>03

Page:1



Re: 今日という名の花を摘め ( No.1 )
日時: 2011/09/08 15:26
名前: 熊 (ID: lj7RA5AI)

第零話 此れは所詮、狂人たちの物語

"記憶"は過去に現在だった時間軸の残滓だ。
その残滓は過去が忘却によって喪われることに抗わんとする過去の抵抗。
人の心に懸命に獅噛み付き、必死に忘却の彼方に喪われまいと抗い続ける、滑稽な行為。
結果は忘却の彼方に喪われる以外にないのに。
故にそれは終焉に対する時間の延長行為に過ぎない。
記憶は現在だった時間軸の残滓。
それは喪失の終焉を迎え、最後には忘却の彼方に散る。
神が世界に敷いた"時間"という絶対の法則に虚しい抵抗を続けて。

だが、この世界には喪われてはならない"記憶"がある。

"戦争は終わった"

勝利の喊声に世界が揺らぐ。
それは銃弾と剣戟の戦場が漸く此処に終結すると告げていた。

"戦争は終わった"

この双腕に握った機関銃の弾丸は何人の敵の体躯を穿ったか。
赤の液体を撒きながら斃れる敵の様子は脳裏を離れず、握った機関銃の感覚は依然、消えず。

"戦争は終わった"

神の御名の下に。
逡巡と罪悪感を抑え付ける様にその言葉を唱え、敵国の民衆に銃口を構え、…撃った。

"戦争は終わった"

この戦争で俺達はその腕を穢し続けた。
虐殺。暴行。拷問。処刑。私刑。戦争という環境の中で俺達は狂気に犯された。

"戦争は終わった"

兵士から殺人鬼に。兵士から戦闘狂に。兵士から喪失者に。
そんな戦争の痕に、俺達は祖国に英傑として迎えられ、その偉業を讃えられた。

"戦争は終わった"

…確かに戦争は終わった。
だが、俺達の戦争は──────────────、まだ終わっていない。

喪われてはならない記憶。
それは"戦争"だ。
銃弾に体躯を穿たれた死者の後悔を忘れるな。
剣戟に体躯を裂かれた死者の怨恨を忘れるな。

此処に、戦争の記憶に縛られた狂人たちの物語を綴ろう。

"狂気の牢獄に囚われながら尚も今を抗い続ける覚悟があるならば"

心の奥底でその精神を蝕まれ続けながらも。
それでも前に進む覚悟が胸中にあるならば。

"今日という名の花を摘め"

Re: 今日という名の花を摘め ( No.2 )
日時: 2011/09/08 16:53
名前: 熊 (ID: lj7RA5AI)

午後の街は喧騒で賑わっていた。
此処は"宗教国家"の首都で"聖都"と呼ばれている。
都市の中央部には荘厳な雰囲気を纏った大規模の礼拝堂があり、其処は"聖都"の象徴。
他にも住宅が群れを成す居住区域にも、店舗が連なって群れを為した繁華街にも。
"宗教国家"の由縁とも為っている宗教的建造物が幾つも建ち並んでいた。
住宅の窓からは住宅の内部が観え、その内部では仲の睦まじい家族が神に祈りを捧げ、昼食を摂り。
他にも、路地を歩く者達の殆どが宗教的装飾を身に付け、宗教的な装いを纏っている。
"神"という絶対の規範によって平穏が保たれ続ける"宗教国家"は傍から捉えれば何の問題も無いと思われるに違いない。
が、其れは所詮、表面に過ぎず。

「今日の利益を"神"に感謝します。我々の商売に加護あれ、我らが"神"よ」

街の路地裏。
午後の燦々たる陽光を浴びた路地とは対照的に深夜の様な静寂に懐かれた其処で、痩身の男性は嘲笑の微笑を湛えた。
漆黒の闇を彷彿とさせる黒色を基調とした装いに、その装いと同色の様々な箇所が跳ねた黒髪。
容貌は非常に繊細に整ってはいるが、疲労感に満ち、双眸の下部には深い隈があり、容貌の魅力を完全に相殺している。
その痩身の男性の眼前には、頭から汚れた帽子を被った襤褸の衣服を纏った中年の男性が壁に凭れて座っていた。
痩身の男性は先程に浮かべた嘲笑の微笑を更に深くし、

「お前が"神"に祈るとは吃驚だ。それに他人を貶め、崩壊させる商売に加護あれなんざ随分と嘗めた台詞を吐きやがる」

「俺だって"宗教国家"の市民だからなぁ。敬虔な"神"の信者としては因果な商売でも祈りは捧げにゃならねぇのさ」

「は…ッ。違法薬物の売人の癖にか。最高の冗談じゃねぇか」

「あんたから御墨付きを貰えたんなら御笑い芸人でも目指すかね。こんな屑の商売には厭き厭きだった所なんだ」

それは無理だな、と痩身の男性は腹を抱えて最高の冗談を聞いたかの様に爆笑する。
嘲笑する様に、嘲弄する様に、挑発する様に。
何度と咳き込み、腹を抱えて大爆笑の声を放っていた痩身の男性に視線を向け、憐憫の微笑と共に両肩を竦め、

「変わらずの狂人だなぁ、旦那。俺の冗談が最高だったのは別に良いんだが、商売の話をしないかい?」

商売の話、その単語が襤褸衣服の男性から放たれた刹那に爆笑の声は途切れ、前方に折っていた上半身を持ち上げた。
その容貌は変わらず疲労感に満ち、何処か狂気を孕んでいて、近付き難い雰囲気を発している。

「…ああ。俺もその為に此処に来たんだ。早速、商売の話を進めるか」

痩身の男性の返事に、あいよと襤褸衣服の男性は応え、襤褸衣服の袖に隠し持っていた幾つかの革の小袋を取り出した。
この襤褸衣服の男性が違法薬物の売人という事実からこの幾つかの革の小袋の中身は容易に想像が付く。

「俺が扱ってんのは最高位の物ばっかだ。こっちは最高の気分に為れるが依存性が高い。こっちは…」

商品のひとつひとつを丁寧に説明を行っているその様子は正に商売人。
が、そんな襤褸衣服の男性の懇切丁寧な説明は虚しく、痩身の男性は、そんなもんは不必要だ、と一蹴する。

「俺が欲しいのはそんな玩具なんかじゃない。俺が前にお前から買った奴だ」

「だ、旦那。それは解るんだが、あれは劇薬と一緒だ。そりゃあ最高の気分は保障するが、あれは命を失くす可能性が」

襤褸衣服の男性が慌てるのも無理はない。
痩身の男性が欲するのは取り扱っている薬物の中でも、売人すら恐怖を覚える狂気の品物だからだ。

「あれは確定的致死率を持ってる。旦那、俺はあんたという顧客に逝かれちゃ困るんだ。一番のお得意様だからな」

「…俺は前回、お前にそれを頼み、服用したにも関わらず此処に来た。解るな? 俺は死ななかったんだ」

「そ、それは確かにそうなんだけどさぁ。旦那、それは奇跡だ。次にあんたが死んでないって確証は無い」

考えれば、前回に此処に商売に来て、売れ残った薬物を格安に売ったのが間違いだった、と売人は後悔した。
痩身の男性が欲する品物はその致死率が故に売れ残り、前回の格安売買に出し、ひょんな事から彼の手に渡ったのだ。
思えば、あの日は非常に蒸し熱く、意識が朦朧としていた。
痩身の男性に薬物を売った時にその薬が混ざっていた事には気が付かず、気が付いた時には既に後の祭。
だが、効能によって死んだと思っていた痩身の男性が命を保ち、此処に来たことで一応は助かったと思っていたのだが。
まさか、その品物の虜に為っているとは思ってはいなかったのである。

「だ、旦那。解ってくれよ。こっちだって商売なんだ」

「…確かに。商売だな」

ならばお前は商売をしろ、と痩身の男性は僅かに呟き。
その漆黒の衣服の内側から、数百枚に及んだ紙切れを襤褸衣服の男性に向けて投げ付けた。

「これだけあれば足りるか…? 普段の数倍は払ってんだがな」

売人はその紙切れの一枚を手に取り、眼を剥いた。
そして、周囲に散らばった紙切れの枚数をひとつひとつ数え、その体躯を震わせる。

「だ、だだだ、旦那…、これは…ッ!?」

投げ掛けられた質疑の言葉に痩身の男性は間髪を与えずに答えた。
さも当然の様に。

「御札。総額に換算すれば数百万にはなるはずだ。御託はいらない。早く俺に品物を寄こせ」

これだけの金銭を積まれれば、売人は何も言えなかった。
唯、服の袖から色の違った革の小袋を手渡すと、歓喜の声を放ち、金の亡者に変貌を遂げる。
元々、賤しく路地裏で命を繋いで来た人間なのだから、これだけの金銭を前に狂喜乱舞するのは当然だ。
痩身の男性は、御札を懸命に集める売人に一瞥だけをくれると、颯爽と品物を手に路地裏を後にした。
その際だったか。
路地裏から表の路地に出て、徒歩で其処から去っていく最中。
痩身の男性の容姿を捉えたとある女性は、ある言葉を呟いた。

「ハスタ…? ハスタ=ラグナロク…?」

それは、名前だった。
数年前。
"宗教国家"が、"神"の御名の元に行った"聖戦"を戦い抜いた、とある英雄的兵士の。

Re: 今日という名の花を摘め ( No.3 )
日時: 2011/09/08 20:29
名前: 熊 (ID: lj7RA5AI)

"聖都"には五つの居住区域がある。
北部居住区域、南部居住区域、東部居住区域、西部居住区域。
この四つには"聖都"の統括と治安維持を目標に掲げた組織"聖府"の関係者以外の民間人が暮らし。
残された中央居住区域には"聖府"の関係者の他、"宗教国家"の重役が暮らす。
時間が午後から夕刻に変貌を遂げつつある現在、痩身の男性は西部居住区の一角に作られた酒場の扉の前にいた。

(俺の欲した物は手に入れた。"神の眼"。こいつは確かに並の野郎が使えば死ぬのは間違いない。だが、)

酒場の扉を開け放ち、痩身の男性は午後から酒を煽っている飲兵衛達が騒ぐ酒場に足を踏み入れた。
酒気と飲兵衛たちの馬鹿騒ぎが店の内部に響く最中、痩身の男性はそんな光景に一瞥も与えず傍の階段に靴底を付ける。
かつん、かつん、かつん…、と喧騒に掻き消されながらも靴の底に階段を踏み締め、痩身の男性は二階に登った。
この建物は一階が酒場になっており、二階は居住用の部屋を貸しているのだ。
痩身の男性はその借屋に住んでいる住人の一人で、自らの借屋の前まで来ると、扉を開かんとその取っ手に手を掛け、

「ハスタさんッ!!」

取っ手を握ったまでは良かったのだが、取っ手を引っ張る寸前で鈴を転がしたかの様な少女の声に遮られた。
痩身の男性…、ハスタは唐突に苛立ったかの様な顔付に表情を変え、舌打ちすると、音源に視線を向ける。
其処には、一人の少女が掃除道具の箒を片手に、嬉しそうな笑顔を浮かべて佇んでいた。
腰まで伸びた小麦色の髪を靡かせ、最愛の主人に甘える子犬の様に少女はハスタの傍に駆けて来たのだが、

「鬱陶しいから消えろ」

その面持を不愉快だと言わんばかりに眉を顰め、ハスタは罵詈雑言の言葉を残し、颯爽と部屋に入った。
バタンッ、と勢いを付けて閉められた扉の痕に残されたのは罵詈雑言の言葉を浴びせられ、肩を落とす少女だけ。

(煩わしい餓鬼が…)

乱雑に物が散らばった部屋の洋式寝具に腰を据え、ハスタ=ラグナロクは煩わしさから溜息を吐く。
壁に設けられた窓からは茜色の天空から燦々と注がれた朱色の日光が部屋の一部を照らし出す。
外の喧騒と酒場の喧騒だけが僅かに彼の借屋に反響を続ける中、ハスタは漆黒の衣服の内側から革の小袋を取り出した。

違法薬物"神の眼"。

売人はその効能は最高の快楽を獲られるが、その反動によって確定的確率で死ぬと言っていた。
なのに、ハスタの表情には死に対する恐怖は微塵も無い。
だが、それは死に対する恐怖の感覚が麻痺しているからでは無かった。

(俺には抗体がある。これでこの薬物の世話になるのは三度目だ。現在と、前回と、そして、)

革の小袋に詰められていた幾つかの錠剤を手の平に取り出し。
最高の快楽を獲られると同時に死の享受を迫られる正と負の側面を持った"神の眼"を。
逡巡も無く、躊躇も無く、その口内に放り込み。

「ぐ…ッ。が…ぁぁぁぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

錠剤は喉を通って体内に。
その軌跡を辿るかの様に身体は麻痺し、感覚は吹き飛び、激しい痙攣に身体を犯されて。
感覚が喪失したにも関わらず、喪失の跡を僅かに遅れて激痛が浸蝕する。
洋式寝具の上に背中から仰向けに倒れ込み、寝具のシーツに爪を立て、呻きを上げながら。

(相変わらず…、馴れないな…、こいつは…ッ!!)

ふと、追憶に思いを馳せた。
この薬物を使った最初の経験を。

(あれは確か───────────────────────────、)

が、
追憶は最後まで貫けず。



ハスタ=ラグナロクの意識は深淵の奥底に融けて消えた。


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