ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- モルタによろしく。
- 日時: 2011/09/11 16:41
- 名前: 深桜 ◆/9LVrFkcOw (ID: xJuDA4mk)
- 参照: http://pepeta.web.fc2.com/
おはようございますこんにちわこんばんわ初めましての方は初めまして。
深桜です!深い桜と書いてみおと読むのですがもうなんでもいいです!!(
ダークっていうかシリアスって感じの小説を書きたいなーという気持ちに駆られ、シャカシャカとシャーペンを動かしてできた設定は完全にキャラの設定です。すいません。
頭の中で組み立てていくという、ちょっと初心に戻るような書き方といえば聞こえがよく、ただ単に思い立っただけといえば聞こえがわるい書き方です。
途中詰まってしまったり、つじつまがあわなかったりすることもあるかと思いますが、その際にはこっそりと教えてくださるとスーパーウルトラハイパーマスターダイブクイックダークプレシャスネストパークサファリヒールゴージャスリピートモンスターボールryってくらい嬉しいです。
感想、アドバイスなどくれると嬉しいです^^
■目次
[>一章
>>1 >>2 >>3 >>4
Page:1
- Re: モルタによろしく。 ( No.1 )
- 日時: 2011/09/11 14:21
- 名前: 深桜 ◆/9LVrFkcOw (ID: xJuDA4mk)
- 参照: http://pepeta.web.fc2.com/
風が強く教室に吹き込む。カーテンは舞い上がり、プリント類は音を立てて床に落ちた。
俺は教室のほぼ中央、誰のだかわからない椅子に腰掛けていた。
「ここは——」俺は深呼吸をし、立ち上がった。椅子は大きく傾き、四本の足を床に戻した。
◇
俺がさっきまでいたのは、地下の真っ暗な研究室だった。
カビ臭い水が入った水槽は部屋の隅に放置されて、割れたビーカーや、ススがこびり付いた試験管、そして錆付いてしまって使い物にならないバーナー等は、虚しく事務机の上に置いてあった。
俺はそこで、見てはいけないものを見てしまった。
いや、正確に言えば、「作ってはいけないものが完成するところを見てしまった」となるだろう。
「成功だ……!!」研究室の室長は一瞬こちらを振り向いて、青くやつれた顔に恍惚の表情を浮かべているのを見せてから、実験台に顔を戻した。
「わたしは、『鏡』を作り上げたのだ——」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼は首から下のみを残し、床に倒れた。それから一秒ほど経ってからだろうか——俺にはずいぶん長い時間が経ったように思えたが——、首は思い出したように、黒く光る血を吐き出した。
「あっ、あ……」
俺の口から搾り出された声に、実験台の上の物は過剰に反応した。何を言うわけでもなく——いや、もしかしたら口の中に室長の頭が入っているから、何も言えないのかも知れない。こちらをじっと見つめる双眸は、青く光っていた。しかしそれ以外は真っ暗で見えない。影に宝石を付けたようだ、と俺は思った。
影はおとなしく実験台に横たわっている。たまに思い出したように口を動かし、グロテスクな音を立てながら咀嚼する。そして飽きたと言うように口を止め、また動かすということを繰り返した。気味が悪い。そう思ってから、変に冷静な自分に気がついた。
なんだか自分のことが空恐ろしく感じて、俺は走り出した。後ろを振り返らず、無我夢中に階段を駆け上がる。自分の身体は久しぶりの運動を拒否したが、自分の意思は頑なに走ることを命じた。後ろから何かが追ってくるなんて考えてもいなかった。
しばらくして階段を上り終えた。
久しぶりに光を見た。俺は、今自分が自由に走っていること、窓から射す陽光が俺を照らしてくれていること、そして自分の意思で動いたことに感動して、泣いた。心の中から泉が湧き出ると錯覚するほどに、涙は止め処なく流れ、俺の頬を温める。だが俺は足と腕を止めなかった。
笑いながら、泣きながら、ひたすら全力で走る俺を、人はどういう気持ちで見るのだろう? 「気持ち悪い」か、「なんだあれ」か、それとも「どうしたんだろう」か。……もっとも、誰かに会うことなんて一度もなかったのだが。
◆
教室は依然、光と風を受け入れ、やわらかく暖かい空間を作り出していた。
ふと思うところがあり、俺は黒板に向かって右から二列目の、前から三つ目の机の前に移動した。少し躊躇ってから、机の中を探る。出てきたのは、中学生の男が使うような、どこにでもあるエナメル革の筆箱と、教科書数冊、そしてルーズリーフの束だった。どれも見覚えがある理由は、果たして俺の物だったからだ。そうだ、ここは俺が通っていた中学校そのものだ。
なぜ、あのときのままなのだろう?
俺にはよくわからなかった。
- Re: モルタによろしく。 ( No.2 )
- 日時: 2011/09/11 14:23
- 名前: 深桜 ◆/9LVrFkcOw (ID: xJuDA4mk)
- 参照: http://pepeta.web.fc2.com/
◇
中学三年生。一学期は今までと同じように、昨日見たテレビのことや、隣のクラスのあの二人の仲が怪しいだとか、そんなありふれた話の内容だったのが、夏休みが開けた途端、志望校はどこだとか、夏休みは勉強どのくらいやっただとか、いつの間にか受験関係の話が大半を占めるようになっていた。授業の合間にできた先生による雑談タイムも少しずつ薄くなり、自習の時間に真面目に勉強する奴も増えた。
俺は友達とさんざふざける側から勉強をする側へと意識をシフトし、一学期にもらった、九教科で平均すると三になるというおそろしく平凡な通知表を覆すべく、時に神経をすり減らしながら勉強をしていた——そんな涼しくなりかけの日のことだった。
「だれですあなたは! 部外者が許可なしで校内に入るのは……っあああぁぁー!!」
教室にいた全員が廊下の方を向いた。廊下から聞こえた絶叫は、まるで扇風機を回しながら羽根に鉛筆をぶつけたときのような、短く連続する甲高い音に消えた。それから少しして、濡らした服を床にたたきつけたような、文字で表せば「べしゃぁ」という音が響いた。教室も廊下も静まり返る。
ここで俺は気付いた。いつもは他の教室からうるさい輩の声が聞こえるのに、何一つ聞こえない。俺の中で嫌な予感がスタートダッシュを切った。そしてなぜこんなに冷静なのか、そう考えると、あとは恐いとしか思えなくなる。何がなんだかわからないまま、息を止めていた。
カツン。軽やかな足音が廊下に響く。クラスの女子は肩を震わせ、男子は顔を見合わせた。状況が理解できず、ニヤつく奴もいる。
カツン、カツン。次第に足音は速く大きくなっていく。それにあわせるように、俺の鼓動も高鳴っていく。
突如足音は止み、ふたたび静寂が駆け抜けようとした、その刹那——
閃光が教室を包み、突然のフラッシュに目を瞑った俺の意識もフェードアウトしていった。
女子の甲高い悲鳴がやけに耳に残った。
◆
気がつくと俺は真っ暗な部屋に座り込んでいた。カビ臭く、足をこわごわ動かすと、ぬるりと滑った。
「ここは——」俺は深呼吸をし、立ち上がった。あやうく滑って転びそうになったので、身近なものに手をやると、角張ったものを掴んだ。
ようやく目がなれてきて、自分が何を掴んでいるのかも予想がついた。理科の授業で実験をするときに、教師が必ず羽織っていた物——つまり、白衣だ。
「おお!」俺が掴んでいたものはいきなり振り返った。げっそりとやせた頬に、浮き出た真っ白な目、顔全体が青白いのに反発するように、ニヤリと曲げられた口から覗く歯は金に光る。髪まで真っ白である。
「起きたかね? ○○くん」
俺は首を傾げた。この人は確かに俺に話しかけた。だけど俺の名前はそうじゃない。俺の名前は、——
「……あれ?」俺は頭を抱える。
名前が出てこない。教室のことや、クラスメートの名前は覚えている。だが俺の名前が出てこなかった。
「俺は、」青白い人物は俺の言葉をさえぎった。「君の名は、○○だ」
「君には今日から、我が研究室で助手をしてもらおう」
金歯が唾液を纏って、より一層輝いた。
- Re: モルタによろしく。 ( No.3 )
- 日時: 2011/09/11 15:28
- 名前: 深桜 ◆/9LVrFkcOw (ID: xJuDA4mk)
- 参照: http://pepeta.web.fc2.com/
◆
頭の中を駆けていった回想は俺に混乱を与えるのみであった。ヒントも何もない。なぜか快適な教室がだんだんとおそろしく思えてきた。また、あのときのような光が俺を包み込んで、変な場所へ送られるのかと思うと、情けないがとても怖くなった。小さい頃におばけの話を聞いて、夜中トイレに行けなくなった、あのときの怖さに酷似している。
「……とにかくここから出るか」そう言いながら教科書の裏をなんとなく見、驚愕した。
教科書の裏には通常、名前を書く欄がある。俺はもちろんいつも書いている。書いているはずなのだが、それがなかった。黒ペンの文字がかすれているというわけではなく、そこだけが新品のごとく真っ白なのである。
慌てて歴史の教科書をめくった。あるページに目を留める。アメリカの海軍軍人にされた落書きにははっきりと覚えがある。一学期の最後、友達と一緒に書いて爆笑したものだ。この教科書は紛れもなく俺のだ。だが、なぜ名前だけがない?
同じようにルーズリーフをまとめるファイルにも、筆箱の中にいつも入れていた名札にも目を通したが、結果は同じだった。ファイルにセロハンテープで貼り付けたはずの名前は消え、名札は無地となっていた。
「なんでだ?」
俺は首を傾げた。そしてさらに机の中をまさぐり、ピンクやオレンジの花が彩る、ピンク色の封筒を見つけた。「放課後、屋上で待っています。」華やかな便箋には、丸く小さい文字でそう書かれていた。宛名は——やはりない。だがその封筒には、送り主の名前も書かれていなかった。ラブレターだろうか。ありがちだな、と俺は思い、そしてうら寂しくなった。あんなことがなければ、俺はその日のうちに彼女が出来ていたのかもしれない。
「はぁ……辛いな」
そんな言葉も今は虚しく響くだけだ。ひやかしてくる奴なんかいない。
もう一度その恋文を読み返し、俺はなんとなく——本当になんとなくだが——思いついた。これはあの日ではなく、今の俺に宛てられた手紙なのではないか……と。
俺は時計を見た。今は三時四十分。日が差し込んでいるのだから、午後であることには間違いない。
放課後は何時からかを生徒手帳で調べ、俺は教室を飛び出した。向かう先はもちろん、屋上だ。
*
屋上の鍵は開いていた。懐かしい、という感慨に浸ることなんてできなかった。
「なんだ、ここは……」
目の前に広がるのは、見慣れた俺の町ではなく、まったくの緑だった。ジャングルのように木が密集している中、極彩色の花が艶やかに飾り、ところどころ草原があり、遠くには大きな湖と、もうもうと煙を吐く山が高くそびえていた。アンバランスな原始時代といえば簡単である。サバンナとジャングルが混沌としているが、それがなぜか自然に思えるのは、ずっと地下の研究室で過ごしていたからだろうか。
理性では明らかにおかしいと思っていても、長い間カビと共に闇の中で過ごしていた感覚は何も言わなかった。
そこであることを疑問に思った。
今はいつだ?
あの日、俺は十五歳だった。しかし、研究室で過ごした時間は、感覚的にはあまりにも長く、途中で時間を考えることもなくなり、ましてや自分があの光に包まれてから、ぬるりとした床の上で我にかえるまで、どのくらい経ったのかさえわからない。自分の体は育ってはいるようだが、そこまで歳を重ねているわけでもないだろう。なんだか浦島太郎になったような気分だ。寂しくて、恐ろしい。
ここはどこだ。あれからどのくらい経った。俺の名前はなんだ。世界はどうなっている。
俺は頭を抱えて、しゃがみこんだ。誰もいないんだ、隠すことなんかない。そうやけっぱちになりながら、俺はあふれ出る涙を拭こうともせず、太陽の下、丸まりながら嗚咽していた。
- Re: モルタによろしく。 ( No.4 )
- 日時: 2011/09/11 16:39
- 名前: 深桜 ◆/9LVrFkcOw (ID: xJuDA4mk)
- 参照: http://pepeta.web.fc2.com/
どのくらい経ったのか、太陽は山の裏に隠れようとしているのだろう、茜色の光が、組んだ腕の隙間から漏れた。もう放課後の時間だろうか。俺は顔を上げた。
知らない少女がいた。少女は行儀良く俺の前に正座しており、俺の顔を見るなり、
「あっ、起きましたか?」座っている姿の上品さとはまた違う、落ち着いたしゃべり口だった。それでいて人懐っこそうな色も帯びており、好感が持てる。
「もう、放課後なんかとっくに過ぎていますよ。あたしずっと座ってて、足パンパンです」
そう言いながら彼女は俺に笑いかける。俺は、
「え、あ……」
といった声しかだせない。言いたいことはあるのだが、それが言葉として出てこない。彼女はくすくすと笑う。「そうですよね」その訳知り口調には少々カチンと来た。
「いきなりじゃ何も話せませんよね。あたしはクロトといいます。あなたの言いたいことはわかりますよ。ここはどこか、あの光に包まれてから今に至るまでどのくらい経ったのか、あなたの名前はなんなのか、世界はどうなっているのか。お答えできることは一つ、ここはどこか。ここは、あなたの知っている町の、あなたの通っていた中学校そのものです。中身だけなら、あの日から何も変わっていません」
それは嘘だ。俺の教科書や名札には、俺の名前なんか書いてなかった。何も変わっていないわけがない。
だがそれを言うと詭弁でかわされそうなので、あえて何も言わなかった。
「ですがヒントを与えることならできます。……といっても、あたしもこれしか知りません。あの光に包まれてから今まで、時間はそれほど経っていません。これは確実です。それ以外は、あたしにもわかりません」
「なんでだ?」やっと言葉を出すことが出来た。
「わからないものはわからないのです」クロトは顔に一瞬寂しそうな表情を巡らせた。「あたしもよく覚えていないから」そう言い、うつむいた。
沈黙が通り過ぎた。俺はクロトになにか悪いことでもしたかのような気分になって、少し慌てた。だが俺には彼女を慰められる優しいボキャブラリーなんか備わっていないし、とりあえず謝るという最善の手段を使えるほどの勇気も素直さの欠片もない。
少しの間黙っていると、クロトはいきなり顔を上げた。
「それより速くいかなきゃなんです!」
ひどく慌てた様子だ。「どこへ」と俺が言うと、それに答えるのすらわずらわしいとでも言うように、
「あああぁぁぁっ、もうっ、とりあえず外へ出るんですよ! 急いで!」
クロトは俺が向いていた方向の反対側へ走って行き、屋上のフェンスを蹴倒した。本来生徒の命を守る役割を担っているはずのフェンスはあっけなく倒れ、クロトが手招きする。俺はわけもわからず彼女の横へ走った。クロトは俺の手を躊躇うことなく強く握り、コンクリートの床を思い切り蹴飛ばした。
自殺行為。そんな文字が、俺の頭の中をマッハの速度でよぎった。
「うわああぁぁぁぁぁ!!」
俺は情けないことに、クロトの腕にしがみつき、冷や汗をダラダラと流している。もう少しでちびりそうだ。しかしクロトは慣れた様子でふたたび空を蹴った。ふわりと体が浮いた。空中に見えない階段が浮かんでいるかのようだ。俺は恐る恐る足を伸ばし、下になんともいえないやわらかい感触を感じ、クロトの腕から体を離した。もちろん、手は握ったままだ。
下がっていくうちに冷静になり、下を落ち着いて見ることができるようになってきた。屋上から見た景色はまったく異なったものへと変わっていた。サバンナとジャングルを混ぜたようなものだったのが、町に変わっている。だが俺の住んでいた町ではない。都会のビル群だ。
俺達は空中に浮かぶ、見えない階段を大急ぎで下って、ビルの屋上へと降り立った。そこで俺は気付く。俺達は学校の屋上から降りてきた。学校は四階建てだ。だが今、それよりはるかに高いビルの屋上に立っているのである。俺は降りてきた方向を振り返る。すると——
学校は空中に浮いており、その下には土が張り付いていた。俺達が降りてきた方の土は少なく、おかげで学校が見えるのだが、反対側は一つの島くらいあるんじゃないかと思うくらい、広かった。下しか見えないのだが、きっとあの上に、アンバランスな自然と、火山と湖があるのだろう。
「耳をふさいで!」クロトがいきなり言うものだから、飛び上がってしまった。
突然すさまじい爆発音が響き、続いて建物が崩れ落ちていく轟音が、沈黙する都会を飾った。
- Re: モルタによろしく。 ( No.5 )
- 日時: 2011/09/17 11:47
- 名前: 深桜 ◆/9LVrFkcOw (ID: aw1kgo/k)
- 参照: http://pepeta.web.fc2.com/
俺は口を鯉のごとくぱくぱくと開閉させている。色々なことがいっぺんに起こりすぎて、状況がつかめない。
「どういうことだ?」
俺は質問をクロトに投げた。彼女はそれをサード、ショート間に流し打ちするかのように、無難な言葉を考えるそぶりを見せてから言った。
「開幕したんです、物語が。アボートシティ——未完の街の物語が」
俺はこめかみを押さえた。アボートシティ? 物語? 開幕? なんだそれは。
唐突に研究室のことを思い出した。そういえば、俺はあそこで自分が何をしていたのか全く知らない。室長はひたすら実験台に顔を向け、時にはうめき声、時には不気味な笑い声を上げていた。彼の姿が邪魔をして、実験台に何が乗っているのか、何をしているのか俺には見えなかったし、見たくもなかった。彼の手元からたまに、奇怪な色をした液状のものが飛び散っていたのは、いやでも見るはめになったのだが……。
つまり、俺があそこで見たものは、カラスアゲハの黒い色素をすべて抜き取ったような色の顔をした室長と、たまに見るグロテスクな物体、そして——
——あれはなんだったんだ?
俺が最後に実験室で見た、宝石のごとく輝く双眸を持つあの生き物。室長に『鏡』と呼ばれ、生まれた瞬間、腹に何かを収めるべく舌を伸ばすカメレオンのごとく、目に見えぬほどの速さで室長の頭をちょん切った、怪物とでも言うべき、そして俺のことは構わず実験台に横たわったままでいた、実はおとなしいのかもしれない生き物。
「あれはなんだったんだ?」俺は無意識的に訊いていた。
「室長が『鏡』と呼んでいた、あの生き物だ」クロトがわからないと言う代わりに首を捻ったので、付け足した。「……室長の頭を食っていたあの怪物だ」
「不健康極まりないですね……あたしにはなんとも言えません。だって、あたしは見てないのですから」
俺は嘆息した。背後の轟音はまだ続いている。
「もう一つ訊きたい。未完の街の物語ってなんだ?」
「あたしたちの今いる、この世界の物語です」クロトはいったん言葉を切って、
「新しい神話、誰も知らない童話、語ることの出来ない伝承、そして、完結する直前に放棄された小説です」
こいつと話していると頭が痛くなってくる。日本語をちゃんとしゃべってもらいたい。
「この物語は、何百年も閉じられたままでした。それが今、開かれようとしているのです。あなたは、その鍵。扉の向こうにある、完の文字を手に入れるための鍵です」
ますますわからない。俺は頭を振りつつ、後ろを向いた。轟音はいつの間にか消えており、土砂であったはずのものは、キラキラと光る欠片になって落ちていた。校舎の跡形もない。クロトは開いた口をふさげない俺の手を取り、
「行きましょう、ここにいても何も始まりません」
俺は口を開いたまま、クロトに引っ張られつつ、ビル郡の中を走っていった。
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