ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 灰色の鬼
- 日時: 2011/09/10 16:07
- 名前: ユゥ ◆nab9zI1rjU (ID: lkF9UhzL)
注意事項
特に無いです
荒らしは放置とか、そんなところ
私は無口で、口下手です
多分、コメントの返し方はあんまり上手くないと思います
序章
【>>1】
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- Re: 灰色の鬼 ( No.1 )
- 日時: 2011/09/11 13:18
- 名前: ユゥ ◆nab9zI1rjU (ID: lkF9UhzL)
真夜中の街灯が、風に吹かれてその頭の窪みに溜めた夕立の雨粒を、誰もいない道路に吐き出した。
その下で、黒いスーツ姿の年配の男が待ち人を待っているのだろうか? 腕時計を何度も確認し、その手に持った杖でレンガの敷き詰められた道路を突いている。
もう片方の手に握った新聞の見出しには、『ディーラー、カジノを一つ潰す』という見出しで、札束をその身に浴びる癖のある赤毛の男のモノクロ写真が大きく載っていた。
一年前のこの日は、騒がしかった。 核弾頭が大陸を半分消したなどという大事件が、世界を揺るがしたのだ。
その時、その消し飛んだという大陸に住んでいた組織の上司も、恐らく死んだのだろう。 あれから、音沙汰が無い。
中々、可愛らしい上司だったが、今日で丁度一周忌か。
大きなため息の後、新聞を読もうとそれを手に持った直後、彼は異変に気付く。
電球が古いのだろうか? 何度も細かく点滅し、その街灯は音も無く一瞬放った青白い光の後……消えた。
男は奇妙に思ったのか、上を向いた。 ……その直後。
「よう、ローウェイ。 懐かしい顔だな」
闇の中に、男の声が一つ。 響き渡る。
「ディーラー……か。 相変わらず、趣味の悪いコードネームだな」
年配の男、ローウェイの知り合いなのだろう。 若い男の声が、彼に向けられる。
「趣味が悪いのはお互い様だろう? 私もお前たちも“鬼”なんだ、趣味のいい“鬼”なんて居ない」
ローウェイとディーラー。 その二人の間に、女性の声が割ってはいる。
若干低めのソプラノ。 声を聞くだけでは幼いその声のプレッシャーは二人にとっては凄まじかった。
二人の間の空気が揺らぐのを感じ取れる。
実際、二人よりも彼女が格上。 当たり前といえば、当たり前の現象だ。
「アリス……ッ……生きていたのか!」
ローウェイが吼える。 だが、彼女が動じた空気は一切無い。
「生きていたとしたら? 大陸の半分が吹き飛んだ核弾頭……それでも死なない人間も世の中に居るものだよ。 覚えておくといい、灰色の毛並みの私は、“鬼”の最上位。 核弾頭程度では死にはしない」
彼女の気配が、その言葉の直後に消えた。
それと同時、彼らの頭の上にあった街灯の電気が回復した。
「ローウェイ、彼女を甘く見るなよ。 俺が戻ってきて、お前に電話をかけたのは気まぐれじゃねえ。 彼女……“鬼”の最上位が、この国を滅ぼすか、滅ぼさないか。 それの賭けを誘いに来たのさ。 どうする? ローウェイ、お前は……滅亡に賭けるか、存続に賭けるか……」
撥ねた癖のある赤毛を揺らし、銀色の瞳が闇の中へと静かに消え去った。
- Re: 灰色の鬼 ( No.2 )
- 日時: 2011/09/10 17:44
- 名前: ユゥ ◆nab9zI1rjU (ID: lkF9UhzL)
「あー! 駄目、チョット待って!」
チェス板に伸ばされた手を、一人の女性が押し戻す。 だが、その手にはどう足掻こうとも、彼女の力では敵わなかった。
何せ、相手は男。 痩せ型で、瀬は平均的。 彼女が華奢とはいえ、彼女の両手の力に、利き腕一本で対抗して見せるのは流石というべきかも知れない。
「駄目だ、待ったは3回までって言ったろ?」
「じゃ、5回までにして!」
彼女の涙を溜めたその瞳に、思わず男は気圧される。
つい、腕の力が抜けたしまったのか、彼女の両手と均衡が保てなくなった駒を掴んだ腕はそのままチェス板へ落下。
男の手を押さえていた女性は、前のめりに倒れこみ、灰色の長い髪を散らかした。
その過程で盤上の駒を全てタイルの床にばら撒き、その一戦はお開きとなった。
「あのなァ……アリス、5回までは流石にねぇぞ」
黒のピーンを拾い上げながら。 彼、ディーラーは苦笑いを浮かべている。
大して、彼女。 アリス・A・A・アルテスは、屈託の無い笑顔で、
「良いじゃん、君のほうが強いんだもん」
正論を述べた。
彼、ディーラーは負けたことが無い。 ゲームは愚か、学力、技能、何もかもにおいて負けたことが無いのだ。
その高い頭脳と、異常値を示す運動能力。 そして、賭けによって手にした莫大な財力に、権力。
この世の全てを手にしたのではないかとも思えるこの男にも、やはり欠点はあった。
「だけど、俺もお前に勝ったことがないだろ?」
そう、負けることは無くとも、勝たない。 いや、勝てないのだ。
どういう原理か。 それは、彼の両手に秘密があった。
近年、特異な力を持った人間が増えている。 俗に、能力者と呼ばれる人間だ。
発生は約1000年前。 その頃から、力を持った人間は各地に点在していたのだが、近年に入って力に目覚める者が増加。
結果として今、この時代は混沌としている。
彼も、その一人『負け知らず』の能力を有した、異能者だった。
ただ、『負け知らず』であり、『常勝』ではない。 つまりは、負けることは無くとも、必ず勝てるわけではないのだ。
「そうだけどさ、毎回引き分けって言うのも面白くないし……」
「つまり、“私に勝たせろ”ってわけか?」
ディーラーの言葉に、アリスが無言でうなずいた。
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