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消失感
日時: 2011/08/26 22:46
名前: 紅蓮 ◆HU7XfvOYA2 (ID: ha.GTk48)

初めまして、短編物書いてみます。

何時からだろう?まるで何かを無くした様な気分だ。
生活する環境が変わった訳でも、大切な人を失った訳でも無いのに・・・
そう、あれは大切なものだった気がする。
生きるための糧のような何か・・・
何だったのだろう?
男は訳も分からずにただぼんやりと考える。
「何故だろう?何故満たされないんだ?」
確かなのは、「何か」が足りず物足りなさを感じる事。
まるで、味の抜けたガムを食べるような感覚・・・
「そう、好きだった。だけど・・・」
部屋の隅に積まれたCDや楽譜を眺めながらそう呟くと男はその中のいくつかに手を伸ばして物思いに耽る。
「あの時は楽しかった・・・」
男は過去にバンドをやっていた。
だが、何時の頃からか自分の限界を感じていた。
そして徐々に焦りを感じるようになり、仲間も男の下を離れて行った。
そう、彼の帰る場所はもう無いのだ。
あの日から男の中の時間は止まったような物だった。
何度かチャンスはあったが彼は「足を引っ張るといけない。」と言い断った。
そして、時は流れ今に至る。
過去を思い出す時間はわずか数分だったが、男にはそれがまるで1時間程長く感じた。
「確かめてみるか・・・」
そう言うと、楽器を手に取りある曲を奏で始める。
大好きな事が徐々に辛くなって行った日々が思い出される。
「いつからだろう、こんなに悲しい曲しか作れなくなったんだろう。」
その曲は彼が最後に作った曲だった。
男がその曲を最後まで弾き終わった時に頭の中で何かが弾ける音がした。
その瞬間何かを思い出す。
「思い出した、あの頃から同じような、そして暗いイメージの曲しか作れなくなり、逃げたんだ。」
「そうだ、戻ろう、あの場所に。」
過去に戻れる訳では無いが、きっと何か吹っ切れるような気がした。
すると男は誰かに憑りつかれたかのように一心不乱に絃をつま弾く。
気が付くと窓の外から月が輝いていた。
「そうか、1日中ずっと・・・でもずっと渇望していた何かが満たされた気がする。」
気が付くと新しい曲が出来上がっていた、それは最後に作った曲に少し似た所もあったが少し前を向いた印象がそこにはあった。
「よし、これなら・・・」
次の日、男は昔の仲間を集めて「また自分と組むように」勧めると力のない声で答えが返って来た。
「悪いけど、足を引っ張るかもしれない。」
いつか男が言った言葉が彼自身に返って来た。
「やっと欠けていた何かを取り戻したと思ったのに・・・」
無くした一つを取り戻す代償に無くした物は大きかったのか、男は只々立ち尽くしたのだった。


最期に自分と他者の立場が入れ替わるという話にしたかったけど、我ながらなんだか独りよがりで不完全燃焼になった気がします。
最後まで読んでくれてありがとうございました。

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