ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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日時: 2011/07/21 16:07
名前: ダンボール戦機 ◆AMfGTM.yZI (ID: blFCHlg4)

はじめまして。まだここが初めてなので緊張しますが、これからどうぞよろしくおねがいします。

【登場人物】※今のところ
●和人<かずと>:高校2年生。男。
●陽見<ひよみ>:和人の母。
●雄一<ゆういち>:和人の父。




【プロローグ】



 ガラス窓ごしに見えるプランターの植物たちは、みな一様に左に頭を垂れていた。
「よく折れねえなあ……」
背の高くなったバジルをもう一度真直ぐに立て直して、手で少し土をかぶせた。

昨日通過したとかいってたこの夏の大型台風8号は、そろそろ太平洋沖に出ただろうか。
空には雲一つなく、ひどく青い色をしている。
手をパンパン払いながらゆっくり立ち上がると、ブォッという突風を顔の真正面から受けた。
しゃがんでいたらそうでもなかったが、まだ風は強いみたいだ。
おかげでちょっと目が覚めた。
白いビニール袋が1つアメーバか何かみたいにぷにぷに形をかえながら、すごい勢いで上に飛んでいくのが見える。

もう一度ドンと当たる風にウォッと小さく叫んで、重くてなかなか開かないガラス戸を力いっぱい開けた。
息がしづらい……早く入らなければ。

この戸はダイニングに面しているので、急に開いたせいでそこにいた皆の髪の毛がいっせいに逆立つ。
母さんの髪の毛が、歌舞伎の双子獅子みたいに渦を巻いているのがちょっと笑える。
バッと両手で髪の毛を抑えたけど、あまり意味はないみたいだ。一瞬でぐちゃぐちゃ。
バナナをモグモグやっている父さんはもともとないからこんなときは無反応である。
「早く閉めてっ!!」
「…あー、はいはい」

やれやれという顔で入って後ろ手で戸を閉める和人<かずひと>の目の前に、髪の毛を必死で抑えて手ぐしをしながら母の陽見<ひよみ>がホレと手を広げてくる。
「早く」
「2つでいいんだよな」
陽見は答えず和人からバジルの葉を片方の手でヒョイと奪い去ると、もう片方の手は相変わらず手ぐしのままキッチンへ移動した。
間もなくジャーと水の音がする。


どうでもいいことだが、ありがとうくらい、言えよな。
どんだけ自由なんだよと思いつつ、和人はドサッと一人掛け椅子に座りこんだ。

なぜか、いつも父が(母ではない)育てているベランダのハーブ類を、料理に使うたび僕がとりに行く習慣になっていた。ベランダまでキッチンから3mも無いのに、毎回面倒くさいといって陽見は取りに行かない。なんで自分で取りにいかないのだろう。しかし断ると色々とうるさいので、ちゃっちゃといやなことはすませてしまうにかぎる。
今朝は食パンピザを作るから使うとかなんとか言って、僕は6:00前だっていうのにそのためだけに起こされて取りに行ったのだ。

だいたい父さんも料理好きでもないのに、そもそも料理なんて全くしないのに、なんでハーブを育ててるんだか。

でも、僕にとってはさほど重要な問題ではないので触れていない。
そんなことよりも大事なことなんてのは毎日山ほどあるから、どうてもいいことに頭を割いてられないのだ。


18階は台風が来なくても海からの風が強い。とくにこんな日は一日中ピーピー音がガラス戸の隙間から聞こえてくる。夢の中までピーピー音がなるときもある。最新マンションなのに?隙間風?ないわー。ねえなー。
僕ならこんなわざわざ中途半端な高さにぜったい住みたくない。よく考えたら空中じゃないか。これ以上考えるのはよそう。
ここはいわゆる湾岸エリアで工場も近く、岩盤も強くない。
もし地盤がゆるんだりしたら一巻の終わりじゃないか……?普通の家みたいにそんな簡単に傾きなんて直せないだろうし……。

「免震つっても怖えぇ〜……」
でも、割と晴れた日の窓から見る街の眺めを、和人は案外気に入っていたりする。

落ち着かねえけど落ち着く……そんなことを思いながら、勉強の合間にぼんやりと山や建物や海なんかを見るともなしに見る時間が好きなのだ。


行ってきますというくぐもった声が聞こえたような、聞こえないような気がしたので振り返ると、キッチンには相変わらず母がなにかガチャガチャとせわしなく調理だか片づけだかしているが、弁当が4つ並んでいるはずのところに今は2つしか並んでいない。ああ、今父が出かけたんだなとそれでわかる。

雄一<ゆういち>は昼食用と夜食用と弁当を2つ持っていく。
自分が来年大学受験を控えていることもあって、今年から弁当が2つになって倹約感がさらにアップした。
なんだか自分のために父の色々なところが擦り切れていっているようにみえる。

今の父は、完全に僕のために働いているよなあ。
右から左に給料が流れて行っている。親父は昼も夜も同じ飯を食って。
僕もいつか……、ってヤバイヤバイヤバイッ!!今考えることじゃない。

ピンポーン。
チャイムが鳴る。陽見が出て何か話している。
「和人ー!和人ー!?」
頬を抑えて奇妙な表情をしながら和人を手招きですぐ来いとジェスチャーする。
もう何だよ…と思いながら陽見の隣に来た。
画面映っているのは、1階にいるらしい雄一だ。


『これなんだろう……?』と画面に向けて一枚のハガキほどの大きさの紙を近づけてきた。
ちょっと荒いそのインターホンに二人とも顔を近づける。
紙の中央に鉛筆かボールペンでかわからないが、小さく書いてあるのが見えた。


           【よこせ】


画面から紙が小さくなっていき、いつもの困ったような雄一の顔がちかづいてきた。
「……ウチ宛てみたいなんだけど、これどうすればいいかなあ…?」

僕はこの状況がのみこめず、言葉がしばらく出てこなかった。



               〜つづく〜 

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Re: 塔 ( No.1 )
日時: 2011/07/21 17:25
名前: ダンボール戦機 ◆AMfGTM.yZI (ID: blFCHlg4)

【1:私もここにいる】


いつのころからか、自分は歌うことが結構得意であることに気が付いた。
あまりしゃべらないかわりに。話すことが私にとっては歌うこと。
歌っているときは、自分の心がすごく開いている気がする。だから……

「ちょっとごめん、いい?こっちを向いて?」
「……はい?」
パシャ。

何が起きたかわからないが、男子学生が2人私の前に来て写メを撮って逃げていった。
あんまりこういういたずらは好きじゃないな。

「モテモテ〜ヒューヒュー」
「!……あいちゃん」

後ろからあいちゃん、私の幼馴染で唯一の友達——がからかった。

「白目むいてたりして、な!!」
「……むいてないし。」
「う〜わ〜〜。あいくわらず、あいくぁらず、ツンツンしたおかたやわぁ〜〜。ツンツンしたおかたやわぁーーーー!!」
「べつに。」
「ツンツンしたおかたやわ…」
「天丼とかいいから!!もう、今日はなに?」

あいちゃんは、182cmの長身ですごく運動神経がよい脳筋タイプなのでバレーボール部の名物副キャプテンだ。本名が全部ひらかなで「わだ あい」なので、すぐみんなに覚えてもらえて、根っからの明るい性格で、私にはちょっとうっとおしいくらい絡んでくるけどそれも人付き合いの悪い私にはありがたくて、救われていた。

「あのさー、わおっちのおにいたまをさ、あのさ、あのさ、さっ誘ってほしいなーああなんてさ!!県大会の決勝戦がさ、20日にあるからさー。」
「……いいよ」
「え、もしかして、だめ?」
「……は?」

「えー何の話何の話ーーー???」
同じクラスで同じくバレーボール部の美香<みか>まで乱入してきた。
もう少し体育館で運動してきたのか、汗のにおいがかなり…強烈。夏場はやっぱりスゴイ……。
臭いムンムンの美香が混ざると、いつも話の収集がつかなくなってくる。
「さっきさー、小関がわおっちの写真を男<ダン>バレ(男子バレー部)の1年とかに見せてオレカノオレカノとか超うるせーの、見たーーーー??超まずくね!!」
「はい見ましたー。美香終了ー!!てかわおっち、さっきの話さ〜ねえ〜私のことなんか言ってない?バレー部結構有名だし結構がんばってると思うんだよ。」
「あいがうっさい!!わおっちとあたしがしゃべってんの今ちょっと黙っててくれる、ねーわおっち☆?」
「てどうせあんたもわおっち兄を狙ってんでしょ、だめだから!わたしが先だから!」
「先とか後とかまったく関係ありませんー。大体あいちん背が高すぎーーー阿部寛とかで妄想しとけばいいってかんじでえーー…」


この二人、あいちゃんと美香ちゃんといるときは、私もああここにいるんだなって(うるさいけど)実感できる。

でも、私は家にいるときは自分が「ここにいる」っている実感がもてない。
お父さんもお母さんも、お兄ちゃんだけを見ている。
お兄ちゃんも、お父さんとお母さんだけを見ている。

……私も、ここにいるんだけど。


今日だってハーブ、私がとってもいいんだよ?
だって、お兄ちゃんより早く起きてリビングにいたんだもん。
なんでお兄ちゃんなんだろう…いつも。


キッチンのところに自分のお弁当が無かったらどうしよう……って、毎朝少し怖い。
だから、早く起きて自分の分のお弁当が用意されるまで、この目でちゃんと見てることにしてる。


私にも、気づいてほしい。
今の私はハーブにも負けてる気がする。


「———————ねえ、わおっち!!!!」
あいと美香の妙に揃ったどでっかい声に、ビクッとして我にかえった。
           
「…う…うん……?」
「じゃあ3×3ってことでいいよね!!うわあ超テンションあがるしオレwwwww」
「オレとかいうな!!!わたしって言え!!」
「言えとかいうな!!言ってくださいだろーが!!」
「だろーがじゃねーだろーが!!」
「おめーもだろーが!!」
……延々と続く喧噪のなか、家族がまだ見たことのないだろう微笑で、和央はこの二人がいない世界に生きていなくてよかったと心から思った。

Re: 塔 ( No.2 )
日時: 2011/07/21 17:31
名前: ダンボール戦機 ◆AMfGTM.yZI (ID: blFCHlg4)

【登場人物】※今のところ
●和人<かずと>:高校2年生。男。
●陽見<ひよみ>:和人の母。
●雄一<ゆういち>:和人の父。
●和央<わお>:和人の妹。高校1年生。
●あい:和央の幼馴染。バレー部副キャプテン。
●美香:和央の同級生。バレー部。

Re: 塔 ( No.3 )
日時: 2011/07/21 17:54
名前: ダンボール戦機 ◆AMfGTM.yZI (ID: blFCHlg4)

【2:俺はわすれない】



君がくれた贈りもの、ようやく捨てたよ。
僕は最低だろうか。

君が僕のことを好きだと言ってやってきて、
君が僕のことを嫌いだと言って去って行った。

二つの矛盾したメッセージを受け取った僕は、いったいどうすればよかったんだろう?


僕は傷つかない。傷ついていないふりをする。


男の価値は、髪の毛なのかい……?
下はわりとそんなことないだけどな……!!


何をしても、何をしなくても、結局君が僕の元を去るのなら、
そっとヅラでもプレゼントしてくれればよかっただろう?

なんで、そこで育毛剤なんだよ。

……無理なんだよ、もう!!


抜けてしまったものは、元には戻らないんだよ……!!
なんでそれくらいわからないんだ……。

あのときは、おかげで、おか毛だけに、ケンカばかりしたね。

覆水盆に返らず、っていうことわざをもう一度覚えておくれよ。
関係なくても今日はもうとことん言わせてもらうよ。


僕は、君と一生いると思っていた。
君は、僕ではなくて僕の髪の毛と付き合っていたんだな。そうなんだね。
そういう理解でいいんだよな……。

でないと、君の行動は到底理解できない。


そうそう、君が自分の行いを後悔するかもしれない最新情報をお知らせするよ。
僕は今、自然療法に取り組んでいる。
ベランダでね。


もう少ししたら、やっと実を結ぶ。
まだ実験が可能な量が調達できないが、家族にはバジルって言っているよ。
ほんとは違うけどね。


僕がかつてのようなイケメンフサフサになったら、君はどうするんだい?
あんなハガキを出したりしないで、堂々と出てきたらどうなんだい?


           【答:あげないよ。】



                   〜つづく〜

Re: 塔 ( No.4 )
日時: 2011/07/21 18:16
名前: ダンボール戦機 ◆AMfGTM.yZI (ID: blFCHlg4)

村民全員が殺されたA村へ出入りしていた墓掃除人へのインタビュー控:


「そりゃあもう、忘れたくてもあんな光景、忘れられませんや。気味が悪くて」

「あの〜……ほらあるでしょう、スペインかどっかでトマト投げ合ってぶちゃぶちゃになってさ、男も女も老いも若きもまっかっかみたいな、あれの緑版ですわ」

「あーもう!そりゃ臭いってなもんじゃ…ええ。青臭い嫌な臭いでしたね。いまだに夢に見ますわ」

「一人生き残ったらしいですけど、今はどこでどうしているやら。行方不明らしいですけどね」

「まあ、もどっても墓しかないんじゃ……一村惨殺じゃね。ひどいもんです」


「いえ、当時6〜7歳の子供だったって話ですよ」


「どうでしょうね。本人じゃないからなんとも……」


「あたしはただの掃除人ですからね。情はあまり移せないもんで。でもね、」

「一人だけ息絶える前の人……あ、これ本当にだれにも言わないでしょうね」

「本当でしょうね?私は今まで言わなかったんだから。言えば殺されるような気がするんですから……***万円というのは本当に本当なんでしょうね」

「そうですよ。その******が*よ****しに****が立っていたというんです」


<ここでメモは破れている>

追記:この掃除人Bは6日後に行方不明、12日後に山林で発見される


              〜つづく〜


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