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井守
日時: 2011/07/19 07:53
名前: 夕顔朝顔 (ID: D//NP8nL)
参照: http://dog

イモリは人を喰う。

暗い井戸の中で待っている。
投げ込まれるのをー待っている。

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Re: 井守 ( No.1 )
日時: 2011/07/19 08:05
名前: 夕顔朝顔 (ID: D//NP8nL)

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「すみませんー私、考古学を研究してます、古谷みのりと申します。
あの、お伺いしたいんですけどここら辺に井戸を祀る風習のある村があって、その村を探しているんですけどご存知有りませんか?」

訪ねられた村人はゆっくりと振り向き薄く笑いを浮かべて答えた。
「ここがそのいもりむらです」


Re: 井守 ( No.2 )
日時: 2011/07/19 09:10
名前: 夕顔朝顔 (ID: D//NP8nL)

「いや〜、東京から?こんげな田舎へ?いや〜わけぇのに立派なこっちゃぁ」
そう陽気にまくしたてる初老の男のはつらつぶりは先ほどの村人の不気味さを忘れさせるのには十分だった。
「みのりさん?でしたっけ?ここへはどうやってきさったんですか?」
柔らかい物言いの女性がみのりに訪ねる。
よく見れば自分の母親と同じくらいの年齢だ。
「あぁ、えぇ、あの〜私、都内の大学に通っていまして専攻が考古学なんですよ、日本の。
それで伝承や伝説、風俗などを調べるうちに各地に伝わる風習を調べるのが趣味、といいますかハマりまして・・・、昨年の夏休みはですねぇ、と、ある地方へ行きまして死んだ者同士を結婚させる風習を研究しましたこれは〜・・・」
みのりの説明をにこやかに聞く二人。
「それで・・・」話を続けようとしたみのりを遮るように女がもう一度聞いた。
「ここへはどうやってきさったんですか?」
全く同じ口調で同じ表情、同じ姿勢で同じ質問。
隣の陽気だった男も同じ表情のままでみのりを見ている。
「えっと、はい、ここへはふもとのバス停をおりてそれでそこの村でこちらの村の事を聞いてそれからあとは歩いて来ました」
「そ〜かぁ〜、ほいでそこの村ンもんはこの村の事を知っとったんかい?」
「いえ、どなたに聞いても知らないねぇで・・・探すのに苦労しましたよ〜」
そう聞くと女と初老の男は目を細めて黙って笑った。

「みのりさん、せっかくいもり村へ来てくださったのだから私が案内いたします」

女の名前は木井守鶴子《きいもり つるこ》だという。
先ほどの初老の男は川井守耕造《かわいもり こうぞう》。

「鶴子さんはこの村で生まれて育ったんですか?」
みのりは鶴子に早速いもりむらについて訪ねようと心を躍らせていた。
だが鶴子から返ってきた答えは
「ここがこの村の唯一のお店です、こちらが郵便局。」
あれっと怪訝な顔をするみのりを横目に鶴子は尚も村案内を続けた。
「ここが病院、小さな医院ですけどねぇ、先生はとても良い方です。」
懐かしの昭和特集とかにでも出てきそうな佇まいの病院だ。

「あぁ、私の生まれ育ちですか?ホホホ・・・まぁそのうちによく判りますよ」
思い出したようにくるりと振り向いてそう言った鶴子の顔は夕焼けに半分とけ込んでいて
奇麗でもあり何故か背筋に冷たい物を感じる様でもあった。

後ろの森でひときわ大きな声でひぐらしが鳴いた。


Re: 井守 ( No.3 )
日時: 2011/07/19 13:34
名前: 朝顔夕顔 (ID: floOW.c4)

「その昔、水は他の村同士で取り合うほどの貴重な資源であった。
現代のように貯蔵する設備などがなく、まさしく天の恵みであった。
後に井戸が造られるようになるも、肝心の雨が降らなければやはり井戸は枯れた、
そこで地域によっては井戸を祀り、雨乞いの様なものをし、雨が降る事を祈った。
私の研究ではA県のある地域において現代においても続いているという井戸を祀る風習について調べてみた。
この地域の井戸を祀るという・・・ふーっ」
ぶつぶつ声に出しながらレポートを書いていたみのりは一息つくとふと窓の外に目を遣った。
とっぷり暮れた村は点々と明かりが見える。
中心にあるのはあの昭和のスタルジィな香り満開な病院である。
ボーっと病院の明かりを見ていた時はたと気づいた。
「あっと、ここまで来たのにまだ井戸見てないじゃん!!」
井戸を見にはるばる来たというのに肝心の物を見ていない事のおかしさと明日は見に行こうというはやる気持ちから勢いよくバっと立ち上がり振り向くとみのりは声を飲み込んだ。
「っ!?」
「お勉強、研究ははかどりまして?」
夕暮れ時と同じ奇麗だけどどこか冷たい不思議な表情の鶴子が立っていた。
どうやって?!ふすまを音も立てずに開ける何て無理じゃ?
第一、開ける前に普通はー
「明日、この村の井戸をご覧に入れようと思いましてお部屋にお邪魔いたしましたの」
みのりの考えを見抜いたかの様な発言に艶やかな表情。
「あっと、私も今それに気づいて、鶴子さんに明日案内を頼もうと思っていたんです」
そういうのが精一杯、みのりは隠し事がある小学生のように両手の指をもじもじさせて自分を落ち着かせていた。

その晩みのりは不思議な夢を見た。
暗い何かの中にいて自分の廻りをぐるぐる何かが回っている。
微かに匂いも感じられる。
理科室のような、じっとりとしたあの匂い。

「おはようございます。
昨晩はしっかりと眠れまして?」
朝からこんな品の良い挨拶、旅館の女将の様である。
しかし鶴子の品の良さは板についていたので違和感はなかった。
「あ、おはようございます。今日は、井戸への案内宜しくお願いいたします。」
夕べの一件と夢の感覚とがまだ体に残るみのりは少し鶴子に距離を感じつつもそう言って頭を下げた。
が、ご飯を食べて鶴子と何ともない話をしていると夕べの事や夢の事など忘れてしまった。
「今日は暑いですね、私、山の上のほうは涼しいかと思っていたんですけど、そうでもないんですね。
で、鶴子さん、井戸にはいつごろ向かいます?」
縁側で快晴の空を見上げていたみのりはそう言いながら部屋の奥、鶴子の居る方へ目を遣った。
昔ながらの吹き抜けの家、鶴子の後ろにも縁側があり逆光の中に鶴子の目だけが浮かび上がっているように見える。
「あっ・・・の」
みのりは息を飲んだ。
まっすぐみのりを見据えた鶴子の目。
−こわいー
鶴子に対して確信的に恐怖が湧いた。


Re: 井守 ( No.4 )
日時: 2011/07/19 14:23
名前: 朝顔夕顔 (ID: floOW.c4)

「ここがこの村で一番古い井戸ですの。」
鶴子がみのりをともなって井戸を案内したのは夕暮れ時だった。
「これがー」
みのりの前にある井戸は昔話に出てくる様なつるべ井戸ではなくむしろ近代的というか、
丸いコンクリートの中になみなみと水をたたえたそんな井戸だった。
「この、この井戸は今も使われているんですか?」
鶴子への恐怖心を必死に払拭し、努めて明るく聞くみのり
「ええ、使っていますよ。今でも」
また、全く同じ表情ー貼付けた様な薄い笑いの鶴子。
「で、でもこれ失礼ですけど藻とか水草はえてますよね?私の持っている井戸のイメージと大分違う様な気がして・・・」
「ホホホ・・・みのりさん、この村へはどのような御用でいらしたんでしたっけ?」
微笑みながら問う鶴子。
「あっと、ええ〜井戸を祀る村の研究です・・って事はこれが祀り用の井戸ですか?!」
みのりが嬉しそうに聞いた。
「ふふ、この村にある井戸は今はみんなお祀りする為の井戸なんですよ」
見れば家々の間にポツポツと同じ形の井戸が確かにいくつかある。
いつの間にか村人達が家から出てきていて子供は遊び回り大人は何やら話し込んだり
夕餉の支度をしているようであった。
「やっぱ昼間は暑いからみんな家の中なんですね、私も家ではそうです」
みのりは鶴子にそう言った。
「そうね、昼間は暑いから・・・」
鶴子はそう云うと今日はもう戻りましょうとみのりを自宅へ招じた。
途中に何人かの住人とすれ違ったが皆一様にみのりをじっと見るだけで挨拶は特にしない。

子供ならともかく大人まで、変なの。

「はー・・・っと今日は疲れたけどやっと目当ての井戸が見れた、良かったっと。
さて、レポートにまとめるかぁ」
ふと時計をみるとまだ6時。
「ちょっとジュースでも買ってこようかな」
小銭を手に村で唯一の売店へ向かった。

ガラガラガラ・・・
外れそうな音を立てて店の表を開けて店内に入ると商品に目を遣った。
「?」
どの商品も見慣れてはいるものの何か違和感を覚える
みのりはあんぱんの袋の表、裏、表、そしてまた裏にしてはっと気づいた。
 バーコードがない?!
なんで?今時流通してる商品はほとんどみんなバーコードがついてるはず!
これどこのメーカーのパン?!
パッケージの表にはみのりもよく知っている製パン会社の名前が印字されていた。
 ちょっと待って!?他のは???
えっと板チョコ・・・やっぱりない。

「ーいらっしゃいませ。」
「!」
危うく板チョコを落とす所だった。
「こ、こんにちは大学の研究でこちらの村の木井守さんのお宅でおせわになっております
古谷みのりと申します。
あの、これ、えっとこれ、これください」
板チョコと500円を店主に渡した。
「110円、500円オアズカリね、 はい、お釣り」
ちゃりっと音がして小銭がみのりの手に落ちた。
 つめたっ!!
いままで冷凍庫にでも入っていたかの様な冷たさである。
「あ、どうも・・・」
くるりと背を向けてまた驚いた。
村の子供達が立っていた。
みのりと見つめ合う数人の子供。

 まただ!
鶴子の時と同じである。
音もなく、気配も感じさせず人の後ろにいつの間にか居る。
「フルヤさん」
「!?」
店主に呼ばれて振り向くと
「忘れ物だよ」と自分が買ったチョコレートを渡された。
常温だった筈のチョコはお釣り同様冷えていた。
再び出口に体を向けるともう子供達は商品棚に群がっていた。

みのりはその夜さすがに寝付けずにいた。


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