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俺は半分シんでいる─隣には向日葵がある─
日時: 2011/08/22 20:07
名前: 王翔 (ID: 3f2BBQD7)

はい、王翔です。
どうしても文章を見直して書きたくて((
よろしくです。
感想とかコメントとか気軽にどうぞ。
文章のおかしなところとかも……


では。


プロローグ >>1

 #01 >>2 #02 #03 #04 #05 #6

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Re: 俺は半分シんでいる─隣には向日葵がある─ ( No.1 )
日時: 2011/08/22 18:55
名前: 王翔 (ID: 3f2BBQD7)

プロローグ




 透明な目に見えることのない、風の塊が夕日の光を浴びてほのかに赤色に染まった丘の上を吹き抜ける。
 さわさわと小刻みに揺れる芝生の草は輝いていた。
 ただ、ボンヤリと芝生に座っていた俺の傍らには夕日のように赤い髪を風になびかせる真っ白で清楚なワンピースを着た端整な顔立ちの少女が控えていた。
 少女は俺の様子を伺うように顔を覗き込んで来て、一人で勝手に頷くと体勢を崩し、俺にもたれかかってきた。
 会話もないまま、二人して夕日を眺めるだけだった。
 いつもそうだ。俺達の間には、会話がない。
 その理由は、二人揃って話すのが苦手だから。話すのが苦手なら話さなければいい。
 口下手なせいで、相手を傷付けることもないのだから。
 ゴホゴホと少女が咳き込む。
 それに対して、何と言葉をかければいいのかすら分からなかった。
 話し方を知らない。
 話さない……。それが、俺の《常識》だった。
 この世界には、常識なんて存在しない。自分で《常識》を作るだけだ。
 自分で決めたことでも《常識》には変わりなく、口を出す者はいない。もしかしたら、どこかにいるかもしれないが俺は知らない。
 俺にもたれかかったままの少女はにこりと微笑んだ。
 そして、ゆっくりと目を閉じた。
 もたれかかっていた少女の身体が軽くなっていた。
 呼びかけてみようにも、お互い話したことがないから、俺は少女の名前を知らなかった。

Re: 俺は半分シんでいる─隣には向日葵がある─ ( No.2 )
日時: 2011/08/22 20:06
名前: 王翔 (ID: 3f2BBQD7)

 #01 ─半死人と向日葵─


 吐き気を催すような死臭が薄汚い部屋に充満していた。その臭いの原因であるらしい死体がボロボロになったベッドの上にあった。
 既に腐敗が始まっていて、蛆虫が湧いて蠢いていた。
 普通の人間ならば、まともに見ていられないような醜態だが、漆黒の髪で右目を眼帯で隠した金の刺繍入りの黒装束を纏った青年は顔色一つ変化させることなく、まるで感情のない人形のように無表情のまま死体を黒い手袋をはめた手で持ち上げるとゆっくりと真っ黒な大きな袋に詰めた。
 青年は死体の回収と《汚染》の始末を生業とする《汚染殺し》であった。
 《汚染》とは、いわゆる大気汚染に意思が組み込まれて人を殺す力を持ったものである。
 何らかの研究で生まれたらしい生物なのだが、研究を行っていた張本人が逃げ出してしまったため始末がつかない状態である。
 《汚染》は人に付きまとい、徐々に精神と身体を汚染させてやがては死に至らしめる危険なものであり、これの始末をするのが青年の役割であった。
 死体を詰め終わると、青年は部屋のなかを物色して金と豪華なネックレスを無動作にポケットに詰め込んだ。
 実際のところ、仕事の内容に見合うような給料はもらえず、こうして死人の部屋から金と金になりそうな物を持ち帰ることが当然のことである。
 青年は、無表情のままだが、死体を見ても何も感じない自分のことを改めて考える。
 ──ああ、やっぱり俺は半分死んでるんだな。




             ◆




 その家を出ると青年は、外に止まっているトラックの荷台に死体を積んだ。
 ドサリという音がした。
 踵を返そうとした時、トラックから髭を生やした四十代半ばぐらいに見える黒装束の男が降りて来た。

「相変わらず、仕事が早いな、レド」
「そうかな? そうでもない気もするけど」
「いやいや、早いって。普通ならもっとかかる」
「そうですか」

 レドはやはり表情を変えることなく必要最低限の言葉だけを男と交わした。
 必要以上の言葉は発しない。それが、彼の《常識》である。
 その《常識》に対して男も文句をつけることは一切ない。
 
「では、俺は帰ります」
「ああ」

 踵を返し、歩き始めた。
 しばらくゴミが散乱したタバコの臭いが漂うじめじめした路地を歩き続ける。
 レドは、あの日からきれいなものを見た覚えがなかった。
 赤い髪の少女……。あれが、最後に見たきれいなものだった。
 周囲に視線を巡らせてみても、ゴミや動物の死体、家も金もないらしいボロボロの身なりをした者……。そんなものしか、目に入っては来ない。
 小さく嘆息した。
 ──俺の目は、もうきれいなものを映さないんだろう。
 ようやく、自分の住処であるすすけたアパートが見え、ポケットから部屋の鍵を取り出したのだが、思わず足を止めた。
 自分の部屋の前に向日葵のような黄金色の長い髪を風になびかせ、頭のてっぺんに赤いリボンをつけた白いローブのようなものを纏った少女が座り込んでいた。
 少女は、レドにゆっくりと目を向けるとにこっと満面の笑みを浮かべる。

「おかえり!」
「邪魔だ、どけ」
「むー……おかえり」

 ほっぺをぷくりと膨らませる少女を押しのけ、レドは鍵を差し込み、ドアを開ける。
 その瞬間、レドが動くより早く少女がなかへ侵入した。
 
「…………」

 何となく、追い出すことができないことを悟り、レドは部屋に入ると椅子に腰掛けた。
 少女は嬉しそうな表情でどういうわけか、机の上に上がり正座をした。
 レドは思わず眉をひそめた。
 だが、これが彼女の《常識》なのかもしれないと思い、注意することもしない。
 
「こんにちは。私は、シスターなんだよ。シスターのセイラン」

 セイランは、そう自己紹介をして無邪気に笑った。
 それに対してレドは驚きもせず、ただ相槌をうってお茶を飲んだ。
 あくまで必要以上の言葉を発しないという《常識》を崩さなかった。
 しかし、セイランの《常識》がレドの《常識》を崩していくのだった──。




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